『新生FFXIV』 MMORPGならではのサウンドデザイン2013 【CEDEC 2013】

2013年8月21日~23日、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2013”。8月22日に行われたセッション、“MMO-RPGならではのサウンドデザイン2013~ファイナルファンタジーXIV :新生エオルゼア~”をリポート。

●MMORPGならではのサウンドデザインとは……?

 2013年8月21日~23日、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2013”。8月22日に行われたセッション、“MMO-RPGならではのサウンドデザイン2013~ファイナルファンタジーXIV :新生エオルゼア~”をリポート。
 本セッションでは、正式サービスを目前に控えた『新生FFXIV』の開発スタッフからサウンドデザイナーを務める祖堅正慶氏と、サウンドのテクニカルディレクターを務める土田善紀氏が登壇。MMORPGという大規模な数のプレイヤーが予測不能に入り乱れるゲームならではのサウンド技術のデザインと運用を解説した。以下は両氏が講演で語った内容をまとめたものだ。前半のテクニカルな話は土田氏を中心に、後半のデザインの話は祖堅氏を中心に語られている。


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▲祖堅氏。近年の作品には、『ナナシノゲエム』シリーズなど。

▲土田氏。スクウェア・エニックス社の社内で共通して使われるサウンドドライバやツール群のディレクションを担当している。

●MMORPGならではのサウンドデザインの条件とは何か?

 MMORPGは同時接続者数が予測不能であり、それぞれのプレイヤーが何を装備しているか、どんな行動を取るかも予測できない。つまりサウンドデザインの面から考えたとき、事前にサウンドがどれだけのメモリを使うかが予測できないのが特徴だ。かといって想定されるすべての音をキャラクターに載せておくのは不可能。
 そこで『新生FFXIV』サウンドチームが採った作戦が、“斬り捨て御免サウンドシステム”だ。全体量がわからないなら、あらかじめ何も載せない、何も読まないという逆転の発想によるこの作戦。サウンド管理構造をレイヤーに分け、ゲームから要求のあったものをリニアで鳴らし、不要になったものは即斬り捨てる仕組みだ。この割り切りにより、数十人のキャラクターが同時にどんな装備をしてどんな行動を取っても適切な音が鳴るようになったのだ。
 その一方で、メモリに空きがないと鳴らない、未キャッシュの音の初回は発音が遅延する、ファイルをすべて細切れで用意する必要が生じるなどのデメリットも起こる。だが、UI音など、必須であり頻発する音は常駐させ、メモリに余裕があれば参照数が0でもしばらく捨てずに置いておくなどの救済措置により、デメリットの解消に努めている。


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▲具体的なサウンドのメモリ配分は以上の写真のとおり。VRAMは今回使用されていない。

●世界の雰囲気を伝えるアトモスギア

 サウンドチームは、アトモスギアと名づけられたシステムを用意。大気・雰囲気を状況に応じて変速させるという意味から名付けられたこのシステム、具体的には雑踏で聞こえるガヤガヤという“ガヤ音”を20人、40人、60人など規模感によって切り替えるものだ。この場合もやはり同時接続者数が不明なため、事前の帯域想定が不可能。したがって起きている状況に動的に反応できる仕組みが必要になる。基本はCEDEC 2012で祖堅氏が講演したDynamix Endと呼ばれるシステムと同じ仕掛け。これはBGMを細かく分解し、キリのいい場所にマーカーを打ち、曲が切り替わる状況では、切り替え前の曲と切り替え後の曲の拍を揃え、重ね合わせることでスームズに最適な曲を鳴らすシステムだ。実際には、周囲のPCやNPCのキャラクター数に応じてサウンドドライバ内のファイルの閾値が参照され、取り出されたDynamix値を2ch×3のトラックに変換する。これをクロスフェードした後、実際に再生されるときは、4chに拡張する。これにより、大規模戦闘用の音、市街地の音、フィールドでの音など複数のパターンが用意されるのだ。


●空間音響システムの進化

 続いて、『新生FFXIV』に搭載されている空間音響システムに話題は移行。ポイントとして語られたのは、遮蔽のシームレス対応、切り替えポイントでのフェード、扇展開角の収束の3つだ。

 まずは遮蔽の話から。単純な音源であれば、音源からの距離で音の聞こえる範囲を設定し、キャッシュの取捨選択の基準となる可聴範囲のマージンにキャラクターが移動した際、キャッシュ内の音を捨てたり、読み込んだりすればいい。ところが、音を遮蔽することを考えた場合、単純に音源からの距離で音が聞こえるか否かを判断すると、壁の向こうからの音もそのまま目の前にあるように聞こえてしまう。ダンジョンの石壁の向こうなどなおさらだ。つまり単純に距離で遮蔽するのではなく、左右から迂回して聞こえる音なども考慮しなければならないわけだ。とはいえ、マージンの領域をいたずらに広げるときりがない。これは以下の写真のような方策で解消している。


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▲数学的な計算が必要になる。

 ついで、切り替えポイントでのフェードについて語られた。時間指定や位置指定でフェードを行うと、キャラクターが立ち止まったり、境界にいたりすることを考えると自然な運用は難しい。これを解消したのが、下の写真のような音響効果の遷移だ。


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 たとえば写真の右端の空間効果値=0のエリアがダンジョンの序盤、中央が中盤、左端が終盤だとする。その境界に空間効果を切り分ける、中心に-50という力を持ったマイナスの効果を置くのだ。終盤の音の要素が0のエリアからキャラクターが移動してきた場合、-50のエリアに踏み込んでも、もともと音の要素がないので0のまま。ところが中心(=境界)を越え、空間効果値=50の中盤に踏み込むと、中心からの距離に応じたマイナスの効果が加算され、聞こえかたとしては、写真の例であれば、1、25、50と増えていく。さらにこの空間効果値=50から空間効果値=100のエリアに立ち入るときも同様に、効果値が増えていくのだ。これにより無段階の空間効果フェードを実現している。境界が線形なのは、ゲームの出入り口が、扉などたいていは線形だからだ。

 さらに、扇店改角の収束の話が語られた。港に船があった場合、中に入ると周囲4chのサラウンドで波の音が聞こえる。だが船から出て桟橋を歩くと、音の中心から離れるため、距離に応じて4chが2chにフェードし、さらにかなり離れると一方向からの指向性モノラル音に変化していく。簡単に言えば、距離に応じて自動計算され、だんだんチャンネル数が減っていく仕組みだ。


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▲上の写真で解説された仕組みを、祖堅氏は「遠くにあるなと思ったおまんじゅうが、近づいたら4つあってうれしい、という話です」とまとめていた。

●BGMでの遊び提案

 話し手が祖堅氏中心に移り、サウンドデザインの話に続く。

 『新生FFXIV』はクエストが中心となってゲームが進む。だが、フィールドにはさまざまなコンテンツが共存するため、クエストBGMをエリアで決め打ちして配置できない。そこで祖堅氏は、コンテンツに優先度を設定。プレイヤーのレベル帯も含めレイヤーに分け、長尺の曲を複数のアセットに分解できる楽曲作りをしたのだ。これにより、クエストを進めていくと、だんだんとひとつの楽曲が完成していくようになっている。

 その楽曲そのものには、いたるところに過去の『FF』シリーズの楽曲がアレンジして紛れ込んでいる。『新生FFXIV』としての色を出すため、全体をアレンジしたもの、部分をアレンジしたもの、フレーズだけ切り出して採り入れたものなど、アレンジのしかたも多様。プレイヤーは、遊んでいるさなかに「新しいけどちょっとどこか懐かしい」曲にハッと気づく仕掛けだ。

 さらに、ゲーム内で勢力を分ける都市国家のイメージをまとめるため、各都市国家でフレーズの元になる曲を用意。その曲をモチーフにすることで、関連する街やフィールド、バトルなどの曲を派生させている。同時に各都市国家ごとに使用する音源にも枠を決め、主旋律を多用することで、各都市国家のオリジナリティを楽曲からも確立することに成功しているのだ。

 ほかにも、昼夜で変化する街やフィールドのBGM、街からフィールドに出ると必ずその都市国家のアイキャッチのようなBGMが流れる仕掛け、日の出、日の入りで強制的にかかるBGMなど、ネタバレを気にしながらも、音による遊びの演出の話題は続いた。


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▲ループに関しては、フィールドとコンテンツでハッキリと区分している。

●講演の最後に&質疑応答

 ひととおりの話題を終えてから、祖堅氏はゲームをリロンチすることのたいへんさを語っていた。開発中にプレイヤーたちから応援される開発現場という異例さ、プライベートで友人を失うレベルのハードワークと圧倒的な物量など、毎日が地獄のようでもあり、祭りのようでもあって、「仕事として楽しすぎた」と前代未聞の開発を万感の思いで語っていた。

 最後に聴講者からの質問を募ると、祖堅氏・土田氏の上長が挙手。「実装のなかでやりきれなかったことは?」という質問に対し、「鋭意がんばっていますが、まだちょっとだけバグが……」と周囲を笑わせていた。質問者の中には、セガのサウンドスタッフ光吉猛修氏の姿も。「音に関して、作り直しの割合は?」という光吉氏の質問に対し、環境音は世界が変わってしまったのですべて作り直し、エフェクト音もエンジンが変わったので作り直し、バトルもバトルのテンポが変わったので尺もサウンドそのものも作り直し、BGMもお話が変わったので作り直し、過去のリソースは10分の1ほども使えなかったと、ここでも笑いを取っていた。


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▲サウンドチームの雰囲気か、随所に笑いが起きる講演だった。