ベヒーモスに日本人スタッフがいたの知ってました?

 ベヒーモスという名をご存知だろうか。ゲームユーザーでは、某RPGの敵などを思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、『キャッスルクラッシャーズ』のベヒーモスと言えば、わかる人も増えるだろう。ベヒーモスとは、アメリカ・サンディエゴのゲーム開発スタジオ“The Behemoth”のこと。これまでに『Alien Hominid HD(エイリアンホミニッド HD)』(Xbox Live Arcade)、『Castle Crashers(キャッスルクラッシャーズ)』(PlayStation Store、Xbox Live Arcade)などを配信し、2013年4月には、待望の新作『Batlle Block Theater(バトルブロックシアター)』(Xbox Live Arcade)を配信したばかりだ。そんなベヒーモスの社長であるジョン・バエズ氏と、同社の日本人スタッフ(!)の山本アンナ氏が、とある目的のために来日。ファミ通.comでは、貴重なお時間をいただき、新作『バトルブロックシアター』から、ベヒーモスのものづくり、気になる来日の目的、そして日本人の山本アンナ氏が入社することになった経緯まで、あらゆることを伺った。日本ではなかなか読めない、同社の貴重なインタビュー。ぜひじっくりお読みいただきたい。

■プロフィール

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ジョン・バエズ氏
ベヒーモスの共同創立者およびプロデューサー。日本の肩書きで言えば、社長。

山本アンナ氏
ベヒーモス唯一の日本人スタッフ。写真は、「恥ずかしいので……」ということで、お名前だけ。

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■同社の代表作

●『Alien Hominid HD(エイリアンホミニッド HD)』(Xbox Live Arcade)

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●『Castle Crashers(キャッスルクラッシャーズ)』(PlayStation Store、Xbox Live Arcade)

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●『Batlle Block Theater(バトルブロックシアター)』(Xbox Live Arcade)

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約5年ぶりの新作『バトルブロックシアター』

――今日は、よろしくお願いします! いろいろとお聞きしたいんですが、まずは新作の『バトルブロックシアター』のお話からお聞きします。『バトルブロックシアター』が配信されて、ユーザーの反響はいかがですか?
ジョン アメリカでの反響を見るかぎり、とてもいい評判です。たくさんダウンロードしていただき、皆さんに本当に喜んでいただけているようです。もともと、“2009年に配信します”と発表していたのが、2010年、2011年と延期していたので、ついにゲームが完成したときには、ユーザーさんから「こんなゲームになってたんだ!」って驚かれましたね(苦笑)。長いこと開発していて、ゲームを部分的に見せていたので、全貌をわかっている人はいなかったんですよね。おもにアリーナモードのトレーラーを出していたので、ゲームを配信してからは、「ストーリーがあったんだ!」と驚かれました(笑)。

――(笑)。確かに遊んでみたときに、かなりのボリュームのストーリー要素が入っていて驚きました。では、日本での評判はいかがですか?
ジョン アメリカと比べるとハードの普及台数が違いますから、配信数もまだまだ少ないです。ですので、そこまで多くの評判が来ているわけではないんですが、日本からいっぱいファンレターを送ってくれるファンがいまして、彼らはとても喜んでくれました。
山本 日本語のブログを検索してチェックすると、丁寧にレビュー書いてくださっている人もいて、すごくうれしくなりますね。

――『バトルブロックシアター』を日本で初めて出展したのは、2009年の“東京国際アニメフェア2009”(リポート記事は→こちら)でしたが、当時の発表を見たときに、ブロックの色を変えていくモードがメインだと思っていたんです。それが、実際はジュエルを集めるほうがメインでした。最初から、こういうゲームデザインで作っていたのでしょうか?
ジョン 最初に出展したのは、もう4年前ですか。だいぶ前ですね(笑)。じつは、『バトルブロックシアター』の元となったのは、『エイリアンホミニッド』に収録されている、ゲーム内ゲームの“携帯ゲーム”なんです。あのゲームをずっと遊んでいるファンがいたので、「じゃあこれをゲームにしよう」ということで作り始めました。ただ、『エイリアンホミニッド』のミニゲームは、敵を全員倒して脱出するのが目的でしたが、これをジュエルを集めるのを目的にしたりと、もっとクオリティーアップして、しっかりしたゲームにしようとしたのが、最初の目標でした。それで、東京国際アニメフェア2009の当時も、いろいろなモードは用意していたんですが、ブロックの色を変える“カラー・ザ・ワールド”のモードなら、何も説明がなくても“色を変えればいいんだ”という目的がわかってもらえると思い、このモードだけを出展したんです。ほかのモードの出展は、それから少しづつ出していきましたね。

――2009年の発表当時には2010年配信予定でしたが、それが……2011年、2012年と延びまして、最終的に2013年の配信になりましたが……。この原因は一体……?(笑)。
ジョン それはもう、いろいろと理由がありまして……(苦笑)。まず、我々ベヒーモスはとても小さいチームなので、1本のゲームを作るのにとても時間がかかるという前提があります。『バトルブロックシアター』の場合は、いくつかのゲームの要素を作って、プレイしてダメな部分は切ってまた作って、今度はほかの人にもプレイしてもらって、さらにダメな要素を切って作り直して……。と、3歩進んで2歩下がるようなことをくり返しました。これは、とても時間がかかるのですが、確実におもしろいゲームを作るために、必要なプロセスでした。

――これまでの作品も同様の手法で開発されているんでしょうか?
ジョン ベヒーモスはインディーズなので、時間に縛られることもなく、やりたいことをやってゲーム作ろうというポリシーがあります。焦って出して、満足しないものを作るよりは、とことん作っていくという感じですね。ですので、『バトルブロックシアター』は、ワイン作りのように、実を育てて、ビンに詰め、発酵させ……と丁寧にやっていたら時間かかってしまったというわけです。

――なるほど。それだけ練り上げていったというわけですね。開発当初と現在の完成形では、内容は大きく変わったのでしょうか?
ジョン 最初の企画で開発していた当時は、15分でゲーム全体をクリアーして、くり返し遊べるようなものを目指していたのですが、だんだんと変わっていきました。とくに全体にわたるストーリーが加わったことや、スペシャルブロックといった特別なギミックは、開発の後半に生まれたものです。

――遊んで感じたのは、レベルデザインへの格別のこだわりです。限られたギミックでこれだけの数のステージを作るのはもちろんですが、徐々に難度が上がっていく絶妙なレベルデザインは、どのように実現されたのでしょう?
ジョン これは本当に難しかったです。序盤のステージの開発はとても順調だったのですが、終盤になるにつれ、同じパターンのギミックは使えなくなりますし、逆に使わなくてはいけない特別なブロックなどが増えていく。ただ、解決法はありません。とにかく時間をかけてひねり出していくか、閃きを待つしかないんです。開発終盤のレベルデザイナーは、本当に辛い時間だったと思います。

――やはり時間をかけて生み出していくんですね……。その苦しいイメージとは裏腹に、ストーリーテリングの演出が、とてもハイテンションで楽しいものでした。あれは、どのように作られたのでしょう?
ジョン ストーリーは、アート担当のダン・パラディンと、彼の友だちであるナレーターのウィル・スタンパーとのコラボレーションで生まれています。ダンがだいたいのストーリーラインをウィルに伝えると、ウィルが自分でどんどん膨らませたものを作って送ってくるんです。ウィルは東海岸に住んでいるので、レコーディングが終わるたびに、データをネット経由で送ってくるんですが、送られてきたものを見るたびに、僕らは「なんだこれ!?」と驚かされました(笑)。確かに、ダンが伝えたポイントは入っているんですが、その合間に入っているハイテンションな言葉は自分たちでは考えられないようなばかりで。それで、今度はそのナレーションに合わせて、ダンがアニメーションを作って……というくり返しでしたね。こういうやりかたは、我々にとっても新鮮な感覚でした。とはいえ、ストーリー部分の開発にも、非常に時間がかかりましたが……。
山本 ダンは、ナレーションを聞いては、「これをどうやってアニメにしよう」って悩んでいましたね。

▲『バトルブロックシアター』のナレーションの様子やストーリーがわかる動画(英語)。ゲームの合間に挿入されるものは、もっとハイテンションです。

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――ちなみに、販売本数はどれくらいでしょうか?
ジョン ワールドワイドで20万本を超えたくらいですね。

――ベヒーモスでは、『キャッスルクラッシャーズ』が最大のヒットかと思いますが、『キャッスルクラッシャーズ』の販売本数は?
ジョン こちらは、ワールドワイドで300万本以上ですね。

――300万! それは大ヒットですね。ちなみに、『キャッスルクラッシャーズ』は、Xbox Live Arcadeで配信されたのちに、PlayStation Storeでも配信されましたが、『バトルブロックシアター』の他機種での展開は考えていますか?
ジョン これはノーコメントです。たとえ作っていても、できあがるまではアナウンスしません。それこそ、2009年に発表したのに、ずるずると延期してしまったゲームみたいになっちゃう(笑)。

――『バトルブロックシアター』じゃないですか(笑)。では、『バトルブロックシアター』はどんなユーザーに遊んでほしいですか?
ジョン 家族とプレイするのもいいし、友だちとカウチに座っていっしょにプレイするのもいい。小さい子どもから大人まで、多くの人が楽しめることが、僕らにとってもっとも大事な要素です。
山本 ジョンの夢は、小さい子どもが『バトルブロックシアター』のTシャツを着て、「このゲーム好きなんだ」って言ってくれることなんです。

――それは、ステキな夢ですね!

ベヒーモスの原点、そして来日の目的

――続いて、ベヒーモスという会社のことについて教えてください。まず、スタッフの数はどれくらいなのでしょうか?
ジョン 20人ですね。ゲームのテスターやTシャツなどのプロダクトデザイナーも含めてなので、実際にゲームを作っているのは5人です。

――ご、5人だけですか!?
ジョン だから、時間がかかるんです(笑)。

――な、なるほど。それは納得です。ちょっと失礼な質問ですが、たとえば『キャッスルクラッシャーズ』が2008年に配信されて、新作の『バトルブロックシアター』は2013年の配信と、約5年もの期間が空いています。そのあいだは、どのように会社の利益を出されているんですか?
ジョン ベヒーモスは10年前に設立して、最初にプレイステーション2で『エイリアンホミニッド』を発売したのですが、当時はまだゲームの開発だけで会社を存続できるかわからなかったんですね。ですので、バックアッププランとして、おもちゃやTシャツなどの商品も作ることにしたんです。それから『キャッスルクラッシャーズ』を作ったときも、そのキャラクターのフィギュアなどを増やして、それらのグッズをPAX(Penny Arcade Expoの略。アメリカのボストンで毎年開催される、ゲームユーザー向けイベント)や、コミコン(Comic‐Con Internationalの略。アメリカのサンディエゴで毎年開催される、コミックやアニメ、ゲームなどに関するイベント)で販売して利益にしています。あとは、『キャッスルクラッシャーズ』を始め、僕らの作品はダウンロード販売にしているので、いまだに毎日かなりの数がダウンロードされていまして、ランキング上位の常連に入るほどなんですよ。それもあって、すぐに新作を出さないと経営が立ち行かなくなるというような状況にはなりません。こういう風にダウンロードでゲーム買えるような時代になったのは、ラッキーだったなと思います(笑)。

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▲Comic‐Con International 2013のベヒーモスブース。

――ラッキーですか(笑)。ちなみに、ベヒーモスには日本をお好きなスタッフが多いイメージがあるんですが、その理由はありますか?
ジョン ジャパンイズクール! 日本の製品は、アートとして優れたものが多いので、自然と惹かれるスタッフが多いんだと思います。もともと僕らも子どものころから日本のゲームを遊んで育ってきましたし、日本のテクノロジーで何かが生み出されると、みんなで「こういうのが出たよ」と興味津々に話し合ったりもします。そもそも、日本の作り出しているものに興味があるのかもしれません。

――日本のファンと交流されることもあると聞きましたが、Twitterなどの反応を見ているのでしょうか?
山本 そうですね。私は、作品名などで検索してTwitterやブログで、日本の方からの評判を見ています。その反応をチームに共有したりすると、みんな喜んでくれますし。
ジョン あと、日本の皆さんはすごくメールをくれるので、メールを読んでいます。絵が送られてくると、ダンなども喜びますね。
山本 お便りやプレゼントは励みになりますね。あと、Pixivなどにベヒーモス作品の絵を投稿してくれる日本の方がいらっしゃって、そういうものも見ています。アメリカのファンが描くイラストはオフィシャルに近いものなんですが、日本のファンはとても独創的なものを描いてくださるので、ダンがよく感心しています。

――それは、日本のファンにはうれしい話ですね! よく日本にいらっしゃっているということですが、どれくらいの頻度でいらしてるんですか?
ジョン 以前は1年に2回くらいの頻度で来ていたんですが、最近は1年に1回ですね。

――毎年いらっしゃっているんですね。そして、気になるのが今回の来日の目的なんですが。
ジョン 今回の来日の目的は……、じつはまだナイショなんですけど……。

――ナイショ! それは記事にしないほうが……?
ジョン いえ、してください(笑)。

――いいんですか!(笑)。
ジョン (笑)。じつは、日本で小さなプライベートゲームショウをやりたいと思っていて、ふさわしい場所を探しに来ているんです。以前は東京ゲームショウに出展していたのですが、幕張は東京から遠いですし、我々のような小さな会社にとっては、会場が大きすぎて、我々が理想とするものとは合わなくなってきたんですね。もともと我々は、日本のユーザーさんに遊んでいただいて反応を見たかったんですが、東京ゲームショウは大手メーカーの年末商戦に向けての施策目的という感じで、年々ゆっくりゲームを遊んでもらうような場所ではなくなってしまって……。プレスの方が集まるというメリットもあるのですが、それはほかの場所でもできますし。何より、PAXと開催時期がかなり近いので、両方の準備をするには時間が足りないんですね。

――そのプライベートゲームショウというのが気になりますが、どういったものになるのでしょうか?
ジョン まだ具体的なことは決まっていないんです。最大の目的としては我々のゲームのファンたちと会うことなんですが、それに加えて、展示されている我々のゲームを通りがかった人たちが遊んで、皆さんの感想を聞いてみたいですね。あとは、日本では私たちが作っているグッズを買える場所がないので、販売する機会も作りたいと思っています。

――それは貴重なショウになりそうですね。楽しみです! ベヒーモスについての質問に戻りますが、とくに影響を受けたゲームというのは何がありますか?
ジョン 会社を設立したころから、ダンやトム(『エイリアンホミニッド』のゲームデザイナー)たちと、「こんなゲームを作りたいと思っていた」というものがあって。それは、トレジャーの作品なんです。とくに『エイリアンホミニッド』は、まさに僕らがトレジャー作品を遊んで、「こういうゲームを作りたい」と感じた気持ちを思い出して作ったものになりますね。

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――ああ! それは、すごく合点が行きました。確かに『ガンスターヒーローズ』のテイストを感じますね。
ジョン そうですそうです。まさに『ガンスターヒーローズ』は大好きな作品です。あと、トレジャーが好きなのは、シリーズものを作るのではなく、つねに新しいものを生み出すところ。僕らのような少人数の会社では、複数のゲームを同時に作ることはできないので、どうせ作るのならば、新しいものを作りたいと思っています。

――その姿勢もトレジャーに近いイメージがありますね。ちなみに、ベヒーモスには、もともとゲームクリエイターではない人が多いと聞いたのですが?
ジョン そうですね。ベヒーモスには、もともとゲームを作りたいと思っていた人は多いんですが、そのためにゲームを学ぶのではなく、学生のときからFlashを学習したり、絵を描いたり、プログラムを学んだりと、まったく別の業務をしながら、独学でゲーム作りを学んだ人たちが多いです。昔は、ゲームの作りかたを教えてくれる人はいませんでしたからね。みんな、ゲームの開発だけでなく、マルチなことができるのが魅力です。
山本 ジョンはもともと建築家でCADを使っていた人ですし、ほかのメンバーはバンドをやっていたりします。以前、『キャッスルクラッシャーズ』のアーケード筐体を作って出展したんですが、その筐体はジョンがデザインして作ったものなんです(笑)。みんな、そういった活動をしながらゲームを作っているんですね。
ジョン 私たちはとても小さな会社ですし、我々がゲーム制作以外の事業を行っていることもあり、みんなが複数の業務を行えることが重要なのです。おもちゃやその他の商品の製造から販売まで、全部自分たちでやっていまして、巨大な印刷機も、商品テストやユーザー評価用のオフィスも持っています。トレードショウのブースも、自分たちで作っているんですよ(笑)。スタッフたちが持っているゲーム制作以外の能力を挙げると、音楽演奏、パン作り、建築、映画評論、ローカライズ、そして自動車販売などがあります!

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――それは多才ですね……。そして、ぜひお聞きしたいんですが、日本人である山本アンナさんがベヒーモスに入った経緯をおうかがいできますか?
ジョン アンナは、もともとアニメや映画のローカライズをするポストプロダクション会社で働いていて、空いた時間で好きなゲームキャラクターのぬいぐるみを作っていました。しかも、アンナは、ぬいぐるみやキャラ弁などが作れる人として、もともとインターネットで有名な人だったんです。作ったぬいぐるみなどは、PAXに来て我々にプレゼントしてくれていたんですが、彼女のぬいぐるみは、これまでみたほかの商品よりもよく、我々の眼から見て、商品化できるクオリティーのものでした。
山本 私は、当時ベヒーモスのファンで、『キャッスルクラッシャーズ』のキャラ弁を作ってブログなどに載せていたら、その写真をベヒーモスのブログに載せてもらえたことがあって。それが、とてもうれしくて、それからPAXでベヒーモスブースを訪れては、作ったぬいぐるみを直接渡したりしていたんです。その後も、『バトルブロックシアター』のハッティやクジラのぬいぐるみを作って送ったりしていたら、ダンとジョンがそのクオリティーを気に入ってくれて。メールで、「こういうものを作ってくれないかな?」と仕事の依頼をもらうようになったんですね。それもうれしいことで、喜んで作らせていただいて。でも、当時の私はニューヨークに住んでいたので、ベヒーモスのあるサンディエゴとは離れていて、なかなか直接コミュニケーションを取ることができなかったんです。そうして仕事を受けて続けるうちに、またPAXの開催タイミングになったら、ジョンから「ちょっとブースに来てくれないか」と言われて。何か、お礼を言ってもらえるのかなと思っていたんですね。そうしたら……。
ジョン 「うちで働かない?」って誘いまして(笑)。ぬいぐるみなどのプロダクトになると、やはり直接コミュニケーションを取れたほうが、やりやすいですし。それで、どうせなら雇っちゃおうと。
山本 私、作ったものになかなか満足しないんですよ。周囲の人に褒められても、ついいろいろなところが気になってしまって。ベヒーモスのイメージキャラクターになっている、ニワトリのぬいぐるみがあるんですが、これも8回か9回くらい監修の段階で直したりしていて(笑)。ダンもそういうこだわる部分があるようで、私の完璧主義に近いところを気に入ってもらえたようなんです。

――ファンだった会社から、直接雇ってもらえるっていうのは、すごいお話ですね。では、いまはぬいぐるみの監修などをされているんですか?
山本 そうですね。肩書きはプロダクトデザイナーで、私が趣味で作ったものが見本になって、商品化されるんです(笑)。あとは、工場に発注したものの監修や調整ですね。ダンは、「もう君の気のすむままにやればいい」って投げっぱなしで(笑)。でも、ダンにとっては、ダンが描く2Dの絵を3Dの立体物にすることがすごいと思っているようで、立体物になったものはほとんど任せてくれています。

――なるほど。せっかくなのでおうかがいしたいんですが、たとえば、日本のベヒーモスファンが、「ベヒーモスに入りたい」って思っているとしたら、今後、山本さんのように雇ってもらえるチャンスはありますか?
ジョン はい、もちろんです。我々は国籍ではなく、才能を雇うのですから。「ベヒーモスがやりたいことを、私なら実現できる」という人ならばぜひお願いしたいですね。ただ、アメリカ政府が作った制度によって、長期間、外国の方を雇用するのは難しい状況です。言語もまた問題のひとつですが、それは希望者がどんな仕事を求めるかによって解決できるでしょう。我々が求めるのは、自発性、書く、描く、話すといった優れたコミュニケーションスキル、そしてマルチリンガル能力です。概して、独学で何かを学んできた人がすばらしい候補者であることが多いですね。彼らは、ほかの学生にペースを合わせたりはしないのですから。

――先ほどおっしゃっていた、ベヒーモスのスタッフのような人ですね。そういった才能を持っていれば、日本人でも入れるという可能性があると。
ジョン そうですね。最近の我々が日本で求めているのは、日本に住んでいる方で、日本市場を理解していて、それを利用してマーケティングができる人です。それならば、日本にいながらベヒーモスで働くということもあり得ます。いちばん必要なのは、カリフォルニアにいるスタッフと同じメンタリティーを持って、ゲーム開発やマーケティングだけが得意ということではなく、何でもできるマルチタスクなスキルです。理想的な人は、「東急ハンズが大好きだ!」って言う人(笑)。自分で物を作ったり描いたりできる、クリエイティブな人がいいですね。
山本 ほかのスタッフもみんなそうなんです。仕事だけじゃなくて、仕事以外のことも情熱的にやっている人が多いんです。

ベヒーモスがダウンロードゲームにこだわるワケ

――ベヒーモス作品に共通した独特のテイストを持つグラフィックは、ダン・パラディンさんが一括で監修されているのでしょうか。
ジョン はい。私たちが小さな会社でいられる理由のひとつは、ダンがほとんどのアートワークを担当するからです。彼は、『エイリアンホミニッド』では背景以外のすべてのアートワークを手掛けましたし、『キャッスルクラッシャーズ』ではすべてを、『バトルブロックシアター』ではすべてのゲームプレイ用アートワークを手掛けました。いまオフィスには、もうひとりのアーティストがいて、彼は『バトルブロックシアター』のメニューと背景を手掛けました。

――マルチプレイを意識した作品、しかもアーケードらしい作品が多い印象がありますが、意識されていますか?
ジョン もちろんです。我々はアーケードゲームと、すばらしくおもしろかったゲームのすべてを恋しく思っています。私たちはいま、ゆっくりとではありますが、ゲームがたくさんある、自分たちのゲームセンターを作っているところなんですよ。その一端として、トレードショウなどでは、自作のアーケード筐体を作って、既存のゲームをアーケード作品のようにプレイできるようにしています。

――アーケード筐体を出展されているのは、そういう意味があったんですね。ベヒーモスの作品は、アーケードらしいだけでなく、パッケージ作品として発売できるボリュームがあると思うんですが、ダウンロード専売にしている理由を教えてもらえますか?
ジョン パッケージがイヤなわけじゃないんです。むしろ、手に取れるというのは我々にとってもうれしいものです。問題は、アメリカのゲームショップでは、パッケージのゲームは、店頭に6~8週間しか置いてもらえないということです。だから、あくまでアメリカでの話ですが、パッケージソフトはゲームデベロッパーたちに、初動分の利益しか生まないんですね。現在、アメリカのゲーム市場の半数以上が中古ゲームで、それでは我々は利益を得ることはできません。あと、パッケージでは、我々とユーザーのあいだに流通関係の多くの人々がいるので、価格が高くなってしまうんですね。ダウンロード作品なら、あいだにいるのはハードメーカーだけですので、パッケージよりも圧倒的にコストがかからない。たとえば、同じゲームでも、ダウンロード販売で15ドルのものが、パッケージだと60ドルくらいになってしまいます。一方、ダウンロードゲームは、在庫切れになることはなく、簡単に手に入れられますし、長く売ることができます。とくに『キャッスルクラッシャーズ』は発売から4年経ちますが、いまだにPS NetworkとXbox LIVE Arcadeのトップセールスタイトルのひとつです。ただ、ダウンロード販売にデメリットがないのかと言うとそういうことはなく、先ほど言ったようなパッケージを手に取る喜びが得られないんですね。そういうこともあって、私たちはぬいぐるみやTシャツといった触れられる商品を作っているんです。

――なるほど。商品展開には、そういう意味もあるんですね。ベヒーモスは、ダウンロード専売のプラットフォーム先として、Xbox LIVEを優先されているイメージがあります。その意図は何でしょう?
ジョン 別にXbox LIVEだけを優先しているつもりはありません。ただ我々にとって、Xbox LIVEというかマイクロソフトは、とても仕事がしやすいパートナーなんです。彼らは、ゲームを選ぶのがうまい。家庭用ゲーム機だけでなく、スマートフォンも含めて、ほかのプラットフォーマーはあらゆるゲームを配信しているけれど、マイクロソフトはちゃんと選別してXbox LIVEのラインアップに加えていると思います。あと、Xbox LIVEはいいゲームをメニューのトップのほうに載せるので、ゲームが探しやすいんですね。ほかのコンソールは、最新ゲームを載せるけれど、ちょっと古くなったそこにないソフトを探すのは難しくなってしまいます。
山本 皆さん、ベヒーモスはマイクロソフトが好きだと言うんですが、そういうわけではなくて、これまでの実績からいい関係が保たれているだけなんです。
ジョン ソニーともいい関係なんですよ。本当に。でも、日本ではわかりませんが、アメリカのマイクロソフトはゲームの完成度もちゃんと見て、気にしてくれる。こだわりを持っていて、僕らが作ったゲームにある程度の意見を言ってくれたりするので、そういうところで信頼をしているんです。

――そういったサポートの違いがあるんですね。あと、ベヒーモスの作品は、しっかりとローカライズされている印象があるのですが、ローカライズへの姿勢もうかがえますか?
ジョン 『バトルブロックシアター』は10言語にローカライズしていまして、タイトル画面に使っているフォントも、10言語分作りました。たとえば、日本語のあいうえおという五十音を表にして壁に貼って、それを見ながらダンがすべて手描きでフォントのデザインをするんです。それを10ヵ国語分作っています。

――それはすごい……。そのこだわりが、日本でも熱狂的なファンを生む秘訣なんだと思います。ところで、最近の日本のゲームについてどう思います?
ジョン 最近は、私は十分にはゲームをプレイできていないので、あまり意見は言えません。でも、最近の日本のゲームは、西洋を意識したように作られているのはわかります。ただ、海外、とくにアメリカの日本のゲームが好きな人たちは、日本のゲームが遊びたいわけであって、日本人が作る海外向けのゲームが遊びたいわけじゃないんです。だから、ちょっと前のゲームですが、『塊魂』とか『大神』などは、ほかの国のどこにもないゲームで、そういうのを生み出せる会社は、世界中を探しても少ないわけです。日本にはそういうゲームを作れる会社が多くあると思うので、「これは日本じゃないとできないな」というゲームをどんどん作ってほしいですね。

――日本は日本らしさを追求したほうがいいと。
ジョン 西洋向けになるというのは、トレンド的に自然なことだと思うのですが、ゲーム業界の多様性が失われてしまうのではないかと危惧しています。それを乗り越えるひとつの方法は、日本の作品が、ダウンロードゲーム市場でもっと注目されること。Steamでも、Xbox LIVEでも、ニンテンドーeショップでも、PS Storeでもかまいません。ダウンロードゲームは柔軟性を与えてくれるものですが、日本の小さなデベロッパーたちが、この市場に取り組んでいるようには見えません。

――日本も一部のメーカーはダウンロードソフトに注力していますが、まだ多くのメーカーが積極的に参加しているとは言えませんね。続いて、今後の予定もお聞かせください。まずベヒーモスとしてはスマートフォンは2作品(『Alien Hominid:PDAゲーム』、『Super Soviet Missile Master』)を配信していますが、現在のスマートフォンの勢いを受けて、今後スマートフォンにシフトしていくといった予定はありますか?
ジョン スマートフォン用の開発エンジンはありますが、開発の予定はありません。iOSの問題はiTunes Storeに山ほどのゲームがあることです。ユーザーとしてはいいのかもしれませんが、ゲーム開発会社としては、あれだけの中で注目を集めるのが難しいですね。

――次回も家庭用ゲーム機向けというわけですね。では、今後の新作の予定は……?
ジョン つぎがどんな新作になるかはわかりませんが、この点について言えるのは、“我々はいつもアイデアと向き合っています”ということです。それらの大半はボツになったり、使われなかったりしますが、それが私たちのデザインのプロセスの一部なのです。我々はたくさんのものを作って、その中の「ここがいいな」と感じられるほんのちょっぴりだけを使うのです。デザインのプロセスにおいては、ゲームの細かな部分がいいと確信できることは、重要なことなのです。その核となる部分に長時間、それこそ何年も関わることになるのですから。そして、その物事が自分を興奮させてくれるように保つことも重要です。

――では、これから長い時間をかけて開発をされていくんですね。あえてお聞きしますが、配信は何年後くらいの予定でしょうか?(笑)。
ジョン 何も言えません(笑)。5年以下だったらいいな!

――気長にお待ちしています(笑)。5年以下というスパンを考えると、プレイステーション4やXbox One、Wii Uといった次世代機が主流になっていると思いますが、これらに向けたものになるのでしょうか?
ジョン もちろん次世代機に向けて作りたいのですが、一部のハードでは下位互換性がなくなってしまうことが不安です。互換性がなくなると、この10年のゲームが遊べなくなってしまうので、その点をどうにか解消してほしいですね。

――クラウドによる互換性に期待したいですね。ちなみに、プレイステーション4、Xbox One、Wii U、どれに配信したいという意向はありますか?
ジョン 移植以外でやるとしたらそのハードならではのものにしたいので、簡単ではないでしょうね。
でも、今後はすべてのプラットフォームで取り組みたいと思っています。

――なるほど。では最後に、日本のベヒーモスファンにメッセージをお願いします。
ジョン TGSには出展しませんが、信じて待っていてください! 僕らは、近いうちに日本に来ますので、その皆さんとお会いできる日を楽しみに待っています!