森橋氏の半生から“鬼物語”、「関東風雲編」の執筆秘話まで

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 6月27日に大型アップデート「関東風雲編」を実施したカプコンの戦国シミュレーションRPG『鬼武者Soul』。このアップデートで、“鬼物語”の新たなストーリー「関東風雲編」が実装された。そこでここからは、“鬼物語”のシナリオを手掛ける森橋ビンゴ氏へのインタビューをお届け。『鬼武者Soul』についてだけではなく、森橋氏のクリエイティブへの考え方や、学生時代、カプコン在籍時代、フリーランスになった理由など、幅広いテーマで語っていただいた。もちろん「関東風雲編」の見どころや執筆秘話なども聞いており、必見のロングインタビューとなっている。ぜひご一読を。

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天邪鬼だった学生時代、小池一夫氏との出会い

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森橋ビンゴ氏

――本日はよろしくお願いします。今回は、森橋さんがシナリオを手掛ける『鬼武者Soul』の大型アップデート「関東風雲編」についてお話を伺うインタビューなのですが、まずは、読者の皆さんに森橋さんのことをより知ってもらうために、ご自身のキャリアについてお話していただきたいと思います。
森橋ビンゴ氏(以下、森橋) よろしくお願いします。僕の経歴ですか……そうだ、経歴と言えば僕のWikipediaをマメに更新してくださっている物好きな方がいまして、この場を借りてお礼を(笑)。

――(笑)。内容に間違っているところはないですか?
森橋 だいじょうぶです、バッチリです。間違えるほど情報が多い人物ではないので(笑)。

――ではそのWikipediaによると、ご出身は広島で、大学で大阪に出られて。
森橋 そうですね、通っていた高校が全員大学に進むような進学校だったのですが、僕は天邪鬼な性格で、先生に「大学には行きたくない」って言っていたんですよ。「周りが大学進学するなら俺は行かない!」みたいな(笑)。ですが、先生には「前例がないからアドバイスできない」と言われて。そりゃそうですよね。

――その時にはもう今の道に進もうと決心していたわけでは……
森橋 ないですね(笑)。親は公務員だったので、コネでどうこうというのもなかったですし。

――まさかのノープラン!?
森橋 若気の至りってやつです(笑)。結局、大学には進むことにしたんですが、ここでも普通の大学には行きたくない! と思い、大阪芸術大学の映画のコースに進みました。何をやりたいということもハッキリとはなかったんですが、ゲームやアニメ、映画などは好きだったので。芸術大学なら、一般的な学科の成績もそれほど必要ではなかったですしね。そこで映画のシナリオの勉強などをしていたんですが、まあもう就職率の悪い大学でして(笑)。もちろんそういう机上の数字で良い悪いという話ではなく、そもそもみんな卒業後の進路というか目標が、例えば「俺は作家になるんだ!」とかな訳です(笑)。

――確かに就職というのとはちょっと違いますね(笑)
森橋 周りがそういう感じなので、ここでまた僕の天邪鬼な性格が出て、逆にちゃんと就職活動するぞ、と考えていました。並行して小説やシナリオの投稿活動もしていましたけど。

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――在学中には、あの小池一夫先生(※)に師事されたそうですね。
森橋 ちょうど僕が3回生のときに、小池先生が客員教授としてウチの大学に招聘されたんですね。昔から小池先生のマンガが好きだったので、これは講義を受けようと。そして、僕の行っていた学科にはゼミというものがなかったんですが、小池先生は「やる気のある奴を集めてゼミを開くので、希望者は作品を持ってきなさい」とおっしゃられまして。もちろん作品を提出したところ、ゼミに参加させていただけることになりました。

――なるほど。そうしてゼミに参加して、薫陶を受けることになったんですね。小池先生はどんな方でしたか?
森橋 とにかくバイタリティがスゴイ人ですね。いまもそうですけど、やっぱりあれだけ後進を育てようとする意欲というのは、ふつうの人にはなかなか持てないと思います

――クリエイティブの面で、強く影響を受けた部分はありますか?
森橋 そうですね、キャラクターを起てるという概念を初めて理論立てて実践した方なので、世界観とかあらすじとかよりも、まずキャラクターをしっかり決めないとおもしろくならない、という小池イズムは受け継いでいますね。

――小池先生といえばセックス&バイオレンス描写というのも特徴のひとつですよね。
森橋 そこは僕も持っているんですが、関わっている媒体というか露出させていただいている場がそういうものに合わないことが多いので、あまり出していないですね。僕はライトノベルでデビューしたんですが、すぐセックス&バイオレンスを入れちゃうので、知り合いの作家さんがビックリしてましたね。「お前ヒロインが……ってそれはありえないだろう!」って(笑)。最近は自重できるようになりましたけど。

――意識して自重していないとダメなんですね(笑)
森橋 小池イズムが出ちゃいますね(笑)。やっぱりクリエイティブって原初体験が出やすいものだと思うんです。僕の場合小池先生に師事したという後天的なものもありますが、そもそも子どものころに流行りのものに加えて、劇画が好きで、手にとっていたマンガがほとんど小池先生の作品だった、という人間ですからね。当時は原作者なんて意識していませんでしたけど、あとになって「あっ」っていう(笑)。

※マンガ原作者、小説家、脚本家、作詞家、作家としてマルチに活躍する。『子連れ狼』や『高校生無頼控』、『クライング フリーマン』など、多数のマンガ原作を手掛ける。

懐の深すぎる会社カプコン

――という学生生活を送られて、社会人の第一歩としてカプコンに入社されます。
森橋 はい。じつは、就職活動中にエンターブレインさんの主催する“えんため大賞”のドラマ企画部門の最終選考くらいにも残っていたんですが。

――カプコンの面接はすんなりと受かったんですか?
森橋 それがですね、いまとなっては笑い話ですが、友人にカプコンの面接を受けるという話をしたら、「カプコンくらいの会社になるとスーツなんて着て行ったら落ちるよ。私服とかで行ってアピールしないと」と言うわけですよ(笑)

――お友達は森橋さんを担ごうとしたのでは……。
森橋 そういう風でもなかったですが、まあ大阪の悪いノリというか(笑)。カプコンは大阪では説明するまでもないエンターテインメントの一流企業として誰でも知っていますからね。就活生のあいだの都市伝説というか、そういうものも確かにありました。で、本当に面接に甚平を着て行きまして……当然ほかの人は全員スーツですよね(笑)。

――ですよね(笑)
森橋 さすがに「何なんだ君は。ふつうだったら落とす」と言われ(笑)

――そういえば何故受かったんでしょう?
森橋 “えんため大賞”の最終選考に残っていたというところでしょうね。ちょっとアレだけど、才能はあるかもしれない、と思ってもらえたのかなと。結局、伊津野さん(伊津野英昭氏。カプコン所属のクリエイター)に選んでいただいて、入社できました。

――おおらかな会社ですよねえ、そして伊津野さんの慧眼もスゴイ(笑)
森橋 当時のカプコンの開発系の面接は、会社全体ではなく各開発室のリーダーが「自分のところなら使う」ってなったら合格だったんですよ。で、そう言ってくださったひとりが伊津野さん、もうひとりが三上(真司氏)さんだったそうです。伊津野さんはすごく優しい方で、厳しいことでもハッキリ言ってくださるタイプで、本当にお世話になりましたね。

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――そうしてカプコンに入社されて、以降『デビル メイ クライ2』、『デビル メイ クライ3』、『デビル メイ クライ4』と、おもにシナリオ・テキスト部分でゲームタイトル制作に携われていきます。
森橋 入社してすぐに、すでに開発中だった『デビル メイ クライ2』のチームにプランナーとして入りました。まあ新人なので、雑用係みたいなものでしたけど。そして『2』の制作が終わって、『デビル メイ クライ3』は立ち上げから参加しました。ディレクターの伊津野さんが僕が文章を書けるのは知っていたので「(シナリオを)書くつもりがあるなら任せる」と言ってくださって。もちろん僕ひとりでシナリオのすべてを作るわけではないのですが、おおまかなベースとなる部分は僕が書きました。

――少し話が逸れますが、シナリオを書く、お話を考える、というのは未経験者には想像もつかない作業だと思います。人によってやり方も違うとは思いますが、森橋さんの場合はどのようにシナリオや物語を構築されていくのでしょう?
森橋 僕の場合は、媒体やメディア、ゲームの内容などに合わせて、その時々で違いますね。例えば『デビル メイ クライ3』のときは、頭の中にあらすじはあったんですが、それをそのままあらすじとして伝えると曲解されそうだなと思い、あらすじを書く作業を飛ばして、最初に全編を書いて形にしてしまいました。『3』の場合はミッションごとに冒頭にムービーがあり、ゲームプレイがあり、クリアするとご褒美がもらえる、という基本的な形が最初から決まっていたので、書きやすかったというのもあります。

――なるほど。ゲームの場合、仕様も織り込んでシナリオを作っていくと。小説やマンガ原作を書く場合はどうでしょう?
森橋 そうですね、小説の場合はオチは決めておかないと後々修正が多くなったり大変なので、まずそこをしっかり決めてから始めますね。難しいのは連載マンガの原作ですね。後々のことまで壮大に考えていても、“オトナの事情で終わる”ことがあるという(笑)。かといって、出し惜しみせずに結末に向かって行っても、人気が出ると今度は“終わらせたくない”という意向が出てきますし。大きなお話の枠みたいなものはもちろんあるんですが、それを語る上でのペース配分は状況次第になってしまいますね。

――その時々の事情とそれに合わせたやり方があるんですね。では、話を戻しまして、カプコンで先に挙げたタイトル制作に参加して経験を積み、その後退社してフリーランスになられます。フリーになった理由はどういったものだったのでしょうか?
森橋 いろいろあったのですが、最終的には、フリーランスのほうが自分が活きるだろう、というのが理由でしょうか。伊津野さんに「お前はシナリオを書いているときは本当に活き活きしているのに、企画となるとやる気がないのが丸判りだ」と叱られたことがあるのですが、つまりそういうことです(笑)。一番好きな執筆活動でやっていきたい、という面と、執筆以外のことに意欲を持って取り組めない、という両方があったと思います。

――とはいえ、いきなりフリーで活動するというのは大変ではなかったですか?
森橋 ふつうであればそうだと思うのですが、僕は恵まれていまして、いまはどうかわかりませんけど、当時のカプコンは副業を認めてもらえていたんですよ

――なんと。それはまた珍しいですね。
森橋 はい。もちろん、業務に支障が出ない範囲で、お金のことは自分でキチンと管理する、という条件でですが。僕はちょうど入社の直前に作家デビューしていたんですよ。そこで、入社するときに「続けてもいいですか?」と聞いたところ、「いいよ」と。

――本当に器が大きいというか、懐の深い会社ですよね(笑)
森橋 感謝しています。先輩ですと、西村キヌさんやあきまん(安田朗氏)さんは、社外のメーカーさんとアニメのキャラクターデザインなどの仕事をしていましたし、個人でアメコミの翻訳をしている方もいましたね。そういうわけで、僕も作家として社外の方と仕事をしていたので、そういう繋がりや人脈もあって比較的すんなりとフリーランスに転身できたんです。

――そうしてフリーになり、ゲームのシナリオ制作や小説執筆などの活動をしながら、2年前に会社(ナインストーリーズ)を設立されます。会社を立ち上げたのには何か理由が?
森橋 これはですね、カプコンさんやメーカーさんと仕事をするときに、当然契約書を交わすんですが、そこに保証人のサインが必要なんですよ。で毎回これを父親にお願いしていまして……さすがにいい歳してこれを頼むのが本当に心苦しくて(笑)。会社であれば法人契約になるので、それが主な理由です。

――駆け足で森橋さんのここまでのキャリアをお聞きしてきましたが、波乱万丈というか、いろいろな経験をされてきていらっしゃいますよね。
森橋 安定しているとは言い難いですけど(笑)。おかげさまで仕事は途切れずいただけていますし、生きていく力はそれなりに付けられたのかな、とは思いますね。

“鬼物語”はどのようにして生まれたのか

――というわけで、森橋ビンゴ~風雲人生編~はいったんここまでとしまして(笑)、『鬼武者Soul』についてお聞きしていこうと思います。まず、どういった経緯で『鬼武者Soul』のシナリオを手掛けることになったのでしょうか?
森橋 大阪のカプコン時代にいっしょにやっていたプログラマさんが、異動で東京に来ていたんですね。その方がカプコンオンラインゲームの部署におられて、僕が東京に出てきて仕事をしているということで、その方から依頼を受けたのがスタートでしたね。最初は、「元カプコンだからだいたい把握しているよね?」ということで(笑)、デビル メイ クライ』と『大神』とのコラボ関連のシナリオをお願いされたんです。

――なるほど。そこまではよくある流れだと思いますが、最終的に森橋さんはメインシナリオも担当されていますよね?
森橋 はい。そのコラボシナリオを書くときに、すでにあるシナリオと資料をもらったんですが、登場人物がプレイヤーしかいなかったんですね。お付きのキャラクターなどもおらず。これだとどうしても地の文が多くなって文字数も増えて読みにくくなってしまうので、掛け合いができるように「お付きのキャラクターを用意してもらえないか?」とお願いしたんです。というやりとりをしているうちに“鬼物語”最初の「領内巡検編」のシナリオを「森橋さん、これお付きを入れて直してもらえない?」という話になり(笑)

――急に巻き込まれましたね(笑)
森橋 で、直しているうちに「今後これずっとお願していいですか?」という依頼になり、「えっ、あ、はい」という感じで気がついたら丸1年書き続けていました(笑)

――(笑)。みの吉は森橋さんの提案で登場することになったんですね。
森橋 そうなりますかね。まあ『鬼武者』ですし、お馴染みのキャラクターがいいだろうということで選ばれたみたいです。僕が依頼を受けた時点ですでに“鬼物語”は「領内巡検編」と「近畿神剣編」の途中くらいまでできていたんですけど、みの吉を入れることになったので、僕が修正しましたね。

――1年分と考えると当然かもしれませんが、実際にプレイすると“鬼物語”はものすごくボリュームがありますよね。
森橋 本当に多いと思います(笑)。僕も書いているうちにどんどん長くなっていっちゃって……。やっぱり感覚が少し麻痺してくるんでしょうね。気を付けようと思いつつ、登場キャラクターもどんどん増えてしまって。

――でもそこは森橋さんが増やしちゃってるわけですよね?(笑)
森橋 そうなんですけど(笑)、1000人以上武将が居るわけですよ。有名武将はまだいいですけど、そうでない武将なんかはイラストだけでなく、何をした人なのかとか説明してあげないとかわいそうじゃないですか。そう思って極力拾っていくうちに、登場人物が増えてしまい……やっぱり僕のせいですかね(笑)

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――シナリオに関して細かいオーダーなどはあるんですか?
森橋 歴史上で起こったことはなるべく改編しない、といった基本的なルールはありますが、ほかはあまりないですね。自由にやらせてもらっています。けっこう無茶な性格にしちゃっている武将なんかもいますけど、ダメと言われたことはないですね。

――“鬼物語”に出てくる武将は、森橋さんテイストが多分に含まれているわけですね。
森橋 実際のエピソードが残っている武将は、それに沿った性格付けをするようにしていますが、例えば武将だからといって皆が「拙者は~」「~でござる」ではおもしろくないですよね。歴史好きの方が変だと思わない程度に、あまり歴史を知らない人でも入りやすい、というバランスを狙って書いています。

――となると、“鬼物語”に関しては歴史考証の部分も森橋さんがされているんですね。
森橋 歴史考証というと大げさですが、毎回かなり調べています。もともと歴史関係は好きなので辛くはないですが、大変ではありますね。とくに女性キャラクター、お姫様なんかは同じ名前の人もけっこういたり、名字が母方だったり父方だったりと「これは誰?」となることも(笑)。

――加えて『鬼武者』というベースになる世界設定・物語もありますよね。
森橋 ある意味そこが一番苦労しますね。ベースの『鬼武者』をどこまで拾ってどこまで捨てていいのかという部分は、常に悩みどころです。『鬼武者Soul』自体は色んな人がいっぺんに同じ時代に集まってしまった、という設定なので、『鬼武者』に忠実すぎると辻褄が合わなくなってしまいますし、かといってじゃあ幻魔を出しておけばいいや、というものでももちろんないですし。毎回模索しながらやっている感じですね。

――ここまでの“鬼物語”を振り返って感想をお願いします。
森橋 これだけの量の読み物を、課金コンテンツというわけではなく読めるのはいい試みだと思います。システマチックになりがちなプラウザゲームの中で、いいアクセントになっているかなとも思います。プレイヤーの方々に楽しんでいただけていたら嬉しいですね。

新たなシナリオ「関東風雲編」は剣豪たちの活躍に注目!

――さて、その“鬼物語”の新たなシナリオ、「関東風雲編」が今回のアップデートで追加されます。
森橋 はい。地方編を中部地方からずっとやってきて、いよいよ関東地方に突入するのですが、関東というのがこれがまた……(笑)

――何か困る部分が?
森橋 時代を考えると、関東は北条家の一強で停滞している時期なんですね。あまり大きな戦もなく、そういった面で変ないい方ですが話題に乏しい地方なんですよ。

――なるほど。歴史物はトピックがないとシナリオを書くのも難しくなりそうですね。
森橋 最初はどうしようかと悩んだのですが、関東は剣豪が多い土地柄で、剣聖と言われた塚原卜伝と上泉信綱が同時代の人物なので、このふたりを軸に描いていくことにしました。ですので、「関東風雲編」は剣豪がたくさん登場してきますよ

――剣豪という言葉だけでもワクワクします。
森橋 この時代が好きな方にはグッとくるところかなと。国同士の争いにはそこまでフォーカスせず、剣豪たちの活躍を押しだしています。これまでのシナリオとは少し毛色が違っていますね。とはいえ、国に関しても何も触れないわけにもいかないので、ネタは入れ込んでいます。

――そのネタとは?
森橋 『鬼武者Soul』の初期プレイヤーキャラクターは、東京を選ぶと太田道灌になりますが、ほかのキャラは戦国時代なのに、太田道灌だけ室町時代の武将なんですよ。つまり、時代設定からすると、一番化け物なんです(笑)。もっとも古い時代から来たという。このあたりをイジろうかなと。このお爺ちゃんが、北条にガンガン噛みついていく、というのが関東編最初の見どころになっています(笑)。太田道灌は楽しんで書けたのでいいキャラクターになっていると思いますよ。

――かなり個性的なキャラクターなんですね(笑)。楽しみです。そのほかの見どころも可能な範囲で教えて頂けますか?
森橋 かわいい女性剣士がふたり登場するのも、見どころのひとつです。根岸兎角と岩間小熊という剣豪なのですが、歴史上は男性ですが、名前が女性ともとれるような名前だったのでゲーム中では女性にしてもらって。ふたりはもともと同門なのですが、ひとりが抜けて全然違う流派を名乗ってしまうといったエピソードもありつつ、そこまで記述が多い人物ではないので脚色もしやすいだろうということで選びました。関東編のキーパーソンとなるふたりです。

――北条家に関してはどうでしょう、出番はありますか?
森橋 PVにも登場しますし、北条氏康は重要キャラクターなのでもちろん出てきますが、彼のようないわゆるメインどころ、名の知れた武将がみんないい人というのもイヤだなと思い始めていまして(笑)

――ここで天邪鬼発動!?(笑)
森橋 もちろん何の根拠もなく、という話ではないですよ(笑)。例えば、上杉謙信なんかは、史実として残っている話が本当にクソ真面目なんですよ。なので、キャラクターとして書くときも真面目で義を重んじるような人物にどうしてもなってしまいます。一方今回の北条氏康は、いろいろと調べていくとわりとゲスなところがある気がするんです。身内や家族にはすごく優しいけれど、敵に対してはとことん冷徹だったり。ちょっとそういうところを出していこうかなと思いまして。戦国時代ですし、いい人ばっかりではないぞと。ただ、カッコ悪くなってしまってはいけないので、そこはそうならないように気を付けて書いています。

――ちなみに、「関東風雲編」はどのくらいの期間で書き上げられたんでしょう?
森橋 ひと月くらいですかね。

――素人考えですが、短い期間で書き上げられるのですね。
森橋 サービス開始当初はもっとオーダーが多くて、ペースも早かったです(笑)。最初の勢いというのは大事なので仕方ないことですが。最近はさすがに少しペースを落としてもらっていますね。

――新たにキャラクターを登場させるときなど、イラストとの兼ね合いなど、考えることも多そうですね。
森橋 そうですね。シナリオを書く段階で、新しいイラストが全部揃っていればいいですけど、もちろんそんなことは稀で(笑)。皆さんあれだけの綺麗なイラストを描くのは時間がかかるのは仕方のないことなので、ある程度予想して書いています。だた、予想が外れることももちろんあって、今回も、すごいアホな感じのキャラクターとして書いていたら、ものすごく凛々しいイラストがあがってきて、「さすがにシナリオを書き直させてくれ」と言って手直ししたことがありましたね(笑)

――どちらを直したほうが早いかと言ったら、やはりシナリオのほうというのがまたなんとも(笑)
森橋 イラストは何ヵ月も前から発注しているものですからね、そりゃ僕のほうが直しますよ(笑)。ゲーム的にも、やっぱり新規に登場するキャラクターを出してあげたいですしね

――ではそろそろお時間ということで、最後に現役プレイヤーの皆さん、これから『鬼武者Soul』をやってみようかなという皆さんにメッセージをお願いします。
森橋 歴史に詳しくないという理由でプレイを躊躇している方がいたら、詳しくなくても楽しめるように書いていますので、ぜひ試してみてほしいです。現役プレイヤーの皆さんには、これからも飽きないように面白い物語をお届けできればと思っていますので、「関東風雲編」も読んでみてください、ということで。

――本日は長い時間ありがとうございました。
森橋 ありがとうございました。

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