あらゆる情報を排除して、プレイヤーに“発見”をうながす

 2013年6月11日~13日(米国時間)、アメリカ・ロサンゼルスで開催されている世界最大級のゲーム見本市E3 2013(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ 2013)。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、メディアを対象にプレイステーション4用ソフトの新作『The Witness』を紹介するメディアツアーを行った。開発者みずからが説明する、不思議な魅力を持った本作のツアーをリポートしよう。

 メディアの前に立ったのは、『The Witness』の制作者であるジョナサン・ブロウ氏。日本人には、あまりなじみはないかもしれないが、日本のPlayStation Networkでも配信されている、おもに海外で絶賛された『Braid』の開発者と知られる、インディーズゲーム界の注目の人物である。ジョナサン氏は、冒頭『The Witness』についてこう語った。「最初にお断りしておきますが、『The Witness』はとてもふつうじゃない(Unusual)ゲームなので、その点をご了承ください」。“ふつうではない”。その説明が正しかったことを、我々メディアは、のちに知ることになる。

ジョナサン・ブロウ(Jonathan Blow)氏

 冒頭の説明以降は、ジョナサン氏は参加者の間に座って、『The Witness』をプレイしながら説明を開始。周囲の友だちに話しかけるような、とてもフレンドリーな雰囲気で進められた。プレイを開始すると、プレイヤーはとてもキレイな島に下り立ち、主観視点で島のあちこちを探索していく。開発中ということもあるかもしれないが、画面には一切のゲージ類や文字が表示されず、ただ自然溢れる島を歩くことに。そんな中、自然の中にとても無機質なパネルが見つかる。そのパネルこそが、『The Witness』の肝となるパズルだ。パネルの前に立つと、画面にはパネルだけが表示。プレイヤーは、パネルに描かれた通路に一筆書きの要領で白いラインを引き、スタート地点からゴールを目指す。ひとつのパズルをクリアーすると、新たなパネルが点灯し、異なるパズルが登場。それは、まるで島に電力が行き渡っていくようで、それと同時に閉じられていた扉が開いたりと、行ける場所が増えていくようだった。

▲主観視点で進むオープンワールドタイプのゲーム。でも、戦闘はない。あるのはパズルと探索だけ。
▲これがパネルに表示されたパネル。プレイヤーは、白いラインを操作して、ゴールを目指す。写真ではわかりづらいが、大きな丸がスタート地点で、外壁の少しくぼんだところがゴールだ。
▲パズルをクリアーすると、パネルから白いラインが伸び、つぎのパズルが解放される。
▲島には、いろいろなロケーションが広がる。

 ジョナサン氏いわく、『The Witness』は“Discovery(発見)”のゲームだという。「本作は発見のゲームです。いろいろな要素が頭の中でつながり、カチッとハマる。あの感覚のゲームです。こういった繊細なゲームを作るうえで気をつけたのは、削ることでした。本作の舞台は無人島で、誰も戦いませんし、誰も会話をしません。とにかく“静けさ”を非常に大事にしているのです。発見になぜ、静けさが必要なのか。それは、環境という視覚で入ってくる情報から自発的な発見を生む、非言語のコミュニケーションを阻害する要素をできる限り排除したかったのです」。

 言葉を排除したゲームを文章で説明するというのも、何とも難しいのだが、確かに『The Witness』はある瞬間に“発見”が降ってくるゲームだった。一筆書きのようなパズルも、無数のルートがあるように見えるが、その中で答えはひとつだけ。しかし、そのルールは明示されない。たとえば、いくつも枝分かれしたルートがあるパズルに遭遇する。パズルだけに向き合っていると、そのルートのすべてをひとつひとつ試していくしかないが、ふとパズルの表示されたパネルを離れて見ると、その奥にリンゴがなっている木に気づく。その木には、リンゴがひとつだけなっているのだが、木をよくよく見ると、なんと枝の形がパズルの形と同じなのだ。すでに下の写真を見てわかった人もいるかもしれないが、ここでの回答は木の幹からリンゴがなっている枝をたどるように進むのがパズルの正しいルート。パズルだけに向き合っていては気づかず、ちょっと景色を見たときに気づく。これこそが『The Witness』の“発見”というわけだ。

▲パネルばかりを見ていると、パズルへのヒントはないように見える。
▲だが、周囲を見渡すと、木にリンゴがなっているのが見える。しかも、よく見ると、パズルと木の枝葉が同じ形に見える。
▲木の幹からリンゴがなっている枝をたどっていくと……。

 前述のように『The Witness』には、一切の説明がない。それもこれも、あらゆるムダな情報を可能な限り排除して、一片のヒントからプレイヤーに発見をうながすためだ。「本作は、すぐ先に扉が見えるトンネルの内部からスタートしますが、自分が誰か、ここがどこか、なぜここにいるのかも一切明かされません。テキストのチュートリアルもありません。プレイヤーは試行錯誤からものごとを学んでいくのです。すべては、みずから見つけ出してヒントを、答えを感じ、“Discovery”、腑に落ちる瞬間のためです。テキストのチュートリアルがない代わりに、登場するパズルではひとつずつルールが学べるようにできています。できること、できないこと、すべての新しいルールが、プレイヤーが気付く形で導入されていきます」(ジョナサン氏)。

▲こんなパズルも。一見簡単そうに見えるが、ここにもルールは隠されている。
▲回りこんでゴールを目指してもダメ。
▲直線だとゴールできた。黒と白が描かれたブロックのあいだを通らければいけないようだ。

 こうした、ある種、極端とも言えるゲームデザインは、発見を生むだけでなく、プレイヤーの迷いを排除することにもつながるという。「かつてアドベンチャーゲームでは、よく“カギのかかった扉”と“カギ”が登場していました。そんなとき、プレイヤーは“自分はいま、必要なアイテムを持っているだろうか”、“いま、ここまで来てしまってもよいのだろうか”と感じることがあったと思います。本作では、“扉”と“カギ”のような構図はありますが、ひとつ大きな違いがあります。それは“カギ”はつねにあなたの頭の中にあるということです。そこにたどり着いたのなら、カギは必ずあなたの頭の中にある、ということです」(ジョナサン氏)。ジョナサン氏の言うとおり、推理型のアドベンチャーゲームには、必ず不安がつきまとう。目の前の謎が解けないのは、自分の推理が間違っているのか、それともまだこの謎に挑む段階ではないのか。この不安が推理に集中することをさまたげ、より謎を難しくしてしまうことが多々ある。ジョナサン氏は、『The Witness』では情報をあえて排除することで、アドベンチャーゲームにつねにつきまとう問題を解消したのである。

 ちなみに本作のボリュームは、30時間程度のプレイ時間になるとのこと。オープンワールドタイプのゲームで、複数のエリアのどこからでも進められるが、エリア内では決まった順序で進む場面もあるようだ。ジョナサン氏は、この形式も「プレイヤーが進んでいることを実感するためのも」と説明していた。

 ツアーの後半では、質疑応答も設けられた。ここでは、その一部を紹介しよう。

Q:主人公は人ですか?
A:人です。ただ姿は一度も見えません。ふつうの人ですね。

Q:ストーリーはあるのでしょうか?
A:はい。まだレコーディングが完了していないので入っていませんが、『バイオショック』で言うところの“ボイスログ”のような形で物語が解き明かされていきます(編注:『バイオショック』シリーズでは、あちこちに落ちている“ボイスログ”を拾うと、さまざまな語り部からストーリーに関する情報が語られ、ゲームの探索と相まって、物語の全貌が見えるようになる)。強制的にストーリーを聞かされるのが好きではないので、聞きたい人が好きなときに聞けるようにしました。

Q:ゲームにクリアーはありますか?
A:あります。島には、仕掛けを動かすことでビームのような光を放つ "ボックス"が10個ありますが、そのうちの7個を起動すればクリアーになります。かなり難しいパズルがあるので、全部クリアーしなくてもいいようにしています。パズルゲームというと、進行がリニア (一直線、既定の順序通りに進む)なものが多いけれど、本作では自分で解きたいものを7個解けばクリアーできるようにしています。本作のマップはオープンワールドといってもとても小さいですし、すぐに横断できます。でも、エリアごとにテーマも違いますし、歩いていて高い密度を感じられるようにしました。

Q:クリアーの報酬 (Reward) は?
A:ボックスを7個起動しただけでは、すべてのボイスログは聞けないので、10個すべて起動するまでやりこんだプレイヤーは、ストーリーの全容を知ることができるでしょう。また、10個のクリアーですべてのログが一気に聞けるわけではないので、進めるたびに一歩ずつ物語の核心に近づけるようになっています。おそらく全体の5%しか到達しない部分にも、2ヶ月費やしてきました。具体的にそれが何なのかは言えませんけど……。

Q:パズルはだれがデザインしたのですか?
A:95%は私がデザインしています。“左右対称に動くパズルはどうだろう?”といったアイデアが浮かんだら、それを使ったデザインでたくさんのパズルを作ってみて、もっともいい物だけを残しています。現時点でパズルの数は、600個になりました。もっと増やすこともできますが、すでに30時間は遊べるボリュームになっているので、デキのいい物だけを残すようにしています。

Q:DLCの予定は?
A:ありません。自分はゲームをとてもミッチリ作ってしまうので、後から追加するということがうまくできないんです。ですので、そういったDLCを追加するくらいならば、新たに別のゲームを作ると思います。

Q:PS4のコミュニケーション機能を活用して、友だちにパズルを解いてもらうことなども検討していますか?
A:オススメはしません。先ほども述べましたが、本作は“いろいろな要素が頭の中でつながり、カチッとハマるあの感覚”のためのゲームなので、他人に解いてもらっても、「ああー、なるほど。合点がいったけど、……で?」となってしまい、遊ぶ意味がなくなってしまいますから。もし、ゲーム中でそういったコミュニケーションを制御できるなら、ブロックしちゃうかもしれません (笑)。

Q:プラットフォームは?
A:まずはPS4。できたらPCも、ほぼ同時期に出したいと思っています。家庭用ゲーム機という枠では、当面はPS4しか考えていません。しばらくしたら、iOSへの移植も考えられるかもしれませんが、我々はとても小さなチームなので、そうすぐにはいろいろとはできないのです。

 ここまで読んでいただければ、冒頭にジョナサン・ブロウ氏が「ふつうではないゲーム」と評したのもおわかりいただけるのではないだろうか。世界に放り出された状態から、徐々にゲームを理解し、世界を探求していく作りから、『風ノ旅ビト』や『MYST』といったゲームを想起した。実際にプレイしたわけではないので、どこまでそれらの感覚に近いのかはわからないが、どれもほかのゲームにない唯一無二の雰囲気をまとったゲームであり、『The Witness』もそれらと同等以上の独特の世界観でプレイヤーを魅了するだろう。『The Witness』が日本でも配信され、我々に数々の“発見”をもたらしてくれる日々が来るまで、いまは“発見”のための洞察力を鍛えておきたい。