“プラットフォームと企画者が合わさって新しい何かが生まれる。それがクラウドファンディング”

 2013年4月30日、東京都港区のサイバーエージェント・ベンチャーズで、エンターテインメント業界で活躍してきた黒川文雄氏が主催するトークイベント“黒川塾(八)”が開催された。

▲進行ナビゲーター・コメンテーター・黒川文雄氏。

 今回のテーマは、黒川氏がずっと興味を持っていたと言う、いま話題の“クラウドファンディング”について。クラウンドファンディングはプラットフォームとなるサイト上で“こんなものを作りたい”という企画を掲載し、その出資を一般の人たちから募集するというもの。世界で最も有名なアメリカの“KickStarter(キックスターター)”では、3D立体視ができるヘッドマウントディスプレイ“Occulus Rift”や、Androidベースのゲーム機“Ouya(ウーヤ)”などが実現している。

 本講演には、日本でクラウドファンディングを実施している4社の代表をゲストに迎えて展開。自己紹介では各社を立ち上げたきっかけなどについても触れた。

▲キックスターターで大成功を収めた“Occulus Rift”(左)と“Ouya(ウーヤ)”。

 映画系のコンテンツに強い“MotionGallery”を運営する大高健志氏は、「作りたいのにお金がないという状況を、我々の世代で何とかしなきゃいけないと思いました。キックスターターを見て、こういうものを運営して、コンテンツをどんどん作っていけるブースターになれるように努力したい」と語った。

 鼻型コンセントからお笑い系まで、幅広くカジュアルな企画を展開するCAMPFIRE(キャンプファイアー)”の石田光平氏は、「アイディアに定価はない、と思っていたときにクラウドファンディングのことを知り、これだと思って始めました。一般企業では実現しにくいことを、アイディア勝負でお金を集められるのはクラウドファンディングならではですね」とコメント。

▲“MotionGallery”の大高健志氏
“CAMPFIRE(キャンプファイアー)”の石田光平氏

 日本で初となるクラウドファンディングサイト“READYFOR?”の米良はるか氏は、女子大生のときに会った日本パラリンピックスキーチーム監督の荒井秀樹氏のことに言及。「当時、荒井監督にはパラリンピックの優勝という実績があるにもかかわらず、資金繰りに苦労してました。そこで、いろんな人たちが支え合って、お互いが何かをチャレンジしあえるような環境を作っていきたいと思ったのが、クラウドファンディングを始めるきっかけです」と語った。

 今後サービス実施予定の“Anipipo”は、アニメ関係に特化したクラウドファンディングサイト。平皓瑛氏は、「アニメが海外で盛り上がれば盛り上がるほど、現場で制作している人たちは冷めている。というのも、お金が入ってきているのは上の人間たちだけで、現場の人間は平均年収が100万円しかない。離職率も80%以上と非常に高く、みんな“アニメ業界がまずい”と思いながらも何もしてこなかった、どうにもできなかったというのが現状です」とアニメ業界の“ブラックさ”を言論。そこで、アニメに特化したクラウドファンディングを興すことに決めたのだとか。サイトでは、アニメそのものの制作に限らず、ゲーム中のアニメシーンや、そこから派生したグッズなどもコンテンツとして受けるとのこと。「将来アニメ業界に入りたい人が、安心して入れるような業界にしたい」と意気込みをのぞかせた。

▲“READYFOR?”の米良はるか氏
▲“Anipipo”の平皓瑛氏
▲各社のクラウドファンディングの比較表

 その後、黒川氏は「現在、企業側に新しいものを作る体力が足りておらず、企画を出した際にまず真っ先にに求められるのは“コンテンツそのものの質やおもしろさ”ではなく、“売れるかどうか”という金銭面である」と解説。新しい発想にお金が集まりにくく、イニシャル数がどんどんと減っているのが現状だという。しかし、クラウドファンディングであれば、“作りたい”と思うクリエイターと、“欲しい”と思う購買層が直接つながれるため、一般的に広くは認知されなくても、一部の欲しい人の手助けによって広がっていくのだとか。ただし、“Ouya(ウーヤ)”で8億円を集めたキックスターターでも、成功率はわずか3割にすぎない。プロジェクトが成功する要因として、黒川氏はGDCでの講義を基に、以下の6ポイントを挙げた。

<クラウドファンディングプロジェクト成功の要因>
1.プロジェクトに合った“正しいゴール”を設定する
2.出資してくれる人もまだしてくれない人も、手厚く“ファン”を大事にする
3.出資者の意向(リクエストなど)を聞いて、コミュニケーションをとる
4.インターネットなどを利用したプロモーション展開をしっかり行う
5.誰に向けて、どこを目指すのかをはっきりと決める
6.本当にこのプロジェクトを進めるべきかどうかよく考える

 また、会場では「お金を持ち逃げされるようなことも起こりえるのでしょうか?」という質問もあり、それに対し、どの会社も“もちろん絶対にないとは言えない”ものの、信用性があるかどうかを見極める作業や精査は徹底的に行っていると答えた。

 最後に、黒川氏は「現在、“Unity”というツールを使えば何でもできると思われていますが、大事なのは“これをどう使うか、どう作るか”です。クラウドファンディングもサイト運営側がフレームを用意してバックアップをしてくれますが、肝心の中身は起案者であり、推進者本人でなければできないこと。両者が合わさってやっと、新しいものが生まれる。それがクラウドファンディングじゃないかなと思います」と語った。

▲左から平氏、米良氏、黒川氏、石田氏、大高氏。

――ゲスト4人にとっての“クラウドファンディング”とは
大高氏 企業の体力がなくなってきたため、新しいものを作り、新しい価値観を作ることにチャレンジしにくくなってきました。クリエイティビティより、儲かるかどうかで判断される。けれど、その隙間を埋めてくれる、問題を解決してくれるのがクラウドファンディングだと思っています。

石田氏 クラウドファンディングは、新しいアイディアやプロジェクトが生まれる土壌になり、新しいカルチャーを形成する土台になるんじゃないかなと思っていますし、そうなることを目指して活動しています。これからも情熱を持って、おもしろい世の中にしていきたいと思っています。

米良氏 いまの時代は、個人でいろんなことにチャレンジができます。しんどいこともたくさんあるけれど、その中で背中を押すプラットフォームになっていけるのがクラウドファンディングだと思います。難しい社会だからこそ、新しいものがどんどん出てくると期待しています。

平氏 “クラウドファンディングを使えば簡単にお金が集まる”と思う人も中にはいるかと思うのですが、そうじゃないんですよね。かなりの熱意と労力が必要なので、そこは勘違いさせちゃいけないなと思っています。そのプロジェクトが業界の健全化につながるかどうか、しっかりと見極めていきたいなと思います。

 次回の“黒川塾(九)”は、2013年5月20日に開催が決定している。詳細は後日発表予定。