ビッグフランチャイズの再開発

 世界中のゲーム開発者が集い、最新技術やゲーム制作の過程などを解説、紹介する国際会議“GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス) 2013”が、現地時間の3月25日~3月29日の期間、アメリカ・サンフランシスコのモスコーニセンターで開催された。この記事では、『トゥームレイダー』の開発を手掛けたCrystal Dynamicsのダリル・ギャラガー氏とノア・ヒューズ氏の講演をリポートする。

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 『トゥームレイダー』と言えば、1996年に1作目が発売された、世界的に有名なアクションアドベンチャーゲーム。その最新作は、シリーズ10作目にして、シリーズそのものの再開発に挑戦した作品として位置づけられ、副題もない『トゥームレイダー』となっている。北米では2013年3月に発売され、日本国内においても2013年4月25日の発売を控えているところだ。この講演では、最新作『トゥームレイダー』がどのようにして再開発されたのか、Crystal Dynamicsのトップであるダリル・ギャラガー氏、そしてクリエイティブ・ディレクターのノア・ヒューズ氏より語られた。

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▲ダリル・ギャラガー氏。
▲ノア・ヒューズ氏。

 シリーズの歴史は、今年でじつに17年になる。根強いファンもいるが、当然離れてしまった人もいる。また、『アサシン クリード』や『アンチャーテッド』など、良質な“対抗作品”が増えてきたいま、『トゥームレイダー』シリーズは新たなファンの獲得のために、シリーズの刷新、再開発を行う必要が出てきたという。そこで、チームはしっかりとゴールを設定することにした。再び『トゥームレイダー』に恋してもらうこと、主人公“ララ”を描き直して人気を取り戻すこと、そして品質と革新に支えられた作品にすること、などが挙げられていた。しかし、歴史あるシリーズに新たな要素をバランスよく取り入れるということは、簡単ではない。そのため、現状でうまくいっている部分には、あえて触らないということも決めていたそうだ。

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 今回のような、フランチャイズの再開発という意味では、映画の『007 カジノ・ロワイヤル』や『バットマン ビギンズ』のアプローチが参考になったという。これらは、対象年齢の幅を広げつつ、オリジナリティーを保つことに成功している。しかし、ゲームではこうした前例はなく、『トゥームレイダー』はその先陣を切ることになる。

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 ストーリーを刷新するにあたって考えたのは、ララをより自分たちに近い存在として描き、彼女の旅にプレイヤーを引き込んでいくこと。それには、サバイバル・ストーリーが適切だと考えた。ダリル氏は、『127時間』など人間の能力の限界を表現した映画には刺激を受けたと話していたが、確かにサバイバルは多くの人に訴えられるテーマになりうる。また、そのサバイバルでは、ララのアクション面だけではなく、彼女の直観的な知性も表現することにした。そうして、“Survivor is born”という大筋が決まることになったのだ。

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 制作では、

・プリ・プロダクションに1年
(仕様を固めたりツール類を整備し、試作を行う期間)

・プロダクションに1年
(メインの開発期間)

・ポスト・プロダクションに1年
(調整やバグフィックス、磨き上げの期間)

と、3つの工程に等しく時間を割いた。陥りやすいのが、プリ・プロダクションが不十分で、プロダクションの部分で迷走し、結局ポスト・プロダクションの時間がほとんど残らないというケース。仕込みは用意周到に行い、開発は効率よく、調整にも十分に時間をかける、というのが理想的なのだ。

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 プリ・プロダクションの段階でどれくらいの完成度まで詰めるかはプロジェクトによってまちまちだが、『トゥームレイダー』では、プリ・プロダクションの時点で“製品”として成り立つものにするという目標があったという。ユーザーによるフォーカステスト(テストプレイ)もプリ・プロダクションの段階から頻繁に行い、開発にフィードバックしていたそうだ。また、制作においてはゲームを“3時間のかたまり”に分け、そのかたまりごとに最高のクオリティーになっているか、チェックしていったという。

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 プリ・プロダクションの最終段階は、バーティカルスライスの作成。バーティカルスライスとは、ゲームの全要素は入っていなくとも、システム的にはほぼ完成し、一部分は完全な形で遊ぶことができる試作品のこと。実際には、1.5時間ぶんのバーティカルスライスが完成し、プレスに対するデモやE3への出展にも使われたそうだ。

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▲ストーリーとゲームプレイの流れを並列で確認できるデザイン・プロダクション資料。これで全体のフレームワークが眺められるので、進歩状況がよくわかる。
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▲ララの気持ちの変化を把握するための資料。

 プロダクションは、プリ・プロダクションの延長のような形で進められた。プリ・プロダクションでの目標値が高かったため、プロダクションに入るころにはチームの効率もかなり上がっており、この期間だけで250以上のシネマティックスを作成。ストーリーは90分にもなったそうだ。

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▲マップやカメラの説明。モーションキャプチャーも使用されている。

 ポスト・プロダクションでは、最初の半年は編集作業を行い、残りの半年は作品の磨き上げとバグフィックスに充てた。また、プレイヤーがストーリーをきちんと理解できているかのテストも行ったという。

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 今回の経験から、ダリル氏は「すべての段階で自分の仕事ができているか、クオリティーはどうか、そしてゴールに向かっているか、しっかりと把握することが大事」と語る。そうすることで、ゲームの良し悪しが早い段階でわかり、それが最終的なクオリティーにつながるのだそうだ。また、バグフィックスとテストプレイを最後の最後まで徹底的にやることで、磨きのかかったいい作品になるため、ポスト・プロダクションをできるだけ長く、そして確実にやることも重要と語った。

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 17年続くフランチャイズにイノベーションをもたらすことは容易ではない。世代の変化を感じ取り、変えるべきところを見極めた後、自分たちが思い描いた通りの作品へと仕上げていくには、入念なプリ・プロダクションと、徹底したポスト・プロダクションが必要であるということがわかった。海外で、すでにシリーズ最高の滑り出しとなっている本作。“Reinvention”された『トゥームレイダー』の真価を、その目で確かめてみてはいかがだろうか?