『Halo 4』の開発過程を振り返る

 2013年3月25日(北米時間)よりサンフランシスコでGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2013が開催中。最終日となる5日目に『Halo 4』のデベロッパーである343 IndustriesのJosh Holmes氏による講演が行われた。

 『Halo』シリーズといえば、その誕生からBungieが開発を手掛けてきたXbox 360を代表するSFシューター。昨年リリースされたシリーズ最新作『Halo 4』は、前作『Halo 3』から約5年ぶりにリリースされたナンバリング作品の続編であり、開発はBungieから343 Industriesに引き継がれている。今回の講演に登壇したJosh Holmes氏はフランチャイズ・クリエイティブ・ディレクターという肩書きを持ち、ゲーム、マーチャンダイズ、コミック、ノベルなど多岐にわたる全フランチャイズの統括を行う立場であるという。偉大なシリーズを引き継ぎ、続編を制作するにあたり、どのような過程を辿って『Halo』を生まれ変わらせたのか?を明らかにする講演となった。

 冒頭で「なぜ『Halo 4』を作るのか?」と自問した氏は、偉大なシリーズを引き継ぎ、続編を作る際に掲げたテーマを以下のように解説した。

HEROISM
・誰しもが英雄の資質を内に秘めている。その部分を引き出したい。
HUMANITY
・人間性は何を犠牲にしてでも戦うだけの価値がある。
WONDER
・未知のものに対する興味や知りたいという欲求はパワーに満ちている。
CREATIVITY
・プレイヤーはストーリーを語り、経験を分かち合いたいと考えている。そして創造性はコアゲームの中にこそ存在する。

 これらのテーマを軸に『Halo 4』のストーリーは、マスターチーフの生還を彼自身の内面を通じて展開されることになった。『Halo』シリーズ三部作においてマスターチーフは、寡黙で自分では何も決めない感情の見えないキャラクターだったという。そこで『Halo 4』ではマスターチーフのキャラクターに奥行きを与えるため、さまざまな周辺の情報や背景を集めることにしたそうだ。マスターチーフの人間性を表現するために、彼の友人でありパートナーでもあるコルタナが鍵になった。コルタナは優秀なAIだが、すでに寿命を迎えており、マスターチーフは銀河の危機うだけでなく、彼女を救うという厳しい局面にも立ち向かうことになったのだ。ただし、『Halo』のようなアクションシューティングゲームの主人公に、このような物語性を採り入れることにはチーム内でも賛否があったようだ。実際、ゲームプレイのほとんどは異星人との戦闘であり、その中にキャラクター同士の強い繋がりを描くことは容易ではなかったと打ち明けている。

 『Halo 4』のストーリーや世界観に大きな影響を与える設定や背景は、これまでのゲーム作品だけではない。ノベルやコミック、実写映像作品など『Halo』ユニバース(『Halo』シリーズの世界)を構成する作品群は膨大であり、これらのストーリーが複雑につながり、絡み合っている。そこでJosh Holmes氏は作品を玉ねぎの皮に例え、プレイヤーは何層にも重なっている皮を一枚一枚剥いていくように関係性を組み立ててはどうかと考えたという。

 右の写真は『Halo』ユニバースの作品(物語)の構造を表したピラミッドだ。上層はゲームのメインとなるキャンペーンのストーリーや背景を描くサブストーリーで、その下層には直接的にストーリーとは関係しないが物語の奥行きを与える要素(ディープ・フィクション)があるという構造。プレイヤーは自分の好きなところまで、玉ねぎの皮を剥いていくように『Halo』の物語に浸ることができるわけだ。

 こういった多層的な構造を試みた要素について、実際の例をいくつか挙げて紹介している。

成功例:トーマス・ラスキー
 『Forward Unto Dawn』に登場した反体制的なオフィサーだったが、最終的にはマルチプレイヤーでコマンダーになる人気キャラクター。独り立ちできるだけの要素がしっかり定義づけられていた。

失敗例:ダイダクト
 『Halo 4』におけるマスターチーフの宿敵。『Halo 3』やグレッグ・ベアのノベルにも登場する。開発時は、とにかく凶悪なエイリアンとして定義していたが、ほかの作品のストーリーが『Halo 4』に入り込んだ結果、この悪役のモチベーションが曖昧になってしまった。ダイダクトの背景は『Halo Waypoint』に公開しているが、あまり効果はなかった。

失敗例:プロメシアン
 新しいエネミーの導入は大きな賭けだった。コヴナントとは違うユニークな存在にしたかったので、ビジュアルについては3回もリテイクしている。ただ、キャラクター設定、戦闘のメカニズム、ビジュアルを別々のセクションとして制作したため、統一感のない部分が出てきてしまった。開発初期に方針を明確にすべきだった。

失敗例:武器
 デザインや形状にSF要素を強調した武器を作りたいと考えていてモチベーションは高かったが、実際にはプレイヤーが見慣れないデザインで理解されなかったのか、連合軍やコヴナントの武器がつかわれることがほとんど。残念だった。

 キャンペーン以外のフィーチャーについても制作過程を説明している。Infinity マルチプレイヤーを導入した理由は、これまで完全にストーリーの面では関連性のなかったマルチプレイをキャンペーンの要素として取り込みたかったからであり、これによりキャンペーンとマルチプレイの両方をプレイする層を増やしたいという狙いがあったようだ。キャンペーンだけをプレイする層にとってマルチプレイはハードルが高く、その敷居を低くするためにストーリーや設定を共通にすることが必要だと考えたという。さらに公演終了後の質疑応答では、新しい層をマルチプレイに迎え入れたかったのと同様にコアな層も大事にしていると語り、リリース後はコア層のサポートに重点を置いていると回答している。
 また、オンラインで毎週エピソード配信する形式のスパルタンオプスについては「このような形でストーリーを描くのは初の試みだったが、結果的にソロプレイヤーが予想以上に多かった。これがわかっていれば、もっとバランスを調整できたと思う」と反省点を明らかにした。

 最後にJosh Holmes氏は『Halo 4』の制作において得られた教訓を以下のようにまとめた。

(1)ユニバースの全体像はひとつにまとまって、独り歩きできるようにする。バラバラなストーリーを展開しない
(2)プロトタイプの段階からゴールを明確する。思考→主張→証明→再度解釈→思考に戻る、という反復をくり返すことで明確になる
(3)境界線を引くことは決して間違いではない。ある程度の制限は必要。その際、境界線は早期に明確にしておくこと
(4)シリーズから引き継ぐ要素、新しく追加する要素のバランスは慎重に判断する。変化は必要だが、すでに親しまれていることを遠ざけるのはよくない
(5)クオリティーに対する情熱は必要だが、単独では意味が無い。周囲との関係を踏まえて決断する

 Bungieが築き上げた『Halo』シリーズは、世界中にファンを持つ巨大なフランチャイズであり、それを引き継ぐことの難しさは容易に想像できる。しかし、343 Industriesは変化を恐れず、決して妥協することなく、新たな『Halo』サーガを生み出そうとしている。実際にそれを行い、その過程における成功と失敗を明らかにした今回の講演は会場にいる開発者によって有益だっただけでなく、『Halo』ユニバースを支えるファンにとっても心強い内容だったのではないだろうか。343 Industriesが『Halo 4』で得たものを正しく検証し、次回作に活かそうとしている意欲が感じられた講演だった。