世界的大ヒットPCゲームの開発過程を振り返る
2013年3月25日(北米時間)よりサンフランシスコでGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2013が開催中。4日目に『Diablo III』のディレクターを担当したJay Wilson氏の講演が行われた。
昨年5月、PC版が発売された『Diablo III』は世界的に大ヒットを記録したアクションRPG。先日にはプレイステーション3および4への移植決定が明らかになったことも記憶に新しい。今回の講演は本作のディレクターを担当したBlizzard EntertainmentのJay Wilson氏(現在はディレクターを退任)が、『Diablo III』の開発を振り返りながら、シリーズ続編を制作することの難しさや作品に対して評価を語る内容となった。
冒頭でJay Wilson氏は「『Diablo III』に関わることになったが、それ以前の大ヒットした2作品は自分が開発したものではない」と語り、期待の大きさから不安があったとしながらも「こういったことはあまり珍しいことではなく、会場にいる皆も経験するかもしれない。しかし、パニックに陥る必要はない。むしろとても素晴らしいチャンスだ」と振り返った。そして続編を制作するにあたり、2種類の取り組み方を紹介した。
(1)人の意見に従い、前作までの内容をそのまま引き継ぐ。
(2)全部作り直す。
しかし(1)の方法は創造性が死んでしまい、フラストレーションにつながるため、結果として作品を壊すことになると述べた。(2)の方法もエキサイティングな仕事になるが、ゲームの本質を変えてしまってファンを裏切るかもしれない。つまり、重要なことはお互いのバランスを取ることであると結論づけた。
実際、『Diablo III』には新機能や変更点があり、いくつかの項目に分けて評価を発表していった。
■遊びやすさについて
まずは『II』がなぜ多くのユーザーに受け入れらたのかを検証し、ゲームの本質を明確にしたという。その結果、ヘルスシステムやスキル、アイテムなどの要素を変更しているが、重要なのは「問題解決だけをやろうとしないこと」「デザインをもう一度見直してみること」。パーフェクトなデザインというものは存在せず、必ず欠点はあるものだが、なぜ前作では欠点も含めて受け入れられたのかを考慮して、変更することでファンに与える影響の大きさも検討すべき、とまとめている。
■カスタマイズについて
プレイヤーに自由度を与えるカスタマイズだが、「スイスアーミーナイフのように何でもかんでも追加すればいいというものではない」と自身の方針を述べた。『III』ではスキルのカスタマイズ要素が大きく変更になっているが、あくまでも大事なことはコアの改善を追求することであり、奥深い戦闘のメカニズムを目指したという。
■オークションハウスについて
『Diablo III』から登場したオークションハウスは、ゲーム内におけるアイテムの売買が可能になるシステム。前作でもプレイヤー同士でアイテムがトレードできたが、最大の変更点は現金で取引するリアルマネーオークションハウスの実装だった。発表以来、多くの賛否両論が飛び交ったオークションハウスについて、Jay Wilson氏は「当初の思惑とは異なってしまった」と打ち明けた。
オークションハウスはRMT(リアルマネートレーディング)を無くす目的で誕生したシステムであり、ファンが求めるサービスだと考えていたという。また、「利用するプレイヤーは少数」「価格が高いアイテムは数量が限定される」と予想していたが、実際にはほとんどのプレイヤーが利用経験があり、全体の50%近くは頻繁に利用している。あらゆるアイテムが取引に出され、その結果としてモンスターを倒してアイテムを手に入れるより、オークションハウスのほうが優先されている現状があると語る。つまり“現金”が主役(スーパースター)になってしまったのだ。Jay Wilson氏は「オークションハウスはリワードアイテムに悪影響を与え、結果的にゲームをも傷つけてしまった」と明かしている。
この一件から得られた教訓について「壊れていないものは修理しようとしないこと」と述べている。しかしながら「問題を解決するためにリスクを負うことを恐れてはいけない」と付け加え、オークションハウスの取り組み自体には一定の評価を与えた。
今回の講演では、ゲームの発売後に開発者自らが自信を持って送り出したフィーチャーについて振り返ったが、やはりオークションハウスに対する言及が最大のポイントだろう。新しい試みが成功するのか、失敗するのかはやってみなくてはわからない。だからといって失敗を恐れて手をこまねいているだけでは、ゲームが直面している問題を解決することはできないだろう。現在は『Dialo III』のディレクターの役割を退いているJay Wilson氏だが、この経験を生かして今後の挑戦に期待したいところだ。