ビデオゲームは成熟した……数百万本売れる家庭用ゲームで大人の“ロマンス”を描けるほどに。

 GDC 2013で“SEX IN VIDEO GAMES”と題した講演を行ったのは、BioWareでシニアライター/ゲームデザイナーを務めるDavid Gaider氏。
 ライター(脚本担当)としてのキャリアをスタートした当初は“小さな子がバンパイアに誘拐されるような話”でもリスクを懸念していたそうだが、1999年の『バルダーズゲート2』から『ドラゴンエイジ』シリーズに至るまで、この部分の描写に挑戦してきた人物なのである。

▲Gaider氏は、『バルダーズゲート2』では「男性キャラなら相手を選べるのに、女性キャラだと選べる男がひとりだけなのはフェアじゃないな」と考えて女性キャラでも男性を選べるように検討。『ネヴァーウィンター・ナイツ』では初めて女性キャラクターのロマンス部分の執筆を行ない、果敢にも感想を聞くために女性プレイヤーが集うフォーラムに実名で突撃(だが反応は残念ながらイマイチだったそう)。
さらに『ドラゴンエイジ』では同性での描写に挑戦し、一部から「このゲームはそういうこと(同性間性交渉)をしたい人のゲーム」という誤解を受けるも、『ドラゴンエイジ2』でも引き続き継続。いわく「全体を見れば好意的な反応が多かったし、やめる理由がない」。だが、そう思う人ばかりではなかった……(後述)。
▲「ウチ以外にもいろいろあるよ!」

ゲームは10代~20代男性だけのものではない

 「みんなセックス好きだよね……一部のみなさんは別として」とGaider氏。「ゲームでそういう描写があるなんてけしからん」とネガティブな反応を受けることもあるが、それはゲームは子供が遊ぶものという誤解があるからだと語る。

 そして各種データを引用し、いまやゲーム人口が幅広い年齢に均等に分かれており、男女比も半分くらいであることに触れる。
 結構ハードコアな感じの『ドラゴンエイジ』だけを見てもプレイヤーの30%は女性だし、もはや女性やマイノリティがいないものと考える方がおかしいのだ。
 ちなみに男性同性愛のロマンスを選んだ人は24%。だがこれが全員ゲイかっていうとそんなわけはなく、むしろ「ウホッ」と選んでみちゃうノンケの人も、海外腐女子の皆さんも含んでいるからこそ、いろんな選択肢があっていいのだ。

▲左は一般的な「ゲーマー」像。右は業界での「ゲーマー」像。実はどちらも正しくない。
▲年齢層も性別も比較的均等に散らばっているのだ。
▲女性が実はコアゲームをフツーに遊んでるなんていいじゃないか! しかも、AAAタイトル(大規模タイトル)の開発費が増大しているならば、買ってくれる層が多いほうがいいんじゃないの、というのがGaider氏の考え。

“セクシー”はいいことなのか?

 しかし、恋愛表現の一形態として性的なものを描くのと、セクシーな要素を入れることは必ずしも一致しない。Gaider氏は、業界ではセクシーな表現を入れることがみんなに受けるいい要素だと思われているが、それは基本的に男性に受けるための要素でしかないと語る。
 また、根本的に性的な特徴とセクシーであることは別物であり、ある女性キャラクターの“女性性”を描写するにあたって、必ずしもセクシーである必要はない。『ドラゴンエイジ2』では女性プレイヤーのことを考えて、女性キャラクターに女性的な特徴を付与した上で、女性からもちゃんと感情移入できるよう、女性としての自尊心なども込めて描いたという。

▲「“セクシー”であることは本当に人を惹きつけるいい方法なのか?」と問いかける一方、「ウチもそういうことはやるけどね。一切いないのもつまらないし」と現実的な話もする。要はいま正しいとされていることが本当に正しいのかどうか疑って見ることが大事なのだ。

女性主人公のゲームは本当に売れないのか?

▲女性主人公のゲームがいくらか売れなかったのは、本当に女性主人公だからなのか?

 実はこの講演、冒頭で「講演タイトルを見てエッチな画像や動画を期待して来た人、ごめんね」と発言があり、女性参加者から「えー」と声があがって会場内が笑いに包まれるシーンがあったのだが、本題は性別にまつわる“正しい”とされていることを問い直すところにあったのだ。

 つまり、際どいところに踏み込んで描けるようになったからこそ、それが正しいのかマジメに考えるのである。
 ゲームにおけるセクシーさや暴力といった表現についてGaider氏がさまざまな業界人に本当に正しいのか訪ねてみたところ、ほとんどが「だってその方が売れるから」という答えだったという。そして、それは「確かに保守的かもしれないけど、実績がない方法は取れない」というだけではないのかと問いかけた。

 たとえば女性主人公について。GDCが開幕する少し前、カプコンの『Remember Me』について、開発陣がさまざまなパブリッシャーに持ち込んだところ、女性主人公であることを難点とされたというエピソードが話題となった。
 実際、女性主人公のゲームを挙げていくと、十分な成功を収めていないように見えることもあるが、それらのタイトルが売れなかった原因が主人公が女性だったことに起因すると関連付けるのは尚早であるとする。なぜならば、そもそも女性主人公のゲームが限られてしまっている状況でのサンプルであるし、男性主人公のゲームが男性主人公であるから売れるというわけではないからだ。
 また、何をもって“売れた”とするかもあいまいだ。『エバークエスト』が成功した時に「MMOの市場はこの規模」と業界が認識していたのに対し、『World of Warcraft』の登場でさらに上があることが明らかになったじゃないか、と語る。

白人が出てこないゲーム世界があったら?

 こういった問題は性別だけではない。ビデオゲームの誕生以来、ずっと黒人主人公しかいなかったらどうだろうか? 実際には、白人主人公と黒人主人公では前者であることの方がずっと多い。
 ゲーム開発者は、そういった無意識的な通例を作ってしまうさまざまな文脈を生み出す特権的なものを持っている存在であるとする。そしてGaider氏は、北米のゲーム開発者はストレート(異性愛者)の白人男性がとても多いことを暴きだす。
 つまり、自分がそうであるからそれが普通と皆が考えることで、無意識的に一部にとってのものにすぎない“常識”に沿った潮流を生み出してしまうのではないかということだ。

 ここで、Gaider氏は、ゲームにおける女性のステレオタイプ描写を分析しようとしたフェミニストがゲーマーから攻撃されて問題となった事件について言及した。「(そういうゲーマーもいるから)しょうがないよね、だって? そんなのクソだ。この女性に起きたことの責任は私たち(ゲーム開発者)にもある」と。

▲同性愛描写に怒る投稿。「昔はただ“ファン”って言えば良かったのによ、“(俺たち)ストレートの男性ゲーマー”だなんて言わなきゃならないなんてアホらしいぜ」と語るその背景には、固定化されたゲーマー像がある。ゲームの質についてどうこう言うよりも、“他のグループに、自分に注がれるべき労力が注がれていること”が嫌だったのだろう、とGaider氏。
▲ブログ“Feminist Frequency”のAnita Sarkeesianは、ビデオゲームにおけるステレオタイプな女性描写を分析する番組“Tropes vs. Women in Video Games”の制作資金をKickStarterとして集めようとしたところ、彼女を殴るミニゲームが公開されるなど、大変なバッシングを受け問題となった。

多様な視点を得ること

 Gaider氏は、性別や性的嗜好について“フェア”なゲームを作るべきだと言いたいわけではないという。
 誰にとっても幸せなゲームは作れるわけがない。だがゲームを遊ぶ人たちの感じ方は、直接的ではないにせよ開発者が影響を与えているわけだし、遊んだ人の反応は遊ばない人たちにも広がっていく。その中で開発者はどうしていくべきなのかということを問いたいのだ。

 『ドラゴンエイジ』のライターチームには女性も多く、よく女性側からの意見を聞くそうで、男性ライターのアイデアについて女性に見てもらった際に「キモいしこわい」と言われたことで、修正を行ったこともあるとのこと。

 自分と異なる視点でどう見えるかを確認するのは重要なことであるとし、もし秘密保持のために開発チーム外に意見を聞けないのなら、ある種のマイノリティをチーム内に雇うことも真剣に検討すべきだと語っていた。