クリエイターたちは、PS4をどう見ているのか?

 2月21日(日本時間)にその存在が明かされ、大きな話題となっているソニー・コンピュータエンタテインメントの新ゲームハード”プレイステーション4(PS4)”。これまでもさまざまな角度からPS4について報じてきたが、今回は、ゲームメーカー各社のクリエイターに、PS4に対するファーストインプレッションを聞いてみた。ハードの中心となるコンテンツのひとつ、ゲーム制作に携わる彼らがこの新ハードをどう見たのか? 前編、後編の2回にわたってお届けしていく。クリエイターに聞いた質問は以下の3つ。いまだPS4の全貌は明らかになっていないため、印象や期待感を聞いている。

①PS4の第一印象をお聞かせください。
②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?

※本記事は、週刊ファミ通3月28日号(3月14日発売)に掲載されたものです。

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_01

レベルファイブ
ゲームディレクター
イシイジロウ氏

「“SHARE”で拡がる物語があるはず」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
つねに尖っていたイメージのプレイステーションが、今回コストパフォーマンスを重視した戦略を取ってきたことに驚きました。嬉しくもあり、寂しくもあり、という印象です。

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
“開発がしやすいハード”という、強いアピールには期待しています。そして、“SHAREボタン”が、ゲームのプロモーションと遊びかたをどう変えていくのか? ……たいへんに興味があります。

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
“SHAREボタン”を使ってアドベンチャーゲームを変えることはできないでしょうか? アクションゲームやローグライクのような、偶発性の強いゲームデザインであればイメージしやすいのですが、物語を見せるアドベンチャーゲームだと、どうしても“ネタバレ”や“見ただけでプレイしたつもり”につながりがちです。でも、“SHARE”できるから拡がる物語もあるはずです。群像劇のように、バラバラの主人公たちがリアルな世界で“SHAREボタン”でつながって、世界の運命を変えていく、そんなゲームシナリオに挑戦してみたいです。

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_07

プラチナゲームズ
プロデューサー
稲葉敦志氏

「コンテンツを活かすための周辺環境に将来性を感じる」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
コンソール機の競争フィールドは、ハードウェアの基礎能力から周辺サービスへ移行して行くのだ、という印象を抱きました。

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
描画などを含むハードウェアの能力そのものにはあまり興味はありません。もちろん、素晴らしいスペックだとは思いますが、日進月歩のPCゲーミング環境との競争では勝てませんから。コンテンツを活かすために準備したさまざまな周辺環境については、将来性を感じます。その一方で、ハードウェアのビジョンが散逸してしまわないように、ソニー・コンピュータエンタテインメント自身がどういうレファレンスコンテンツを打ち出してゆくのかという点については非常に興味を持って見ています。

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
周辺サービスをフル活用すれば、いままでのコンソール環境とは違った意味での”仮想世界”というものを提供できる可能性があります。そういうアプローチをしてみたいですね。

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_09

アクワイア
代表取締役
遠藤琢磨氏

「いい意味で“無駄遣い”と言わせます」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
ハードとしての印象は“てんこ盛り”。パワーもあるしメモリもあるし、カメラもあるしで、何でもできるゲーム機としての究極形態です。悪く言えば、特徴がつかみにくい!

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
制限の少なさです。作り手としては、制限が少なくなって作りやすくなりますので、その点はすごく助かります。逆に制限がないので、“ウリ”という部分を作るのに苦労するかもしれません。“PS4らしさ”のような、曖昧な指標を問われるのではなく、どんな楽しいゲームなのかを問われるようになってほしいです(期待)。企画書を書くときにすごく苦労するのですよ。

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
映像美でのスペック戦争になっても勝てる気がしませんし、ネットワークをうまく活かしたゲームで、重厚長大にならないようなゲーム。アイデアだったり、おもしろさだったりの勝負になるようなゲームに取り組みたいと改めて思いました。もちろんアクワイアとして、新しさもね! いい意味で“PS4のスペックの無駄遣い(笑)”ってユーザーに言わせます。だって、アクワイアですから!!

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_02

グランゼーラ
ゲームデザイナー&プロデューサー
九条一馬氏

「PS4らしからぬ地味な画面から始まるPS4でしか味わえないゲームを出したい!」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
最初は「あっ! ほんとにPS4だ!?」と(笑)。そして、プレイする人のことを強くイメージして設計されたゲーム機だと思いました。強化するところ、追加するところ、こだわるところも明確でとても好感を持ちましたね。コントローラにもさまざまな機能が凝縮されていて、今までと違った使い方ができそうです。

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
プレイしている人のプレイ状況をオンラインで、かつリアルタイムで他の人が見ることができて、さらに見ている人がプレイに干渉できる機能が一番そそりますね。これで新しいゲームやイベントが実現できると思います。また、オンラインゲーム特有の“身構えたり”、“プレッシャーの感じる部分”についても作り手がより工夫でき、オンラインでプレイするのにストレスを感じる方でも参加しやすいオンラインゲームが作れると思っています。

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
SCEさんには申し訳ないですが(笑)、ユーザーさんが「これPS4のゲームなの?」って一瞬目を疑うような地味な画面から始まって、だけどプレイしてみると、他のゲーム機では決して味わえないような新鮮な体験ができるオンラインエイプリルフールイベントのようなものをゲーム化したいと思っています。

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_12

コーエーテクモゲームス
プロデューサー
鯉沼久史氏

「ユーザー参加型のマルチプレイが面白くなるようなゲームを作ってみたい」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
PS4に対する最初の印象は、”本格ネットワークゲーム機”でした。

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
体験の共有をピックアップしているところです。また、PS Vitaやスマートフォン、タブレットをセカンドスクリーンとして利用できるところが気になりました。やはり近年もっとも身近になったスマートフォンやタブレットを利用できるというところは、興味深い試みだと思います

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
本来は、友人や家族などが距離的に近くにいないとゲームについて語り合う事はしにくかったのですが、今後は家にいながらでも、ネットワークを介してユーザー同士のコミュニケーションがしっかり図れるようになるのだろうと思っています。ですので、同時ではなくても、ユーザー参加型のマルチプレイが面白くなるようなゲームを作ってみたいと思います。私はオンラインゲームを手がけた事はないのですが、何か今までにない面白さを味わえる作品を模索したいと思います。あとは、既存のシリーズがPS4でどう変われるのかも、考えてみたいですね。

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_03

トライエース
代表取締役
五反田義治氏

「使いやすくクオリティの高いOS/UI/UXを期待」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
第一印象は正常進化でしょうか。ハードウェアのコアの部分は驚くべきものは無く独自性も特にありませんが、ユーザーインターフェースには新しいものが多く取り入れられています。ソフトウェアサービスに関してもおそらくまだ発表されていないものもたくさんありそうで、限られた期間の中でやれることを全部やろうという印象です。

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
ソフトウェアサービスです。第一印象でも触れましたが、サービスに力を入れようという意思は発表から伝わってきました。おそらく発売後もアグレッシブにアップデートされていくと信じています。ソフトウェアエンジニアとしては、ハードウェアと融合した使いやすくクオリティの高いOS/UI/UXを期待しています。

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
新しいユーザーインターフェースは数が多く、以前のゲームコンソールのように「あるから無理して使う」というよりは、ゲームに必要なものを選択して使うということになりそうです。 それよりはむしろ、新しいソフトウェアサービスが新しいゲーム体験につながることを期待しているので、それらを活かせるようなゲームを製作してみたいと思っています。

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_05

カプコン
プロデューサー
小林裕幸氏

「ソーシャルとの連携機能でゲーム体験が大きく変わる」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
じつは僕も発表の場となった”PlayStation Meeting 2013”に参加していました。PS4のロゴが出たときには「おおーっ! ついに発表された!」と、ありきたりな感想を持ちながら、これからどんなゲームが出てくるのか? ひとりのユーザーとしてワクワクししていました。

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
高い描画力と処理性能は当然ながら期待するスペックですが、PS4のソーシャルとの融合やモバイル端末との連携がどうなるかが気になります。発表された各タイトルは、PS4の機能・スペックを活かして、さまざまな方向性を示していると思いましたね。PS3のタイトルより幅が出てくるのではないでしょうか。

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
PS4のソーシャルとの連携機能で、ゲームプレイは多くのユーザーに共有されます。この、ゲームプレイを魅せる、観られるということをゲームタイトルの中でどの様に機能させるか。また、ユーザーがこの機能をどの様にして遊ぶのか? アーケード的に? YouTube的に? いろいろ考えられますよね。これによってゲーム体験が大きく変わっていくでしょう。クリエイターはどのようなサービスをユーザーに提供していくのか、難度が上がりますね。新しいゲーム体験ができるような作品を考えられたらと思います。

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_06

コナミデジタルエンタテインメント
小島プロダクション
クリエイティブプロデューサー
是角有二氏

「ゲームをより生活やコミュニケーションに密着させて、新たな面白さを開拓できる可能性を感じる」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
思った以上にシンプルなアーキテクチャでした。ハードスペックも順当に進化させつつ、ハードを越えた横方向への広がりに気を使ったという印象を受けました。

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
”PlayStation App”と”SHAREボタン”です。処理能力が高性能になったことでリアルタイム処理も増やせますし、キャラクターのAI処理も多彩になります。ゲームとしてはプレイヤー毎、プレイ毎に毎回違う体験を楽しめることになります。その一期一会な体験を、動画でもプレイしながらでも、場所を問わず手軽に共有できる機能は画期的だと思いました。

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
スペックだけを見ても、煙や砂埃、水流に代表されるような粒子の流れや軟体の表現など、いままでパターンの組み合わせで表現していた多くのものが、リアルタイムの計算で処理できるようになると思います。これはエフェクトなどの見栄えの部分にも活きてくると思いますが、それだけで終わらせずに、『メタルギア ライジング リベンジェンス』で自由切断処理をゲーム性のコア技術として使用したように、新しいゲーム性を生み出すことができればと考えています。また、さまざまな環境から時間、場所を問わず繋げることで生まれるサービスにも力を入れていきたいところです。ビジネス的な面を抜きにしても、ゲームをより生活やコミュニケーションに密着させていくことで、新たな面白さを開拓できる可能性を感じますし、クリエイターとしてはそこを目指したいと思います。

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_08

日本ファルコム
代表取締役社長
近藤季洋氏

「ゲームをどう進化させるべきか考えたい」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
ゲームユーザーとゲームの距離を縮め、さらに新しいコミュニティーを提供するハードなのかな、という印象を持ちました。子どものころに、友だちと1台のゲーム機とテレビを囲んで遊びましたが、それが時間と場所を問わずに世界規模で実現され、整備・加速されるといった感じでしょうか。ゲームがその環境に合わせて、どう進化するのか、いまから楽しみです。

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
SNSにアクセスしやすい機能も印象的でしたが、制作者としては、開発を行いやすいハード構成全体でしょうか。ファルコムはもともとPCでゲームを制作していましたが、それに近い感覚で制作が行えるのは心強いですね。PS Vitaのノウハウも活かせますし、プログラマーの負担はかなり減るので、そのぶん、ゲームをおもしろくする工夫に労力を割きたいですね。

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
搭載されるいろいろな機能を活かしたいと思いますし、加えて、ハードの進化だけでは実現できない何かを考えたいですね。つねづね考えていることですけれど。PS4の登場をきっかけに、ゲームをどう進化させるべきなのか、よく考えたいと思います。PS4があって、さらに自分たちだからこそ実現できるものを形にできたら、気持ちいいだろうなと考えています。

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_10

コーエーテクモゲームス
プロデューサー
鈴木亮浩氏

「仕様制限を外したフルスペックの『無双』を見てみたい」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
まず、コントローラに驚かされました。実装されている機能の多さもそうですが、それらが見事にデザインされているのは、“さすがはSONY”という印象です。このコントローラに象徴されるように、「必要なものはすべて網羅して検討しました」という気概がみてとれ、非常にパワフルなスペック、より作りやい環境で制作できることを嬉しく思います。

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
一番気になるのは、SHAREボタンを始めとする、ソーシャル連動の要素です。現在のゲーム市場全体をみると、ソーシャル系の成長が著しいわけですが、個人的には、将来的にコンシューマ系とソーシャル系は市場もゲーム内容そのものも融合に向かうと考えているので、まさにそれを実現することができそうです。

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
現在PS3で開発したタイトルでは、スペック上の制限によりさまざまな仕様を抑えて制作しています。例えば『無双』系であれば、処理落ちや描画レートの低下などを始めとし、じつはAIの弱さもスペックの制限に因るところが大きいです。仕様制限を外したフルスペックの『無双』がどうなるか非常に興味があります。また、リモートプレイの機能を活かし、それぞれのセカンドスクリーンハードに合った役割(例えば、軍師はアクションするのでなく、部隊に指示を出す)をゲーム上で用意することにより、これまでにない”共闘感”のある『無双』が実現できそうです。

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_11

マーベラスAQL
プロデューサー
高木謙一郎氏

「スペックを活かした美少女アクションを!」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
スペックが非常に高くなり、できることも増えたけれど、正直な印象としては、PS2の「DVD再生ができる!」というようなわかりやすい売りもなく、「より遊び手へのハードルが高くなっていないか?」と感じました。しかし“使いやすさ”、“サクサク”、“ソーシャルとの融合”、“さまざまな機器と連携”、“ユーザー最適化”のキーワードを見て、据え置き機を遊ぶ際の面倒な気分を空気化させ、気軽にゲームを始めて終われる現代に合った、すばらしいハードになるのではと思い始めています。

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
PS Vitaでのリモートプレイです。PS3とPSPでもリモートプレイは可能でしたが、ゲームを遊べるというほどの機能ではなかったので、外出先でもPS4タイトルが遊べるようになるのは、純粋に楽しみです。

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
単純に綺麗で派手な絵を出すだけではなく、リアルタイムの衣服の乱れ、それにより制限される行動、キャラクター同士の絡み合いで肉体の形状が反発しあうさまが、衣服の材質、加重、体勢、気温、湿度などのさまざまな要因で多彩に変化する、美少女アクションを作る機会があればイイな、なんて思ってます。もしくは、破壊衝動のままに、都市をまるごと荒野にできるような、マシンパワーに物を言わせた大破壊アクションゲームを、そろそろ遊んでみたいなぁと夢は広がっています。また、PS4とは関係ないお話ですが、PS Vitaをテレビ出力できるようにする機能を早くください!

クリエイターが見たプレイステーション4【前編】_04

ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン
ディレクター
外山圭一郎氏

「大きな多様性を許容できるところが魅力的」

①PS4の第一印象をお聞かせください。
PS Vitaのときにも感じましたが、”質実剛健”という言葉が似合うハードですね。ギリギリまで贅肉を削ぎ落し、本当に必要なものが過不足無く凝縮されている、という印象です。

②PS4の機能・スペックなどでとくに気になるものを教えてください。
FPS(一人称視点シューティング)やRTS(リアルタイムストラテジー)などはマウスじゃないと…というユーザーも多かったと思いますが、DUALSHOCK 4が、そういった既存のスタンダードなゲームの操作性を大いに向上させ得るのではないかと、その普遍性の高さに期待しています。そして、ゲームや映像体験の進化も当然ながら、さらにネットワークとの親和性が高まる部分、とくに、クラウド技術の応用や、携帯端末との連携といった部分に興味があります。

③PS4の機能・スペックを活かして、どのようなゲームを作ってみたいですか?
やはり王道、広大な架空世界での冒険譚を作ってみたいですね。ユーザー同士のコミュニケーションは欠かせない要素となりつつありますが、アイテムやパラメーターについて、というより、体験や光景といったフィーリングの共有を楽しめるような……。もしくは、数時間で終わる、主観による超現実的な悪夢体験とか……(笑)。こういった、販売形態と表現力とが合わさって、大きな多様性を許容できるところが魅力的ですね。

※後編は3月25日掲載予定。