はたしてPS4とはどんなマシンなのか?
ソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカが、アメリカ・ニューヨークにて現地時間2013年2月20日(日本時間2月21日)に開催した“PlayStation Meeting 2013”において、プレイステーションの次世代機、“PS4”が発表された。
まだ明かされた情報が限られており、不明な点も多いPS4。さらに詳しく知るべく、現地で取材中のテクニカルジャーナリスト・西川善司氏による、PS4に関する所見を紹介しよう。
以下、西川氏の寄稿文を全文掲載する。
アリモノという選択肢の必然と、CELLプロセッサの思想
新型プレイステーション「PS4」がついに発表された。
わざわざアメリカで、それもニューヨーク市内の劇場で発表したということからも、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の気合いの入れようがうかがえる。しかも、E3などのプレスカンファレンスで使用される会場よりも小振りな劇場で、世界各国から、厳選したメディアを招集したらしく、また、SCEアメリカ主導のイベントだったことから主に欧米方面からのメディアの割合が多かったようだ。SCEとしても、見据えているゲーム市場は「ワールドワイド」なのだろう。
PS4はまぎれもなく「プレイステーション」の最新世代なのだが、ハードウェア的には、色んな意味でPS3とは異なるアーキテクチャを採用している。PS1,PS2まではほぼソニーと東芝でフルカスタムなプロセッサを起こし、それらをコアパーツとしていた。PS3では、CPUだけをIBM、東芝、SCEの3社連合で新規開発したCELLプロセッサを採用。GPUはNVIDIAのGeForce7800系をデチューンしたものを採用していた。
今回のPS4は、新規開発したものはなく、AMDのAPU(※)の最新世代を採用するという方策に出た。つまり、世代を経るごとに新規開発ものを避け、アリモノを採用する割合が増えてきたと言うことだ。ちなみに、PS Vitaは、アリモノのARM製CPUと、Imagination Technologies製PowerVRコアを採用しており、高性能なアリモノを採用した点でPS4とよく似ている。
アリモノを使うことをネガティブとして捉える視点もなくはないが、ただ、莫大なコスト投資を行ってナニカを新規開発しても、得られるパフォーマンスは、アリモノのハイエンド部材を使ったときと変わらなくなって来ているプロセッサ業界の現状があり、これを踏まえると、SCEのとった戦略は自然な流れではある。CPUとGPUは、最新世代のものでは、その内部設計が複雑になりすぎていて、開発から製造までを自社でやったり、あるいは完全新規で起こすことは、もう非現実的なことになってしまったのだ。
今、PS4を目の当たりにして、ゲーム開発の現場や半導体業界に携わる人々の誰もが口を揃えて言うのは、PS3のCELLプロセッサがもたらした業界へのインパクトは大きかったと言うこと。CELLプロセッサが採用した「異なる目的のプロセッサを1コアに集約した異種混合マルチプロセッサ」という考え方は、現在の最新プロセッサの在り方に少なからず影響を及ぼしている。
今回、PS4が採用したAMDのAPUは、マルチコアCPUとメニーコアGPUを1プロセッサにしたものであり、紛れもなく異種混合プロセッサである。CELLプロセッサの遺伝子はどこにもないが、「無意識下の思想」の形でPS4に受け継がれているといえなくはないのだ。
※APU(Accelerated Processing Unit)とは消費電力とパフォーマンスのバランスを最重要視して設計された統合型プロセッサのこと。CPUとGPUを1チップに集約させた構成を取る。
モーションとタッチを消化吸収したDUALSHOCK4
新コントローラ「DUALSHOCK4」は、Wii U GamePadのようなアクロバティックなギミックはないが、PS VitaとPS MOVEの発想を洗練した形で統合していて「なるほど」と思わせてくれた。
DUALSHOCK4の発光ギミックはPS4用カメラユニットPS4 EYEと組み合わせることでPS MOVE的なモーション入力や空間位置入力などを可能とし、タッチパッドはPS Vita的なタッチ操作やフィンガージェスチャー操作を可能にする。
引き続き、PS MOVEには対応するとのことだが、今回のプレゼンテーションを見た限りでは、PS MOVEをメインコントローラにしていく姿勢はなさそうだ。
Wiiを発端に始まったカジュアルゲーマー層争奪戦フィーバーは、PS4では、ひとまずの落ち着きを取り戻した格好だが、モーション入力やタッチ入力をより洗練させて、親しみ深い従来のゲームコントローラに消化吸収させた…という見方もできるかも知れない。
ゲームの進化――その行方は?
「ゲームがどんな風に進化するのか」……最後はこの点について予測してみることにしよう。
PS1世代は数万ポリゴン、PS2世代で数十万ポリゴン、PS3世代で数百万ポリゴン、PS4では数千万ポリゴン時代に突入する。
数千万ポリゴンのジオメトリ密度というと、映画向けのCGとほぼ同等だ。ということはPS4は映画向けCGと同等のグラフィクスが再現出来るのか…というとそういうわけではない。
あくまで同等なのはポリゴン数(ジオメトリ量)だけで、材質表現に関しては、1フレームに数時間掛けられる映画向けCGのオフラインレンダリング(プリレンダー)にはまだ叶わない。ただ、「パッと見た感じでは違いが分かりにくい」程度まで、プリレンダーグラフィックスには近づけるはずだ。というのは、プリレンダーで使用している技術の簡略版的なアプローチならば、ついにリアルタイムで処理できるレベルに近づいてきているからだ。
特に、PS4世代では顔面や人肌の表現、毛髪の表現、気体(ガス)や炎、水のような形状のはっきりしない粒子・流体表現が飛躍的にプリレンダーに近づくはずだ。これは、なにか魔法を使っているわけではなく、単純に、PS4が採用するAMDのGPUコアがPS3のものと比較して純粋に7-8年分世代が新しいからだ。
そして、PS4の世代で、各ゲーム開発者達が注力し始めているのが「動き」に関するステップアップだ。
その代表的な一例として挙げられるのが大局的な物理シミュレーションだ。そのシーン内に存在する物同士が衝突したり、壊れたりする表現が、事前に仕込んでおいた動きを再生するのではなく、リアルタイムに計算されて制御されるようになる。
そしてキャラクタの「行動」を制御するAI(人工知能)と、身体のアニメーション(モーション)が、より多角的にリアル…というか自然な物になっていく。特に、盛り上がりを見せ始めているのは、AIとアニメーションを相互連携させる研究だ。これは「知性を伴った動き」をゲームに導入しようというのがモチベーションになっている。
例えば、現在のゲームでは、壁際に追い詰められて左右に壁があってもキャラクタは剣を右手に持ったまま横斬り攻撃をしたりする。剣は壁にめり込んで振られる、ことになる。めり込むことが既にリアルでないが、なにより、その行動の採択が知的に見えない。
しかし、PS4世代では、AIが環境を認識するようになり、その「認識」を起点として、その状況下で最適なモーシヨンを選択するようになる。例えば、今の例では左右に壁があるのであれば、縦斬り攻撃を選択したり、突き攻撃を選択するようになる。
こうした物理シミュレーション、AI、アニメーションが、PS4で進化することが期待されているのはなぜか、というと、これまでグラフィックスを描画することにしか使えなかったGPUが、PS4では、汎用計算にまで流用できることが期待できるからだ。
こうしたGPUを汎用目的に使う、新しいソフトウェアパラダイムをGPGPU(General Purpose GPU)という。
PS4のGPUコアには「18個のコンピュートユニットが実装されている」とSCEの公式発表にあるが、実は、1個のコンピュータユニットは、64個の32ビット浮動小数点実数を演算できるプロセッサで構成されているので、PS4のGPUには、トータル1152基の32ビット浮動小数点プロセッサが搭載されている。
PS3の時は、GPUはグラフィックス描画にしか使えない設計になっていたが、PS4のGPUでは、GPUの膨大な演算コアを他の目的に使えるようになっているのだ。
PS4には、CELLプロセッサは搭載されていないが、CELLプロセッサに近いことが出来て、その演算コアが膨大な数備わっているのがPS4のGPUだと思えばいい。ただ、PS4の場合、GPUは当然グラフィックス描画にも使わなければならないので、GPUをどのくらいグラフィックス描画目的に使って、どのくらい汎用目的に使うか…というのは、開発者側の設計手腕に関わってくる問題ではある。
おわりに
ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン、プレジデント、河野 弘氏によれば、今回、発表したPS4にまつわる情報は、まだごく一部だという。
本体について、一切の情報を出さず、コントローラの仕様しか公開しなかったことには、なにやら理由がありそうだ。
今後、また新しい情報が出てきたタイミングで、その都度、さらなる考察が行えればとおもう。
(トライゼット西川善司)