「コンテンツに対する愛着を深めてもらいたいです」

 東京ゲームショウ 2012の会期に合わせて、グリーのキーパーソンにインタビューを敢行。ここでは、ファーストパーティータイトルを担当する、メディア事業本部 japan第2スタジオ シニアマネージャー 土田俊郎氏と、同じくメディア事業本部 japan第2スタジオ シニアマネージャー 荒川健氏に話を訊いた。会場でサプライズ発表されたカードゲーム『Project Fantasm:A(プロジェクトファンタズマ)』や、驚異の映像美を誇る『War Corps(ウォー・コア)』など、見どころの多かったファーストパーティータイトル(グリーが提供するゲームタイトル)だが、そこに込められた戦略は? 

 なお、荒川氏は、大手メーカーで人気RPGを開発するなど、15年以上にわたり家庭用ゲームを手掛けたあとで、今年グリーに入社。土田氏同様、家庭用ゲーム業界からソーシャルゲーム業界に飛び込んできたクリエイターとなる。『Project Fantasm:A(プロジェクトファンタズマ)』は荒川氏がプロデューサーを、土田氏がディレクターを担当。『War Corps(ウォー・コア)』は、荒川氏がプロデューサーを担当、土田氏は監修という役回りになっている。

グリー・キーパーソンに訊く(03)土田俊郎氏&荒川健氏/スマートフォンがソーシャルゲームの可能性を広げる【TGS 2012】_01
▲土田氏(左)と荒川氏(右)。

――東京ゲームショウに出展されてみての手応えを教えてください。

土田 通常ソーシャルゲームって、実際に配信される状態になってからご紹介させていただくことが多かったのですが、今回あえて、配信前のタイトルを多くお披露目させていただきました。そういったタイトルの反響がけっこう大きくて、「ソーシャルゲームにおいても、家庭用ゲームにあるような遊び応えのあるものが求められているのかな」というのを実感しています。

荒川 それは僕も感じます。「ソーシャルゲームで本格的なアプローチがそろそろ必要になるのでは?」という実感があります。

――おふたりは『Project Fantasm:A(プロジェクトファンタズマ)』と『War Corps(ウォー・コア)』に関わっているとのことなのですが、それぞれのゲームの魅力を教えてください。

土田 いちばん念頭に置いているのは、お客様にコンテンツに対する愛着を深めてもらいたいということです。そのためには、世界観の奥行きだとか、心惹かれるストーリーだとか、魅力的なキャラクター作りといったものをソーシャルゲームでも実現したいと思っています。実際のところ、ソーシャルゲームは通勤時間などの隙間時間に遊ぶことが多いので、長いストーリーを1度に提供するのは難しい。深みのあるストーリーを、短い時間でプレイしていただきながら、先の展開にどういうふうに興味を持っていただけるか……という部分にアイデアを絞っているところですね。

――たしかに、“世界観を深める”と言うのは簡単ですが、実際その方法論は、家庭用ゲムとは相当異なりそうですね。

土田 それはありますね。ソーシャルゲームにおいても、しっかりとした世界観を作っておく必要があるとは思うのですが、家庭用ゲームのように長時間プレイされるようなことはないですから。理由としてソーシャルゲームでは、ふたつあると思っています。ひとつは、先ほど言ったようにプレイ時間が小刻みになる。もうひとつは、ソーシャルゲームがフリー・トゥ・プレイのゲームモデルだからです。たとえば、イベントシーンひとつとっても、お客様が「遊ぶぞ!」という気持ちで来ていると、10~15分のイベントシーンでもがんばって見てくれるのですが、フリー・トゥ・プレイだと、もうちょっとカジュアルなプレイヤーも入ってきますので、短い時間の中でプレイできないと、すぐにゲームそのものを止めてしまうということもあるんです。そういった意味でも、お客様にゲームに触れてもらって、どういう段階を経て愛着を持ってもらうか……というところのプロセスが、とても重要になってくると思います。

――ソーシャルゲームならではの世界観の深めかたって、具体的にはどのようなものがあるんでしょうね?

土田 それは難しいですね(笑)。深い世界観を作っておくことは、家庭用ゲームでもソーシャルゲームでも同じだと思っています。ただ、それを一気に押し付けるのではなくて、遊んでいるとどんどんわかってくる……というふうな作りにすることでしょうか。それは、“カードを集める”という、ソーシャルゲームがふつうに展開しているプロセスの中で、“何か”を盛り込むことでも深まっていくでしょうし、シナリオを追いかけることでも深まっていくでしょうし……。あと、シナリオもブツ切れの可能性があるとすれば、あとからもう1回、「どういう話だっけ?」というようなことが見返せるような確認機能がついていたりとか。ソーシャルゲームにおける世界観の深めかたは、僕は小さい工夫の積み重ねだという気がしますね。

荒川 従来のフィーチャーフォンだと容量が小さい中での表現方法になってしまうのですが、スマートフォンだとより家庭用ゲーム機に近いグラフィックが可能になる。スタンスとしては、「家庭用ゲーム機に近いことがスマートフォンでもできますよ」というよりは、「ソーシャルゲームとして、家庭用ゲーム機に遜色のないものがきちんと楽しめます」ということのほうが大事だと思っています。

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▲東京ゲームショウ 2012初日に行われた発表会で明らかにされた、『Project Fantasm:A(プロジェクトファンタズマ)』。

――それにしても、『War Corps(ウォー・コア)』のグラフィックの綺麗さは半端ないですね。どのようにして実現したのですか?

荒川 ひとつには、家庭用ゲーム機でやっているような、シェーダーやライティングといった画像処理などを、きちんとスマートフォンでもやっているということがあります。とはいえ、単純に処理能力の面で言えば家庭用ゲーム機に劣りますので、テクスチャーであったり、モデリングのテクニックは、クリエイターのスキルで補う部分は多々ありますね。デザインやシステムなどは、とくにグリー社内のクリエイターの力によるところも大きいです。

――なるほど。家庭用ゲーム業界の経験があるからこそ、スマートフォン向けゲームのグラフィック性能をワンランク引き上げられるということですね。とはいえ、たとえばPSPなどと比べると、物足りないということはありませんでした?

荒川 その比較は難しいですね(笑)。スマートフォンの機種に依存するところが大きいです。たとえば、ポリゴン数で言えば、初期のiPhoneとかで比べるとどうしても見劣りがしてしまうのですが、上位機種になるときれいな画像を描画できる。そのへんは、PCでグラフィックボードを切り替えるような感覚で、解消しています。

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――『Project Fantasm:A(プロジェクトファンタズマ)』及び『War Corps(ウォー・コア)』のグリーファーストパーティー内における位置づけはどのような感じなのでしょうか?

土田 『Project Fantasm:A(プロジェクトファンタズマ)』は、GREEで遊んでいただいているお客様のために作っているところはあります。当然のことですが、GREEのお客様の多くは日本の方々ですので、日本のお客様に楽しんでいただけることを念頭に作っています。一方『War Corps(ウォー・コア)』のほうは、GREEをワールドワイドで展開するときに、日本市場だけではなくて、世界で通用する世界観やジャンルのタイトルをリリースしたい……ということで、提案したものです。

――『Project Fantasm:A(プロジェクトファンタズマ)』が、日本のファンに向けて、最先端のカードゲームの“カタチ”を提案するものだったのに対して、『War Corps(ウォー・コア)』は、世界中にむけて、ソーシャルゲームの新しい可能性を見せるものということですね?

土田 まさにその通りです。主人公を兵士にしたのもそのためで、海外では、主人公は兵器よりも兵士のほうが受けがいいようです。時代も超未来ではなくて、現在から近未来くらいが狙うべき設定だと思っています。そうしたグローバル市場を意識しつつも、『War Corps(ウォー・コア)』では、そこにさらに変化球を混ぜていく感じですね。

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――変化球ですか?

荒川 ベースはコンバットゲームでありつつも、随所に新機軸の展開を盛り込んでいるんです。ソーシャルゲームは発売したら終わり、というわけではなくて、毎月イベントを運営していかないといけない。イベント運営のたびに、今回のPVにあったような巨大ロボットや巨人を出現させたり……このあたりの臨機応変さは、家庭用ゲームのFPSにはない“変化球”と言えるでしょうね。これはあくまで個人的な希望なのですが、たとえばゾンビが出てきてもいいかな……と思っています(笑)。

――今回の東京ゲームショウでは、ネイティブアプリが数多く出展されていますが、ネイティブアプリだからこそ可能だったことは何になりますか?

土田 リッチなグラフィック表現は、ネイティブアプリならでは、ですね。ただ、“可能になったこと”という見地から語られがちですが、一方でウェブアプリのほうがすぐれている部分も確実にあるんですよ。たとえば触り心地。ウェブアプリのほうがサクサク気持ちいいケースが多いので、そこに関しては見劣りしないように、同じようなプレイ感覚になるように心掛けています。私は『メタルギア ソリッド ソーシャル・オプス』の開発にも関わっているのですが、あちらも3Dでリッチな表現にした分、グラフィックを読んできたり展開するのは、2Dの絵に比べてちょっとたいへんだったりするんです。でも、それでお客様に我慢を強いるのは本末転倒だろうということで、気持よくプレイできるように工夫しているんですね。そこまでしてようやく、世界観の奥行きが表現できるのかもしれません。

――いたずらにハイクオリティーなビジュアルを追い求めて、操作性を犠牲にしても仕方ないということですね。

土田 はい。とはいえ、「操作性を変えたくないから中身を一切変えない」というのも、それはそれで違うと思うんです。やっぱりお客様は、いろいろな遊びかたや体験をしたいハズなので、作り手としても「新しいものを提供する」という姿勢を貫くべきだと考えています。

――では最後に、今後に向けての抱負をお願いします。

土田 『Project Fantasm:A(プロジェクトファンタズマ)』は、自分たちの持てるものを全部出しているタイトルなので、ぜひご期待ください。『Project Fantasm:A(プロジェクトファンタズマ)』では、家庭用ゲームのRPG感覚の楽しさを極めていきたいと思っています。一方で、自分はわりとストラテジーのルールが好きだったりするのですが、ストラテジー好きには現在スマートフォンで配信中の『ドラゴンアーク』がオススメです。ご存じの通り、配信後も中身を順次変更できるのが、ソーシャルゲームの魅力だったりするわけですが、既存のゲームでもクリエイターが「やりたい」と思ったことはすぐに始められるという醍醐味があります。『ドラゴンアーク』では、私が「やりたかったこと」を盛り込んでおりますので、ぜひ楽しんでみてください。

荒川 『Project Fantasm:A(プロジェクトファンタズマ)』の配信予定はまだまだ先ですが、『War Corps(ウォー・コア)』や『Wacky Motors(ワッキーモーターズ)』など、グリーのネイティブアプリはほかにも続々登場しますので、ぜひ遊んでもらいつつ“続報”を楽しみにしていただければと思います。