高速プロトタイピング、バーティカルスライス、アウトソーシング……。

 2012年8月20日~22日、パシフィコ横浜にて開催されている、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC2012”。2日目に行われた“アンリアル・エンジンを使った開発手法をさらに効果的にするためのパネルディスカッション”では、エピック・ゲームズCEOのティム・スウィーニー氏のほか、サイバーコネクトツーの下田星児氏、イニスのロバート・太田・ディートリッヒ氏、エピック・ゲームズ傘下のChair Entertainmentのスコット・ストッダード氏らが、アンリアルエンジン(以下、UE)を使った開発におけるメリットや注意点などを披露した。

 サイバーコネクトツーでは、カプコンから発売された『アスラズ ラース』でUEを使用している。本開発を始める前の段階からプロトタイプ制作にUEを使い、カプコンへのプレゼンテーションに臨んだそうで、ディレクターを務めた下田氏は、UEの採用により、ゼロから現行機向けのエンジンを作るコストを割くよりも、ゲームの制作に注力することができたと語る。

 プロトタイピングを高速に行えることや、生産性の向上といったスピードアップは、商用ゲームエンジンでよく導入のメリットとして語られる。ストッダード氏は『インフィニティブレード』の開発時、5ヶ月という短いスケジュールでゲームを仕上げるのは、UEの力がなければ不可能だったと語り、「以前はプログラマーの後ろに立って指示しなければならなかった」と過去を振り返った。今ではアーティストらがプログラマーのアシストなしにエディター上でコントロールでき、別の職能の仕事を行うこともできるという。事実として同氏の職名はアニメーターだが、開発の序盤はゲームデザイン、終盤はデータ管理なども行っているとのこと。

 ちなみに『アスラズラース』では、演出されたカットシーンとゲーム部分が複雑に絡み合うタイトルであるがゆえ、UEのビジュアルツールであるKismetで柔軟に一連の流れを構築できるかの検証に時間をかけている。一話ごとに同じ流れではないトリッキーな構成になっているため、そこをまずきっちりできるという勝算をつかんでから本制作に入ったそうだ。

 もちろん、導入したからすべてがうまくいくというわけではない。ディートリッヒ氏は自身の考えとして、本制作を始める前に、使い方や、そのゲームエンジンの設計思想、一般的なワークフローを学んでおいた上で、そのエンジンに適したやり方で進めた方がいいとコメント。ただ導入するのではなく、“アンリアルウェイ”(UEのやり方・考え方)を把握することで、正しく最適化と生産性の向上が見込めるということだ。ちなみにイニスは、海外でUbisoftから発売されたダンスゲーム『The Black Eyed Peas Experience』でアンリアルエンジンを採用している。

 この点について下田氏は、『アンリアルトーナメント3』や『ギアーズ オブ ウォー』などの実際に発売されているゲームのサンプルを読みこませ、それらのゲームがエディター上でどう組まれているのかを確認して理解することで、基本的な考え方などを理解したそう。
 しかし下田氏らコアメンバーの習得がバッチリでも、プロジェクト終盤には開発人数が増大し、これから使うというスタッフも増えてくる。ひと通り覚えてもらうには「最低でも2ヶ月ぐらい」(下田氏)かけて勉強する必要があるが、それはタイムロスにもなる。サイバーコネクトツーでは、プログラマーならこの部分、アーティストならこの部分といったように、職種ごとに勉強する範囲を絞り込んだ範囲をまず覚えてもらい、あとは業務を進めながら習得していってもらうという方針で進めたそう。それにあたって指導するメンバーには早めにチームに入ってもらって、後々サポートできるよう配慮したそうだ。

 ティム・スウィーニー氏は、「日本で多く見受けられるのは、Mayaで全体をデザインするのを好むこと」と指摘。従来のやり方を踏襲したい人もいるだろうし、そういった考えからUEに適していない使い方をすることも起こりうるが、UEならではのアプローチを学んだ上でアンリアルエディターを使って作業すれば、より効果を最大化して生産性を上げられるだろう、との考えを示した。

 同様に、下田氏からはプロトタイプ後に一旦見直す必要性の指摘も。速度を重視してい若干乱暴な作り、暫定的な作りにすることもあるからこそ、一旦組み上げた後にそれを見直し、そこで発生している問題を洗ってから次のフェーズに移るのが肝要であり、逆にその見直しの時間をしっかり取るためにも早く作る必要があるのだと語った。ディートリッヒ氏もこれには同意見。

 またストッダード氏は“バーティカルスライス”(一面だけでも完成させて全体を予測すること)によりスケジュールの精度が高められ、全体の工程を大きくしすぎずに自分たちのチームにとって最高のものを目指すことができると語った。Chairのスタッフは15人しかおらず、どの部分をアウトソーシングするかを見極め効率を上げられるという。アウトソーシングにあたっては、協力会社とUEという広く使われている“共通言語”を使えるのもメリットだとか。
 『アスラズラース』でもアウトソーシングを行なっており、演出についてもアニメーションを得意とする会社グラフィニカが半分ぐらいを手掛けているとのこと。ゲームのようなリアルタイム映像を作っている会社ではないため、シーン作成をグラフィニカが行い、サイバーコネクトツー側で実装を行うという工程になっていたそうで、このため絵コンテやシーン制作というグラフィニカの長所をうまく活かし、相互の強みが生きるようなアウトソーシングができたそう。

 最後に、次世代への要望が各氏より語られた。下田氏は、次世代ではひとつのものを作るコストが上がることから、初期段階でタイトルにどのような面白さがあるのか精度を上げられるプロトタイピングやバーティカルスライスが今後さらに重要になるのではと語る一方で、UEには次世代で求められる表現技術の実装などにも期待したいとの意向。アセット管理の観点では、スタジオのスタイルでアレンジできるよう、エンジンの根幹部分の発想は維持しつつ、柔軟な構成になると使いやすくなるのではとの注文も。ディートリッヒ氏からは、マルチプラットフォーム対応がさらに容易になり、プラットフォームに合わせてテクスチャーを選択するといった仕組みを期待するコメントが出ていた。