日本初のゲーム音楽プロオーケストラ“日本BGMフィルハーモニー管弦楽団”指揮者の市原氏に展望を聞く

2012年7月27日に社団法人して発足した日本初のゲーム音楽プロオーケストラ“日本BGMフィルハーモニー管弦楽団”。本オーケストラの指揮者を務める市原雄亮氏に話を聞いた。

●2013年の演奏会開催を目指す

 2012年5月に、ゲーム音楽プロオーケストラ立ち上げ準備委員会が発足を発表した、日本初のゲーム音楽のプロオーケストラ。2012年6月には、一般公募によって名前が“日本BGMフィルハーモニー管弦楽団”に決定した。

 そして2012年7月27日、本オーケストラが社団法人として改めて発足し、公式サイト(→こちら)もリニューアルオープンした。ファミ通ドットコムでは、本オーケストラの発起人であり、指揮者である市原雄亮氏に話を聞いた。

指揮者
市原雄亮氏 Yusuke Ichihara

幼少時よりピアノを習う。中学校で吹奏楽に出会い、以降、テューバ、トロンボーンを経験。成蹊大学法学部在学中より指揮を本格的に学び始める。法学と指揮を学びながら大学を卒業し、2006年より指揮者としての活動を開始。現在、複数のオーケストラで指揮者として活動中。トロンボーンを高階恵、三輪純生の両氏に、指揮を金丸克己氏に師事。

市原 じつは私、ファミ通にハガキを送って、掲載されたことがあるんです。

――えっ、本当ですか?
市原 バカ総研(バカタール加藤が連載していたコーナー“バカタール総合研究所”)におハガキコーナーがなかったころ、初めてハガキが掲載された読者が私だったんです。アンケートハガキに小さい文字をいっぱい書いて送ったところ、目に留まったらしくて、掲載していただけたんですよ。

――そうだったんですか! じつは随分前からご縁があったのですね。小さいころからゲームがお好きだったのですか?
市原 はい。私はちょうど家庭用ゲーム機の進化とともに成長してきた世代なんです。ゲーム音楽は“身の周りにあって当然の音楽”として小さいころから刷り込まれていたので、ほかのジャンルの音楽と区別することなく聴いてきました。だいたい6年前から指揮者として活動を始めたのですが、クラシックの指揮をしながらも、ゲーム音楽も皆さんに広く届けていきたいと考えたんです。ゲーム音楽だけを特別にするというより、いろいろある好きなジャンルの中のひとつとして、ゲーム音楽も大切に伝えたい、という考えですね。

――そこで、プロオーケストラを発足しようと考えられたのですね。とはいえ、計画を実行に移すのにはかなりの勇気や労力が必要だったと思いますが……。
市原 「プロオーケストラを作りたい」と強く思ったのは、2009年に、海外発のゲーム音楽コンサート“Video Game Live”が日本で行われたときのことでした。私はそのコンサートを聴きに行ったのですが、「すごいな」、「楽しいな」と思うと同時に、すごく悔しかったんですね。海外にはプロが開催しているゲーム音楽コンサートがあるのに、どうして日本にはないんだろう、って。当時は勉強不足で、PRESS START(※)のことも知らなかったものですから。
※竹本泰蔵氏(指揮者)、植松伸夫氏(作曲家)、桜井政博氏(ゲームデザイナー)、野島一成氏(シナリオライター)、酒井省吾氏(作曲家)らが企画しているゲーム音楽のオーケストラコンサート。2006年から毎年行われている。

――その悔しさが立ち上げの動機になったのですね。
市原 それでも最初は「ゲーム音楽のオーケストラを誰か作ってくれたらな……」と他力本願だったのですか、そんな思いを友人に話すと、「聴いてみたい」という反応がけっこう返ってきて。「ひょっとして、プロオーケストラを立ち上げたらうまくいくのではないか?」と、2010年の秋ごろから考えるようになりました。私の考えに賛同してくれる方もいらして、2011年の冬、ついに本格始動することに決めたんです。

――ゲーム音楽のオーケストラは、アマチュアの団体ならすでに日本にも存在していますが、プロにこだわられた理由はなんですか?
市原 プロとして活動することで、活動の幅が広がると考えています。アマチュアの団体ですと、基本的には仕事の合間、休日しか時間が取れませんし、公演も団員の活動範囲が中心になると思います。プロオーケストラであれば、全国公演を行いやすいと考えたんです。また、海外公演も視野に入れています。日本発のゲームは海外でも人気がありますし、その日本のゲームの音楽を日本のオーケストラが演奏するとなれば、海外の方に歓迎していただけるのではないかと思っています。

――そのほかには、どんな活動をしたいと考えていますか?
市原 東京ゲームショウなど、ゲームのイベント・ショーで演奏する機会が得られればいいなと思っています。活動が認知されれば、E3(Electronic Entertainment Expo)など海外のイベントでも演奏する機会が得られるかもしれませんし。これは妄想ではなく、実現しうる夢だと考えています。

――現在、コンサートマスター(※)の募集を行われていますが、反響はいかがですか?
市原 はい。正確な応募数はまだ把握していないのですが、お問い合わせはいくつもいただいています。このようなオーケストラで活動したい、と考えている方が何人もいらっしゃるとわかり、手応えを感じているところです。コンマスの方が決まったら、団員を募集して、2013年のできるだけ早い時期に、最初の演奏会を行いたいですね。
※コンサートマスター……オーケストラの演奏をとりまとめる役。一般的には、第一ヴァイオリンの首席奏者がこの役を担う。通称“コンマス”。

――ゲーム音楽の演奏会と、クラシック音楽の演奏会を行ううえで、何か違いはありますか?
市原 私は正直、「クラシックだからこうしよう」、「ゲーム音楽だからこうしよう」と意識してはいません。ただ、クラシックの演奏会は、お客様に座って静かに聴いていただくのがふつうですが、日本BGMフィルハーモニー管弦楽団の演奏会では、ライブのようにリズムに乗って身体を動かしていただくのもいいなと思っています。楽器も、ドラムやギターがあってもいいと思いますし。和風の曲を演奏するなら、三味線とか尺八を入れてもいいですよね。コンサートのコンセプトしだいだと思います。

――より自由にゲーム音楽を楽しめる演奏会にしたいということですね。
市原 はい。でも、私はクラシックも大好きなので、年に1回は、このオーケストラでクラシック公演をやろうと思っているんですよ。ゲーム音楽が好きな方が、日本BGMフィルハーモニー管弦楽団の演奏をきっかけに、「あ、クラシックっていいな」と思ってくださればうれしいし、逆にクラシックが好きな方が「ゲーム音楽もいいな」と感じてくださればうれしいですし。

――では、ゲーム音楽の演奏者には、どのようなスキルが求められますか?
市原 そのゲームの最低限のストーリーは学んでほしいですね。かつ、その音楽が、ゲーム内のどこで使用されるかは知ってほしい。私自身は、演奏会で取り上げるゲームは極力クリアーするようにしています。クリアーできなかったとしても、「どんな思いでこの曲を演奏したらいいと思う?」と詳しい人に話を聞いたり。

――ちなみに市原さん自身は、どんなゲーム音楽が好きなんですか?
市原 やはり小さいころにプレイしたゲームの曲が印象に残っていますね。『ボンバーキング』の「ボンバーキングのテーマ」とか。『ヘクター'87』の1面の曲とか。『バテンカイトス』の「The True Mirror」や、『ファイナルファンタジーVI』の「仲間を求めて」もとても好きですね。ああ、それから、ファミコンの『けいさんゲーム』シリーズの曲も大好きなんですよ! 日本BGMフィルハーモニー管弦楽団では、有名な曲はもちろん、ちょっとマイナーな曲も演奏していきたいですね。個人的には『オウガバトル』シリーズの全曲演奏なんてものもやってみたいですが、何時間かかってしまうんでしょうね(笑)。

――演奏する曲については、公式サイトでリクエストを受け付けていますが、どんな曲が人気がありますか?
市原 かなり幅広いご意見を頂いていますよ。MSXの曲を演奏してほしいとか……。もちろん、『ファイナルファンタジー』シリーズや『ドラゴンクエスト』シリーズなども人気です。自分の知らない曲でもチャレンジしたいと思っているので、リクエストはどんどん送っていただきたいです。“自分たちが演奏したい曲”を演奏するのもいいのですが、プロとしてやる以上、まず“皆さんが聴きたい曲”を演奏することが第一だと思っていますので。

――ところで、こちらのプロオーケストラの運営方法については、どのようにお考えですか?
市原 まずは、このオーケストラに期待していただいている皆様から協賛をいただくのが第一だと思っています。それから、演奏会での収入ですね。運営形態については、まだお話できない部分も多いです。でも、失敗するつもりはありません。今回のオーケストラの名称募集に、1500通ものご応募をいただきまして、応募者の9割以上の方が、自由記述欄に熱いコメントを書いてくださったんです。そんな皆さんの期待に背くわけにはいきませんから。社団法人として立ち上げたのも、私たちの本気の表れです。モバイル&ゲームスタジオの遠藤雅伸さんと、エインシャントの古代祐三さんに代表理事になっていただくことも決まりました。

――おふたりとも、ゲーム業界に古くから関わっていらっしゃる方ですね。
市原 今回のオーケストラの理念、今後の展望をあらためてお話したところ、代表に立っていただけることになりました。おふたりとも、「プロオーケストラ立ち上げはムリな夢ではない」とおっしゃってくださっています。

――社団法人化で、演奏会の実現に向けてまた一歩進んだということですね。
市原 はい。お呼びいただけるのであれば、協賛メーカーさんのイベントで演奏したいとも思っていますし、さらに夢を広げれば、新作ゲームの音楽を録音する際に、日本BGMフィルハーモニー管弦楽団を使っていただくとか。さまざまな面からゲーム業界の力になって、盛り上げていきたいですね。

――では、最後にひと言お願いします。
市原 このオーケストラについて、「本当に実現できるのかな?」と思ってらっしゃる方も多いと思うんです。ですが、私たちは本気で活動をしているので、どうか期待して、応援していただければと思います。実現した暁には、生でしか味わえない感動をかならずご提供しますので、ぜひ演奏会に足を運んでください。