“初めて”どうしだからこそ追求できたサウンドとは
人間がいなくなった東京で、さまざまな動物がサバイバルを行うアクションゲーム『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』(2012年6月7日発売)。ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン(SCEJ)のクリエイター発掘オーディション“PlayStation C.A.M.P!”で見出された制作会社“クリスピーズ”が手掛けた本作は、その斬新なコンセプトから大いに話題を呼び、大ヒット。先日、販売本数が20万本を超えた(SCEJ調べ)ことを記念したスペシャルCMが公開されたほどだ。
この『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』は、ゲームシステムはもちろん、サウンドの面でもさまざまな遊びを盛り込んでいる。今回は、本作のディレクターを務めたクリスピーズの片岡陽平氏と、ミュージックプロデューサーを務めたongaqのTaQ氏に話を聞いた。
――最初に、TaQさんが本作のミュージックプロデューサーを務めることになった経緯を教えてください。
TaQ 僕が、あるきっかけで、SCEJのサウンドプロデューサーの方と知り合いまして。そのときは少ししかお話しなかったのですが、それから1年ほど経った後、その方から突然電話があって、「TaQちゃん、すごいのがきたよ」って言われたんですよ。
――すごいの、ですか。
TaQ それで「はい」と答えたら、「じゃあ打ち合わせに来て」と。そして打ち合わせのために、クリスピーズさんに伺ったんです。
片岡 うちの会社は一戸建ての民家なので、もう、さぞ驚かれたろうと思いますね。
TaQ ディープな会社だな、って思いましたね(笑)。
片岡 あの日は、夏なのにコタツぶとんが出っぱなしで。エアコンのスイッチを入れても室内は暑くて、TaQさんも汗だくになってしまい、申し訳なかったです。
TaQ コタツが置いてあるところに男性が6人くらいいて、みんな正座して「初めまして」と挨拶して……。「ああ、すごいのきたな」と思いました(笑)。そのあと、SCEJでも打ち合わせをして、サウンドデザイナーの増田延郎さんと出会い、仕事が始まりました。片岡さんと増田さんとの出会いは、僕の運命に大きく関わる、とても大事な出会いでしたね。
――TaQさんは、ミュージックプロデューサーとして具体的にどんなお仕事を担当されたのですか?
TaQ ミュージックプロデューサー……というよりは、音楽監督という言葉のほうがしっくりくる気がしますね。『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』のお仕事は、とにかく難しくて、ものすごく悩みました。『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』は、動物が主体のゲームで、しかも動物が人間のように会話するのではなく、動物が本当に動物のまま行動するゲームなんです。そこに人間味の強い音楽を当てると、合わないんですよね。たとえば「ジャングルといえば太鼓だろう」と太鼓の音を当ててみるとします。太鼓は、人間が動物の皮を剥いで作るものであり、人間が叩くものですから、音に人間味が出てきてしまうんですよ。もう、ありとあらゆる音楽を当ててみて、片岡さんとも話し合いながら、いまの方向性に決まっていきました。
――結果、いわゆる“クラブ系”のような音楽を採用されていますよね。
片岡 エレクトロ系、テクノ系の音楽にしたい、という思いは最初からあったんです。開発当初、エレクトロ系の曲が流行っていて、ファミコン時代のチップチューンのオマージュみたいな曲がたくさん生まれていたんです。『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』も、プレイステーション3という最新ハードで展開してはいますが、昔のゲームへのオマージュといいますか、昔ながらのゲーム性を大いに含んだゲームなんですよね。途中で3Dに転換したものの、もともとは2Dの横スクロールアクションゲームとして作っていましたし、オンラインランキングを上げていくというアーケードゲームのような要素もありますし。ですので、このゲーム内容には、エレクトロ系が合うと思ったんです。それから、田舎出身の僕には、東京=クラブ系っていうイメージがあったので(笑)。もし舞台が大阪だったら、もっとドメスティックな曲をお願いしたと思いますよ(笑)。
TaQ (笑)。こんな感じで音楽のコンセプトが決まったんですけど、タイトルやオープニング、エンディングの曲は別として、ステージの曲について考えたときに、僕の周りにいるクリエイターの顔が浮かんできたので、彼らにも曲を作ってもらうことにしました。これがサウンドチーム結成のきっかけですね。チームの中での僕の役割は、各クリエイターが作る曲がゲームのコンセプトに合うよう、見守っていくことでした。チームで取り組んだことで、僕は僕の得意とするところではクリエイターとして、またほかの部分では、つねに全体を意識しての突っ込んだサウンドメイクができたので、たいへんではありましたが、やり甲斐がありましたね。
――コンセプトが決まってからは、すんなりと制作が進んだのでしょうか。
TaQ いえ、そんなことはないです。片岡さんは、いまはサラッと語っていますけど、当時はけっこううるさかったんですよ(笑)。「これは、グローブをした土佐犬が復讐に燃える音楽じゃない!」と言われても、わからないでしょう?(笑) この片岡さんの感覚を学ぶのがたいへんでした。一生懸命自分の中からアイデアを絞り出して絞り出して、「これなら合うはずだ」って提出して、NGを出されてまた出し直したりしましたね。
――片岡さんの感覚は、どうやって掴んでいったのですか?
TaQ 片岡さんが、「この曲はこのシーンではなくて、別のシーンに合う」と、僕が用意した曲を予定外のところに当てはめることがあったんです。それを聴いて、「この曲があのシーンに合うと思うということは、こういう感覚で聴いているんだな」とわかったんです。それからはだいぶスムーズになりましたね。僕はとにかく、この仕事を“こなす”のではなく、“作りたい”と思っていたので、妥協はしませんでした。増田さんといっしょに、SCEJの会議室に朝までこもっていたこともありますね。コンピュータを持ち込んで。朝出社してきた受付の方に、びっくりされましたよ(笑)。
――開発中、いちばんキツかったのはどんなときですか?
TaQ サバイバルモードの曲を作っているときですね。
片岡 『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』は、制作途中で、サバイバルモードの仕様を大幅に変えたんです。そのとき、「年数によって音楽が変わるようにしてほしい」とお願いしました。アクションゲームなどでは、クリアーまでの残り時間が少なくなると、音楽のテンポが速くなって焦ったりしますよね。『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』も、年数が経過するほど環境が過酷になるので、焦燥感を出したいと思ったんです。さらに、「操作する動物の種類によっても音楽が変わるようにしてほしい」ともお願いしました。開発終了まで、1年も残っていないタイミングでしたね。
TaQ 開発も終盤でしたが、「これはおもしろいアイデアだ」と思ったんです。エンドレスでプレイできるのにずっと同じ音楽を聴くのは苦行だと思いますから。いろいろと試行錯誤した結果、年数が経つごとに曲が発展していって、さらに一定年数が経つと、“年老いていく”というイメージで、だんだん曲が簡素になるようにしました。それから、動物の体格別に曲を作って。本当にたいへんでしたね。
――ポメラニアンのような小さい動物から、マンモスのような大型動物までいますからね。
片岡 ポメラニアンのテーマは、すごくいいですよ。遊んだ音が入っていて、ポメラニアンの無邪気さを表現しています。
TaQ そういう無邪気な曲って、まさに僕が不得意とする音楽なんです(笑)。自分では書けないので、ほかのクリエイターに参加してもらって本当によかったですね。僕は本当にクリエイターに恵まれました。本作に参加したクリエイターたちは、誰ひとりNGにめげなかったんですよ。「これでいいだろう」と妥協しなかった。
片岡 でも、TaQさんの曲もすばらしかったですよ。TaQさんが作った曲は、「まさにこれです!」と言いたくなる曲ばかりで、NGを出す必要がありませんでした。
――先ほど、TaQさんはタイトル画面やオープニングの曲を書かれたとおっしゃっていましたね。
TaQ オープニング曲はがんばって書きましたね。本作が海外でも展開するということで、「海外から見た、東京のイメージとは?」ということを意識して書いたんです。シンセで作った曲なのですが、ちょっと雅楽風のメロディーが入っていて、曲の最初と最後には和太鼓の音を入れています。
片岡 雅楽と言えば、もうひとつありますよね、雅楽が入ってる曲。土佐犬のテーマなんですけど……「ちゃっちゃちゃっちゃちゃっ」という感じの曲なのに、途中で急に曲が止まって、一拍置いて「ほわぁ~~~」っていう法螺貝の音が鳴るんですよ(笑)。これ、テスターの方から「バグです」って言われたんですよ!
――バグ扱いですか(笑)。
片岡 「急に雅楽のような音が再生されます」と書いてあって、僕は無言で「仕様です」と書いて返しました(笑)。確かに、最初にこの曲が上がってきたとき、「これはちょっとおかしいでしょう」と返したんですけど、TaQさんたちからは「おかしくないです」って返ってきて。3回くらいやり取りして、僕も「これでいいか」と思うようになりました(笑)。
TaQ 『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』はとんがった内容のゲームですけど、デザインはすごいクールじゃないですか。それで、このカッコいいデザインに合わせて、音もカッコよく作っていたのですが、ゲーム内容にどんどんおもしろ要素が入っていくにつれて、カッコよく曲を作っていることがバカらしくなって。ちょっと曲でも遊んでみようと思ったんです(笑)。
――印象に残っている曲はありますか?
TaQ 印象的といいますか、思い出深いのはやはりエンディングですね。『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』は、最初に言ったとおり動物が主体のゲームで、感情というものは見えてこないのですが、ストーリーの最後のほうで、ものすごくエモーショナルになるシーンがあるんです。オープニングを観たときには「無機質だな」と思うゲームが、エンディングを観たときはすごく「有機質だな」と思えるようになる、そういうストーリーになっていて。そこはもう、電子の音じゃないだろうと思い、ワガママを言って生のオーケストラの音を使わせていただきました。
片岡 最初に「生のオーケストラを使う」と聞いたときは、「意味がわからない」と思いました。だってこれまで、ずっと打ち込みでやってきたんですよ? でも実際に、エンディングテーマの収録現場に行って、生演奏されている曲を聴いて、その場でエンディングの映像に合わせてみたら、すごく感動して。
TaQ エンディングの譜面は、2バージョン用意したんです。そのシーンの感情をプラスに汲み取ったものと、マイナスに汲み取ったものと。そうすることによって、より互いのイメージを近くできると思いまして。結果的によい方向に仕上がりました。
――片岡さんはどちらの譜面を選ばれたのですか?
TaQ それは、最後までプレイしていただければわかっていただけると思います。
片岡 曲がつくまで、「このエンディング、本当によくなるの?」って、ちょっと懐疑的だったんです。演出次第では、滑稽になりうるシーンだったので。でも音楽がついたら、本当によくて、スタッフ一同、感動しました。
――オーケストラの演奏はgaQdanさんが担当されたんですよね。
TaQ はい。エンディングを含め、数曲を演奏させていただきました。『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』がgaQdanにとってのゲームサントラデビュー作になります。起用していただけて、本当に光栄でしたね。gaQdanにとってはSCEさんのお墨付きをいただいたようなものですから。
――では、最後にメッセージをお願いします。
TaQ 『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』というゲームを、まるまる1作、僕に一任していただけたのは、とても光栄でした。これまで、ゲームに部分的に曲を提供したことはありましたが、サウンドのすべてを担当するのは今回が初めてだったんです。『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』は、僕に1作品のサウンドを担う力量があると証明してくれた作品になりました。まさに僕のターニングポイントですね。チャンスを与えてくれた皆さんと、このゲームに、とても感謝しています。
片岡 『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』って、ゲームを作ることに慣れている人なら、絶対やらないであろうことをやっているんです。操作キャラクターを50種類以上用意するとか、そのすべてのキャラクターに対応するマップを作るとか、とてもたいへんなことですので。でもクリスピーズはゲーム作りが初めての素人だったので、それができたんですよね。僕らといっしょにするのは失礼かもしれませんが、TaQさんもゲーム1作品をまるまる担当するのは初めてだったということで、今回のサウンドが実現できたと思うんです。ワンプレイのあいだに何度も曲が転調するとか、動物の体格ごとに曲を用意するなんて、ふつうやりませんよね。こういう意味において“素人”の僕らがやりたいことを愚直にやった結果が、『TOKYO JUNGLE(トーキョー ジャングル)』だと思っています。