プレイした者を魅了するフリーゲーム『Ib』

狂気に満ちた美術館からの脱出――その先にある感動。口コミで広まったフリーゲーム『Ib』の人気の秘密に迫る_01

 『Ib』というPC用フリーゲームがある。ゲーム制作用ソフト『RPGツクール2000』を用いて作られたもので、作者のkouri氏のホームページにて、2012年2月に公開された。

 この『Ib』が、いま、インターネット上で話題になっている。

 ファミ通ドットコムでは、本作を遊ぶために必要なランタイムパッケージ“RPGツクール2000 RTP”(『RPGツクール2000』で制作されたゲームを遊ぶために必要なデータ集)を配信しているが、『Ib』が公開されてから、このランタイムパッケージのダウンロード数が倍増している。また、イラスト投稿サイト“pixiv”(→こちら)や動画投稿サイトなどでも、『Ib』関連の投稿を多く見かける。

 それほどまでにユーザーを魅了する『Ib』とは、どんなゲームなのか……ここでは、簡単ではあるが『Ib』の概要を紹介していこう。

※『Ib』ダウンロードページは→こちら

怪しい美術館に迷い込んだ少女イヴを巡る物語

 『Ib』は、マルチエンディング制を採用したホラーアドベンチャーゲーム。物語を進めるためには、謎解きやアクションが必要になる場面もある。

 主人公は、両親とともに美術館を訪れた少女イヴ。美術館では、“ゲルテナ”という名の芸術家の美術展が開かれていた。ひとりで美術品を観て回っていたイヴだが、気づくと周囲には誰もいなくなっていた。そして床に現れた、「おいでよイヴ」という血のような赤い色の文字――。イヴはやがて、美しくも怪しい、不思議な場所へと迷いこんでしまう。

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 プレイヤーは、このイヴを操作し、謎に満ちた美術館からの脱出を図ることになる。美術館にはさまざまな仕掛けが施されており、先に進むには、特定のアイテムや隠されたキーワードを見つけ出したり、特定のアクション(といっても難しいものではない)をこなさなければならない。

 この不思議な美術館の中には、独自の雰囲気を持つ多数の美術品が飾られているが、同時に危険もたくさんある。イヴを見つけるなり突如追いかけてくる美術品、突如上から落ちてくる凶器……これらに触れると、イヴの命となる“赤いバラ”の数が減ってしまう。ときには、一瞬にゲームオーバーになることもある。

 いつ何が起こるかわからない……プレイには、そんな恐怖がつねにつきまとう。突然滴り落ちる血糊や、カベから急に生えてくる黒い手など、何かが急に現れるたび、記者は「ヒィッ」と声を上げてしまった。本作には、派手なグラフィック演出があるわけではない。しかし、ドット絵からにじみ出る静かな恐怖には、どんな演出に勝るとも劣らない、本能に訴えかけてくる力がある。

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 イヴは美術館の中で、オネエ言葉を使う男性ギャリーと、金髪碧眼の少女メアリーと出会う。彼らとともに脱出を目指すイヴだが、じつはその先には驚きの事実が待っていて……。これはプレイして確かめてみてほしい。

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▲倒れていたところをイヴに助けられ、仲間になるギャリー。
▲人なつっこい性格のメアリー。イヴとすぐに打ち解けるが……。

「自分も何かを表現したい」と思わせる後味

 『Ib』は非常に丁寧に作られている良作。だが、人気が出た理由はそれだけではない。クリアーした後に、何かを表現したくなる後味、世界観とストーリーの魅力……それこそがヒットの理由と言えるだろう。事実、pixivには、2万を超える『Ib』のイラストが投稿されている。

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▲愛情溢れる『Ib』関連の投稿イラスト。

※pixiv内『Ib』関連イラスト一覧ページは→こちら

 プレイした者の心に何かを残す『Ib』。誰でも気軽にダウンロードできるので、興味を持った人はぜひプレイしてみてほしい。そして何かを表現したい、誰かと共感したいと思った人は、各種投稿サイトなどに作品を投稿してみるのもいいだろう。中傷目的のもの、過度ネタバレを含むもの以外の二次創作は基本的に許可されている。さらに、自分もゲームを作りたい! と思った人は、『RPGツクール』シリーズを使ってゲームを作ってみてはいかがだろうか。

『Ib』作者kouri氏へのショートインタビュー

――『Ib』を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
kouri 私生活で時間ができたので、以前から作ってみたかった自作ゲームを作ってみようと思いました。舞台を美術館にしたのは、色々な仕掛けが作りやすいと思ったからです。ジャンルをホラーにしたのは、作ってて飽きなそうだったからでしたが、別にそんなことなかったです。

――『Ib』の制作はどのように進められたのですか?
kouri 最初に、自分がどういうゲームを作りたいのか? という部分を明確にして、おおまかなストーリーを決めて、主人公や舞台の設定を決め、コツコツと作っていった感じです。『Ib』は“ホラー要素”と“謎解き要素”が非常に重要だったので、このふたつはかなり考え込んだ記憶があります。ホラーの部分は“人が怖いと思う要素”をひたすら挙げてバランスよくゲームに組み込み、謎解きの部分は、マップの構造を利用して美術品を絡めつつ、解いておもしろいものにする、というような感じですね。あとは、ゲームが苦手な方でもなるべく自力でクリアできるように、ということを重点に置いて作りました。

――kouriさんの考える、『Ib』のポイント・見どころを教えてください。
kouri 不気味な美術館の雰囲気を感じていただけるとうれしいです。ドットキャラクターのアクションにもこだわってみたので、よかったら見てください。

――『Ib』をプレイしたユーザーの反応はいかがでしたか?
kouri 想像以上にご好評をいただけて、たいへんうれしい限りです。世界観や各キャラクターもよかった、というご感想が多かったので、本当に苦労して作った甲斐があったなぁ、と日々感じております。

――最後にユーザーへのメッセージをお願いします。
kouri プレイしてくださった方、誠にありがとうございます! まだプレイしていない方も、『Ib』は無料なので、時間とプレイできる環境がある方は、ぜひ遊んでみて下さい。覚えることも、難しい操作もありません。サクッと遊べます。プレイし終えた後に「楽しかった」と思っていただけると、とてもうれしいです。