『武装中学生』ノベル連載から約半年が過ぎて

 あらかじめ用意された世界を舞台に、プロ・アマ問わず、さまざまな作り手が、さまざまなかたちで、さまざまな物語を創る機会を設けるXXolution project:(エグゾリューション プロジェクト)。今回は、その第一弾作品となる『武装中学生(バスケットアーミー)』の物語を執筆する、野島一成氏のインタビューを掲載!

※本インタビューは週刊ファミ通6月14日号(2012年5月31日発売号)に掲載しきれなかった内容を加えた完全版です。

『武装中学生』原作を手がける野島一成氏インタビュー【完全版】_04
野島一成氏。シナリオライター。『武装中学生』では、ノベル執筆、脚本、世界観資料の制作と監修をする。代表作は、『キングダム ハーツ』シリーズなど多数。

――『武装中学生』のノベルですが、これまで連載を続けてきて、周囲の方からの反応はいかがでしょうか?

野島一成氏(以下、野島) たくさんの方から、「見たよ」と言ってもらえていますね。初期のころと違って、「『武装中学生』って何なの?」ということは言われなくなりました。浸透してきているようで、よかったなと。

――野島さんは、小説を連載されるのは初めてですよね?

野島 そうなんです。こんなに恐ろしいことなのかと……。どんどんストックがなくなってくるんですよ。編集の方に、毎度「申し訳ありません」というメールを出すので、出だしは定型文登録したほうがいいんじゃないかと(苦笑)。週刊誌のマンガ家さんは、本当にすごいんだな~と思います。

――連載で、とくに難しいと感じるのは、どういったことですか?

野島 書きたいシーンになかなかたどり着けないことです。そこに至る経緯も、しっかり書いておきたいんですよ。連載でなければ、先に書きたいところを書いてしまって、あいだを埋めることもできるんですが……連載だからなぁ(笑)。

――徐々に公開されていく形ですからね。

野島 それと、現実世界の社会情勢など、バックボーンにつながりそうなことについてはかなり調べながら書いているので、物語に関連する要素や事象は、何でも取り込みたくなってくるんです。作品中では、それらが詳細に書かれることはないし、トウコたちにはあまり関係がないんですけれども。ちなみに、物語冒頭の舞台となっている御殿場周辺の地図には、かなり詳しくなりました(笑)。

――『武装中学生』は、野島さんが手掛けられてきたゲームのシナリオとは方向性が異なりますが、とくにどんな部分が大きく違うと思われますか?

野島 ゲームやアニメだと、キャラクターの個性づけがすごく重要で、しゃべりかたをデフォルメするなどの手法を取りますよね。それと、展開が早い。『武装中学生』は、それとは正反対の“大きな小説”という形でじわじわと進んでいます。それだけに、ハマるとかなりおもしろいと思うんです。これは、僕が中高生のころに読んでいた小説のスタイルで、たくさんの人物が関わって、複数のグループがあって、事件が起こるとくっついたり離れたり……さまざまな展開があります。とはいえ、『武装中学生』には、目的の違う人をたくさん出しすぎたかな。何を書いて何を書かないかという配分が、これだけ出てくると見失いがちで(苦笑)。でも、これも挑戦なので、やってよかったと思います。

――トウコたち“中学生”の描写について、連載を続けるなかで変化はありますか?

野島 最初は“行動”を中心に書いていましたが、最近は心情……“内側”を書くことが増えてきました。キャラクターたちのことを、より理解できるようになってきたというか。「中学生だとこうだろう」ということから、「トウコだとこうだろう」というノリで書くようになってきました。とくに書きやすいのはヒカリですね。彼女はシンプルでわかりやすい。リアクションがわかりやすいのかな。反面、サトシが、いちばん苦労しています(笑)。

『武装中学生』原作を手がける野島一成氏インタビュー【完全版】_03
『武装中学生』原作を手がける野島一成氏インタビュー【完全版】_02
▲相場良祐氏による、『武装中学生』の世界観を象徴するイメージボードのひとつ。これは、その中でも最初期に描かれた、青少年が防衛教育を受けるというシーン。
▲同じく、相場良祐氏による作品。キャラクターや物語を固める以前に、まずは背景となる世界観や社会背景を固めていくため、これらはプロジェクト開始初期に制作された。

アニメ、オーディオドラマやビジュアルからの影響

『武装中学生』原作を手がける野島一成氏インタビュー【完全版】_05
▲野島一成氏がお気に入りのキャラクター、高津ヨウジ。ネットに依存しており、いわゆる「中二病」的な言動を発するが、意外にも、読者人気が高いキャラクター。

――キャラクターをより深く理解できるようになったというのは、オーディオドラマやショートアニメーションの影響もあるのでしょうか?

野島 それらの存在は大きいですね。登場人物それぞれを生み出し、彼らのことを考えながら物語を描いていますが、声や話しかたまでが明確ではありませんので。声優さんによってそれらが具体化されると、「なるほど」となります。それがノベルにも反映されたりしますね。ただ、意識はしつつも飲み込まれないようにはしたいと思っています。

――ボイスやイラストは、野島さんの中でどういった位置づけなのですか?

野島 オーディオドラマでは、僕が脚本を書いたものをしゃべってくれているので、声については“身近な感じ”がしますね。「バン!」と頭に入ってきます。一方のイラストは、モチベーションになるものです。「こいつを(小説で)書いてやる!」みたいな(笑)。ただ、アニメーションなどでは、隙を見せるとスカート短くなりそうで、そこだけ警戒しています(笑)。中学生のスカートの長さは、もっと中途半端だと思うんですよ!

――そこにはこだわりがあるんですね(笑)。ところで、トウコたちと敵対するトライデント社は、フランスの企業なんですよね。なぜフランスにしたのですか?

野島 僕はフランスが好きで、憧れがあるんです。ヨーロッパで最初に行ったのはパリでしたし、少しだけフランス語の勉強もしていたり。最初に買ったクルマも、フランスメーカーのプジョーのものでした。また、フランスは、日本のアニメやゲーム文化がだいぶ浸透していますよね。それで、敵役を演じてもらうのに、フランスなら許してもらえそうな気がしたんです。理解して、おもしろがってくれそうだなって。

――“好き”だからこその選択だと。トライデントのエージェントたちについては、どんなキャラクターとして描いているのでしょうか?

野島 極端な描写が許されたりもするので、好き勝手にやらせてもらってますね。そうそう、明暮(みつどき氏。本作のメインキャラクターデザイナー)さんの、ガブリエルのイラストのインパクトがすごく強かったんですよ。彼は、いろいろな顔を持っているんだと思います。クリスは、かっこよくしていてほしいんだけど、なかなかそうはいかない。マジメで成績優秀だけれど、臨機応変さには欠けているんでしょうね。それから、トーチは意外とよく気づく人で、目の前をきちんと見ている印象です。

――ジョルジュ・吉田も、トライデント側ですよね。

野島 吉田君はいいですね(笑)。吉田がくっついていなければ、クリスたちはプロの仕事をできるんじゃないかなと思います。吉田には悪いけど(笑)。でも、そのお陰で、お話が成り立っている部分もありますね。

――田之倉の動きも気になるところです。

野島 田之倉は書いていてイライラするけど、メールの返信がなかなかできないあたりは共感します(笑)。彼には使命感はなくて、立場を維持したいだけ。でも、ときどき普段やらないようなことをやって、結果、「やらかしてしまった」ということに……。この作品では、単純に大人たちを、中学生たちの敵として描いているわけではないんですよ。自分が大人になると、いい人も悪い人も、いろいろな大人がいることがわかってしまって、純粋な"悪"の象徴として大人を描けない。トウコたちに、ゲームやアニメ的なキャラクターづけや、正義や善といった属性を設けていないように、大人たちもそうしていないんです。

――なるほど。ちなみに……野島さんのいちばんお気に入りのキャラクターは誰ですか?

野島 (高津)ヨウジ! とくに、"男の子"の部分……女の子や他人から、どう見られているかが気になってしかたがない、自意識過剰なところが。彼は人がいると、ガードを固めてしまうんですよね。そういったことをひっくるめて、書いていて痛々しい(笑)。ヨウジのシーンだけ、地の文だか心情だかわからないと思うのですが、「ヨウジだから仕方ないな」と思っています(笑)。

――そういった点に注目しながら読んでみるのもおもしろそうですね。ちなみに現時点で、お話は全体のどれくらいまで進んでいるのでしょうか?

野島 折り返しに近づいています。分量だと3分の1~2分の1のあいだくらいでしょうか。じつは毎回、「この人死んじゃうんじゃないかなー」と思って書いていて。というのも、未来が見えない人が、何人かいるんです。

イラストコンテスト選考を振り返って

――そして、イラストコンテストですが、先日5月30日に、結果が発表されました。審査員としてコンテストに関わられた感想をお聞かせください。

野島 たくさん応募があって驚きました。『武装中学生』は、地味に展開しているつもりなので(笑)。イラストとして描かれる各キャラクターには、性格や趣味などの決まった設定がありましたが、応募してくれた方々の解釈で、イラストにそれぞれ違った個性が生まれていたのがおもしろかったですね。

――6人のうち、とくに思い入れがあるのは、どのキャラクターでしょうか?

野島 僕のお気に入りは長太郎です。インナー姿に意表を突かれました。制服や訓練服が
目立っていましたから。

――今回の結果を受けて、新たに短編小説を公募するコンテストが始まりましたが、応募者にアドバイスをお願いします。

野島 短編だと、コンパクトにまとめるのはたいへんだけれど、“核”がしっかりしていれば盛り上がるものを作れると思います。でも、ものすごくおもしろい作品が来たら僕の立場が危ういので、複雑な気持ち(笑)。

『武装中学生』原作を手がける野島一成氏インタビュー【完全版】_01
▲イラストコンテスト結果発表とともに、アニメイト店頭に貼りだされたポスター。現在は、彼らを主人公にした短編小説コンテストを開催中。

――それでは最後に、読者へメッセージをお願いします。

野島 いままでファンタジーものをメインに書いてきた僕が、ファンタジーを封印して、逃げずにやっているのは自分で偉いと思う!(笑)。マジメな人たちがマジメに行動する話なので、そのマジメさにお付き合いいただければと。流行りの方法論にはあえて乗っからず、パターン化されていることもない、あまり見ない形だと思います。無料で読めるので、気軽に覗いてください。

【武装中学生 バスケットアーミーとは】
あらかじめ用意された世界を舞台に、プロ・アマ問わず、様々な作り手が、様々なかたちで、様々な物語を創る機会を設けるXXolution project:(エグゾリューション プロジェクト)の第一弾作品が『武装中学生(バスケットアーミー)』です。『ファイナルファンタジー』シリーズなどで知られる野島一成氏が手掛ける小説を中心にショートアニメ、コミック、オーディオドラマのほか、小説・コミックの投稿サイト、E★エブリスタにてコンテストを展開中。

『武装中学生』原作を手がける野島一成氏インタビュー【完全版】_06

-武装中学生 ストーリーイントロダクション-
2026年8月、富士演習場――
名取トウコが所属する
私立東都防衛学院中等部三年二組は、
担当教官である神谷指導のもと、
夏季総合演習の最中にあった。

その過酷な訓練も、いよいよ最終日。
トウコたちを労う神谷は、
「最新兵器研究」と題した“課外授業”を提案する。

そして……事件は起こる。

何者かによる突然の襲撃。
響き渡る銃声、怒号、断末魔、
血の海に崩れ落ちる――。

前代未聞の事件をきっかけに
世間から「武装中学生」と揶揄される
15歳の少年少女たち。

そんな少年少女たちの未来を奪い去ろうと、
襲撃者たちの影が忍び寄る……。