2012年5月18日、消費者庁が“オンラインゲームの「コンプガチャ」と景品表示法の景品規制について ”と題した文書と、“懸賞による景品類の提供に関する事項の制限の運用基準について”の改正案を公開した。

対象は“オンラインゲーム”

 これは、いわゆる“コンプガチャ”規制にあたって、何が対象になるのか、なぜ景品表示法違反になるのか、その理由を示したものだ。一般にはソーシャルゲームにまつわるものとして報道されてきたが、“携帯電話ネットワークやインターネット上で提供されるゲーム”(資料より)を“オンラインゲーム”と総称し、そこでの“ガチャ”や“コンプガチャ”について論じ、「「コンプガチャ」は、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法に該当し、懸賞景品制限告示第5項で禁止される景品類の提供行為に当たる場合があります」との見解を示している。
 まぁ実際、ソーシャルゲームの定義はあいまいだし、プラットフォームや提供形態がなんであろうと、同じような違反を取り締まれなければ意味がない。重要なのは、どのような行為が問題となるかだ。

通常の有料ガチャは対象外という解釈

 “ガチャ”とは、有料・無料のポイントなどと引き換えに、ランダムにゲーム内アイテムなどが当たる仕組み・イベントのこと。その中でコンプガチャは、ガチャで当たったアイテム・カードなどを集め、一体の数や組み合わせが成立することで、さらに別のアイテムなどが当たるものと説明されている。
 ここで興味深いのが、通常の有料のガチャ自体は、消費者と事業者の取り引き以上のものではなく、景品表示法の景品規制の対象外であるとしていることだ。以下にまとめて引用する。

有料のガチャによって一般消費者が得ている経済上の利益は、一般消費者と事業者間の取引の対象そのものであるといえます。言い換えれば、有料のガチャによる経済上の利益は、事業者が有料のガチャとは別の取引を誘引するために、当該取引に付随させて、一般消費者に提供しているものではありません(景品類指定告示第1項。前記4(1)ア参照)。
 したがって、有料のガチャによって一般消費者が何らかの経済上の利益の提供を受けたとしても、それは景品表示法上の景品類には該当せず、景品表示法の景品規制は及びません。

「オンラインゲームの「コンプガチャ」と景品表示法の景品規制について」4 景品表示法上の問題点(2)イより(平成24年5月18日、消費者庁)

コンプガチャアイテムの景品性

 一方、コンプガチャで提供するアイテムは景品類であるとしている。では、ガチャとコンプガチャの解釈を分けているのはどこか。
 有料ガチャで得られるアイテムが取り引きの直接的な対象物であるのに対して、コンプガチャで提供されるアイテムは、“有料のガチャという取引に顧客を誘引するための手段として、当該取引に付随して提供されるもの”だというのがポイントだ。
 景表法第2条第3項では、景品類を“顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するもの ”と定義している。
 そして、「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」(昭和37年公正取引委員会告示第3号)では、この規程に基づいて景品類の指定を行なっているのだが、コンプガチャによって得たアイテムが“オンラインゲーム上で敵と戦うとか仮想空間上の部屋を飾るといった何らかの便益等の提供を受けることができるものである”ことから、その中の「便益、労務その他の役務」に該当し、さらにコンプガチャが過熱した現状からコンプガチャアイテムは景表法第2条第3項の“経済上の利益”でもあるということで、コンプガチャアイテムは景品類に該当するという解釈になっている。

“絵合わせ”行為の該当

 コンプガチャで提供されるアイテムが景品類であるとなれば、景表法の規制に従わなければならない。ここでコンプガチャが問題とされているのは“絵合わせ”行為(カード合わせとも呼ぶ)だ。
 文書ではまず、懸賞景品制限告示第5項を参照し、“二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供」は、景品類の最高額や総額にかかわらず、提供自体が禁止されて”いることを前提として確認している。
 その上で、有料ガチャで入手したアイテムそのものが、画面上図柄など見栄えが異なり、ここでいう“符票”に該当すると指摘。つまり、コンプガチャアイテムは景品類であり、有料ガチャで手に入れたアイテム(符票)を揃える絵合わせ行為で景品類を提供するのは禁止されている行為であるという結論が導かれている。

雑感:業界の自浄作用と健康的なマネタイズの開発に期待

 “懸賞による景品類の提供に関する事項の制限の運用基準について”の改正案では、以上のような解釈を踏まえた上で、カード合わせ行為として、“携帯電話ネットワークやインターネット上で提供されるゲームの中で、ゲームのプレーヤーに対してゲーム中で用いるアイテム等を、偶然性を利用して提供するアイテム等の種類が決まる方法によって有料で提供する場合であって、特定の数種類のアイテム等を全部揃えたプレーヤーに対して、例えばゲーム上で敵と戦うキャラクターや、プレーヤーの分身となるキャラクター(いわゆる「アバター」と呼ばれるもの)が仮想空間上で住む部屋を飾るためのアイテムなど、ゲーム上で使用することができる別のアイテム等を提供するとき”と定義している。

 やや具体的な指定となっているが、ここまでの解釈からすると、ガチャアイテム装備によるコンプボーナスの提供なども、ランダムに得られる符票を揃えて便益を提供する行為と捉えられそうに見えるし、実際に5月初頭の報道を受けてすでにそういったサービスを停止しているメーカーも確認している。
 景表法が絵合わせ行為を禁じていることについて、文書では、それ自体射幸性が高く、子ども向けの商品で利用されることが多かったことから問題視したという経緯も説明されている。ソーシャルゲーム、オンラインゲームの関連諸業界には、今回指摘された具体的な問題点をくぐり抜けるだけの別の方法を発明するのではなく、幅広い年齢層のプレイヤーが安心して熱中して楽しめるマネタイズ(とゲームデザイン)の開発を期待したい。