伝説のゲーム『バロック』のサウンド制作秘話を、米光一成氏、岩田匡治氏に訊く!

退廃的な世界観と、独特のシステムが話題となり、根強いファンを多く生み出したアクションRPG『バロック』。すでに絶版になっていた本作のサントラ「バロック オリジナル・サウンドトラック」が再発売されることを受け、『バロック』の生みの親である米光一成氏と、楽曲を担当したベイシスケイプの岩田匡治氏にインタビューを行った。

●14年振りにサントラが再発売される『バロック』の秘話

バロック オリジナル・サウンドトラック
メーカー:ベイシスケイプレコーズ
発売日:2012年5月14日
価格:2310円[税込]

 1998年にサターンで、1999年にプレイステーションで発売された、アクションRPG『バロック』。退廃的な世界観と、独特のシステムが話題となり、根強いファンを多く生み出した作品である。それから14年。すでに絶版になっていた本作のサントラ「バロック オリジナル・サウンドトラック」が、再発売されることが決定した。今回、このサントラ再発売を受けて、『バロック』の生みの親である米光一成氏と、楽曲を担当した、ベイシスケイプの岩田匡治氏にインタビューをする機会をいただいた。あまりに独特すぎるこの作品の楽曲はどのように生まれたのか。当時の秘話から、今回のサントラ再発売の経緯まで、余すところなくお届けする。なお、こちらでは、本作のサントラを抽選で3名にプレゼントする募集を受付中。インタビューを読んで、ぜひ応募してほしい。

米光一成氏
Yonemitsu Kazunari
※文中は米光

フリーランスのゲームデザイナーであり、立命館大学の映像学部で教授を務める。『バロック』では監督として、ゲームデザイン、シナリオなどを担当した。代表作は、『魔導物語』、『ぷよぷよ』など。

岩田匡治氏
Iwata Masaharu
※文中は岩田

ベイシスケイプ所属のコンポーザー。『バロック』のサターン版、プレイステーション版の楽曲を担当した。代表作は、『タクティクス オウガ』、『ファイナルファンタジー タクティクス』など。

●“音楽にしない”ゲーム音楽

――ゲームの発売から14年振りにサントラが再発売されましたが、再発売が決定した経緯からお教えください。
岩田 うちの会社(ベイシスケイプ)のCD部門から発案された企画ですね。現在、オリジナル版はかなりレアな商品になっていましたし、サントラが絶版になってから『バロック』の存在を知って、「欲しい」と言ってくださる奇特な方(笑)もいらっしゃったので、再発売することになりました。

――再発売の打診があったとき、どのように感じましたか?
岩田 正直に言うと、需要がどれくらいあるのかわからなかったので、不安があったのですが、素直にうれしかったです。再発売の発表をした後は、ネット上での『バロック』ファンの反響も大きかったですね。
米光 『バロック』は、ゲームはもちろんですが、音楽もとくに気に入っていて、いまだにBGMとして聴いていたので、よかったなあと。『バロック』はコアなファンが多くて、「サントラだけ買い逃したんです」とか「設定資料集を買い逃したんです」と言う人も多いんですね。そういった方が、Twitter上で「サントラの再発売はないんでしょうか?」と質問をしてくるんですが、まだ発表前は「うーん……。待てばいいことあるんじゃない?」としか言えなくて(苦笑)。
岩田 去年、“4star オーケストラ”というゲーム音楽のイベントがあったのですが、そこでゲーム音楽ファンの方とお話する機会がありまして。そこで「『バロック』のサントラの再発売はないんでしょうか?」と言われることがあったんです。じつは、当時は再発売の企画が動いてはいたんですが、まだ発表できなかったので「なかなか難しいんです……」と濁すことしかできなかったのが心苦しかったですね。でも、ユーザーの方と直接お話をする機会は多くないので、貴重な経験でした。

――“4star オーケストラ”に集まる人は、コアなゲーム音楽ファンが多そうですよね(笑)。
岩田 そうですね(笑)。『バロック』の音楽が好きだという方とお会いするのは初めてでしたので、とても楽しい時間でした。

――米光さんは、『バロック』の楽曲をBGMにしてらっしゃるとのことですが、あの……、あまり作業用BGMに向いている曲調ではないと思うんですが……。
米光 そうですよね(笑)。でも、明るい気分になると困る仕事もあるんです。ですので、ダークに集中したいときなどに聴いていますね。あと、メロディアスな楽曲は音楽に引きずり込まれてしまいますが、『バロック』の曲は環境音として最適な曲なので、バランスがいいんです。そういえば、初めてサントラが発売された当時、この曲を目覚ましに使ったことがありましたね……。

――目覚ましですか!
米光 当時、僕は「ロッキーのテーマ」を目覚ましにしていて、その曲を聴いて起きると「よーし、今日もやるぜ!」と気合いが入ったんです。でも、たまたま前日の夜に『バロック』のサントラを聴いていたものだから、『ロッキー』のCDに入れ替えるのを忘れていて……。翌日、『バロック』の曲が目覚ましがわりに鳴ったら、金縛りに遭いました。

――こわい(笑)。
米光 「なんか起きれなーい!」」って(笑)。だから、朝目覚めるのには向きません。
岩田 (笑)。作っているときから、暗い世界ではありますが、ホラーとは違うので、慣れてくると落ち着くというか……。
米光 意外と静かな。廃墟に行ったような環境音に近いんだよね。
岩田 うん。全体としてホラーにならないように気をつけましたね。

――当時、米光さんは岩田さんにどのように曲をオーダーされたのでしょうか?
米光 「音楽にしないでくれ」と(笑)。

――(笑)。
米光 ゲームサウンドを依頼しているのに音楽にしないでくれと、無茶な頼みかたで(笑)。じつは、『バロック』の構想を考えていたとき、音楽をないものにしたかったんです。たとえば、ダンジョンを歩いているときに聞こえる、壁にある排気口の音や、自分の足音、そして敵の動いている音、それらをバイノーラル録音(人形のダミーヘッドにマイクを仕込んで録音する方法。聴いている人を中心に、前後左右のどこで音が鳴っているかを、リアルに再現する)で存在する位置まで再現して、それですべて環境音だけにしたいと思っていたんですね。というのも、僕はドキュメンタリー番組が好きで、僕が思ういいドキュメンタリー番組は音楽がないんですよね。よくあるドキュメンタリーは、「ここで泣いてね」という場面で感動的な音楽を流すので、確かに泣けるんですが、それは「あなたの言われたとおり泣きました」という押し付けを感じるんです。でも、いいドキュメンタリーは人によって異なる解釈ができるようになっているので、安易に音楽を流さずに、そのときの砂が落ちる音や、映っている人の嗚咽が聞こえたりするわけです。それがとてもよかったので「音楽はなしにしよう」と考えたんですが、当時の技術ではドキュメンタリーみたいにリアルな環境音が再現できなかったんですね。それならばと、廃墟のような音楽らしくない音楽にしてもらったわけです。……っていうのは、14年経ったからここまで整理できて言えるのであって、当時はもっとひどかったよね? 「音楽じゃないのがいいんです」みたいな(笑)。
岩田 そうですね。まったく何を言っているのかと(笑)。

――(笑)。
岩田 当時打ち合わせをしていて、米光さんが何かを伝えたがっているのはわかるんですけど、お互い言葉がわからなくなったみたいに、何も言葉が出なくて……。それで、米光さんからドキュメンタリーのビデオを見せていただいたんですが、それでも「まだわからないんです」と伝えたら、メールが来たんですね。「ポエムっぽいものが付いていますが、気にしないでください」っていうメールで、添付ファイルを見ると、明らかに気にしなきゃいけないような変な文章が付いてたんです(笑)。それで、どうしようかと……。
米光 それ、曲を1回持ってきてもらった後だっけ?
岩田 後ですね。今回、2曲……とカウントするのもどうかと思うんですが、シンセサイザーをいじったプロトタイプの曲“Proto One”と“Proto two”という曲が入っています。当時米光さんから「作っているものを何か聞かせてくれ」と言われて、そのまま2ヵ月くらい経ってしまって……。それで、「今日は持っていかなきゃマズイ」と思っているなかで作ったものが、今回収録されているプロトタイプの曲なんです。僕の基準では音楽とは呼べないものだったのですが、それを聞いた米光さんに「こんなに音楽になってなくていいです」って言われて(笑)。
米光 「音楽になってる! こんなにメロディーはいりません」って(笑)。
岩田 まったく音楽じゃないと思っていたのに(笑)。それから半年近くは何も進まないままだったんですよね。
米光 それで参考にしてほしいものを探すんですが、僕は“曲”を求めていないのに、世の中にあるBGMは“曲”しかないんですよね(笑)。その中で、服を縫う洋裁のドキュメンタリーを見つけるんです。それにはほとんど音楽が付いていなくて、海辺の工房みたいなところで、ハサミが“チャキチャキ”と鳴っているんですが、それを岩田さんに渡して、「こんな感じです!」と。

――岩田さんは、それをご覧になって、イメージを理解されたんですか?
岩田 ぜんぜん(笑)。それを観ながら、「これから何を受け取れば……」って(笑)。……あ、いま思い出しましたよ。それで、米光さんがイメージをひねり出してくれて、いくつか既成のアーティストの曲を渡してくれたんです。
米光 ああ。でも、バラバラでしたよね。『NIGHT HEAD』のサントラと、アディエマスと……。
岩田 あと、名前は忘れちゃったんですが、ちょっと変わったアーティストのCDもありましたね。それで、僕はもともと『NIGHT HEAD』が好きで、楽曲を作られたのは、プレイステーションの『クーロンズゲート』の楽曲も担当されていたはい島さん(はい島邦明氏)だったということもあり、そのわかりやすいところを足掛かりにして自分の中に取り込んでいきました。とはいえ、音楽の形にしてアウトプットするには、時間がかかりましたね。

――最初にできあがった曲はどれでしたか?
岩田 「Sanctuary」だったかな。
(その場で「Sanctuary」を流して……)
岩田 あ。これだ、これ。……ああ、この水の音は、夜中に自分の家のお風呂場で録音したんですよ。「僕は何をやっているんだろう」って思いながら(笑)。

――(笑)。この曲を作って、「これでいいんだ」という手応えはありましたか?
岩田 手応えというより、「これでダメと言われたらどうしよう」と思っていたので、「ああ、これでいいのか」という感じ(笑)。やはり単なる効果音の集合体にはできなくて。まったくそう思えない方もいらっしゃると思うんですが、『バロック』の曲にはちょっとだけ起承転結がついていて、少し音階みたいなものが入れてあるんです。

――『バロック』は、当時類を見ないゲームでしたので、周囲の人に理解してもらうのが難しかったと思うんですが?
米光 そうですねえ。
岩田 そう、ゲームそのものがわからないんですよ。だから、僕は何に曲をつけるのかもわからなくて(笑)。当時発売した、“バロック ワールドガイダンス”という設定資料集に音楽制作日記が載っていて、そこで僕は赤裸々に曲を作らずに遊んでいたことなどを語っているんですが(笑)、それを先日読み返したときに、当時の自分が追い込まれていたことがわかったんですね。プロトタイプを作ってからつぎの曲を提出するまでに、効果音を集めたり、いろいろな音を録音したりしてはいたんですが、形になっていないので焦っていたんです。この音集めはやらなくてはいけないような気がするけど、まったく無駄に終わる可能性もあると。それで何ヵ月かするうちに、精神状態が不安定になってきて……。でも、それが『バロック』の世界観と合ったんでしょうね。そこから曲を組み立てる段階になったら、かなり早く出来上がりましたね。
米光 ずーっと音を録っていたよね。「音を録るために新しい機材を買いました」とかメール来てたし。
岩田 ああ、そうそう。……何をしていたんだ(笑)。
米光 典型的な逃避パターン(笑)。切羽詰まったときにモノを買うって、逃避じゃないですか(笑)。
岩田 でも、おかげでゲームの世界に近づけたんだと思いますよ(笑)。

――当時録音されていた音というのは、どのようなものがあったのでしょうか?
岩田 さっきお話しをした水の音。あとは、自分の声、クリップを入れたケースを振った音……くらいかな。

――そういったことは、ほかの楽曲制作でもされるのでしょうか?
岩田 いえ、まったく(笑)。でも、『バロック』をやってから、こういう環境音が妙に好きになってしまって、趣味で録ったりしました。今回の再発売に合わせて入れた新曲にはそういう音を使っていますよ。

――どういった音を使っているのでしょうか?
岩田 当時住んでいた家からベイシスケイプまでの道のりをずっと録音した一部とか、海に行ったときの波の音とか。でも、ほとんど加工しているので、曲を聞いてもわからないと思います(笑)。あと、今回、ボーカル曲(「奇跡のループ」)を追加しているんですが、そのサビに入る前に「キーーーッ!」って鳴るのは、録音した電車の音を使っています。

●後の人格形成に影響を与えた『バロック』

――『バロック』の楽曲は、ゲーム中のSEと合わせて聴くことで、より完成しているようなイメージに聴こえるのですが、それは意識されていたのでしょうか?
米光 そうですね。ゲームになったときに音がどう作用するかが大事なので、それは意識していました。それと、『バロック』はゲーム自体が1本道ではなく、ループしているうえに、ストーリーが錯綜しているので、プレイヤーによってセリフを聞いたときに「なんだろう?」と思う人もいるし、そのセリフを聞いたときに謎が結びついて、「そうだったのか!」と衝撃を受ける人もいるので、場を盛り上げる音楽を入れても、シーンと合うときと合わないときがあるんですよね。だからこそ、実際の効果音と音楽が交じり合うくらいの、環境音に近いものが理想だったんです。

――できあがったものは、米光さんの理想に近いものだったのでしょうか?
米光 僕も想定していると言いつつ、半ばわからないというか、チャレンジングな作品だったので、想定以上と言えるものでしたね。
岩田 あまり事細かに指示がなかったので、さっきも言いましたがギリギリで曲を出したときに、米光さんの反応を見て「ああ、納得している……ようだなあ」って(笑)。
米光 まだ全曲ができていないころに、とりあえずゲームに楽曲を当てはめてみたらすごくよくて、それは衝撃でしたね。
岩田 ああ、入れてみましたね。……話してるとだんだん思い出してくるな(笑)。当時、サターンの内蔵音源で楽曲を鳴らすと、メモリなどの都合で音質が落ちてしまうことが多かったんですね。でも、『バロック』は“ADX”という、いまではメジャーな方式ができつつあるときで、先駆けてADXを使ったんです。音質が相当悪くなるだろうと覚悟していたときに、ADXデータを使ったらCD並の音質が出せたので、それがすごくよかった。そのうれしさもあって、米光さんも僕も納得するようなものができたんだと思いますね。
米光 じつは、当初岩田さんが作った曲が、単独で聴くと構成ができている“曲”に近いものだったので、逆に心配だったんです。それは、プレイヤーが狭いところに入ったときに、音が広がっていると違和感が出るといったことがあるかなと。でも、ゲームに楽曲を入れると、なぜか合うんです。もちろん最終的には音のタイミングなどは調整するんですが、そういう調整がなくても、「音が広がっているときに、広いところに出ているぞ」って思うんですよね。それは、たまたまなんです。というより、画面と音が合っているときは意識するけれど、メロディアスな曲ではないから、合っていないときは認識されない。それがわかったときに、「これは行けるな」と思いました。

――ちょっとお話しが戻りますが、さきほど詩のようなものが米光さんから送られて来たというお話しがありましたが、それはどのようなものだったのでしょう?
岩田 過去のインタビューで答えたことがあるのですが、詩と言いますか、“クルマに乗って運転していたら、事故を起こしてしまった……”みたいなものが羅列してあって。

――え! そ、そんな内容なんですか!?
米光 シュールな詩というか、ちゃんとした文章にすると曲になってしまうから、これくらい日本語になっていなくてもいいというような、曲のイメージを現したものだったんです。“無数の赤ん坊が泣き狂っている”とか。言葉にすると危ない人ですけどね(笑)。
岩田 僕はますます混乱してしまって(笑)。でも、それで追い詰められてよかったんでしょうね。

――そういう気分になると、実生活に影響は出ませんでしたか?
岩田 ありましたよ(笑)。まわりの人に、「あのころは変だったよ」って言われましたから。とくに、あの当時はよくも悪くも『バロック』に集中できる状況だったので、ほかに気分転換できるものがなかったんですよね。毎日、大丈夫か大丈夫かと不安になりながら、音ネタを録っていました。

――米光さんはそういう状況にはならなかったんですか?
米光 僕もダークにダークになりましたよ。ちょうど、1999年のノストラダムスの大予言のちょっと前だったので、世相も暗い時期だったんですね。それに、この作品は当初の開発期間をだいぶオーバーしていたので、悪いという気持ちをつねに抱えつつ、土日もずっと仕事をしていて、『バロック』の世界のことばかり考えていたので、後の人格形成に影響を与えるくらいヤバかったですね。
岩田 “後の”って、当時からいい大人でしょ!(笑)
米光 いやいや、これ作らなければ、もう少し明るくいい子だったよ(笑)。
岩田 そうかなー(笑)。でも、『バロック』を思い出すと、いつもプレッシャーがあったのを思い出すんですよね。それで、米光さんたちに会いに行くと、ゲームがけっこうできていて、ますますマズイと思うんですが、米光さんはいつもこんな感じで、「早くしてください」と催促されることもまったくなくて、本当によかったのかなって。
米光 あのとき、僕も制作が遅れに遅れていたから、「すべてができない!」ってなっていて、催促するどころじゃなかったんですよ(苦笑)。とくに変わったゲームですから、岩田さんだけでなく、スタッフのみんなにも内容が伝わっていなくて、いろいろマズイ状況だったんですよね。しかも、サターン後期の時代に作っていたんですが、当時セガがドリームキャストに移るなかで、“セガは、倒れたままなのか?”という広告を打ったりして。僕が深夜に帰ってテレビをつけると、テレビで“セガは、倒れたままなのか?”というCMをやっていて、「俺、いまサターン用にゲーム作ってるよ!」って、憤慨したのを思い出しました(笑)。

――あのキャンペーンありましたね(笑)。
米光 そういうこともあって、岩田さんに催促するよりは、岩田さんが来てくれると、気分転換というかリラックスタイムになっていたんですよね。

●再発売に合わせて追加された新曲

――今回の再発売に合わせてボーカル曲の「奇跡のループ」が追加されていますが、これを入れようと思った理由をお教えください。
岩田 当時は、『バロック』にボーカル曲は合わないなって思っていたんですが、ボーナストラックとして入れるならアリかなって思ったんです。あと、プレイステーション版にはボーカル曲の入ったオープニングが入っていましたよね?
米光 それは、会社からの意向でタイアップで入れることになったんですが、正直、ボーカル曲は合わないよなーって思っていたんです。しかも、オープニングに入れることが決まっていて。でも、これがゲームの最初に流れるのは違うと思って、まずサターン版と同じオープニングを出して、その後ゲームのループデモを挟んで、タイアップのオープニングが流れるという方法にしたんですよ。
岩田 このゲームのために組んだユニットでしたよね。だから、名前も“バロックモード”で。
米光 そうなんです。本当にありがたいことで。しかも、いい曲なんですよ。でも、当時の僕は「この世界とは違う!」って思っちゃったんですね(苦笑)。
岩田 そのボーカル曲を思い出したこともあって、ボーカル曲にしようというアイデアが出たんだと思います。それで、詞を米光さんに依頼したら、いまの完成形とは違う詞とともに、“歪み始めている少女が寝ている。彼女には人工呼吸器がついている”といった設定のようなテキストも入っていて。要するに、“大熱波”というゲームのオープニングにあたる現象が起こる直前という設定を記したテキストだったんですね。それを見て、「これはおもしろい」と思って。だから、『バロック』と言うと、いろいろな人が想定するのは、狂ったような曲調だと思うんですが、まだ世界が歪む前なので、曲調をポップスにして、詞が少しおかしいものになっているんですね。……って、僕がしゃべるより米光さんがしゃべったほうが(笑)。
米光 ああ(笑)。最初にチャットで相談されたときは、岩田さんが「歌ものにしようかどうしようか悩んでいる」と言っていたんですよね。でも、いまの僕はバロックモードもよかったと思っているくらいなので、「歌ものいいですね!」とノリ気だったんです。それが、むしろ岩田さんが「あまり作ったことないから」と尻込みをしていて。それで、僕が先に設定付きの詞を作って送ったんです。そのころは、ちゃんとした曲を想定していなくて、歪み始めた世界で、世界の異変を察知した敏感な少女の部屋に呼吸器の音が鳴り響くという。また環境音が鳴るようなシチュエーションに、ラジオで曲が流れてくるという設定を書いたんです。

――なるほど。
米光 そのやり取りを経てボーカル曲に決まって、改めて詞を書いたんです。でも、作詞は初めてだったので、チャットモンチーとかMr.Childrenとか売れている曲を聴きながら、「こうやってやるんだー」と思いながら詞を書きました。歪む直前の世界なので、歌を歌うようなアーティストは敏感に気配を察知していて、ポップスなんだけど歪んでるというイメージで作詞していましたね。

――その詞をもらってから、岩田さんが詞に合わせた譜割りをして作曲されたのでしょうか?
岩田 そうやっていたんですが、どうしても詞と曲が合わない部分が出てきて。とはいえ、レコーディングまであまり日がなくて、米光さんもだんだんテンパってきて、僕もテンパってきて、けっこうたいへんでしたね(苦笑)。
米光 詞が先なのか、曲が先なのか、お互いよくわかっていなかったんですよね。そのころ、ちょうど僕が作詞家の方にお会いする機会があって、お話しをうかがったら「いまは、ほとんど曲が先ですよ」と言われて。それで、「渡した詞を無視していいので、曲を優先して作ってください!」と岩田さんに言ったんですが、けっこう合わせて作ってくれましたよね。
岩田 でも、米光さんに「無理してない?」って言われたりして(笑)。
米光 だって、明らかに無理やり合わせてる部分があったから、「そこは変えますから!」って伝えて(笑)。しかも、僕も1番、2番の構成なのに、2番だけ詞が異常に長くしていたりしましたからね。
岩田 もともと文字が多かったから、すごい長い曲になっちゃいましたね。
米光 その辺もわかってなかった(笑)。短くしようかって話もあったんです。「これ、カラオケで歌ったら迷惑な歌じゃん!」とか言って(笑)。

――長いですからね(笑)。
米光 そうなんです。でも、「これ、カラオケで歌う?」っていう話も出てきて(笑)、これはこれでいいだろうということになりました。

――歌い手は、青木春子さんですが、歌い手さんはどのように決められたのでしょう?
岩田 僕はボーカル曲をほとんど作ったことがなくて、あまりツテがなかったので、弊社の金田(金田充弘氏。代表作は『グランナイツヒストリー』など)がよくいっしょにお仕事をしている青木さんを、紹介してもらったんです。

――あまり明るい曲調ではないのに対して、歌いかたがとても明るい印象を受けました。
岩田 そうですね。そう感じると思います。僕も、最初はそこが不安になったんですが、歌ってもらったものを聴いたときに、このギャップはいいなと思ったんです。むしろ、青木さんにこんな歌を歌ってもらっていいんだろうかと思ったくらいでした(笑)。実際にレコーディングで生で聴いたときは衝撃的でしたね。
米光 僕もレコーディングに立ち会ったんですが、あまりに感動して泣きそうになったくらいでしたから。
岩田 ……米光さんが泣きそうになるくらい感動したのには理由があって。……これ言いたくないなあ(笑)。

――……どんな事情が?
岩田 歌詞の最終調整の段階で、ピアノでメロディーを付けて米光さんに渡していたんですが、米光さんから「これじゃ詞をどうやって合わせていいかわからないよ。音痴でもいいから歌って」って言われて。「僕が!?」と(笑)。でも、レコーディングまであまり日もなかったので覚悟を決めたんですが、それを言われたのが夜の11時で、しかも僕の家は住宅街にあるので、あまり大声で歌えないと。だから、すごい押し殺した声で午前3時ころまでかかけながら、「ダメだ。ここはオクターブが出ない!」と、1オクターブ下げて無理やり歌ったりしていました(笑)。

――すごい状況ですね(笑)。
岩田 それこそ『バロック』的な雰囲気ですよ(笑)。それで曲を送って。
米光 僕はそれをもらって、聴きながら詞を直すので、無限ループになるほど聴き込んで「こんな曲かあ……」って思ってたんですよ。それが、レコーディングに行って青木さんの歌声で曲を聴いた瞬間に、「ぜんぜんちがーーう!」ってすごい感動しました(笑)。
岩田 僕が歌った曲は、「奇跡のループ -地獄編-」って呼んでましたね(笑)。
米光 あれも収録すればよかったのに。
岩田 僕が社会的に抹殺されちゃう(笑)。でも、おもしろかったのが、僕が歌った後、ネガティブだった詞がけっこう明るくなったんですよ。それで、「ずいぶん変わりましたね?」と米光さんに聞いたら、「いやー……、歌が暗くてねー」って言われて(笑)。
米光 だんだん気分が沈んでいくのに対抗するべく(笑)。
岩田 でも、青木さんの声もありましたし、そっちのほうがよかったですね。
米光 今度、トーク&ライブイベント(→こちら)をやるんですが、ぜひ皆さんに青木さんの生歌を聴いていただきたいですね。

――イベントでライブがあるんですね。
米光 そうですね。あとは、岩田さんのトークで“ゲームサウンドの作りかた”とか。目の前で音を録音するのとかやってよ。
岩田 いやいや(笑)。

●米光×岩田で作る新作は?

――ボーカル曲の「奇跡のループ」をゲーム内で使うとしたら、どこで使いますか?
米光 最初か最後かなあ。ゲームが始まる前の状況設定なのでオープニングに使うか、ほかの曲に比べると明るい曲調なので、エンディングに流れるといいかなと思いますね。

――設定的に“バロック ゼロ”というタイトルが付きそうなイメージですよね。
米光 『バロック』に入れるには難しいので、この曲に合わせて別のゲームを作りたいくらいですね。

――おお! 『バロック』の続編、スピンオフなどを望む声も多いと思いますが?
米光 この詞を作るときに設定を整理し直したから、もう一本くらいは作れるなと思ったんです。でも、ゲーム作るのたいへんだからなあ……(笑)。

――(笑)。でも、期待しています! ちょっとお話しは逸れますが、もし、いまの米光さん、岩田さんが組んでゲームを作るとしたら、どんなゲームになると思いますか?
米光 いま、iPhoneなどのスマートフォンにGPS機能が付いていて、現実の位置と連動できるから、現実の世界に鳴っている音をスマートフォンを通してどう聴こえるか……というのを楽しむものがやりたいですね。だから、岩田さんには曲を頼むというより、どう変換すればいいかを考えてもらう、サウンドコーディネーターみたいなイメージ。
岩田 はー、なるほど。
米光 たとえば、いま壁にかかっている時計の秒針の音だけが大きく聴こえると、現実感が変わると思うんですよね。それがゲームなのかと言われると難しいんですが……。でも、そこに殺人事件のストーリーなどを加えて、ここが殺人現場だとして、時計の秒針だけが大きく聞こえたら、それは時計に何か仕掛けがあると思いますよね。そういうのができたらおもしろいですね。曲を頼むのではなく、音環境そのものをどうするかをディレクションしてほしい。
岩田 それはARのサウンド版ですよね。なるほど。しっくり来ました。『バロック』を突き詰めたようなゲームは、もうほかのメーカーが出していると思うんですよね。音楽がなく、環境音だけという作品は、もういまではふつうですし。それが、さっき米光さんが言っていたようなシステムだったら、そこに歪みが発生しているという解釈をすると、とても『バロック』らしいと思いますね。
米光 『バロック』は、世界に散らばっている感覚球が世界の情報を吸収し、修正して出すという世界背景なので、それといっしょだもんね。
岩田 プログラム側で用意したランダムではなく、本当のランダムな要素が加わったものがユーザーに返ってくるというのは新鮮ですし、作品に対する没入感もすごいでしょうね。現実に影響が出すぎて、『バロック』禁止令が出るかもしれない(笑)。

――現実の世界が本当に『バロック』のようになりそうですね(笑)。それでは、最後に『バロック』ファンにメッセージをお願いします。
米光 僕がずっと聴いているくらいとてもいい曲ですので、ぜひ同じようにずっと聴いてください。ただし、朝以外(笑)。あと、イベントもおもしろくなりそうなので、いらしてください。
岩田 僕としては、とてもゲームの世界観に合った曲ができたなと手応えがあります。……作っている最中にはまったく手応えは、なかったんですが(笑)。発売後のユーザーさんの反応を見ても大きな反響をいただいていますし、レア物になって手に入らなかった方もこの機会に入手して『バロック』の世界に浸ってください。あと、イベントもやりますので、参加して楽しんでください。

――ありがとうございました!