ファンとクリエイターが集結した1年越しの大感謝祭!
2012年1月7日、東京・ラフォーレミュージアム原宿において、ニンテンドーDS用ソフト『Solatorobo それからCODAへ』の発売1周年を記念したイベント“ソラトロボ感謝祭 それから2012”が開催された。
最初に登場したのは、サイバーコネクトツー代表取締役社長で、『Solatorobo それからCODAへ』(以下、『ソラトロボ』)ではエグゼクティブディレクターを務めた松山洋氏だ。
松山氏は、「『ソラトロボ』のイベントは、昨年5月に開催した“Solatorobo博物館”に続いて2回目です。そのときも感じましたが、いまから1年以上も前の2010年10月に発売されたタイトルを、いまでもこんなにもたくさんの方に応援していただけているのは本当にありがたいことです」と挨拶。このイベントが、タイトル通りファンへの感謝の思いを届けるために開催したものであることを改めて説明した。
イベントの最初のコーナーは、『ソラトロボ』のクリエイターたちによるトークライブだ。登場したのは、デザイン原案とディレクターを務めたサイバーコネクトツーのWAKA氏、オープニングアニメーション監督を務めた山川吉樹氏、キャラクターデザインを担当した結城信輝氏。制作に3年を費やし、さらに発売からは1年以上が経過しているということで若干記憶が曖昧になっていたところもあったようだが、それも含めて、笑いと感嘆に満ちたトークが展開されていった。ここでは、その内容を抜粋して紹介しよう。その場の会話の流れをなるべく忠実に再現するため、文章が乱れている部分についてはご容赦いただきたい。
また『ソラトロボ』は、1998年に発売されたプレイステーションの名作『テイルコンチェルト』と共通の、“リトルテイルブロンクス”と称する世界観をベースに制作されている(また、どちらもキャラクターデザインは結城氏が務めている)。トーク中には頻繁に『テイルコンチェルト』の話題が登場するので、以上のことを踏まえたうえで読み進めてほしい。
Q1 『ソラトロボ』の企画を見たときのファーストインプレッションは?
結城 前作にあたる『テイルコンチェルト』からかなり時間が経っていましたから、変な話……この会社はまだあったのか、と(笑)。
松山 ありましたよ! 『.hack』も『ナルティメット』もがんばって作っていましたよ!(笑)
結城 (笑)。『テイルコンチェルト』は企画書を見た時点でひと目惚れをしたタイトルで、スケジュール的にキツイ時期なのに、無理矢理引き受けたんです。だから、あれから10年が経ってこういう企画があがってきたこと、そしてそれをほかの誰でもなく、僕に持ってきてくれたことがうれしかったですね。
松山 バンダイナムコゲームスとの企画会議でも、最初からキャラクターデザインは結城さんしかいないから、という話をしました。「断られたときのために別の候補も考えてくれ」と言われましたが、「いや、結城さんしかいない」って。
結城 実際、取りかかってからはだいぶお待たせしちゃいましたけどね。
松山 本当にね(笑)。でも点数が多かったですし、ほかのお仕事も手がけられていましたから。山川さんとは、だいたいキャラクターのイメージが固まったくらいの時期に、動いているROMと、企画書、設定資料などを持ってお会いしたんですよね。そのときの印象はいかがでしたか?
山川 ワシでいいんかい、と。当時のマッドハウスのプロデューサーにも何度も確認したんですけど。こんなにしっかりした設定資料があって、キャラクターデザインが結城さんでしょ。本当にワシでいいの? って。
松山 (観客に向かって)本当に言っていたからね、この人(笑)。打ち合わせの最中もずっとこんなかんじ。
山川 僕のやってきた仕事って、ふわっとした、資料は1~2枚、みたいなのばっかりで。ちゃんとしすぎていて、いいのかなって。
松山 アニメーションの制作には結城さんにも関わっていただきましたよね。直接作画の修正までしていただいて。
結城 監修みたいなポジションだったけど、やっぱり本職はアニメーターなので、ちょっと手が出ちゃいました。本当は作画監督の人も知っているし、うまいのはわかっていたんだけど。ちょっとだけ、愛を乗っける感じで。
松山 制作の都合で、アニメ―ションの色指定のほうが先になったキャラクターもいましたよね。ネロとブランクとか。そこはいかがでしたか?
山川 僕ね、監督とか演出とかやっているけど、いろんなことがさっぱりわからないんですよ、本当に。専門学校も出ていないし。頭の中が白黒で、色を付ける作業というのができない。フォトショップもいじれないし。でもこの業界は、専門職の人がいっぱいいるから、専門職にまかせようと。それを組み合わせて、ときどき趣味を出したりして。色は、あがってきたら「なるほど」で終わり(笑)。だってプロがいっぱいいるんだもん。
松山 こう言ってますけど、この人、絵がめちゃめちゃうまいですから。それに、絵がきれいな作品を手がけられることが多いですよね。
結城 ほかのうまい人たちがいっぱいいるってことだよね。
松山 またそういうことを言う(笑)。でも今回『ソラトロボ』では、マッドハウスのスタッフさんにもたくさん関わっていただいて。豪華な方を集めていただきましたよね。
山川 マッドハウスのプロデューサーががんばってくれたのと、結城さんつながりでね。
松山 コンテも早かったですよね。一発オーケーだったし。
山川 そうそう。いままで、ゲームのムービーは何本か手掛けたことがあるけど、『ソラトロボ』は、チェックの返答が早かったのがビックリした。
松山 そこは、弊社でも、ほかの会社などからの仕事を待つことも多いので。こちらからは、早くお返しするようにとつねづね心がけています。
Q2 『ソラトロボ』で好きなキャラクターは?
WAKA いろいろあるんですが、エルですかね。影がちょっとあって、深みがある感じがしますよね。何よりも、ツンデレだからいいのかな(笑)。うちのゲームのキャラって、ツンデレが多いですよね。
山川 アニメーター的に言うと、結城さんのキャラだから、描きたいキャラばっかりなんですが。なかでもネロとブランクは、もっと出番を増やしたかった。
松山 ファンブックに寄稿していただいたイラストもネロとブランクでしたよね。
山川 それはね、僕にはケモノキャラが描けないってことがわかって。
松山 ……監督だよね(笑)?
山川 (笑)。ネロとブランクは、「あ、人間だ!」って。それであのふたり(笑)。どうもケモノキャラは、バランスがね、自分の中で納得がいかなくて。それとあのイラストの色は、色指定担当の子に塗ってもらったんですよ。動画用紙と、お菓子を持っていって、「やって」って(笑)。
松山 ええっ! 初めて知りましたよ(笑)。
結城 僕はメルヴェーユ。いちばん自分でいじっていないキャラで、ほぼWAKAさんのデザイン原案のまま。マズル(鼻のライン)がシュッとしていて、色っぽい、つんとしたお姉さんで、「これ最高!」って。それを活かす方向でやらせてもらいました。
松山 僕もメルヴェーユさんが好きで。マズルのシュッとした感じ、いいですよね。
Q3 『ソラトロボ』に携わった中でこだわったことは?
WAKA やっぱり、設定。膨大な設定に基づく世界観、それをうまくビジュアル表現することですね。
松山 そうだね。じつはモーションイラストデモは、最初全部2Dで、昔のゲームみたいな感じで作ったんだけど……あがってきたものを見たら、まぁフツーで。それで、エルが寝ているシーンを、ポリゴンメッシュで割って、ちょっと立体的な“2.5D”で見せるっていうのを実験的にやってみたんだよね。これが、エルの寝顔が完成した段階で、「いいね、いけてるね」となって、そこから全部作り直し。1年半くらいかかったね、あれ。では山川さんは、一部、二部のアニメーションを制作するえで、こだわったところはどこですか?
山川 キャラクターについては、加藤さん(加藤裕美氏)と島村さん(島村秀一氏)に任せられたので大丈夫ぶだな、と。そこでメカのほうをね。このゲームのメカって、ビスが付いとるメカじゃないですか。大好きなのね。それで、先ほどは色指定ではうんぬん言わない、と言っていたけど、「ゲーム中で、大砲を撃ったときに黒い煙にしてくれ」というのは言いました。古い感じの、黒色火薬でバーンと撃っている感じ。でも、「メカはがんばらなきゃなー」って思っていたら、加藤さんがメカもすごくうまいって知って。あ、これも任せておいて大丈夫だ、うまい人は何を描いてもうまいんだな、って(笑)。
松山 (笑)。でも、懐かしい感じ、レトロ感というのはよく話していましたよね。
山川 スーパーメカにしたくなかったんですよね。それは打ち合わせでも何度も話しました。打ち合わせでは、なるべく話した内容を忘れないように、いっぱい雑談もしましたが(笑)。
松山 しましたねー。●●●●の悪口とか、いっぱい言っていましたよね(笑)。
山川 いやいやそれはやめて(笑)。仕事が来なくなっちゃうから(笑)。
結城 僕がデザイン、イラストを描くにあたって、打ち合わせの中で一貫して言っていたのは、ニンテンドーDSで出すという部分もあって、子どもにアピールすること。そこを外しては、ゲームとしては違うかな、というところはあったし。もともと『テイルコンチェルト』も、子どものユーザーを意識した仕様だったじゃないですか。今回、最初に企画のデザイン原案を見せてもらったときにも、企画を10年練り続ける中で、迷走している感じがしたんです。「きっとWAKAさんも、何回も何回もダメ出しされてるよね」っていう感じの絵がたくさん描いてあって。主人公も、最初シンプルだったのがごてごてしていって、パーツも増えて、なんだかよくわからない状態になっていた。もちろん『テイルコンチェルト』とは別のゲームではあるけど、僕が想像していた『テイルコンチェルト』に続くものとしては違うだろうと。そこでまず、「頭身や、服装のディティールの量、パーツなども調整させてもらっていいですか?」というお話をして、いったんさっぱりさせた形でイラストを上げました。
松山 結城さんに絵を上げていただいたところで、スタッフのイメージが統一できましたよね。
結城 ただアニメだと、寄ったり引いたりするじゃないですか。それで、寄ってみたときに「ちょっと寂しいな」となって、いったん省いたパーツをまた描きこんで、WAKAさんのデザイン原案に戻ったりしたところもけっこうあるんですが(笑)。
クリエイタートークに続いては、サイバーコネクトツー作品には欠かせない存在である、LieNによるライブが披露された。LieNは、ボーカル担当の三谷朋世氏と、作詞・作曲・編曲担当の福田考代氏による女性ふたりの音楽ユニットだ。LieNは、『ソラトロボ』主題歌の『~それからCODAへ』から始まり、『流れ星☆キラリ』、『Re-CODA』と、『ソラトロボ』関連のボーカル曲を3曲披露。さらに、このライブに合わせて書き下ろしたという新曲『Thank you for…』を初披露した。
新曲について福田氏は、「昨年は大震災もあり、家族や友だちとのつながりを実感した年であったと思います。いままでゲームのイメージに合わせて曲を作ってきましたが、この曲は、LieNからのメッセージとして作りました」と語り、特別な思いを込めて作った曲であることを説明。また三谷氏も、「歌詞の中に、“ありがとう”という言葉がたくさん出てきます。言わなくても伝わる気持ちもあるけど、やっぱり言葉にすることって大事です。とくにありがとうという言葉は、誰かに感謝したときには、素直に言える人でありたいし、皆さんにもそういう人であってほしいです」と、この曲に込めたメッセージについて語っていた。
続いて、『ソラトロボ』に関わったクリエイターたちの直筆サイン色紙を賞品としたプレゼント抽選会が行われた。それぞれの個性がダイレクトに表現された、この世に1枚しか存在しない貴重なプレゼントに、運良く当選した人たちは大喜びしていた。
この日イベント会場に来ていなかったクリエイターからは、色紙に描いている最中の様子も収めたビデオメッセ―ジが披露された。
最後に、この日登壇したクリエイターたちからのメッセージが語られた。
【WAKA氏】
『ソラトロボ』をひと言で表現すると、“絆”です。ゲーム中でも、いろいろな絆を描きましたが、実際に、ゲームを発売して1年以上経ったいまでも、こんなに多くの方に来ていただけて、愛していただけていることがわかって、うれしくて、楽しかったです。応援してくださる皆様、本当にありがとうございます。これからもサイバーコネクトツーと『ソラトロボ』を愛してくださるとうれしいです。
【山川氏】
結城さんと仕事をさせてもらえてありがとうございます(笑)。いいなぁ、あの色紙。なんたってファンですから。自分自身の仕事については……いろいろあるような気もするんだけど……っていう感じです(笑)。
【結城氏】
発売して1年も経ったゲームで、こんなにアツいファンの人たちが集まってくれるとは、正直思っていなくて。こんなおっさんたちのしゃべりで、開場がガラガラだったらどうしようかと心配していたけど、杞憂に終わってよかったです(笑)。ビデオレターで犬丸さんも言っていましたが、このシリーズ、まだまだ続きますので……と言いたいんですけど、どうでしょう、松山さん?(笑)。そのときにも、僕の名前があることを祈っています。これからもよろしくお願いします。
【LieN:三谷氏】
楽しい時間ってあっという間ですね。『ソラトロボ』の曲も、もっと増えたら、もっと長くライブできるのかな。と思うので。続きが……あるのかな(笑)。いい歌を通じて、みなさんと再開できたらな、と思います。今後ともよろしくお願いします。
【LieN:福田氏】
ありがとうございました。またいつか皆さんの前で、歌を披露できる機会がありましたら、ぜひ。つぎの機会を楽しみにしています。
【松山氏】
なかなかゲームソフトって、とくに日本では、発売するまでがピークで。発売後はメディアにも取り上げられなくなるし、お客さんも冷めてしまうことが多いんですよね。それがこんなに長く、深く応援してもらえるのはすごく幸せで、励みになります。そして、デベロッパーがこういうイベントを主催することってあまりないとおもいますが、それを許してくれるバンダイナムコゲームスさんの寛容さには、つくづくありがたく思います。関わっている皆さんにお礼を申し上げたいです。
我々は皆さんの応援がないと何もできないけど、逆に言えば、応援さえあれば、どんなことだってできるんですよ。そう遠くないうちに、“リトルテイルブロンクス”の世界で、みなさんにご挨拶したいと思っています。どんな媒体になるかはわかりませんが。皆さんの応援がある限り、“リトルテイルブロンクス”の世界は永遠に不滅です!