SHINOBIとしての記憶が呼び覚まされる……
セガから発売中のニンテンドー3DS用ソフト『Shinobi 3D』は、『忍』シリーズ伝統の2D横スクロールを踏まえつつ、ニンテンドー3DSならではの立体表現を取り入れた忍者アクションだ。そんな同作の魅力を、『忍』シリーズを遊び込んできたライターの戸塚伎一が語る。
我がゲーマー人生を振り返ってみて、もっとも脂が乗っていたのはいつごろだったかというと、1990年代の前半だったように思います。動体視力やら反射神経がよい年ごろだった、というのもあるけど、当時好んでプレイしていたゲームの傾向も、決して無関係ではありません。
そのころの私が公私ともに利用していたゲームハードは、メガドライブ。セガが1988年にリリースした16ビットCPU搭載の家庭用ゲーム機で、同時代のアーケードゲームやPCに近い性能を安価で実現した、コアゲーマー向けのアイテムでした(余談ですが、1990年代まではメインCPUのビット数が、ハード性能の重要な判断基準でした。こうした風潮は、各社のハード性能がだいたい横並びになってきた2000年代以降、なりを潜めていきます)。
本体発売当初から横スクロールアクション、シューティングといったジャンルが充実していたメガドライブですが、それらの特性が極まったのは、冒頭に挙げたまさにその時期。多様性が増したアクション操作と攻略要素がガッチリ組み合った好タイトルが数多く発売され、それらをいちいちやり込んではエンディングを眺め、悦に入るのが日常でした。後に「どうしてクリアーできたんだろう」と思うほど高難度の作品もチラホラあり、我ながら当時のゲーム戦闘力の高さに呆れます。
前置きが長くなりましたが、今回プレイした『Shinobi 3D』は、そんな時代の記憶が脳裏に、指先に蘇る作品でした。
決して甘くはなかった、忍者軍団の“洗礼”
プレイヤーが操るのは鎌倉時代の天才忍者、ジロー・ムサシ。忍びの里を襲った謎の忍者軍団を追いかけていたら、なぜか西暦2056年の未来にタイムスリップしてしまい……というストーリーのトンデモぶりはさておき、多彩な舞台シチュエーションで華麗な忍者アクションを楽しめます。
ムサシ姓を名乗る主人公、敵対組織名がZEED……といった設定は、1987年にセガがリリースしたアーケードゲーム『忍 -SHINOBI-』の名残を残すもの。“日本刀と手裏剣、そして忍術を駆使する横スクロールアクション”というゲームスタイル、“古風な身なりの忍者が近未来的世界で大暴れ”というビジュアルイメージも、本作に継承されています。
遠くにいる敵には手裏剣投げや一気に間合いをつめる攻撃で対抗し、敵からの攻撃は防御アクションで回避。敵が密集する難所は八双飛び(二段ジャンプ)からの八双手裏剣など大技を駆使して突破……というゲーム性であることはプレイしてすぐに把握できました。あとはセオリーを見つけてスイスイ進むだけと思っていたのですが、どうもうまくいかない。最初のステージからガンガン死にまくるのです。
遠方で待機しているザコ敵は絶え間なく手裏剣攻撃をくり出してくる上に、接近戦の反応速度も高め。防御しようにも、ボタン入力した一瞬しか弾いてくれないので、タイミングを外すとたちまち袋叩きにあいます。そして何より、敵キャラや障害物の配置がいやらしい。「スムーズに進めると思っただろ。甘いんだよ!!」というステージデザイナーの勝ち誇った顔が目に浮かぶ絶妙さに、歯ぎしりすることしきりでした。
この、わかっているのに同じところで何度も引っかかるもどかしさは、1990年代前半にメガドライブのアクションゲームで散々体験した感覚と同じ。確立された攻略法と精度の高いアクション操作がガッチリ噛み合っていないとどうにもならないシビアさは、当世の商業用タイトルにあっては異端です。ゲームレビューの際には、作り手がノーマル(標準)と設定する難易度でプレイすることをつねとしている私ですが、最初のボス、雪女にたどり着くか着かないかのところで10回ほどゲームオーバーになった時点で、プレイヤーの残り人数が無制限になるイージー設定に、そっと変更しました……。
無理が通れば道理が引っ込む場面展開
本作は、基本的には忍者を直接操作する横スクロールアクションですが、各ステージの特定シーンでは、ニンテンドー3DSの性能を活かした特殊なシチュエーションでのアクションを楽しめます。
馬に跨って林道を疾走、ジェットボードに乗って水上をスイスイ……といったシーンは、画面の奥行きがゲーム性に直結している3Dアクションゲーム風。通常とは異なるよりシンプルな操作系統でスピード感あるゲーム展開を楽しめます(ちなみに、画面奥から近づいてくる忍者を手裏剣で倒すボーナスステージは、初代『忍 -SHINOBI-』のボーナスステージのリメイクです)。
基本操作はそのままに、場面演出の手法として画面の奥行きが大胆に用いられているシーンもあります。先行する武装車両のミサイルでつぎつぎと破壊される走行車両の天井をジャンプで乗り継いだり、画面奥から続いている道路からやってくるトラックをよけながら進んでいくシーンなどが、それです。
見映えするシーンが要所要所に入るサービス精神旺盛な構成は、1989年リリースのメガドライブ用ソフト『ザ・スーパー忍』および、1993年リリースの続編『ザ・スーパー忍II』で確立した路線そのもの。画面展開の必然性よりも、3Dグラフィックのインパクトと視覚的説得力を重視した作りは、ある意味、シリーズの正当な進化の方向性といえるのかもしれません。
ムネン、アトヲタノム……
攻略課題としてのソリッドなアクションゲームらしさをキープしつつ、現行ハードの機能、パフォーマンスが惜しみなく活かされている本作。苦労の末に迎えるエンディングは、底知れぬ達成感を得られます……と締めたかったのですが、けっきょく私は、この原稿を書いている時点でクリアーできませんでした。昨今の親切設計のアクションゲームに慣れ過ぎたからか、単に齢をとったことで諦めない気持ちが低下したせいかは定かではありませんが、「これ以上は自力で進めない」という壁にぶち当たってしまったのです。残り人数無制限なら、さすがに何とかなるだろうと思っていただけに、我ながらショックでした。
お世辞にも『Shinobi 3D』は、誰もが気軽に楽しめるタイトルとはいえません。かつてアクションゲーマーとして腕を鳴らした記憶がある人でさえ、私のように高難度の前に屈する可能性があります。
とはいえ、いくら難しいといっても閉口するような理不尽さはなく(初見殺しな地形構成はところどころにありますが……)、テーマはあくまでも、「見えている課題をいかに実行するか?」という部分。自分自身との戦いに前向きに取り組めれば、本作はそのときどきで姿かたちを変える、挑み甲斐のある“山”となるでしょう。
幸いにして(?)、すれちがい通信でアンロックされていくチャレンジステージは、本編を凌ぐストイックな攻略プレイが要求される難関揃い。そうやすやすと、頂上にはたどり着けないようになっています。
■プロフィール
ファミ通Xbox 360誌でクロスレビューを担当する文章&まんがかき。メガドライブで遊んだ横スクロールアクションゲームといえば、『ザ・スーパー忍』シリーズ以外には、『E-SWAT』、『セイントソード』『JUJU伝説』『ジェームスポンド2 コードネーム ロボコッド』あたりが印象に残っています(よくも悪くも)。当時の雑食ぶりは若さゆえ……だったのかな。
『Shinobi 3D』
■発売日:2011年11月17日
■発売元:セガ
■価格:5229円[税込]
■テイスト:忍者
■ジャンル:アクション
■プレイ人数:ひとり
■対象年齢:12歳以上対象