バーチャル空間で味わうコンスタンティノープル

 『アサシン クリード』シリーズは、SFファンタジーである。

 シリーズのファンからすると、「何をいまさら……」という話だが、このことを知らない人がじつはけっこう多かったりする。週刊ファミ通で『アサシン クリード』シリーズの記事を書いていて、読者のアンケートはがきの反応を見ていると、「よくわからないけど、中世ヨーロッパを舞台にした時代モノなんでしょ?」という意見がわりとあるのだ。……いや、その認識は間違ってはいないけれど、本シリーズのストーリーは単なる時代モノよりも、もっとユニークで、過去と未来がリンクする多層的な構造だったりする。その魅力に触れないのはもったいない! というわけで、まずはシリーズ作品をプレイしたことがない人のために、本作のストーリー概要について簡単に説明しておこう。

 『アサシン クリード』の真の主人公は、中世で暗躍した暗殺者……ではなく、2012年に生きるデズモンド・マイルズという青年だ。シリーズの1作目は、デズモンドが大手企業アブスターゴ社に拉致されたところからスタート。デズモンドは行動の自由を奪われ、アブスターゴ社が開発した“アニムス”と呼ばれる特殊な機器の上に乗せられる。このアニムスという装置は、使用者の遺伝子に刻まれたDNAの情報をもとに、先祖の記憶をバーチャル空間で再現するというもの。じつはアブスターゴ社の正体は、過去から現代まで連綿と続く“テンプル騎士団”で、現代のテンプル騎士団たちは“ある暗殺者”の記憶に眠る情報を探るべく、暗殺者の末裔であるデズモンドを誘拐したのだ。そしてデズモンドは、10世紀のエルサレムで活躍したという“伝説の暗殺者”アルタイル・イブン・ラ・アハドの記憶とシンクロすることになる。

 ……といった感じで、ガツンと骨太なSFファンタジーが展開していくのが『アサシン クリード』シリーズのメインとなるストーリー。ゲームのジャケットや広告などにドーンと出ていて、多くの人が目にしているであろうフードを被った暗殺者の姿は、じつは青年デズモンドがアニムスを通して見ている先祖の記憶なのだ。『アサシン クリード』シリーズが単なる歴史モノと呼べない理由はここにある。

 そして『I』のラストで、テンプル騎士団が狙っているのは世界を支配する力を持つ秘宝<エデンの果実>だと知ったデズモンドは、アブスターゴ社内にいた協力者の助けで軟禁状態から脱出。テンプル騎士団に対抗するために、『II』の冒頭で再びアニムスを利用し、みずからの奥底に眠っている、15世紀イタリアの暗殺者エツィオ・アウディトーレ・ダ・フィレンツェの記憶と同調する。

エピソード“エツィオ”最終章! 『アサシン クリード リベレーション』インプレッション_01
エピソード“エツィオ”最終章! 『アサシン クリード リベレーション』インプレッション_02
▲アニムスとデズモンド。前作のラストで秘宝の力が暴走し、デズモンドはアニムスの空間に迷い込む。

 こうしてストーリーの概要をざっくりとまとめてみたが、字面だけ見ると、けっこう荒唐無稽で突拍子もない設定に思えなくもない。プレイヤーキャラクターのデズモンドは現代に生きる暗殺者の末裔で、中世の世に名を馳せたテンプル騎士団は大手企業に姿を変えて存続、さらに2012年(来年の話だ!)にDNAの情報を解析するマシンが開発されていたりして……。だが、ゲームを始めると、まったく違和感なく遊ぶことができる。

 本シリーズの世界観に説得力を与えているのは、圧倒的な質感とディテールで作り込まれたオープンワールド。プレイヤーは、デズモンドの視点と“シンクロ”するように中世の暗殺者が生きた世界をバーチャルに体験していくことになるが、細部にいたるまで再現された過去の時代の街並に思わず引き込まれてしまうのだ。本シリーズの開発陣は、綿密なリサーチによって10世紀のエルサレムやルネッサンス期のイタリアを再現してきた。歴史的価値のあるランドマークはもちろん、そこに行き交う人々の多種多様な生活様式に至るまで忠実に再現し、“生きた世界”を作り出している。もちろん、シリーズ最新作である『リベレーション』でも、上質なオープンワールドは健在だ。……いや、それどころかさらなるクオリティーアップが図られている。たとえば、ゲームの舞台である16世紀のコンスタンティノープル(現トルコ・イスタンブール)を再現するにあたって、建造物の造形ではストレートな線をなるべく排除し、曲線を多用したという。こうすることで、“建物はゲームに登場するオブジェクトではなく、そこに住まう人々の手で作られたもの”というイメージを表現しているのだ。こうした細かいこだわりの積み重ねにより、本作では、最上級のオープンワールドを体感することができる。街を歩いているとあちこちに新鮮な驚きと発見があり、まるで自分がその場を旅しているかのような気分になってくる。『アサシン クリード』シリーズをプレイしていると、いつの間にか自分自身がデズモンドとなって、アニムスが作り出した遺伝子記憶の世界を追体験しているような気分が味わえる。このバーチャルツアーこそ本シリーズの醍醐味だ。過去と未来がつながる広大な箱庭世界を思いのままに探索できるのがおもしろい。

エピソード“エツィオ”最終章! 『アサシン クリード リベレーション』インプレッション_03
エピソード“エツィオ”最終章! 『アサシン クリード リベレーション』インプレッション_04
▲色彩鮮やかなコンスタンティノープルの街並。エツィオは“異邦人”としてこの地を訪れる。

ベース部分はそのままに、より洗練されたゲームシステム

 さて、『リベレーション』のゲーム部分をチェックしてみよう。ゲームシステムは前作『ブラザーフッド』をベースに、いろいろな要素がアップグレードされた作りとなっている。なかでも特筆すべきは新装備の“フックブレード”。エツィオたち暗殺者は、刃を仕込んだ特殊な籠手である“アサシンブレード”で数々の任務を達成してきたが、コンスタンティノープルの暗殺者たちはアサシンブレードに改良を施したフックブレードを使用している。このフックブレードがあれば、籠手に仕込んだフックを伸ばして壁をよじ上ったり、街のあちこちに張られているワイヤーを伝ったりと、かなりスピーディーに移動することが可能。フックブレードは『アサシン クリード』シリーズのプレイ感覚を劇的に変える、画期的な発明だ。過去のシリーズ作品では建物の屋根に上るときに、キャラクターの動きが若干もたつくことがあったが、フックブレードを使えば、ヒョイっと簡単に移動できるのがストレスフリーな感覚でじつに気持ちいい。このフックブレードによる移動は、ぜひ一度体験してみてほしい。ちなみに、ワイヤーで滑空している際に、足もとに敵がいる場合は“エアアサシン”で急襲することも可能。プレイヤーの好きな手段でターゲットを暗殺できる『アサシン クリード』シリーズでは、暗殺時のアクションのレパートリーが増えるのはありがたいことだ。

エピソード“エツィオ”最終章! 『アサシン クリード リベレーション』インプレッション_05
エピソード“エツィオ”最終章! 『アサシン クリード リベレーション』インプレッション_06
▲ワイヤーを伝って移動したり、フックを引っかけて上ったりと、フックブレードはかなり実用的。

 また、『ブラザーフッド』で好評だった、街の再興システムも本作では若干変更されている。前作ではテンプル騎士団が支配するエリアを奪うことで“アサシンの弟子”を増やせたり、周辺地域の店を再興することが可能となった。『リベレーション』でもシステムのベースとなる部分に変わりはないが、新たに“テンプル騎士団認知度メーター”が加わっている。このメーターは、おもに下記の行動を取ることで上昇する。

・敵の兵士に見付かって騒ぎを起こす
・街の施設を再興する
・アサシンの弟子を勧誘する

 ……要するに、街で目立つ行動を取ると逐一溜まっていくというわけだ。過去のシリーズ作品をプレイしたことがある方には、“警戒度”が蓄積されていく仕組みとほぼ同じ、と言えばわかりやすいだろう。だが、“警戒度”が溜まったところで敵に見つかりやすくなるくらいのものだったが、“テンプル騎士団認知度メーター”のほうはもっと厄介。“テンプル騎士団認知度メーター”が満タンとなり、さらにそのうえで目立った行動を取ると、テンプル騎士団から奪ったアジトの位置が敵にバレてしまい、襲撃を受けるのだ。テンプル騎士団の侵攻を退けてアジトを守るためには“アジト防衛”のミッションをクリアーする必要がある。

 アジト防衛は、テンプル騎士団の進行ルートにアサシンの弟子を配置して迎え撃つ、いわゆる“タワーディフェンス”タイプのミニゲーム。ポイントと引き換えにアサシンの弟子やバリケードなどを設置できるので、それぞれのユニットの性能を吟味して適材適所に置くのが勝利への近道だ。テンプル騎士団の波状攻撃によって本陣が破壊されると、そのアジトは敵に奪われてしまうのだ。『ブラザーフッド』では、一度奪ったアジトはいつまでもプレイヤーのものだったが、今回は敵に奪い返されるという駆け引きの要素が加わっている。ゲームを進めていくうえで、“テンプル騎士団認知度メーター”はどうしても溜まっていってしまうので、満タンにならないようにこまめに下げる必要がある。メーターを下げる方法は、街の広場でアサシン教団の悪い噂を流している“先触れ”にいくらかのお金を渡して買収するか、テンプル騎士団と通じている“役人”を倒かの2種類がある。前作で“警戒度”を減らすには、ふたつの方法に加えて、街のあちこちに貼ってある指名手配のビラを剥がすという手段もあった。このビラ剥がしの要素は、先触れや役人を捜すよりも簡単で手っ取り早かったので、“警戒度”を下げるのに便利だったのだが……今回はカットされてしまったようだ。これはプレイヤーにとってけっこうな痛手だ。

 記者は、『ブラザーフッド』で街の再興システムにハマり、メインストーリーそっちのけで街を再興させまくった経験がある。『リベレーション』の再興システムも、もちろん楽しみにしていたが、街を再興させるたびに認知度メーターが増えていく仕組みが負担にならないか、やや不安に思う部分もあった。で、実際にプレイしてみて……確かに最初はちょっと面倒臭く感じてしまった。だが、プレイを続けていくうちに、「面倒というよりも、リスクとリターンのバランスを考えると、これがちょうどいい塩梅では?」と思うようになってきたのだ。いま考えると、“ビラを剥がして、ハイおしまい”という前作のシステムはちょっとヌルかったように思える。やはり適度にリスクがあったほうが、“作業”にならなくていい感じだ。というわけで、今回の再興システムにもガッツリハマってしまい、メインストーリーはいったん置いておいて再興に励むことに。街を再興しながらアサシンの弟子の育成も行ってみたが、弟子たちのレベルを上げるとアジトの防衛を任せられるようになったりと、『リベレーション』は、いろいろな要素が密接に影響し合うゲームデザインとなっている。前作でそれぞれ独立していたシステムが、点と点が結ばれて線のようになり、よりわかりやすくなった印象だ。

エピソード“エツィオ”最終章! 『アサシン クリード リベレーション』インプレッション_07
エピソード“エツィオ”最終章! 『アサシン クリード リベレーション』インプレッション_08
▲テンプル騎士団の隊長を始末し、塔に上ってのろしを上げればエリアを制圧できる。

エツィオとアルタイル、ふたりの主人公の物語が幕を閉じる

 『リベレーション』は、暗殺者エツィオの最後のエピソードが描かれるとあって、そのストーリーにも注目が集まっている。今回、最後まで遊んでみて印象に残ったのが、寂しいけれどなんとも心地よい幕引き。本作はまさに最終章と呼ぶにふさわしい作品となっている。

 フィレンツェ(『II』)では殺された家族の仇を討ち、ローマ(『ブラザーフッド』)ではチェーザレ・ボルジアを倒したエツィオは、やがて自分の存在意義について自問自答するようになる。そして数年が経過し、齢50を越えたエツィオは、亡くなった父ジョヴァンニが探し求めていた“書物庫”の存在を知り、かつてアルタイルが過ごした地マシャフ(エルサレム)を訪れる。過去のシリーズ作品では、デズモンドが暗殺者アルタイルとエツィオの生き様を追体験する形でストーリーが展開していったが、『リベレーション』ではエツィオみずからの意志でアルタイルの存在にたどりつくのが興味深い。これまでは、いやおうなしに戦いに巻き込まれてきたエツィオが、自分から進むべき道を模索するのだ。そして、アルタイルの鍵を手に入れたエツィオの脳裏にアルタイルの記憶がフラッシュバックし、アルタイルとの邂逅がエツィオに変化をもたらす……。『リベレーション』のラストでは、エツィオだけではなく、アルタイルの物語も完結を迎える。運命につき動かされ、過酷な戦いに身を投じてきたふたりの暗殺者が、“みずからが生まれてきた役割”の答えを得るフィナーレが、じつにすばらしい。シリーズ作品を通して遊んできたファンにとっては、きっと「これまで遊んできてよかった」と思えるような体験が味わえるはずだ。なお、デズモンドのパートにもダイナミックな動きがあり、こちらも見逃せない内容となっている。

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エピソード“エツィオ”最終章! 『アサシン クリード リベレーション』インプレッション_10
▲エツィオとアルタイルは歳を重ね、みずからが果たすべき“使命”に目覚める。

 ちなみに、ユービーアイソフトは先日、『アサシン クリード』シリーズの最新作を2012年冬にリリースすることを発表した(※日本語版の発売については未発表)。『リベレーション』が発売されたばかりだというのに、少し気が早い話にも思えるが、シリーズのファンとしては非常に楽しみだ。本シリーズは、『II』のゲームシステムをベースに進化してきた作品なので、主人公が変わり、大きな転換期になるであろう次回作では、ゲーム部分にどんな変化があるのか気になるところだ。また、エルサレム、ギリシャ、イタリア、イスタンブールと各地を転々としてきたロケーションが、つぎはどこになるのかなど、いろいろと興味は尽きない。

 ひとつだけ間違いないのは、2012年に発売される『アサシン クリード』シリーズ最新作を余すところなく楽しむためには、『リベレーション』をプレイしておくべきだということ。本作は、次回作への橋渡しとして、重要な役割を担う作品になるだろう。『リベレーション』(前作『ブラザーフッド』も)はナンバリングタイトルではないが、外伝的作品だと思ってスルーするのはじつにもったいない。しっかりクリアーして、つぎなる『アサシン クリード』への準備を整えておこう。

■ヘイ昇平
週刊ファミ通編集者。『アサシン クリード』シリーズ作品はすべてプレイ済み。今回の記事では触れられなかったが、マルチプレイがどのように進化しているかが超楽しみ。現在、ファミ通.comで“『アサシン クリード リベレーション』特設サイト“も掲載中なので、よかったらそちらもご覧ください!


アサシン クリード リベレーション
メーカー ユービーアイソフト
対応機種 X360Xbox 360 / PS3プレイステーション3
発売日 2011年12月1日発売
価格 各7770円[税込]