●主役争奪戦がスタート

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 2011年10月7日、エンターブレインの浜村弘一氏が、業界アナリスト及びマスコミ関係者に向けて“ゲーム産業の現状と展望”と題する講演を実施した。移り変わりの早いゲーム業界の動きに合わせ、半期に一度のペースで実施されている講演だが、今回はとくに時代の流れを感じさせる内容となった。講演のタイトルは“主役争奪戦が始まったゲーム産業〜新型ゲーム機vs.ソーシャルゲームvs.スマートフォン〜”。そしてサブタイトルとして“サービス化するゲーム 時代の主役は誰に”が続く。浜村氏は講演を、つぎの言葉でスタートさせた。

「“ゲーム市場=家庭用”という時代は終わった」

 これは、新たなプラットフォームが乱立しつつあることを示唆する言葉で、主役交代がありうるほど力が拮抗してきていることを表している。浜村氏は、そんな時代の主役を決めるキーワードは「サービス」だとし、本講演を通じてその根拠を語っていった。

 前提として、まずは2011年上半期のゲーム業界市場規模の分析が行われた。結論から書くと、この上半期は前年と比べて、ワールドワイドで6.5パーセントのダウントレンド。日米欧のシェアに大きな変化はなかったが(日本16パーセント、米国45パーセント、欧州39パーセント)、金額ベースでは約860億円の減少となった。その最大の要因を浜村氏は「世代交代の影響」と断言。任天堂がニンテンドー3DSとWii U、ソニー・コンピュータエンタテインメントがPlayStation Vita(以下、PS Vita)、マイクロソフトがkinectと各陣営がつぎの一手を打つ端境期にあることに触れ、具体的にそれぞれのプラットフォームの現状を分析していった。

●PSP(プレイステーション・ポータブル)

 PSPを指して浜村氏は「日本市場において、もっとも熱く盛り上がったハード。間違いなく、今年の主役」と絶賛。実際、PSPはずっと品薄状態が続いており、ロンチから7年が経ったいま“最盛期”を迎えていると言える。しかし、スクリーンに映し出された2011年上半期ソフト販売本数TOP20を見ると、TOPの『第2次スーパーロボット大戦Z 破界篇』が約38万本。累計トップの『モンスターハンターポータブル 3rd』の約450万本はもとより、昨年の上半期にもっとも売れた『メタルギア ソリッド ピースウォーカー』の約76万本にも及ばない。それなのになぜ、ハードが品切れになるほどの人気をキープしているのか? その答えを浜村氏は「ゲームの質的な転換が起こったから」だと言い、つぎのように続けた。

「PSPは『モンスターハンターポータブル』シリーズの大ヒット以降、“つながる”ことが最大のトレンドとなった。その影響もあり、発売されるゲームの3分の1がマルチプレイのアクションゲームに。これにより、友だちに薦められてソフトを買ったり、自分がプレイをやめようと思ってもまわりの影響で再開したりといったことが起こっている。結果、ソフトの長寿化が進み、市場の熱さを形成した」(浜村)

 ではすべてが『モンハン』頼みだったのかと言えば「決してそんなことはない」と浜村氏。市場を温めたのは確かに『モンハン』だったが、ここにいろいろなメーカーから“ゲームらしいゲーム”が多数投入されたことにより、PSP全体のソフトラインアップがグッと厚くなったと同氏は語る。その証拠として、10万〜30万本のヒット作が2010年は9本だったものが2011年は16本と倍増。販売本数10000本に満たないタイトルも減り、市場が活性化していることを証明している。

 そんなPSPの今後のラインアップは、PS Vitaという後継機が控えていながら、『AKB1/48 アイドルとグアムで恋したら…』、『ファイナルファンタジー零式』、『GOD EATER 2(ゴッドイーター2)』といった佳作がズラリ。「今年、来年はPSPが家庭用ゲーム機の主役として熱く盛り上がることは間違いない」と浜村氏は締めた。

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●PS Vita

 そんなPSPの正当進化版と言えるのがPS Vitaだ。浜村氏も「この勢いをどう受け継げるかがテーマになる」と前置きしたうえで、この新ハードの動きを分析した。

 浜村氏はPS Vitaの特徴を(1)グラフィックの美しさ (2)背面タッチパッド (3)3G通信 であると述べ、なかでも「クリエイターがネットワーク常設を念頭にゲームを仕込むことができるのが大きい」と通信機能をピックアップ。“プリペイドデータプラン100h”がセットになって価格据え置き(29980円[税込])の初回限定モデルは、出荷予定数の50万台は「かなり足早くなくなるはず」(同)と予想し、プリペイド方式の採用についても、「パッケージを開けてすぐに3Gを使った遊びを体験できる。ゲームファンの特性をよく研究したことの成果で、よくここまで調整できたものだと驚かされた」と脱帽の様子だった。

 また、PS Vitaの本体価格についても言及。6月のE3(世界最大のゲーム見本市)で価格が発表になったときは会場が沸くほど評価されたが、その後にニンテンドー3DSが15000円に値下げされたことにより「比較されれば割高に見られることは間違いない」ときっぱり。それでも、「極めてコストパフォーマンスにすぐれているのは明らか」と評価し、週刊ファミ通の読者を対象に行ったアンケートを分析した結果、PSPのロンチ時を上回る半年で160万台の出荷が見込めるとした。また、同じアンケートで購入意向を調べたところ、“購入したい”と答えた人の79パーセントが男性であったことも報告。任天堂系ハードは女性が約半数を占めると言われているが、それに比べるとPS Vitaはコアなゲームファンに支持されていると分析する。

 もうひとつ、注目なのがPS Vitaのロンチタイトルの多さだ。26本というタイトル数は1996年以降に発売されたハードでもっとも多く、ジャンルもレース、格闘、スポーツ、シリーズものと多岐に富んでいる。これを指して浜村氏は「バリエーションの豊かさは及第点」としながらも、「通信やタッチパッドなど、PS Vitaの“らしさ”を活かしたタイトルが見えてきていない。ポイントは、そういったタイトルがいつ出てくるのか、ということ」と課題を指摘。「個人的には(ジャイロセンサーなどを使った)『GRAVITY DAZE』に期待している」と語った。

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●プレイステーション3

 プレイステーション3を表す言葉として浜村氏が挙げたのは“雌伏の時を経て国内据え置き機のトップに”というもの。クオリティーの高さは誰もが認めるところながら、値段が高く、なかなか普及が進まなかったものが、2011年上半期に据え置きゲーム機のトップに躍り出た。

 浜村氏が評価したのが、ソフトの層が厚くなってきていること。この期間の販売トップとなった『テイルズ オブ エクシリア』の約59万本を筆頭に、30万〜50万本売れるソフトが出始めている。さらに、プレイステーション3はハイデフのゲーム機ということもあり、携帯ゲーム機のそれと比べてソフト制作に時間がかかってしまうという弱点があった。いままでこれがタイトル数の不足に直結していたわけだが、開発の効率化が進んだことにより負のスパイラルから脱却。「これまでと比べて確実に、市場が温まっている」と浜村氏は太鼓判を押す。

 また、タイトル数の増加を後押ししている“仕掛け”のひとつとして、浜村氏は“HD化”ソフトの登場を挙げた。これは、プレイステーション、プレイステーション2、PSPでヒットしたタイトルをハイデフ仕様にして発売するという施策で、直近では『モンスターハンターポータブル 3rd HD Ver.』が約38万本を売り上げているのが記憶に新しい。この、徐々に結果を出しつつある新たな施策に加えて、プレイステーション3はPS Vitaと連動して“ゲームを外に持ち出す”という試みも進んでいる。「こういった新しい遊びの提案は、やがて大きなパワーになるのでは」と浜村氏。今後のソフトラインアップも、『ファイナルファンタジーXIII-2』、『バイナリードメイン』、『ドラゴンズ ドグマ』と粒揃い。現在、国内販売台数は約700万台だが、「いよいよ1000万の大台が見えてきたのではないか」と浜村氏は結んだ。

●Xbox 360

 日本ではなかなか弾けきれないXbox 360だが、欧米での勢いは目を見張るほどすごいものがある。とくにKinectの人気は出色で、そのおかげで縮小傾向にある欧米市場で唯一、Xbox 360はプラスを出していたほどだ。

 しかしこれはあくまでも欧米のトピック。日本では市場がひと回りしぼんだ印象はぬぐえない。これを浜村氏は、「Xbox 360独自のタイトルが少なく、マルチプラットフォームものが中心だった影響」と指摘。マルチプラットフォームタイトルの場合、日本ではインストールベースが多いプレイステーション3版が売れる傾向が強いため、どうしても販売本数が伸びないと分析する。

 この状況を打破する起爆剤として期待されたのが、前述のKinectだ。欧米ではKinectで遊ぶダンスやフィットネス系のゲームがブームとなり、ミリオンセラーも出ている活況だが、「日本ではイマイチ」(浜村)。そんな中、ライトユーザーに訴求するタイトルとして期待されているのが『Kinect: ディズニーランド・アドベンチャーズ』だ。カリフォルニア州にあるディズニーランド・パークをオープンワールドのフィールドとし、自由に歩き回ったり、アトラクションで遊んだりできる。

「日本では、Kinectがライトユーザーに認知されていないという現状がある。それを、この『Kinect: ディズニーランド・アドベンチャーズ』で何とかしたいというのが日本マイクロソフトの思惑ではないか。Kinectをリビングに設置してもらうためのプロモーションを、これから仕掛けていくと思われる」(同)

 そしてもうひとつ、マイクロソフトの秘策としてあるのがPC用のOS“Windows 8”だと浜村氏。Windows 8にはXbox LIVEの機能が標準搭載され、一説にはWindows 8が乗っているマシンではXbox 360のソフトが遊べるようになる……なんて噂もある。「Windows 7が7月の段階で4億インストールされているという現状を鑑みれば8の勢いもすごいものになる。ここで本当にXbox 360のソフトが遊べるとなれば、他の据え置きゲーム機よりも普及が進むということになる。が、すべてのPCがXbox 360の性能に追いついているとは言えず、未知数な部分も多い」と浜村氏は慎重に言葉を選びながら語った。

●Wii

 据え置きゲーム機でもっとも販売台数の多いWiiだが、上半期のソフト販売台数トップは『みんなのリズム天国』の約48万本。昨年の上半期は上位に『Wii Party』の約97万本、『スーパーマリオギャラクシー2』の約79万本などが並んでいたことに比べると、「市場は若干しぼんだ印象」(同)。しかし、6月に『Wii Sports Resort』が同梱された実質的な値下げバージョンの発売、さらに7月に前述の『みんなのリズム天国』が発売されたことにより市場が動く。「値下げとキラータイトルという拡販の鉄則」と浜村氏が語る施策により、7月以降にハード販売を伸ばすことに成功した。

 そして、この間のWiiを語るうえで欠かせないトピックは、何と言っても『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』の発表だ。国民的ソフトである『ドラゴンクエスト』がMMO(多人数参加型)RPGになることにはさまざまな意見があるが、販売本数だけを見たら「パッケージの売り上げ自体は下がるかもしれない」と浜村氏は予想。『ドラゴンクエスト』と並び称される『ファイナルファンタジー』も、MMORPGの『FFXI』の販売本数は約80万本で、『FFX』の230万本に比べると3分の1ほどの販売にとどまっている。この例に当てはめ、オンラインゲームは直前に発売されたタイトルの3〜4分の1程度とすると、『ドラゴンクエストX』の販売本数は100万本くらい(『ドラゴンクエストIX』の販売本数が約400万本のため)になると予想することもできる。

「しかし」

 と浜村氏は釘を刺す。ここで注目すべきはオンラインゲームのビジネススキームで、単純にパッケージの販売本数だけでは語ることはできないとする。ここで具体例として挙げられたのが前述の『FFXI』で、同ソフトは1200円の課金で10年近くサービスが継続されていることに加えて、要所で拡張版をパッケージソフトとして販売して収益を後押しした。結果、スクウェア・エニックスの大きな収入源のひとつに成長したことを浜村氏は強調し、「これと同じようなビジネスが展開されるとしたら、決して悪い話ではない」と続ける。そして冒頭で示した“サービス”というキーワードを用いてつぎのように語った。

「ゲームはトレンドとしてサービス化に向かっている。そういった意味でも、『ドラゴンクエストX』には大いに期待している」(浜村)

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●ニンテンドーDS/ニンテンドー3DS

 ロンチ直後に東日本大震災があり、ハードの売れ行きは発売後半年でニンテンドーDSの30〜40パーセントくらいのペースとなっているニンテンドー3DS。ただこの差は前述の震災と、「ニンテンドーDSのときは『マリオ』などキラータイトルが揃っていた」ことだと浜村氏は話し、それを乗り越えたいま、躍進のフェーズに入っていると断言する。

 ソフトの累計販売本数が非常に顕著だ。ニンテンドーDSの場合、累計販売本数TOP10のうち9タイトルは任天堂とポケモンのタイトルが占めているが、ニンテンドー3DSはここに、サードメーカーのタイトルがズラリと並ぶ。本数こそニンテンドーDSと比べれば小粒に映るが、「“ゲームらしいゲーム”が並んでいるこの状況は、遊びの質が変わった証拠に見える」と浜村氏は言う。任天堂はかねてより、“ニンテンドー3DSはサードメーカーと育てるハード”を前面に押し出してきたが、その目的は確実に成功に向かっていると言える。実際、任天堂ソフトとサードメーカーのソフトの割合は3:7と圧倒的。この状況を指して浜村氏は「サードメーカーのソフトが売れる市場を作ることができれば、安定してハードを支えることができる」と絶賛する。

 そしてもうひとつ、ニンテンドー3DS躍進の力となったのが本体価格の値下げだ。じつに10000円の値下げという異例の値付けが断行されたわけだがその効果は顕著で、値下げ発表前は週に45000台くらいの販売だったものが、値下げ週には約21万台と躍進。ファミ通調べのアンケートでは、値下げ発表後にニンテンドー3DS購入意向のユーザー数は300万人以上増加したという結果もある。

 それでもまだ、購入意向のない人たちも多いわけだが、その理由で目立つものとして“プレイしたいゲームが発売されない”というものがある。しかしこのアンケート後に、ニンテンドー3DSに『モンスターハンター』シリーズ最新作、『モンスターハンター3(トライ)G』および『モンスターハンター4』が登場することが電撃発表。浜村氏もこれを「ニンテンドー3DSの試金石となるソフト」と位置付ける。言葉をそのまま引用しよう。

「『モンスターハンター』はいまや、『ドラゴンクエスト』、『ファイナルファンタジー』に匹敵するほどハードを牽引するシリーズ。一度死にかけたPSPを復活させたのは記憶に新しい。そういう意味では、ニンテンドー3DSの普及を大きく押し上げる可能性がある」(同)

 『モンハン』だけでなく、ニンテンドー3DSの年末は綺羅星のごとき期待作がズラリと並ぶ。『スーパーマリオ 3Dランド』が11月3日に、『マリオカート7』が12月1日に、そして『モンスターハンター3(トライ)G』が12月10日に店頭に並ぶ。なかでも注目はやはり、『3(トライ)G』の売れ行きだと浜村氏は見る。

「現状、ニンテンドー3DSの普及台数は200万台。その中で、『3(トライ)G』がどこまで売れるのか、ほかのサードメーカーも注目している。安価になり、『マリオ』が出て、さらに『モンハン』が存在感を示せたら、ハードの普及台数が一気に倍の400万台になる可能性も十分にある」(同)

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●新ハード対決

 この年末の最大のトピックは、ニンテンドー3DSとPS Vitaという新携帯ゲーム機の対決だ。これを数字に切り分けるとおもしろい要素が見えてくる。

 まず参入メーカー数は、ニンテンドー3DSが49、PS Vitaが48とほぼ互角。発売予定タイトル数は、前者が105、後者が94で、先行して発売されているニンテンドー3DSが若干リードしているかたちになっている。では、キラータイトルのラインアップはどうなっているのか?

 30万本以上が狙えるタイトルとしてピックアップされた本数は、『スーパーマリオ 3Dランド』や『3(トライ)G』が控えるニンテンドー3DSが39本、『テイルズ オブ』シリーズや『ファイナルファンタジーX』などがラインアップされるPS Vitaが22本という結果に。ここで力を発揮しているのがプラットフォームホルダーの任天堂のコンテンツ力で、これがそのまま本数の差となって表れた印象だ。

 これらを踏まえたうえで浜村氏は、「ニンテンドー3DSとPS Vitaの“目指すものの違い”を強く感じる」と語る。

 任天堂の目指すものは“パッケージビジネスの王道”で、まずは『マリオ』や『ゼルダ』などのビッグタイトルを持って勝負に出ようとしている。これを浜村氏は「ファミコン時代から変わらない、オーソドックスな王道の勝負」と評価。任天堂だけができる手法とも言えそうだ。

 一方のPS Vita陣営が目指すのは“パッケージ+サービスのビジネス”だと浜村氏は指摘。ただ、この戦略を開花させるには“ならでは”のソフトラインアップが必須で、帰結までには若干の時間がかかるのでは……とも付け加える。これらを鑑みたうえで、2011年の年末で有利になるのはニンテンドー3DSで、「ニンテンドー3DSの当面のライバルとなるのは、現行機のPSPなのでは」と浜村氏は結ぶ。

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●Wii U

 先のE3で電撃発表されたWii Uは、まだまだ謎のベールに包まれているハード。とはいえ、本体に付属されるモニター付きの新コントローラのインパクトは強く、「アイデアとしては驚きの連続になるハード」と浜村氏も舌を巻く。ただ、まだ発表されたばかりで情報も少なく、方向性も示されていないので、その実力は未知数。しかし、Wii Uはハイデフ仕様となることから、ゲームらしいゲームが出る基盤になれることは確実で、「マルチプラットフォームタイトルがWii Uでも出るようになるのでは」と浜村氏は予想する。

 この流れで浜村氏は、プレイステーション3とXbox 360の次世代機についても言及した。ただ、プレイステーション3はようやく本体価格がこなれてきてソフトも揃ってきたという現状があり、Xbox 360も世界規模で売れていることに加えてKinectが存在感を示しているという状況。これにより「どちらも大きく動きにくいのでは」と浜村氏は言い、続けて「なんらかの動きがあるとしたら、つぎのE3では」と結論付けた。

●ゲーム市場の現状

 ここから浜村氏は、各地域別の市場分析を行った。

 2011年上半期の日本のゲーム市場は、金額ベースでハード、ソフト合計前年比84.9パーセント。その内訳は、ハードは前年比97.6パーセントだったことに対しソフトが同78.7パーセントと大きく後退している。さらに細かく見ると、プレイステーション陣営は前年の実績をキープし、任天堂ハードが大きく数字を落としたことがわかる。これはなぜなのか?

 浜村氏はこれを、「ハードの移り変わりによるもの」と断言。よく言われるスマートフォンやソーシャルゲームの影響では……という懸念についてはつぎのようにぴしゃりと語る。

「スマートフォンやソーシャルは、家庭用ゲーム機とは別に生まれた市場。ゲームに20000円も30000円もかけたくないという人がメインで遊んでいる。そういう意味では、家庭用ゲーム機市場の上下とは関係ないし、逆に新規のゲーム市場が開拓されたと言える」

 このほか、北米市場は前年同期比97.1パーセントの微減。日本と同じように、移り変わりの時期がぶつかった任天堂が大きく数字を落とすも、Xbox 360が126パーセント、プレイステーション3が108.8パーセントと好調。欧州は、英国が同80.1パーセントと激しい落ち込みを見せたのとは対照的にドイツの市場が躍進し、同126パーセントと成長。国によって大きな差がみられるが、日本では未発売のモデル(Wi-Fi非搭載のPSPなど)を市場のニーズに合わせて投入するなど、懸命なテコ入れも行われている。浜村氏は、欧米市場において強力な起爆剤となるソフトとして『バトルフィールド3』を指名。「現存するゲームの中で最高峰のグラフィック。販売本数1000万本は堅いのではないか」と期待を寄せる。

 一方、PCのオンラインゲームが幅を利かせていた中国は、カジュアルゲームやソーシャルゲームが市場のメインに躍り出ている。とくにブラウザーゲームの勢いは出色で、それまでPCゲームで最大のシェアを誇っていたメーカー・盛大は、これに追われるように売り上げを減らして海外進出を模索しているという。「中国もいよいよ、海外市場を狙う時期に入ってきたのかも」と浜村氏。

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●勢いに乗る新世代のゲームプラットフォーム

 今回の講演のメインは、むしろこれ以降の章かもしれない。サブタイトルとして“ソーシャルゲームvs.家庭用ゲーム”と題し、躍進目覚ましい新たなプラットフォームの分析が行われた。主役は、“日本最強SNS”と言われるDeNA(モバゲー)、GREE、mixiだ。この3社を、浜村氏はつぎのように定義付ける。

・mixi……リアルな付き合いを重視。ソーシャルゲームに特化したビジネスは否定した。
・GREE……早くからソーシャルゲームの力に気付き、ビジネスを拡大。
・DeNA……当初はオークションサイトだったが、じきにソーシャルの可能性に気付きビジネス展開。2009年に『怪盗ロワイヤル』が大ヒットし、躍進

 ソーシャルゲームが市民権を得たことで起こったのが「“ソーシャルドリーム”」(同)。携帯電話向けサイトの運営やコンテンツ開発を行うベンチャー企業の“Klab”が東証マザーズ上場を果たすなど、小さな会社がソフトを当てて成功するという例が相次いだ。しかしこれは、いわゆるガラケー(フィーチャーフォン)の時代の話。スマホに市場の中核が移ってきたいま、ゲームにもグラフィックの豪華さが求められるようになり、小さなメーカーでは資金面で苦しくなるという例が増えてきた。そこで登場するのが、家庭用ゲーム機の大手ソフトメーカーだ。

 家庭用ゲーム機メーカーのモバイルへのシフトは激しい。浜村氏はコーエーテクモ、KONAMI、カプコンを例に出し、それぞれの戦略を解説した。

 そのなかでも躍進著しいのがKONAMI。浜村氏は取材を通じてモバイル市場におけるKONAMIの成功の秘訣を聞いたと言い、その例として以下のふたつを挙げた。

・アーケードゲームのノウハウを導入
コンシューマーゲームと違い、アーケードはその日の売り上げのビジネス。インカムが悪くなればゲームの難易度調整を行ったり、その都度の判断で隠しキャラを登場させるなど“サービス”に振った運営を実施していた。

・ゲームシステムの転用
ドラゴンコレクション』がヒットしたとみるや、このシステムをそのまま転用して野球、サッカーのソーシャルゲームを開発。その運用は、野球は『パワプロ』のチーム、サッカーは『ウイイレ』のチームと専門部隊が行う。

「サービスの思想が合致したことと合理性が成功を呼んだ」と浜村氏は言う。

 そんなソーシャルゲームは、家庭用ゲーム機市場にどのような影響を及ぼしているのか? エンターブレインが“ソーシャルゲームをプレイし始めて家庭用ゲーム機を遊ぶ時間はどうなったのか?”というアンケートを実施したところ、「減った」と回答した人はじつに53.9パーセントに上ったとのこと。これは家庭用ゲーム機にとっては「衝撃的なこと」(同)だが、ではいったいなにが、これほどユーザーを惹きつけているのだろうか?

 アンケート結果でもっとも多かったのは“短い時間で遊べること”。しかしこれだったら、携帯ゲーム機でも補完できることだ。では、なにが違うのか。浜村氏は単純明快にこう回答する。

「無料で遊べること。この破壊力は、驚異的なものがある」(同)

 その例として、浜村氏は日本の映画とテレビの関係を挙げて説明した。

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 映画全盛期、全国各地には無数の映画館があり、多くの映画会社が看板タイトルを競って制作していた。じきにいくつかの映画会社はテレビ番組の制作を始めたが、多くは無料で見られるテレビの映像に価値を見出さず、テレビの放送自体を否定する。しかし時代は進み、いつしか映画はテレビのタイアップなしではヒットしない時代を迎える。邦画の興行収入ランキングは、ジブリのアニメを除けば『踊る大捜査線』、『南極物語』、『海猿』などテレビのタイアップ作品が占めるようになった−−。

 この例から見える通り、コンテンツビジネスにおける“無料”の破壊力は驚異的なものがある。これは、テレビゲームにもそのまま当てはまるのだろうか? この疑問を、浜村氏は言下に否定する。

「映画と同じようにはならない。すでに対策が講じられている」

 昨今、家庭用ゲーム機にも無料コンテンツの波がやってきている。新ハードのPS Vitaでも、『ブラウザ三国志 タッチバトル(仮題)』や『しろつくDX(仮題)』など、基本プレイ無料のコンテンツがすでに発表されているのだ。この流れを浜村氏は、「ソーシャルゲームと同様の発想を試み、ゲームのサービス化を進める動きは大きい」と評価。さらに家庭用ゲーム機では、パッケージのロイヤリティービジネスから脱却し、新たなビジネスモデルに打って出ていると浜村氏は言及する。具体的には、

・従来のパッケージロイヤリティー
・パッケージから派生するネットサービス収益の一部をトップオフする
・無料サービスの売り上げから一定料金をトップオフする

 これらを総称して浜村氏は、パッケージビジネス+サービスが融合した“ハイブリッド課金”と命名。ソーシャルゲームとパッケージゲームのいいところを取った新たな収益モデルができるとした。

 コンテンツとサービスを横軸に置くと、DeNAやGREEは、サービスに寄った企業だとわかる。それは、サービス運営力、ユーザーニーズで変化するコンテンツという部分から、「入場無料のテーマパークのような感じ」と浜村氏。その対極にあるのが任天堂で、コンテンツ制作能力の高さはハリウッド映画やジブリのアニメに通じ、ひいてはそれは「ディズニーランドのようなもの」(同)と表現する。プレイステーション陣営やマイクロソフトは、前述の通りコンテンツビジネスとサービスの両方を取ろうとしているという意味で、この中間に位置する。

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 では、ソーシャルの雄たるDeNAとGREEはどこを目指すのか? じつは両社とも海外進出を展開するための端緒に立ったところで、拠点づくりを積極的に行っている。この挑戦を指して浜村氏は「成功する可能性は十分にある」と語り、その理由として“家庭用ゲーム機との質の違い”を挙げた。

 日本の家庭用ゲーム機用ソフトが海外進出する際に壁となったのが、欧米との“テイストの違い”だった。とくに、人物の造形の好みがまったく違うため、足踏みをせざるを得なかったのだ。「しかしソーシャルゲームはそこには躓かない」と浜村氏。なぜなら、作った後で顧客のニーズに応じていくらでも内容を変えられるのがソーシャルゲームのアイデンティティーで、ゆえに「国ごとの好みの問題は存在しない」と浜村氏は断言した。しかし浜村氏は、「家庭用ゲーム機では問題にならなかった部分に大きな壁がある」とも指摘。それは国ごとに違う“課金”の問題だ。これはマーケティングでどうこうできるものではなく、ゆえに国ごとに根気強く交渉を積み重ねる必要があると断言した。

 そしてもうひとつ、対決姿勢が鮮明なのが、iOSとAndroidだ。家庭用ゲーム機ともソーシャルとも違うもうひとつのゲームプラットフォームと目されているスマートフォンだが、その大本命がiOSとAndroidである。とくに、躍進著しいのがAndroid。しかし数が多いからといって、すぐれたプラットフォームとは言えない。というのも、現状ではiOSとAndroidで同じアプリが配信されると、Androidユーザーのダウンロード数はiOSの10分の1程度(!)との試算があり、「Androidユーザーにアプリを使う習慣が根付いていない」(同)ことの根拠になっている。

 そして、両陣営が根本的にはらんでいる問題が“有料アプリの低価格化”。iOSのゲームアプリ平均価格は1.96ドル、Androidはそれより高く2.77ドルだが、どちらも極めて安いと言わざるを得ない。その理由を浜村氏は「ゲームに対するモチベーションの高い人がユーザーとして付いておらず、単なる暇つぶしとして使われているので安いものしか作れなくなっている。よって、高い価格設定ができず、開発費もかけられない」と指摘。日本の大手ゲームメーカーは家庭用ゲーム機のキラーコンテンツの投入も始めているが、「現在は試行錯誤の段階」と浜村氏は言う。

 このほかのトレンドとして、FacebookやGoogle+の台頭、そしてプラットフォームすら必要がなくなる“クラウドゲーミング”の波も急激に押し寄せてきている。その様子を端的に表したのが下の図だが、これを総括して浜村氏は「ネットを介して人の集まる場すべてが、ゲームのプラットフォームとして機能し始める時代になった」と語り、続けてつぎの言葉でこの日の講演を締めた。

「あらゆる場所にゲームが置かれる時代になってきている。極限まで広がったゲームの概念はつまり、ゲームビジネスに無限の可能性があることを示しているのでは。家庭用ゲームからソーシャル、スマホ、クラウドまですべてを守備範囲に収めたゲームビジネスは、今後ますますその規模を大きくしていくのは間違いない」

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