ソーシャル制作経験ゼロからのサクセスストーリー【CEDEC 2011】

Mobageの人気競馬ゲーム『ダービー×ダービー』。同作を運営するポリゴンマジックは、ソーシャルゲーム経験ゼロの家庭用・アーケードゲームの制作会社だった。そんな彼らがソーシャルゲームで成功した方法を赤裸々に語った。

●技術屋が多数集結した注目のセッション

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 2011年9月6日〜8日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・国際会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的としたCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス) 2011が開催された。

 ここでは、CEDEC 2011のトリを飾った5つの講演のひとつ“ゲーム屋がソーシャル業界で成功するために 〜ダービー×ダービー安定運営までに得た教訓〜”をお届け。講師は、Mobageの人気競馬ゲーム『ダービー×ダービー』を運営している制作会社ポリゴンマジックの森貴寛氏。森氏はこれまでアーケードゲームなどのプランナーとして活躍し、ほかのスタッフ同様に『ダービー×ダービー』で初めてソーシャルゲーム制作に携わることに。現在は『ダービー×ダービー』の開発/運営ディレクションを担当している。

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ポリゴンマジック株式会社
ソーシャル・オンラインプロセクション
ディレクター
森貴寛氏

 最後のセッションということもあってか、立ち見が出るほど大勢の聴衆が駆け付けた本セッション。森氏が“ソーシャルゲームの制作経験がある人”や“オンラインゲームを作ったことがある人”に挙手を求めたところ、かなりの人数が手を挙げた。このことからも、多くの技術者が注目していたようだ。

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▲「『ダービー×ダービー』が成功を収め、開発スタッフは皆ハッピーになりました! が、とてもたいへんでした……」というミニコント風のスライドも流れ、場内は笑いに包まれた。

 本題に入る前に、『ダービー×ダービー』がどんな状況で作られたゲームなのかが説明された。『ダービー×ダービー』は、開発開始からリリースまで約3ヵ月で制作された。携わった人数は7〜8人(途中参加1人含む)。森氏曰く「ソーシャルゲームではよくある制作体制」で、もちろんそこから失敗して去っていったメーカーも数知れず。その中で、『ダービー×ダービー』が会員数170万人を超えるMobageナンバーワンの競馬ソーシャルゲームに成長したのである。これから森氏によって語られるであろうサクセスストーリーに、皆が耳を傾けた。

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▲上の3つの数字は、いずれもソーシャルゲームの売れ行きを計る重要な指標。通常、公開されることのないこれらの数字も、惜しげもなく披露された。

 森氏を始めとしたポリゴンマジックのスタッフが、『ダービー×ダービー』制作で身をもって知ったのは、ソーシャルゲーム開発に必要なのは“ゲームの知識”+“Webの知識”。つまり、家庭用ゲームの制作経験者がソーシャルゲームを作ろうと思ったら、Webの知識を学べばいいということになる。森氏曰く「あとはgoogle先生にいろいろ教えてもらいました(笑)」。開発に必要なミドルウェアやサーバなどの知識はWebや参考書で補い、極めて順調に開発はスタートしたという。

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 しかし、やはりそんなにうまく事が運ぶわけはなかった。深く考えずに役割分担をしてしまった結果、プログラマーに過度の負担がかかったうえ、デザインのクオリティーが「たいへんなこと」(森氏談)になってしまったのである。さらに、携帯電話特有の問題として、“キャリアによる表示方法の違い”などのトラブルがつぎつぎと発生し、順調に見えた開発はたちまちつまづいてしまうことに。

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▲“DANGER”の文字からして、いかにもアブない事態とわかる。このような困難がつぎつぎと発生してしまったのだ。

 それでもひとつひとつ問題を解決し、リリースへとこぎつけた『ダービー×ダービー』だったが、トドメの問題が発生する。データのアクセスで使うサーバが、アクセス過多でパンクしてしまったのだ。その数、想定していた数倍。森氏も「Mobageを甘く見ていました」と苦笑い。その結果、Mobageの“5秒ルール”と呼ばれるシステムが働いて、ゲームは自動停止状態に。その後大成功を収めることになるタイトルの滑り出しとしては信じられないような事態だが、結果としてここでさまざまな失敗を味わったことでしっかりとした対策が組めるようになったのだった。

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 リリース後は、いわゆる“PDCAサイクル(※1)”と呼ばれる手法を採用したり、KPI(※2)を設定して徹底的な管理体制を敷いた。運営がうまくいかなければ、すぐにそれをフォローできるようにしたのである。その結果、みるみる効果が上がっていき、いよいよサクセスストーリーが花開いていく。……と思ったら、またしても落とし穴が待っていた。なんと、“働き過ぎ”でミスが多発したり、病気で入院するスタッフが出てきてしまったのだ。急いで人員を増強し、ひとりあたりの負担を減らしてミスを防ぐ一方、重要案件では複数のチームを作って運営を行うようにした。

※1 PDCAサイクル……経営管理の手法のひとつ。Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の4つの工程をくり返すことによって、継続的に事業を改善していくやりかた。
※2 KPI……Key Performance Indicatorsの略。重要業績評価指標、重要目標達成指標とも訳される。組織が一定の目標を達成するため、その目標に向かってのプロセスが順調に進んでいるかどうかを点検する指標。

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 サクセスストーリーとはあまりに程遠い展開だが、ソーシャルゲーム参入からわずか6ヵ月のあいだにこれだけの失敗を経験し、それを克服してきた結果、『ダービー×ダービー』はついに安定運営を勝ち取ることに成功する。失敗は成功の母と言うが、森氏らはまさにそれを地で行ったということだ。うまくいくことばかりではなく、失敗を受け入れてより一層の向上を目指す。森氏らの失敗談の数々に、第2の『ダービー×ダービー』を目指す人たちへのヒントが隠されているのではないだろうか。