●かつて日本がゲーム業界を席巻した要因は日本文化にあり
2011年9月6日〜8日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・国際会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的としたCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス) 2011が開催されている。
開催最終日となる8日には、チームラボ 代表取締役社長の猪子寿之氏による“情報化社会、インターネット、デジタルアート、日本文化”と題された基調講演が行われた。本稿ではその模様をリポートしよう。
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まず、チームラボとは、プログラマ(アプリケーションプログラマ、ユーザーインター フェイスエンジニア、DBエンジニア、ネットワークエンジニア)、ロボットエンジニア、数学者、建築 家、Webデザイナー、グラフィックデザイナー、CGアニメーター、編集者など、情報化社会のさまざまなものづくりのスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団だ。と言われてもいまいちピンとこないかもしれないが、当の猪子氏も「自分たちも何の会社かわからない(笑)」という。そこで、まずは同社が手掛けてきた作品を紹介した。紹介された映像は、センサーを付けたボールをタッチすると色が変わるなどさまざまな反応を示すもの、舞台の上の役者がCG合成のよって影絵のようなものと戦っているものなど、アートとサイエンス・テクノロジー、デザインの境界が曖昧になった新感覚で不思議なものばかり。猪子氏は、日本のような先進国の強みだった技術格差のうえで成り立っていた産業については、ネットワークが発達した現在の社会では、もはや強みにならなくなりつつあり、「今後は、(テレビゲームなど)文化領域の高い要素をテクノロジーで加工する産業」が世界を席巻していくと読む。チームラボの作品は、それを意識してものだと言える。
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“文化領域の高い要素をテクノロジーで加工する産業”において、重要なのは文化的強みを活かすことにあるという。これは言語で説明できない領域、たとえば、カッコイイ、カワイイ、美しいなど主観を伴うものだ。文化が違うとそういった主観や価値観は世界で受け入れられないのでは、といった考えもあるだろう。それに対して猪子氏は、自身の経験則から、「受け手の差異はどの地域でもさほど変わらない、作り手の差異のほうがインパクトが大きい」と感じているという。だからこそ、言語化できない特有の文化の積み重ねが大切であり、それを最大の強みとすることが、文化領域の高い要素をテクノロジーで加工する産業にとって重要だと説く。
では、日本の文化の強みとは何か。猪子氏はその文化を紐解くこともチームラボの目的のひとつだと語り、大和絵を例に日本文化の特徴を次のように論じた。大和絵など古来の日本画は平面的に見え、枯山水などの庭園もレイヤー(層、階層などの意。ある構造物や設計などが階層状になっているとき、それを構成するひとつひとつの階層のこと)の重なりで構成されている。これらは横に歩くと美しく見えるレイアウトとなっている。だが、西洋ではパースペクティブ(遠近法)の手法が取られ、こちらは正面から歩きながら見ると美しく見えるレイアウトになっているという。日本人には空間をレイヤーでデザインする文化が無意識のうちに染み込んでいたため『スーパーマリオブラザーズ』などの横スクロールアクションが生まれ大ヒットしたのでは、と猪子氏は推測する。
また、大和絵(レイヤーデザイン)と西洋(パースペクティブ)の違いとして、大和絵では、そこに描かれた人物の視点で見ると絵の中に入ったような感覚になるのに対し、西洋画では絵の世界に入り込んだ感覚になりづらい(講演ではモナリザの絵を例に、モナリザ視点になると、絵を観ている人を見る感覚になると説明)。『ドラゴンクエスト』などプレイヤーが主人公になったかのような感覚で楽しむ俯瞰視点のゲームでは、日本的な絵のほうが極めて相性がよく、それが日本で人気を博している要因のひとつだろうと述べた。
日本のゲームが成功を収めた要因のひとつを日本文化に求めた猪子氏の分析は、聴講者にも斬新に写ったようだ。最後に猪子氏は「今後、新たに生まれる産業では、自分たちの文化の強みを活したときに、世界に勝っていけるものになるのではないか」と述べ、講演を締めくくった。海外市場を見据えた作品作りが求められる昨今のゲーム開発者には、興味深い講演となったに違いない。