●農園女子のやりたいことを考えた
2011年9月6日〜8日の3日間、神奈川県のパシフィコ横浜・国際会議センターにて、ゲーム開発者の技術交流などを目的としたCEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス) 2011が開催されている。
その初日である2011年9月6日現在、Mobageの人気ゲームランキング女子部門第1位の座を維持している『農園ホッコリーナ』。立役者である山口隆広氏は、それまでソーシャルゲームだけでなく企画職自体初めて、という男だった――。このセッションでは、山口氏が女性向けソーシャルゲームを育てるために必要な考えかた、ソーシャルゲームとこれまでのゲームに求められているものとの違いについて語っている。
2010年8月よりディー・エヌ・エーに転職し、現在の職に就いた山口氏。前職では情報誌の業務設計をメインに担当しており、ソーシャルゲームの制作はおろか、企画職の実務経験さえもなかったという。あくまで自分を“ふつうの人”と語る山口氏だったが、いきなり“まとめ”から切り出し会場を驚かせた。
1 農園ゲームをやめたのが転換点
2 ターゲットを絞り込むとやるべき形が見えてくる
3 具体的な遊ぶシーンがわかると捨てられてしまう
4 そもそもゲームじゃなくてもいい
5 やり込みではなく、息抜きができないとだめ
『農園ホッコリーナ』が成功を収めたのは、上記5つのポイントが重要だということのようだ。しかし、具体的にはどういうことなのだろうか。場内がざわめく中、山口氏は解説を始めた。
まずはソーシャルゲームというジャンルを総括。多くのユーザーに支持されているポイントは、友だちといっしょに遊ぶ楽しさや、小さな達成感を積み重ねる快感にあるのではないか、とのこと。歴史が浅く、まだジャンルもそれほど多くないが、ポジションとしては「ちょっとした息抜き、紅茶のようなもの」(山口氏)という。そんな紅茶のようなソーシャルゲームを、ゆっくりゆっくり好きになってくれるのが女性には多いのだとか。そのため、女性ユーザーが多いゲームは、継続率が高くなりやすいらしい。
続いて、『農園ホッコリーナ』の説明に移る。コンセプトは、“野菜や家畜を育てる農園ゲーム”ではなく、“かわいいものを手軽に育てるゲーム”。農業のリアルさよりも、育てたくなるかわいさ・愛らしさを追求しているのが特徴なのだという。ユーザーに関する数字も、男女ユーザー比が女性62%、男性38%。年齢層では20代が35%、30代が41%を全体に占めるなど、はっきりとした傾向が出ており、ターゲッティングに成功していることをうかがわせる。さらに、ゲーム内容を端的に説明していく山口氏。すべてフローをつけてわかりやすくしており、制作者側がユーザー層も含めゲームの方向性をきちんと把握しているようだった。
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話題は“『農園ホッコリーナ』が女子ゲーになるためにしたこと”に。山口氏が担当するまで、『農園ホッコリーナ』は中途半端な農園ゲームだった。mixiの『サンシャイン牧場』やFacebookの『FarmVille』といった、本格派の農園経営が楽しめる作品がすでにある中で、『農園ホッコリーナ』を始める理由も見つけられず、想定するユーザー層やゲームの方向性もボンヤリしていて検証さえされていないという有様。
山口氏が行ったのは、ターゲットの明確化と、それに合わせたゲーム内容のブラッシュアップだった。市場を調査して「どうやら女性ユーザーに作ったほうがよさそうだ」という結論を出し、さらに「どうやったら、農園女子に刺さるゲームになるだろう」ということを突き詰めていく。ユーザーの意見やサークルの掲示板を片っ端から調べると、「動物がかわいい」「背景のブタが好き」といった意見が多かった。“かわいい”ことが重要なのであって、農業であること、リアル性は二の次だということ。つまり、“むしろ農業じゃないほうがいい”ということなのだった。
女子は“短い時間にサクッとホッコリできる。ケータイだからこそできる単純さ”を求めているから、その要素を磨いていくことにした。「よく、農園じゃなくて動物ホッコリーナだよね、と揶揄されたりもするんですが、だからといってユーザーが不利益を被っているわけではありません。望まれることを提供するのが大事なんです」(山口氏)。その結果、『農園ホッコリーナ』は山口氏の狙い通り女性ランキングで1位の座を獲得するに至っている。
続いて、山口氏が考える“女子ゲーに大事な9要素”が紹介された。
(1)ユーザーの利用シーンとずらさないこと
(2)何をやってもうれしくなれる?
(3)そのかわいいに意味はある?
(4)詰まないようになっているか
(5)基本サイクルの延長で遊べるか?
(6)“あざとい”と“天然”を使い分ける
(7)思わず出てしまう男性視点に注意
(8)対同業者ではなく、ユーザーを見ること
(9)ふつうでもうれしい。課金したらさらにうれしくなるように
基本的にはそれまでの話の重要な要素を抜き出したものとなっている。くり返し説明しているところに、これらが女子ゲーだけではなく、ソーシャルゲーム制作そのものにとって重要な心得だと山口氏が考えていることがうかがえた。女性向けソーシャルゲームを育てるために押さえるべき考えかた、ソーシャルゲームとこれまでのゲームに求められているものとの違いについて深く考えさせられる講演となった。