もし、画面の向こうで最愛の“推し”が死んだとき、我々には何ができるのだろう。
謎を解き、自分がいま置かれている状況からの脱出を目指すアクティビティ・リアル脱出ゲーム。その大家であるSCRAPがパブリッシャーを手掛ける『ゆるゆる生配信する推しは100万回死ぬ』は2026年8月5日発売の“Steamで遊べるリアル脱出ゲーム”だ。
ただ、脱出するのはどこかの部屋……などではなく、推しが死ぬという“運命”。時を巻き戻す能力を得た“あなた”は、配信上で何度も死に続ける推しを救うべく、いくつもの謎に挑む。

いい笑顔してるだろ……。いっぱい死ぬんだぜ、この後。
※ネタバレを避けるため、一部の画像にはモザイクなど加工を施しております。推しを死の運命から救い出せ! 配信×謎解きの新機軸なリアル脱出ゲーム
主人公であるあなたには推しがいた。新井アラーニャと呼ばれるVTuberだ。ある日、何気なく配信サイト“ViewTube”を開いたあなたは、そこから流れてくる懐かしい声に思わず気を取られてしまう。……似ていたのだ、初恋の人の声に。

新井アラーニャはイタリア生まれイタリア育ち、バーチャル東京在住のアライグマであり、ファッションリーダーをやっているVTuber。設定がとっちらかっている。

物語は主人公の過去を振り返るパートから始まる。

主人公のデスクトップ画面もアラーニャ仕様に。フルスクリーンにすると主人公と同じ画面を見ている感が味わえるので、フルスクで遊ぶのがおすすめ。

ちなみにアラーニャは実写の手元配信もやるタイプのVTuberだ。
そこからあなたは新井アラーニャの配信をよく見るようになった。明るくて、元気で、ちょっと生意気で、頑張り屋だけれどドジで不器用。そんな彼女を見守るような気持ちで配信を見続けていた。
しかし、そんな彼女は配信中に死んでしまう。──自分で食べた、バナナの皮を踏んづけて。

配信の流れで大好物のバナナを食べて。

食後の運動のために立ち上がって。

そしたらバナナの皮で滑って死んだ。おそらく頭を打ち付けたものと思われる。トラッキングが外れているため、3Dモデルが微動だにしないのが生々しくて怖い。
……うん、言いたいことはわかるが、できればまだ読み続けてほしい。
配信で起きた、あまりにも異常な死にかたを目の当たりにしてしまったあなたは、自分の胸を引き裂くほどの激しい後悔の念に襲われる。そしてそんなあなたの目の前に、時間を司る悪魔を名乗る存在が接触してくるところから、本編が始まるのである。
悪魔の見た目? あー、その、目覚まし時計に手足が生えて顔がついたみたいなヤツですけども……。

悪魔にしては見た目がかわいすぎる。朝の情報番組にもこんなのいたな……。こんなやつに推しの命運を預けていいのか。
……さて、あらすじを語るうちにシリアスな化けの皮がはがれたところで、あらためて本編の話をしておこう。先ほども書いたように、本作は“Steamで遊べるリアル脱出ゲーム”。リアル脱出ゲームとは、出題される謎を解いて、自分がいま置かれている状況からの脱出を図るゲームだ。
このゲームにおいて解くべき謎は“どうすればアラーニャの死を回避できるか?”ということ。しかも、一度や二度回避しただけで終わりではない。先ほど挙げたバナナ皮滑り死以外にも、圧死や焼死、爆死に刺殺、心臓発作などなど、とにかくこの推しは死に近い。
そもそもの発端が、バナナの皮を踏んで死ぬような異常事態。彼女を取り巻く“死の運命”そのものを解決することがゴールとなる。

アラーニャは死ぬ。とにかく死ぬ。


毎回3Dモデルが変なポーズと表情のまま固まるのが、キャラクターごと死んでいる感があって怖い。演出力が高すぎる。
時を戻してコメントで誘導。死の原因から遠ざけよう
ではアラーニャをどうやって救うのか? それには時間を司る悪魔“タイムシークマン”の力が必要となる。彼の力を使えば、生放送のシークバーを戻すことで現実の時間も連動して巻き戻せるのだ。
そして時を戻した先で、あなたはどうにかしてアラーニャが死なないように動いていく。当然いち視聴者ができる、配信者に干渉する方法なんて数えるくらいしかない。その最たるものは、そう、コメントだ。アラーニャの配信にコメントをしていくことで、死の運命を覆していくのである。

流れとしては、アラーニャの死を見る→時を戻す→それを避けるようにコメントで誘導をするという形。たとえばバナナの皮で滑って死んでしまうのであれば、バナナの皮を剥かせない……つまりは食べさせなければいい。“バナナを食べさせないためにはどうすればいいか”が解くべき謎となる。

シークバーを操作することで、過去の時間へと飛ぶことができる。コメントによって分岐するタイミングなどはわかりやすく区切られているのがありがたい。

それもこれも全部、タイムシークマンががんばってくれているおかげなんだ。
ただしいわゆる指示厨コメントのように、「あれをしろこれをやれ。さもなくばお前は死ぬ」と、直接書けるわけではない。できることは配信の画面上に映っているものに言及して、それとなく誘導することに限られる。
たとえば配信上にバナナが映っていればバナナについて、チョコが映っていればチョコについてのコメントができる。自由に指示を出せるわけではないのがなんとももどかしいが、逆に言えば何をすればいいのかはすべて配信上に映っているわけだ。

画面上のコメントできるものにカーソルを持って行くと、黄色い手のマークに変化。

選択肢が表示されるので、どういうコメントをするか選ぶ。

するとコメントに反応してアラーニャの話題が変化。これをくり返しながら死を遠ざけていく。
なので、とにかく要求されるのは観察力とひらめき。謎解きパートでは時をいつでも戻せるので、とにかくいろいろなコメントをして、その結果を見ながらどうすべきかを考えていく。「ああ、そういえばあの時……“ああ”言っていたけど、もしかして……?」と、自分の記憶を振り返りながら、必要なピースを探すのがおもしろい。

たとえばこの画面のどこかにも、“言及することでバナナを食べない方向に誘導できる何か”が映りこんでいる。
配信の音や画面の変化、スーパーチャットなど、配信というフォーマットを活かした謎作りも一風変わっていて楽しいものだった。ギミックはネタバレになりかねないので細かい言及は避けるものの、リアル脱出ゲームに慣れた人でも「そう来たか」と唸るような謎になっている。
それに、そもそもの話“コメントをして配信上の相手を救う”という構造がいい。配信といえばユーザーとストリーマーが互いにリアクションを返し合う双方向性が大きな魅力だが、本作はその“双方向性”を非常に拡大したものになっている。なんせ自分が上手くコメントをしなくては、配信者の死が確定しているのである。こんなにコメントが必要な生放送はほかにない。

コメントに細かく反応してくれるのもね、うれしくてね……。
ただ、一部留意しておきたいのが、本作はあくまでも“リアル脱出ゲーム”であるということ。配信視聴者シミュレーション(そんなジャンルがあるかはさておき)では決してない。「配信でそんなことある?」というシーンはちょこちょことあるので、「まあそういうものか」と割り切った上で楽しむのがいいだろう。

途中、アラーニャは“配信者対抗クイズバトル”に出場するのだが、その解答判定はなぜかコメントにのみある。そんなことある? とは思いつつ、こういうアバウトさからリアル脱出ゲームらしさを感じていた。
物語が進むとちょっとだけ恋愛的なお話も入ってくる。とはいえ主人公がいわゆる“ガチ恋”というわけではなく、アラーニャ側が最適なタイミングでコメントをする主人公に関心を寄せていくような流れ。ただ題材が配信者と視聴者である以上「ひとりの視聴者を特別視するのはちょっと……」といった感想を抱く人もいそうだと感じた。
ちなみに筆者は「これはそういう創作物だし全然アリ」という派閥。というか、恋愛的な要素があることでよりアラーニャを好きになった。新井アラーニャという人物像を魅力的に描くうえで、そういった面を見せるのはとても効果的だったのではないだろうか。

途中から主人公は、リンゴのアイコンを使っていることから“アポちゃん”というあだ名で呼ばれるようになる。こういうのがさ、やっぱ効くと言いますか、はい。
アラーニャはかわいい。正直冒頭に太字で書きたいぐらいだったが、どうにか我慢してここまで書いてきた。本当にかわいい。動く姿を記事内で伝えられないのがもどかしい。
ぶっちゃけてしまうと、最初にプレイした際はアラーニャのことをここまで好きになるとは思わなかった。筆者的にはそこまで刺さっていたわけではなかったのだが、このゲームを通じて彼女の配信を見ていくうちに、どんどん心惹かれていく自分がいた。
表情やポーズから溢れる天真爛漫さ、丁寧な視聴者へのリアクション、配信を盛り上げようとがんばりながらも各所に現れるポンコツさ、ガバガバな設定を遵守しようとする言動……そのどれもが愛おしい。

口調が好きなんだよな。「かわいいだろ~」とか、「しねーんだからな」とか。ちょっとぶっきらぼうな感じがかわいいと言いますか。

かわいい、とても。“フルッタ(アラーニャのファンネーム)”になっちゃう。
アラーニャを演じる末柄里恵さんの演技もよかった。時折配信者としての“アラーニャ”ではなく素が出る……いわゆる魂が見えるときがあるのだが、そのギャップの演じ分けがすばらしい。
声も外見も、キャラクター性も、とても魅力的なVTuberだった。彼女の内面的な部分がより強く見えてきた後半は、彼女が死んでしまうたびに悲しみに暮れていた。だからこそ、より「助けたい」という思いが強くなっていたように感じる。すっかり“推し”の沼に沈められてしまった。

さーって、今日も“アポちゃん”が盛り上げてあげますかっと……。

お餅も食べます。かわいいね。
謎もシンプルで遊びやすい。誰でもどこでも遊べるリアル脱出ゲーム
謎はかなり簡単な部類のように感じたが、だからと言って単純なわけではない。SCRAPらしい、随所に伏線と子謎を仕込んだうえで最後に大謎を解かせるような構成になっており、「そう来たか!」と唸る感覚は“リアル脱出ゲーム”そのもの。謎解きに慣れていない人でも遊びやすく、慣れていても楽しめる。とてもいい塩梅になっている。

プレイ時間は公式発表で3~4時間。筆者は2時間半ほどでクリアーした。1本のゲームとして見ればさっくりと遊べる短めのボリュームだが、リアル脱出ゲーム1公演ぶんと考えるとちょっと長めだろうか。制限時間の概念がないので、じっくりとボイスを聞いたり演出を眺められるのがありがたい。こちらのコメントやリアクションに対する会話パターンが多いのも最高だった。

アラーニャの死亡ごとにBADエンドはひとつずつ増えるが、最終的なエンディングはTrueエンドひとつだけ。ただSteamの実績要素にBADエンドの回収があるため、実績をコンプリートするためにはすべての死亡パターンを見る必要がある。
一度死亡パターンを回避してしまうとそのBADエンドは周回中回収できなくなる仕様なので、実績を全部埋めたいプレイヤーは注意してほしい。筆者はいくつか取り逃したため、実績を埋めるためにTrueエンド到達後にデータを初期化してもう1周した。倍速機能は充実しているものの、周回には1時間ほどかかるため少しばかり手間ではある。

アラーニャが死ぬ方向にコメントを選びなおそうとすると、タイムシークマンが止めてくる。アラーニャが死ぬのを止めてくれるのはありがたい反面、実績をコンプしたいプレイヤー的にはちょっとお節介がすぎる。
こうした実績関係の処理などを見ても、全体として粗がない……というわけではない。ただそれを差し置いても、リアル脱出ゲームの楽しさをデジタルに落とし込んだ、非常によくできたゲームだと感じた。難度は少し簡単だが、初心者のことを考えるならこれぐらいが妥当だろう。ヒントも充実しているので、誰しもがクリアーまでいけるはずだ。
ヒロインであるアラーニャもかわいいし、筆者としては言うことなし。このレビューを通じてとても好きなゲームと、配信者に出会えた気分だ。

推しが配信に在り、世はなべてこともなし。かわいい。
発売日は2026年7月29日予定。3500円のダウンロード版と、4000円のパッケージ版があり、パッケージ版には限定ステッカーが2種類ついてくる。パッケージ版はSCRAP公式通販(SCRAP GOODS SHOP)とAmazonや楽天市場、リアル脱出ゲームの各店舗でも購入可能だ。
筆者は今回の試遊にあたってダウンロード版を遊んだが、いまはパッケージ版を手に入れたい気持ちがとても強い。いち“フルッタ”として、アラーニャのグッズを手に入れられるその日を、いまかいまかと待ちたいと思う。

オシノステッカー、ホシイ。オレ、パッケージ、カウ。
※「リアル脱出ゲーム」は株式会社SCRAPの登録商標です。