『コーヒートーク トーキョー』ネットサーフィンと会話で安楽椅子探偵のように世界の隙間を垣間見るノベルアドベンチャー。深夜の喫茶店はいつだって“寄り添い”の大切さを教えてくれる【レビュー】

『コーヒートーク トーキョー』ネットサーフィンと会話で安楽椅子探偵のように世界の隙間を垣間見るノベルアドベンチャー。深夜の喫茶店はいつだって“寄り添い”の大切さを教えてくれる【レビュー】
 ノベルアドベンチャー『コーヒートーク』シリーズはいつだって“寄り添うこと”の大切さと“誰もが悩みを抱えて生きていること”を思い出させてくれる作品だ。
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 本作でプレイヤーはほとんど店の外へ出ない。なのにSNSや会話のおかげで窮屈さはなく、むしろ世界が広く感じてしまう。そんな不思議な魅力を持っている。

 今回、3作目にしてスピンオフ作品でもある『
コーヒートーク トーキョー』がコーラス・ワールドワイドより2026年5月21日に発売された。本稿ではそのレビューをお届けしよう。
『コーヒートーク トーキョー』ネットサーフィンと会話で安楽椅子探偵のように世界の隙間を垣間見るノベルアドベンチャー。深夜の喫茶店はいつだって“寄り添い”の大切さを教えてくれる【レビュー】

名探偵バリスタ? 狭いカウンターの内側から広い世界を見る

 アンドリュー・ジェレミー氏によるローファイチルホップサウンドに心癒されつつ、バリスタ兼オーナーとして、深夜に開く喫茶店“コーヒートーク トーキョー”を切り盛りする本作。

 タイトル、お店の名前からも察せるように今作は我々にとってなじみ深い日本の東京が舞台だ。都会の雑踏と電車の音が騒がしい、ネオン煌めくコンクリートジャングル。大通りから少し外れたであろう、それた脇道でひっそりと営業されているオーセンティックでレトロ、店内ではレコードが流れているような純喫茶店。“コーヒートーク トーキョー”きっとそんなお店だ。
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お店の内装。薄暗さがありつつ柔らかな光が店内を包む。音楽も相まって落ち着く空間だ。
 ベースは2026年の東京なので、限りなくリアルな我らの世界に近い。しかし、『コーヒートーク』はファンタジーとリアリズムが融合した不思議な世界観が特徴的。人間はもちろん、ネコミミ族、ピクシーなどいろいろな種族がお客さんとして登場する。さらに今作では、カッパ、幽霊、マレビト、のっぺらぼうなど日本らしく妖怪や神々がモチーフのキャラクターたちもやってくるのだ。

 カッパは川のなかに暮らしてはいないし、のっぺらぼうも人々を脅かして生活してはいない。カッパとのっぺらぼうはサラリーマンとしてあくせく働き、雪女は家庭料理のお店を営んでいる。
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専業主夫のピクシー(左)、定年退職したカッパ(中央)、若きサラリーマンののっぺらぼう(右)という異色の面子。
 自身の環境を形作る周囲の人間が、中身そのままに妖怪に変わってしまった世界……と考えると想像しやすいだろうか。ファンタジーだけどリアル。リアルだけどファンタジー。それが『コーヒートーク トーキョー』の世界なのだ。

 さて、長々と世界観を語ったが、じつはこの不思議リアリズム世界をプレイヤーが直接外にでて見ることはない。プレイヤー(バリスタ)は喫茶店を離れられないからだ。誤解のないようにいっておくと、病弱とか出られない特別な事情があるわけではない。外に出たことはあるだろうが、それがプレイ時には描写されないというだけである(実際散歩に行こうとする描写もある)。

 要するにプレイ時にはカウンターの向こう側から出られないのだ。食器を手入れし、材料とにらめっこしながらドリンクを作り、お客さんたちと楽しい会話をする、ただそれだけ。仕事中なので仕方がない。外の世界を直接見聞きして、それらに反応することはできない。

 と、ここまで聞くとなんとも窮屈そうな印象を持つかもしれない。実際、筆者も「こぢんまりとしたゲームだな」と思っていた節が第1作のプレイ時にあった。だがそれは勘違いだ。バーカウンターに押し込められているにもかかわらず、『コーヒートーク』はその外の世界が広いことをあらゆる方法で思い起こさせてくれる。

 その代表的な例がお客さんとの会話だろう。外で働いてきた者、イベントを楽しんだ者、家族との団らんを楽しんだ者など、いろいろなお客さんが訪れ、その日その週にあった出来事をお話ししてくれる。
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 今日は学校でこんなことがあったとか、職場ではこんなことをしているとか、なにが好きだ、なにが嫌いだとか。深夜の静かな空気もあって、いろいろなお客さんたちが自然と言葉をこぼしていく。

 その会話のひとつひとつに耳を傾けると、まったくもってバーカウンターの内側を窮屈に感じないのだ。それはきっと個々の目線で見てきた世界を、会話を通じて追体験させてくれているからだろう。彼ら彼女らの目を通せば、カウンターからでもいつだって世界を歩いているかのような気分になれる。

 この世界の広がりに、さらなる拍車をかける要素もある。新システムが導入されたSNS“トモダチル”だ。いわゆるX(Twitter)やFacebook的なもので、お客さんのプロフィールや投稿が見られる機能。誰がなにをしているのか、どんな投稿をしているのかがわかるし、リプ欄(みたいな機能)を見れば誰と誰が会話しているのかもわかる。
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タイムライン式の投稿欄。ハッシュタグで関連のほか投稿も見られる。
 社会情勢に言及したり、その日の気分をただ単に言葉にしただけだったり、イベントへのワクワクを綴ったり、悩みや心配事を書いたりと内容はさまざま。そこそこ投稿も多いのでSNS閲覧の時間も多い印象。バリスタの夜はまさかのネットサーフィンから始まるのである。

 このおかげでふだん見られないお客さんの一面がチラ見えする。要するに、お店での会話だけでは見えなかった“生活感”が生まれてくるのだ。店では見せない顔、店の外の人生。それらの共有がゲームキャラクターではない、“この世界に生きている者”という実感をプレイヤーに持たせている。
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娘の快挙を喜ぶパパの投稿。きっとこのパパは娘よりも笑顔だったことだろう。
 落ち着いたパパさんが子ども成長を喜んでいる姿。知り合ったお客さんどうしで女子会を楽しむ姿。知り合った男女がフェスを楽しむ姿。いろいろな場面がSNSでちらほらお目見えする。

 もちろんバリスタ本人は現地にはいないし見てもいない。だが、その断片から想像することはできる。各々の話や投稿をつなぎ合わせれば「こんなことがあったんだなぁ」と全体のイメージも膨らんでくる。気分はちょっとした安楽椅子探偵モノの小説のようだ(死体や事件は出てこないけれど)。

 そして、この喫茶店での出会いをキッカケに交友を深める場面にも立ち会える。人の数だけ世界があると誰かが言ったが、それなら人の出会いの数だけその世界は広がる。恋愛にしろ友情にしろ、人と人との輪が広がる瞬間には自然と頬が緩む。

 人と知り合う瞬間は勇気が必要だと勝手に思っていたが、案外そうではないのかもしれない。『コーヒートーク』をプレイすると人見知りの筆者もそんなふうに思ってしまう。

寄り添いと立ち会い。変わらない『コーヒートーク』の魅力

 新システム導入され舞台もシアトルから東京に変わった今作。しかし、『コーヒートーク』らしいストーリー体験の魅力は少しも変わっていない。

 あくまで私見だが『コーヒートーク』は、小さな個人が抱える大きな問題に対する決断に立ち会い、それを見守り寄り添うことがどれだけ大切か、ということを伝えていると思っている。

 今作でもさまざまな悩み、心配事を心の奥底に抱えたお客さんたちが訪れる。中年の危機を迎えたカッパのサラリーマン、パートナーの死を引きずる雪女、学校の友人関係で悩むキツネ耳でハーフ(イギリスと日本)の女の子、そして成仏できない記憶喪失の幽霊娘などなど。成仏云々はともかく、老若男女が悩みを打ち明けるからこそ、誰もが誰かに深く共感してしまえるようになっている。

 たとえば筆者は、キツネ耳の女の子が抱える友人関係の悩みに深く共感してしまった。彼女はハーフゆえの疎外感があるなかで、ただ友だちがほしかっただけなのだが、言葉選びとその後の対処を間違ってしまい友人と仲違いしてしまう。
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キツネ耳の女の子“エリカ”。悩んでいるが親にも負担をかけたくない。そんな子どもらしいやさしさ溢れるジレンマを抱えている。
 自分では大丈夫と思っていた言葉選び、やさしさと思っていた心遣いがかえって相手を傷つけてしまう。これは子ども時代に誰しもが体験したことなのではないだろうか。

 ふだんはきっと愛嬌のある活発な子なのだろう。だがそれが仇になり、子ども社会では自身を孤立させてしまった。たった一瞬の言葉選びを間違えただけでだ。子ども社会はときに大人より残酷になる。筆者も子ども時代のトラウマをしっかりと思い出してしまった。他人事と思えない。正直かなり堪えた。

 だが、ここまで共感してもなお、前述した通りカウンターの向こう側には出られない。直接問題解決に出向くことはおろか、現場で手助けすることすらできないのだ。どんなに力になりたいと思ってもここは変えられない。

 だからこそできることには全力を尽くしたくなる。本作におけるプレイヤーができること。それはおいしい一杯を贈ることだ。この一杯が目の前の悩める存在をなにかよい方向へ導いてくれないか。それが難しければせめていまだけは安心してくれないか。そう祈るように差し出させる。
『コーヒートーク トーキョー』ネットサーフィンと会話で安楽椅子探偵のように世界の隙間を垣間見るノベルアドベンチャー。深夜の喫茶店はいつだって“寄り添い”の大切さを教えてくれる【レビュー】
悩めるお嬢さんには甘いひとときを。豆乳、ライチ、アイスで作った一杯がスッキリさせてくれることを願う。
 実際は、マシンを使って材料の組み合わせを選んでボタンを押すだけのお手軽設計なのだが、そう思うとマウスを握る手にも力もこもる。ドリンク制作は何度もやり直しできるわけではないので、それがより一層緊張感をみなぎらせる。

 そうして一杯を提供したら後は見守るだけ。たとえもっと力になりたいと願っても、それ以上にプレイヤーが介入することはできない。この感情が爆発して、ときにはカウンターと外の世界を隔てるこの壁が恨めしいとさえ思えてしまうことも。

 だが、きっとそれでいいのかもしれない。彼らや彼女らの人生はそれぞれのものだ。自分自身が変えるしかないということだろう。そんな一見そっけないようで気遣いを感じられるこだわり、信念、美学のようなものが『コーヒートーク』の根底に眠っているような気がしている。

 そしてそれに呼応するかのように、みな誰かの悩みに自然に言葉を返す。バリスタ本人はもちろんのこと、常連から初対面のお客さんまで。寄り添いかたは人それぞれだが、誰もが誰かの思いを汲み、手を差し伸べる。きっと、皆が皆、大なり小なり心に痛みを抱えているからこその行動だろう。
『コーヒートーク トーキョー』ネットサーフィンと会話で安楽椅子探偵のように世界の隙間を垣間見るノベルアドベンチャー。深夜の喫茶店はいつだって“寄り添い”の大切さを教えてくれる【レビュー】
力になりたい。その思いだけは確かなのだ。
 やさしさがいつでも正解ではないように、それが裏目に出ることもある。しかし、たとえ間違っていたとしても気持ちは伝わる。想いは伝わる。そうした寄り添いの気持ちが、なによりも大事なときだってある。明確な問題の解決手段よりも。『コーヒートーク』は寄り添うとはどういうことかを問いかけているのかもしれない。

シリーズプレイヤーへのちょっとしたサプライズも

 シリーズ作品定番の疑問である「前作をプレイしたほうがいいか?」だが、『コーヒートーク トーキョー』に関してはその必要はない。本作だけでも充分に楽しめると断言できる。異なるまったく別の場所での話なので、前作の知識が必要なことは一切ない。むしろ今作を遊んで前2作を遊ぶルートはめちゃくちゃアリだと思っているぐらいだ。

 ただ、シリーズプレイヤー向けのサプライズ……というかサービス的なものはある。トモダチルの投稿でシアトルの面子がときたま登場するのだ。スーパーモデルの吸血鬼、娘との関係に悩むパパ警官、ガタイのいい狼男などなど。懐かしい面々が楽しそうにしている場面がチラ見えする。
『コーヒートーク トーキョー』ネットサーフィンと会話で安楽椅子探偵のように世界の隙間を垣間見るノベルアドベンチャー。深夜の喫茶店はいつだって“寄り添い”の大切さを教えてくれる【レビュー】
シアトル住まいのサテュロスインフルエンサーが登場。人気は相変わらずの模様。
 もちろんそれが攻略において重要というわけではない。あくまで前作プレイヤーに向けたサービスだ。だが、一瞬でも関わったお客さん(シアトルの住人だけど)が幸せそうにしているのを見るのはやはり心が和らぐもの。「あっちでも元気にやってるんだなぁ」と、つい顔がほころんでしまった。

 本作はストーリー体験がおもないつ遊んでもいいタイプのゲームだ。おいしい一杯を片手にゲームを進めれば、物語ともリンクして満足感のあるゲーム体験が味わえるだろう。

 派手な展開、あっと驚くような伏線回収劇などがあるわけではない。しかしそれが『コーヒートーク』らしい魅力でもある。地に足がついているからこそ共感できるリアルな悩みと勇気ある決断を見守れる。そうした寄り添いのストーリー体験をぜひ『コーヒートーク トーキョー』で味わってみてほしい。
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      担当者プロフィール

      • 友野辰貴

        友野辰貴

        得意ジャンルはFPS、アクション。腕前とパワーですべてをなぎ払う脳筋プレイがお気に入り。『メタルギアソリッド』も正面からアサルトライフルで突撃し、周囲を困惑させた。アメコミヒーローや映画も好き。

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