「これ、いいじゃん!」と誰かに話したくなるグッズを目指して。“最愛戦略”を掲げ『ベヨネッタ』グッズなどを手掛ける“いいじゃん”鈴木将史氏のナムコ時代から独立、そして波乱万丈の歩みを聞く

「これ、いいじゃん!」と誰かに話したくなるグッズを目指して。“最愛戦略”を掲げ『ベヨネッタ』グッズなどを手掛ける“いいじゃん”鈴木将史氏のナムコ時代から独立、そして波乱万丈の歩みを聞く
 「いい商品とは、誰かに話したくなるものだ」――これを理念として掲げるグッズ制作会社があります。
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 その名は“株式会社 いいじゃん”。『ベヨネッタ』『鉄拳8』『餓狼伝説 City of the Wolves』など数多くのゲーム版権グッズを手掛け、これまで多数のヒット商品を生み出してきました。

 「なぜユーザーが欲しいものを作ることができるのか?」その答えは、ほかでもない創業者である鈴木将史(すずき まさふみ)氏自身が、そのIPに対し限りない“愛”を注いでいたから。コミュニティーの意見をつねに吸い上げ、クリエイターたちと深くやり取りをしながら「いいじゃん!」と言えるグッズを作る、そんな鈴木氏の人生について、お話を聞いてみました。
「これ、いいじゃん!」と誰かに話したくなるグッズを目指して。“最愛戦略”を掲げ『ベヨネッタ』グッズなどを手掛ける“いいじゃん”鈴木将史氏のナムコ時代から独立、そして波乱万丈の歩みを聞く

鈴木将史すずき まさふみ

1979年12月25日生まれ。2004年にナムコ(当時)に入社し九州にてゲームセンターのイロハを叩き込まれた後、2011年にナムコの香港現地法人へ出向。2019年に退社、独立し、株式会社いいじゃんを起業。海外での『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』のイベントや『ベヨネッタ』ポップアップストアなどを企画し、大きなヒットを上げている。文中は鈴木。

九州での武者修行と香港事業再編――鈴木氏の波乱万丈な歩みを振り返る

──本日はよろしくお願いいたします。まずは鈴木さんご自身のことから伺えればと思うのですが、そもそもナムコで働いていたとか。

鈴木
 そうですね。新卒でナムコに入社して、いきなり熊本のゲームセンターに配属されました。そこから、大分、宮崎、鹿児島、福岡……と、5年間九州各地で勤務しながら、1から10までゲーセンのことを叩き込まれました。

──ゲームセンター勤務だったのは、鈴木さんの希望だったのですか?

鈴木
 中学生ぐらいからずっと“ゲーセン小僧”だったんです(笑)。大学に入ってからも勉強のかたわらゲーセンだけは通い続けていて、それで自分で仕事を選ぶときにも「ナムコがいい、ナムコの格ゲーがいい」と。

──そして念願のナムコに入り、九州へ赴任したのですね。

鈴木
 九州では若手が求められていたようで、「武者修行として出された」という感じですね。小型店舗から超大型店舗まで幅広く勤めて、宮崎では出店もやらせてもらいました。夜勤もあったし早朝勤務もあったし、すごくいい修行になりました。とても楽しかったですね。

――お話を聞いていると、少し壮絶にも聞こえますね(笑)。1から10までナムコで学んだのですね。

鈴木
 従業員や現金をどう管理するのかとか、接客のイロハとか、ですね。私は接客とか、お客様をイメージしながら何かをするのがすごく好きなんです。

――そういったことがお好きなのは、お話しぶりからもなんとなくわかる気がします。九州の後はどこに?

鈴木
 香港です。ナムコがバンダイと統合したのが2005年なのですが、そのときにバンダイから入られた海外事業を受け持っている方が、若手を3人集めたんですよ。その内のひとりが私で、出張で上海と香港を往復しているうちに、いつの間にか私が駐在員に任命されていました(笑)。

──今度は海外へ武者修行に行くことになったのですね。

鈴木
 2010年の10月に結婚したのですが、その年の12月に内示が出て、2011年の1月から香港の現地法人に駐在になりました。嫁さんはそれまで飛行機に乗ったこともなかったのに、いきなり香港に行くことになりまして。結果的に2019年まで香港ナムコに在籍しました。

──香港での事業はどうだったのですか?

鈴木
 もうガムシャラでした。私が行ったときは、香港事業の将来性を議論する状況でしたので。

 おそらく私が行った理由としては、ほぼ“事業再編任務”だったのではないかと思っていました。香港の現地法人自体は1977年からあったのですが、赴任した際は40年ぐらい経った会社と店舗はある、さあどうやって伸ばそうか、みたいな感じでした。

──その状態から何をやったんですか?

鈴木
 最初は各店舗のゲーム機のレイアウトや景品などの仕入れとかを見直していたのですが、それだけではなかなか手応えがなくて。でもある日、香港では新規出店を7年ぐらいしていないことに気付いたんです。「だったらいっそ出店してしまおう!」と。

 当時にあった店舗は香港向けにローカライズされた雰囲気だったので、そのときはバンダイナムコの統合を象徴するような、明るい店舗を作ったんです。そうしたらうまく注目されて、香港の新聞にも“日本のナムコがついに香港に出店”と報道されました(笑)。

──「40年前からあったのに」みたいな(笑)。

鈴木
 リブランディング先のイメージが、周囲のお客様からの期待にマッチしたんだと思います。そこからは一気に出店攻勢に出て、4店舗からスタートしたところを最終的に10店舗にまで増やして、しっかりとした事業になりました。その後2019年に私は会社を去るのですが、この駐在の時期の経験がいまの事業家としての背骨になっていて、バンダイナムコの先輩方には感謝しております。

──「香港でキャラクタービジネスを学んだ」とお聞きしたのですが、それはこのときの経験から得たものが多いのですね。

鈴木
 香港のバンダイナムコオフィスにはバンダイの先輩方が30人ぐらいいて、その方たちからたくさんのことを教わりました。ウルトラマンをお店に呼んでイベントをしたり、それ用に景品を作ったり、内装をこしらえたり。そういうキャラクターを活かしたマーケティングですね。

 バンダイ流の売りかたと、ナムコが持つゲームセンターの運営力。香港で実務をしているうちに、その両方が身に付き、私はある意味ハイブリッドな人材になれたのではないかと勝手に思っています。

──その後、いいじゃんを起業されたのですね。

鈴木
 会社を辞めてからしばらくは、香港にいる友人たちの「キャラクタービジネスを手伝ってくれ」や「イベントの企画をしてくれ」という相談に応えたりしつつ、ふらふらしていました。

 そういった手伝いをしていく中で、あるひとつのイベントがすごく当たったんですよ。でも私への報酬がすごく低くて(笑)……。思えばコロナ禍が始まる直前だったので、向こうも保守的な態度だったんだと思うのですが、自分で権利許諾も取って、内装計画をして、ちゃんとたくさんの方に喜んでいただけたのに、「こうなるのか」と。

──それならいっそ、自分でやってしまおうと判断したのですね。

鈴木
 イベント当日の様子を見ていたときにピンときたんです。「そんなによくないグッズなのに、すごく売れているな」と。「それなら、自分で作ったらもっとよいものができるのに!」と思い、すぐに商品デザインに取り掛かりました。

――会社を設立してから、最初に取り扱ったタイトルは何だったのですか?

鈴木
 香港でやった『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』の30周年企画イベントですね。そのときにはもう初めから版権元のバンダイナムコフィルムワークスさんに相談させてもらい、香港現地のチームには「イベント企画、権利契約、商品企画も私がやります」と宣言しました。集客コンテンツだけではなく、とくに商品はファンが喜ぶもの=自分が楽しい・欲しいものをとにかく実現させようと考えていました。

 そうしたらこれが大ヒットしまして。最初の1週間で商品が全部売り切れて、またおかわりして、またそれも全部売り切れて。事業の立ち上げ時でしたので、このヒットにはとても助けられました。
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香港での“新世紀GPXサイバーフォーミュラ 30周年イベント”。
──日本に戻らず、そのまま香港で起業したのはなぜだったのですか?

鈴木
 当時、香港とかアジアにはキャラクターグッズの偽物や粗悪品がものすごくあったんです。だからこそ、「もっと海外にクオリティーの高いものを出さなければいけない」という使命感がありました。

 それに、日本に戻って起業すると、あまたあるグッズ制作会社の中で埋もれてしまうのでは……と思ったんです。それならば、香港にいたままやったほうが、自分の経験を活かしつつ商品を展開できるだろうなと。いまもその読みは外していないと自負しています。

――会社の理念にもありますが、いいじゃんは品質にすごくこだわりを持っていますよね。

鈴木
 はい。私自身、グッズに一家言あるほうなんです(笑)。だからよくある、缶バッジばかり、アクスタばかり並んで、「ポップアップストアでございます」という感じの店は好きじゃないです(笑)。

 その部分はやはりいまの私の矜持としてもありまして、「こういうイージーなものばかりじゃなくて、ファンが欲しいと思えるものを作ろう」というのは、自分の中でずっと原点にあります。

――その原点に、いままでの現場経験などは活かされているのでしょうか。

鈴木
 そうですね。香港ナムコで手探りでやってきた経験が血肉になり、いまのやりかたにつながっているとは思います。内装に手を入れるにしても、世界観とテーマを設計したり、ショップ自体の名前を付けたり、来場者へのノベルティーを考えたり……。「どうすればファンの皆さんは喜んでくれるのか」「原作者の思いはどこにあるのか」というところから逆算するんです。それを外さなければ、形としてはよいものになるということは肌で理解しているつもりです。

 実際、いままで私たちが主催したイベントは、評判的にほぼすべてうまくいっているのではないかと思います。版権元からも高い評価をいただいていて、「どんどんこういうのをやってください」と言われたり。手応えはありますね。

――とはいえ、お話を聞いていると、必然的に作業工数はものすごいことになっていそうですね。

鈴木
 そうですね。私たちのペースだと、たいたい10ヵ月ぐらいかけて1プロジェクトを展開しているような状態で、年間3プロジェクトくらいしかできていないんです。ここは、弱点だなという認識はあります。

 いまは私がひとりでじっくり好きなものだけを取ってきて、愛情を込めながらじっくり取り組んでいるのですが、徐々にスピードアップをしていかなければいけないとは考えています。そうしないと、世界中のグッズを待っているお客様のご期待には応えられないですから。

──いまは日本に滞在されているとお聞きしたのですが、それもチームを作りたいからでしょうか?

鈴木
 はい。“日本的なデザイン”の価値観を持って育ったデザイナーさんのほうがありがたいというのもあり、この1年間は日本でチームを育てていくつもりでいます。

 だからこそ、いま本当に人材を求めています。商品デザインができる人や、商品の企画作るのが好きな人、とある作品に深いこだわりをもっている人など、そういう方に仲間になってもらえたらうれしいですね!

──日本で今後取り組んでいきたいことは何かあるでしょうか。

鈴木
 販路を広げて流通に載ると、小売店の棚に並ぶときには私の手を入れられないんですよね。せっかく作ったTシャツも、一般的なアパレルコーナーに陳列されてしまう。

 ですので、せっかくなら小売店側の熱意がある担当者さんといっしょに売り場から作ってみたいです。ミニポップアップショップみたいな感じで、うちの商品一式を取り扱ってもらうようなイメージです。とはいえ、私はまだ日本では実績がほとんどないので……。現状だと1店舗ずつ回って、全部自分で棚を作ってもいいかなとは思っています。

──売り場からですか! それはたしかにおもしろいアプローチですね。

鈴木
 “一番くじ”は売り場で世界観をセットアップしやすく、お客様が買いやすい、すごい発明だと思います。願わくば、いいじゃんの商品もそのような“群”で売り場を作れたら作品のファンには喜んでいただけるだろうと思っています。

 たとえばいま、ゲームソフトや攻略本とかが発売されたときに、ゲーム売り場や書店さんとかにうちのグッズがいっしょに並んでいたら、すごくいいのではないかと。そういったことをいっしょに取り組んでくださるようなパートナーさんも探したいですね。
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根底にあるのは“愛”。いいじゃんが“最愛戦略”で掴むファン心理

――現状いいじゃんで取り扱っているIPは、厳選している印象がありますね。

鈴木
 それこそ万人受けするような超大手IPの製品は、もうすでに大手企業さんが取り組まれていて、供給が十分あると思うんです。それなら、“IPはすばらしいけど、あまりグッズが出ていない”ようなものを手掛けたほうが私らしいし、いいものができるかなと思いました。

 とはいえ、もちろんある程度は経済的な合理性も加味した上で選んではいます。とくに海外にしっかりファンが付いているような。以前グッズを制作した
『魔法の天使クリィミーマミ』なんかはそうですね。
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香港での“魔法の天使クリィミーマミイベントといいじゃんの商品群”。
――海外人気が高いのですか?

鈴木
 そうなんです。『魔法の天使クリィミーマミ』は香港では“国民的アニメ”級の人気があるんです。そうやって現地に熱狂的なファンがいるIPを選んできて、その結果、いまいいじゃんの製品が世界的にも売れるようになってきた……というところはあると思います。

――いいじゃんでは、ゲーム関連だと『ベヨネッタ』や『鉄拳8』などのグッズを展開していますね。

鈴木
 まず私が好きなゲームで、マーケットに待ってくださっているお客様がいて、グッズのアイデアがあって……と、この3つが決まるとすぐにやり出してしまいます(笑)。

──“『鉄拳8』の発売日に全キャラクターのTシャツを作りたいと思って、デザインを徹夜で作った”というお話もお聞きしています。
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“TEKKEN 8 いいじゃんアーティストTシャツコレクション jbstyle. デビルファミリー”。
鈴木
 『鉄拳』シリーズをたしなんでいた者として、『鉄拳』ファンコミュニティーの顔をつねに思い浮かべながら取り組んだ結果ですね(笑)。「全部のキャラがいたら全員に喜ばれるに決まっている!」と思って。やはり自分の持ちキャラがいないと、買うものがなくなってしまいますから。

――けっこう博打にも思えますが……。

鈴木
 あまり採算性からは考えないんですよ。うちは中小企業なので、「なんとかなるだろう」と思って、とりあえず取り組む感じです(笑)。でも、ファンがたくさん買ってくださったおかげもあり、ようやくこのあいだ生産国を切り換えて、1枚あたりの利幅を大きくできるようになりました。

──原価計算から、とかではないのですね。

鈴木
 ないんです(笑)。ふつうの会社だと「ご乱心か!?」と思われても仕方ないような、いちばんダメなやりかたでものを作っているかもしれません。

 ただお陰様で「もっと売れますよ、売りましょう!」と言ってくださる流通のパートナーさんがご支援くださって、今年(2026年)からは受注生産の形に切り換えられそうなので、いままでの“とりあえずこれくらいかな”と、パッと判断して作ったものをヒィヒィ言いながら売る感じから、“注文をいただいてから作り始める”という、真っ当な“ものづくり企業”に生まれ変われそうです(笑)。

──実際、『鉄拳8』Tシャツの反響はどうでしたか?

鈴木
 “EVO Japan 2024”で販売した際には午前中で完売しました。中には「同じキャラのシャツ5枚買いました!」「全キャラが揃ってる、感動!」みたいな方もいてくださって、すごく手応えがありましたね。ただ……。

──ただ?

鈴木
 最初、キャラクターの絵は背中側にあったんです。ゲーセン出身の私としては、背中で使用キャラを語るというコンセプトだったので(笑)。でもお客様の話を聞いてみると、「上に何かを羽織っちゃうと、絵が見えなくなる」と言われまして。

――ああ、なるほど。

鈴木
 2024年冬季に行われた世界大会で、ファンから「つぎは背中ではなくて、お腹側にプリントしてください」と言われたんです。「わかりました」と即決して、その場で絵を描いて、基礎デザインを再構成して、また全キャラクターのTシャツデザインを新しく作り替えました。

――現場の声を聞いて、即反映させるというのも、先ほど言っていた“コミュニティーとの距離感”ですよね。

鈴木
 SNSもいろいろなお声が来るのですが、私としてはもうノリノリで返信するんです、いつも。「よく気付いてくださいました!」とか「つぎはそれをやりましょう!」とか、けっこう約束してしまうんですよ(笑)。

 透明性というか、ファンの方々との信頼関係ができる下地はそうやってできてくると思うので、どんどんやっていきたいです。

──お話を聞いていると、どんどんヒットを量産されているように見えますね。

鈴木
 「できてうれしい」ということよりも、もう一歩突き抜けた“驚き”があると、商品がヒットするような気はしています。並みの“いいもの”ではもう売れない……と言うとちょっと言い過ぎですが、“誰かにしゃべりたくなるくらい、驚かれるくらいじゃないと売れない”みたいな感覚が私の中にはあります。

――それこそ10ヵ月かけてということですね。

鈴木
 長過ぎますね(笑)。でもやはり熱量のこもったいいものさえあれば、国境はたやすく越えるということは、それこそもう何度も経験しています。

 私たちみたいなニッチな会社は、とにかくお客さんとの信頼関係を作ること、認められることこそが戦略になります。ですから、コミュニティーとの距離感を近くして、お客様、作品ファンの同志たちからのご意見を吸収しなければいけないと思っています。

──その連携こそ、いいじゃんの強みだと言えそうですね。

鈴木
 たとえば、SNSで、うちのぬいぐるみを褒めてくれるお客様がいらしたときに、「ありがとうございます」と言うとか、そういうことをやらなければいけないと思うんです。お客様の喜びをそのまま受け止めなければいけないし、つぎはそれをさらに上回らなければいけない。これがやれる限りは、独自のポジション……いわゆる“最愛戦略”をずっと継続できるのかなと考えています。

──“最愛戦略”ですか?

鈴木
 マーケターの河野武さんが提唱されている概念です。中小企業が生き残るのには、“最安”か“最高品質”、または“最愛”しかないという考えですね。

 私自身この考えかたをすごく気に入っていて、いいじゃんを創業して以来の指針にしています。

――たとえば、缶バッジひとつ作るにしても愛を込めたいということですか?

鈴木
 そうですね。以前弊社で企画した『ベヨネッタ』のポップアップストアでも缶バッジを作ったのですが、あれもゲーム内のリザルト画面で表示されるメダルを模したものになっています。

──“ただキャラクターが印刷されただけ”みたいなものではないということですね。

鈴木
 まさにそのとおりです。私も缶バッジそのものが憎いわけではないんです(笑)。たとえば、痛バッグに大量に推しキャラバッジを貼ることは、缶バッジに重要な意味が宿ります。『ベヨネッタ』をプレイしていればピュアプラチナを揃えたくなりますし、ゲーマー的にはリザルト缶バッジは大いに意味があるものになっているかと。

 それと缶バッジの売りかたについても悩みがありました。ファンのことを思うと、本当は全キャラTシャツのようにキャラクターごとに個別で選んで買えるようにしたかった。でもそうすると売れ残りや在庫の偏りの問題がでてきて、また売り場さんにも商品登録が膨大で煩雑になる。今回は8種類の絵柄をランダム封入販売にしたのですが、ちゃんと欲しいものが手に入るよう、箱で買えば全種類揃うような仕様にもしています。
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“ベヨネッタ リザルトメダル風缶バッジコレクション(ランダム封入・全8種類)”。
――ちなみにその『ベヨネッタ』のポップアップストアはどういう経緯で実現したのでしょうか。

鈴木
 いろいろなグッズ開発をしているうちに、「香港の店舗で何かイベントをやってみないか」とお声がけをいただきまして、私が大好きな『ベヨネッタ』をご提案し、すぐにこちらの企画書を書きまして持参しました。
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鈴木氏による企画書の一部。
──おお! もはや小説ですね。

鈴木
 私がロダン※ になりきって書いてありますね(笑)。「“The Gates of Hell”が期間限定で、香港・湾仔に短期オープンすることになったんだ」という設定で。「香港のいいじゃんという会社にその出店を手伝ってもらって、グッズもいっしょに企画しているぜ」みたいな感じで書いたんです。

 だからグッズも、いいじゃんのデザイナーが人間界のベヨネッタファンのために“ロダンといっしょに作ったもの”なんです。だとすれば、「“The Gates of Hell”に売っているクールなやばいアイテム」とはどういうものなのかなということを考えて……キャップだとか、背中にデカいプリントの入ったシャツだとか。拷問器具が描かれたポーチとか、そういう“クールでやばいアイテム”みたいなものを考えていきました。
※ロダン……『ベヨネッタ』に登場するキャラクター。“The Gates of Hell”というバーを経営し、主人公であるベヨネッタにさまざまなアイテムを販売している。
――映像も見たのですが、『ベヨネッタ』のポップアップストアはものすごいクオリティーですよね。

鈴木
 私もあんなにいい感じのバーになると思わなかったです。たしかに、企画書にも“こういう感じで”と完成予想図を描いたのですが、施工や空間設計をしてくれた人がすごく優秀な方で、本当にそのまま作ってくださった(笑)。私も現物を見て腰を抜かしました。プラチナゲームズの方からも「よく作ったね!」みたいないい反応をいただけました。
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当時鈴木氏が企画書に描いた完成予想図(俯瞰)。
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実際にできあがった香港ポップアップイベントの“The Gates of Hell”コーナー。
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“ベヨネッタ 魔界折りたたみ傘”。
――商品もすごい……。とくに傘がいいですね。外は真っ黒なのに、開くと裏地の真っ赤な魔法陣が見える。

鈴木
 遊び心たっぷりで、でも実用度が高い、ということはもう最初から頭にありました。

 あと、どうせやるなら“ぬいぐるみだけ出して終わり”とか、”シャツだけ出して終わり”という形にはしたくありませんでした。たくさんのラインアップがあって、『ベヨネッタ』の世界観が棚ごと作れるような。最初からこういう“最終形のイメージ”が浮かんでいたんです。
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──ぬいぐるみがあって、横にたくさんのグッズが並んでいて、みたいな感じですね。

鈴木
 小売店の棚から想像したんです。一目見て、「『ベヨネッタ』の凝ったグッズがある」ということを、『ベヨネッタ』ファンが見たらピンとくるように設計しようと考えました。先ほどお見せした、バー“The Gates of Hell”のバックグラウンドストーリーと、この写真のようなイメージが最初からできあがっていて、そこに寄せていくような作りかたをしていました。

――そうなると、監修はかなりの量だったのではないのですか?

鈴木
 はい、SEGAさまとプラチナゲームズさまには本当に感謝しています。それこそいちばんのヒットアイテムであるぬいぐるみは、ものすごい量の監修を入れていただきました。なんとぬいぐるみのお顔については、“ベヨネッタ”をデザインされた島崎麻里さんに、直接描き直していただいていたりします。
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“ベヨネッタ おすわりぬいぐるみ ベヨネッタ(画像左)”、“ベヨネッタ おすわりぬいぐるみBIG ベヨネッタ(画像右)”。
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プラチナゲームズによる修正案。
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島崎麻里氏による修正案。
──おお! これはすごい……。

鈴木
 しっかりと監修していただいたことで、「これはいいものができるぞ!」と、すごく興奮しました。

──「島崎麻里さんまで出てきてしまった!」みたいな?

鈴木
 ぬいぐるみの目に力が宿ったと言いますか。お化粧の塗りかたから目の角度から、目の大きさバランスまで、全部を描き直していただいています。

 そういったクリエイターさんの想いとか、こだわりのポイントを商品に乗せられるのは、うちの製品の特徴なのではないかと思っています。今後も制作陣の皆さんと意見をすり合わせながら作っていくのは継続したいです。私自身のゲームファンとしての役得でもありますし(笑)。

──(笑)。いまぬいぐるみは他社もたくさん制作していて人気ですが、これはいわゆる現在の流行りを追ってのものなのですか?

鈴木
 いえ、もともと私がナムコ出身なことが影響しています。クレーンゲームとしては定番商品ですし、メーカーさんともつながりがありましたので。もちろん、「プリントものばかりじゃなく、ぬいぐるみなどの立体物がないと、ポップアップストアとして格好がつかない」という思いもあります。せっかくIPに関われるので、立体物の選択肢は増やしておきたいです。

──となると昨今のブームに乗ったのは偶然と。

鈴木
 そうです。関係者の方々からも「いいところに目を付けたな」と褒められました(笑)。

新グッズは『ベヨネッタ2』! ジャンヌのぬいぐるみなども展開予定

──2026年4月より受注販売する新グッズは、どういったコンセプトで作られているのでしょう。

鈴木
 コンセプトとしては『ベヨネッタ』と同様になります。ただ今回はさらに青と黒を基調とした『ベヨネッタ2』のグッズも追加して、パワーアップさせようと考えています。

 そして、さらにジャンヌのグッズも出します。以前ぬいぐるみを出したときに「なぜ相棒のジャンヌがないんだ?」とファンのみなさまから言われてしまいまして。それで今回は、『ベヨネッタ2』と、やりきれなかったジャンヌ系のグッズをテーマにグッズを制作しました。

――おお! やはり『ベヨネッタ』は『1』だけでなくその続編も、そしてジャンヌとベヨネッタが揃ってこそというのがありますものね。

鈴木
 実際、『ベヨネッタ』だけを展開した前回は、物足りなさの感がすごくありました。やはり新商品を出すなら続編にも手を広げていかないと、プレイした人間としてはしっくりこないなと。
「これ、いいじゃん!」と誰かに話したくなるグッズを目指して。“最愛戦略”を掲げ『ベヨネッタ』グッズなどを手掛ける“いいじゃん”鈴木将史氏のナムコ時代から独立、そして波乱万丈の歩みを聞く
初公開! こちらがいいじゃんの新商品の一部、『ベヨネッタ』からジャンヌと、『ベヨネッタ2』Ver.のベヨネッタぬいぐるみ。
「これ、いいじゃん!」と誰かに話したくなるグッズを目指して。“最愛戦略”を掲げ『ベヨネッタ』グッズなどを手掛ける“いいじゃん”鈴木将史氏のナムコ時代から独立、そして波乱万丈の歩みを聞く
プラチナゲームズからのぬいぐるみ監修資料。こちらにも修正案がびっしり。
――個人的に『ベヨネッタ2』と言えば、“アンブラン・クライマックス”で呼び出す多種多様な魔獣たちのイメージが強いのですが、そういった魔獣に関連するグッズはあるのでしょうか。

鈴木
 ベヨネッタの戦闘スタイルと言えば、バレットアーツと魔獣召喚ですから、前回のラインアップに入れた“魔界バンダナ”はそれをテーマにしています。また今後、トレーディングカードを出す予定です。と言っても召喚魔獣たちだけではなくて、登場人物とか武器とか、そのあたりを網羅したものにするつもりです。

──ゲーム内にある図鑑みたいな感じですか。

鈴木
 そうですね。『ベヨネッタ』ファンにとって、コレクティブアイテムの決定版みたいなものにしようと考えています。あと『ベヨネッタ2』に登場するタロットカードのトランプも作成予定です。

“ナムコイズム”の継承者として、人と関われるもの作りを

──いま、もしも全部の制約から解き放たれたら、どういうことをしてみたいですか?

鈴木
 難しい質問ですが……まずひとつは、もっとたくさんのクリエイターの方々とお仕事がしたいです。とくに『ゼビウス』『マッピー』『源平討魔伝』『妖怪道中記』みたいな往年の私が好きなタイトルを、当時作っていたクリエイターの方々といっしょにお仕事をさせていただきたいですね。私にとっても偉大な、憧れの先輩クリエイターさんたちですから、ぜひともお仕事で交わってみたいです。

 あともうひとつは、インディーゲームのグッズを作りたいんですよ。

──インディーゲームですか、なるほど。

鈴木
 インディーゲームに取り組んでみたい。それこそ発売前からいっしょに、それぞれクリエイターさんたちと近い距離でグッズを作ることができたらいいなとは思っていて、いつでも身構えているつもりではあります(笑)。

――身構えているのですか(笑)。この記事を読んだクリエイターさんから問い合わせがあるかも。

鈴木
 だといいですね。インディーゲームの開発者さんたちって、コミュニティーとの距離がすごく近いですよね。とくに海外の開発者たちはベータ版を遊んでいるユーザーさんとSNSで意見交換をしながら、高速でPDCAサイクルを回しておもしろいゲームを仕上げたりしていて……。実際ゲームグッズも同じようなことができるに違いないと、私は思っているんですね。

──そう聞くと、いいじゃんのスタイルもインディーゲーム然としていますよね。大手ではできないこだわりとか、ユーザーとの距離感とか。

鈴木
 そうかもしれません。大手のIPももちろんウェルカムですよ! ぜひ何かそういう、“熱の入ったもの”を作ってくれというご要望があれば、うちに来てほしいですね!
「これ、いいじゃん!」と誰かに話したくなるグッズを目指して。“最愛戦略”を掲げ『ベヨネッタ』グッズなどを手掛ける“いいじゃん”鈴木将史氏のナムコ時代から独立、そして波乱万丈の歩みを聞く
──今後、いいじゃんが目指すものはなんでしょうか?

鈴木
 “グッズはないけど、熱狂的なファンのついたIP”は、まだまだたくさんあると思っています。だからこそ、ぜひ皆さんからもご提案をいただければうれしいです。SNSでも、メールでもなんでも大歓迎です。商品のアイデアというよりは、「こういうのを待っています」みたいなことをお聞きしたいです。

──“同志と喜びを分かち合えるプロダクト”。これもいいじゃんが掲げる理念のひとつですよね。

鈴木
 「いい商品とは、誰かに話したくなるものだ」ということを、私の物作りの師匠から教わったんです。商品を企画するときは、「これ、じつはこうなっていて……」「この商品のここ、スゴいよね!」みたいなことをお客様がお話している瞬間をイメージしています。

 だからこそ、やはりユーザーさんからたくさん声をいただけるとありがたいです。商品開発のモチベーションにもなりますし、“どういうものがお好きなのか”がわかれば大きなヒントになりますから。これからもそういう“透明性”と“双方向性”を掲げながら、ものづくりをしていきたいです。

──本当に、お客さんとの関わりを大切にしていますね。

鈴木
 ナムコ時代から接客が好きでしたから。それに、そもそも接客自体が、ナムコの持つ独自性なのではないかと思っています。

 それこそ「ナムコは百貨店屋上に木馬2台を設置したことから始まった」と、よくいろいろな本に書かれているのですが、私は私なりの解釈を加えています。

──それはどういうことですか?

鈴木
 創業者の中村雅哉さんが亡くなられた際、お別れ会で『夢を売る男になりたいねえ』という、人生を振り返るような小冊子が配布されたんです。

 そこには木馬についてのエピソードも書かれていたのですが、それを読むに木馬はただ設置しただけではなくて、雅哉さんが「利発そうなお子さんですね」とお母様に声かけをして、気をよくした親がそこに100円を払って……ということらしいんですね。

──ただ置いただけではなくて、中村雅哉さんの接客があってこそのものだったということですね。

鈴木
 だからナムコ創業の本質にあるのは、“設置すること”ではなくて、どちらかといえば“声かけ”だとか“接客”ということなのではないかなと私は考えています。

 これを読んで私なりにすごく“蒙が拓けた”と言いますか、「これがナムコの独自性なのではないか?」ということに気付かされた瞬間がありました。

──その視座がいまのいいじゃんでの製品づくりにも活かされているということですね。

鈴木
 私自身、中村雅哉さんのことを尊敬しています。独立した経緯としても、小冊子を読んで、「実業家って、こんなに痛快な生きかたなんだ」と、実感させられたのが大きいです。ご存命のときも、ヨハン・ホイジンガが提唱した“ホモ・ルーデンス(人間は遊ぶ存在である)”の考えや“高次の産業ほど高付加価値を生み出す”など、さまざまな言葉を社員に残してくれた偉大な方でした。

 いま私たちはアメリカやヨーロッパで待っている、ゲームやアニメ作品のファンが喜ぶものを作ろうと動き出しました。私の勝手な気構えですが、バンダイナムコグループで学んだものづくり精神とともに、最初にお世話になったナムコイズムの継承先のひとつとして、いいじゃんが存在することができればと、そう思っています。
「これ、いいじゃん!」と誰かに話したくなるグッズを目指して。“最愛戦略”を掲げ『ベヨネッタ』グッズなどを手掛ける“いいじゃん”鈴木将史氏のナムコ時代から独立、そして波乱万丈の歩みを聞く
左の手帳は、ドイツのgamescomに商品をテスト出店した際に、現地のファンからもらったメッセージ集。「『ベヨネッタ』のグッズを作ってくれたことへの感激と、日本のグッズが通常はヨーロッパ諸国では配布されていないことへの悲しみが綴られており、いいじゃんの使命感を掻き立てられました」(鈴木)とのこと。
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