『Depth Loop』人狼側の背景・設定を知ったとき、人狼ゲームは人間への復讐劇となる。人狼ゲームの高度な戦略と濃密なドラマ、イシイジロウ氏の新たな挑戦に迫る

byNiSHi

by世界三大三代川

『Depth Loop』人狼側の背景・設定を知ったとき、人狼ゲームは人間への復讐劇となる。人狼ゲームの高度な戦略と濃密なドラマ、イシイジロウ氏の新たな挑戦に迫る
 『428 〜封鎖された渋谷で〜』、『文豪とアルケミスト』などで知られるイシイジロウ氏は、ゲーム業界でも屈指の人狼ゲームプレイヤーであり、ゲームクリエイターを始め、さまざまな業界の人狼プレイヤーを招いた、ゲーム業界の人狼会を盛り上げてきた。

 そして、ケムコはファミコン時代からさまざまなジャンルのゲームタイトルを発売してきた老舗ゲームブランドで、昨今では新規IPを多く排出しており、その中でも大きなヒットを見せたのが人狼ゲームをストーリー重視のアドベンチャーに落とし込んだ『
レイジングループ』(2015年発売)だ。

 本記事で取り上げる『
Depth Loop』(デプスループ)はそんなイシイジロウ氏とケムコがタッグを組んだ人狼アドベンチャーゲーム。本記事はその試遊リポートとイシイジロウ氏へのインタビューの2部構成でお届けする。

 2025年9月25日~28日まで、幕張メッセにて開催された東京ゲームショウ2025(TGS2025)のケムコブースでは、その『Depth Loop』(デプスループ)の試遊台が出展されていた。
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硬派な人狼ゲームをくり返しながら物語の真相へとたどり着く

 イシイジロウ氏が制作として参加する『Depth Loop』は、舞台・人狼TLPT(人狼ザ・プレイングシアター。詳細は後述)の看板作品『Depth』の世界観をもとに開発中の、Nintendo Switch2、Nintendo Switch、プレイステーション5(PS5)、プレイステーション4(PS4)、PC(Steam)向けタイトル。発売予定は2026年春の予定。

 物語は、パンデミックで滅びゆく人類の最後の希望である深海特殊施設“マグ・メル”が舞台。そこに紛れ込んだ人狼により、天才科学者たちは互いを疑い合う人狼ゲームを強いられる。プレイヤーは、人類の未来を掴むためにそこでくり広げられる人狼ゲームに参加していく。

 ゲームを始めると、プレイヤーは人間として施設に潜入し、そこで研究者たちといわゆる人狼ゲームを行うことに。参加者は、合計13人。人狼陣営は人狼が3人、狂陣(ゲーム内でこの表記になっている)がひとり。人間陣営は、予言者、霊媒師、狩人がひとり、人間が6人という内訳。
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 流れとしては、昼に議論を行い、人狼だと思う人に投票。もっとも票を集めた人が遺棄される。夜は人狼どうしが相談してひとりを襲撃。人間陣営はすべての人狼を遺棄することで、人狼陣営は人間の数を人狼と同じかそれ以下になるまで減らすと勝利となる。このあたりのルールは一般的な人狼ゲームと同様だ。

 昼の議論中にはプレイヤーが任意に発言できるタイミングがあちこちにあり、人間っぽい人物を信用したり、人狼っぽい人物を疑ったりすることで、同じ陣営の信頼を勝ち取っていく。
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 夜に入ると、人狼だけでなく、各役職に仕事が。予言者は生存者をひとり指定して人狼かどうかを確認可能。霊媒師は、処刑された人が人狼かどうかを知ることができる。狩人は、生存者からひとりを選び、人狼の襲撃から守れる。

 かなり王道な人狼ゲームとして進行していくので、日ごろから人狼ゲームに親しんでいる人はすんなりと入れるはず。筆者は、人狼ゲームを遊んだりするものの、そこまで得意ではないので、役職持ちだと宣言した人をとにかく信用して、肩を持つ発言をしたり、投票合わせを行ったりした。今回はそれが功を奏したようで、順調に人狼を遺棄することができた。
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誰が誰に投票し、誰を怪しく思っているのかといったやり取りのメモが取れる。もちろん自分の推測も書き込める。
 ただ、誰に投票するかを吟味し過ぎたせいか投票が遅すぎると疑われ、後半に筆者が遺棄されることに。そうなると、プレイヤーとしての操作は終了となるが、決着がつくまで行く末を確認できる。
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 今回は人狼ゲームをメインとした試遊となったが、試遊の最後には壮大なストーリーを感じさせる意味深なセリフもあった。本編では、ビジュアルノベルならではの濃密なストーリーと、ループする人狼ゲームを何度もくり返しながら結末へとたどり着く戦略性のあるゲームプレイが楽しめるそう。物語にも、試遊バージョンでは登場しなかった人魚や人狼といった亜人種も登場するという。

 硬派な人狼ゲームとはなっているが、くり返し遊んでいくことで自然と戦略を理解して攻略方法が身に着く。そうすることで、物語の真相にたどり着くことができる。そういった意味では、筆者のような人狼ゲームが得意でない人にとっても存分に遊び尽くせる作品となりそうだ。
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イシイジロウ氏インタビュー:人間と人狼、どちらが正義なのか。これまでの人狼ゲームではまったく異なる視点から物語が楽しめる

 試遊を終えた後、本作の企画および総監修を担当しているイシイジロウ氏へインタビューを実施。“人類の正義を問う深海人狼”をテーマにした本作の開発の経緯と、テーマに込められた思いなどを聞いた。
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イシイジロウ氏

ストーリーテリング代表。本作の企画および総監修を担当。代表作は、『428 〜封鎖された渋谷で〜』、『文豪とアルケミスト』、『タイムトラベラーズ』、『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』など。(文中はイシイ)

――イシイさんは、これまでにケムコとのタッグで『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』を発売されていますが、今回、人狼ゲームを開発することになった経緯をお聞きできますか?

イシイ
ケムコさんは、過去に人狼アドベンチャー『レイジングループ』を開発されましたが、もう一度、人狼アドベンチャーに挑戦したかったそうなんです。いまお話いただいた通り、『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』でご縁ができていましたし、人狼界隈では僕は“人狼マニア”として通っていましたので、以前にご相談を受けていました。

 その際、仮に人狼アドベンチャーを作るのであれば、既存の作品を大きく超えたいと考えたのですが、それはケムコさんも同じ考えでして。であれば、AIの機能と人狼アドベンチャーを組み合わせて、おもしろいものができそうであれば発表しようと決めました。

 そしてプロトタイプ版を制作して手応えを感じましたので、昨年2024年9月に発表させていただき、今回のTGS2025では人に見せられる程度には作ることができ、試遊台を出すことになったわけです。

――人狼アドベンチャーのジャンルでは『レイジングループ』や『グノーシア』などの人気作が存在していますが、それらとはまた異なる作品を目指されていると。

イシイ
その通りで、過去の名作を超えていかないといけないと強く感じています。

――実際にプレイさせていただきましたが、ガチの人狼ゲームだなと感じました。たとえば『グノーシア』ですとRPGのようにパラメーターがあって、ある程度プレイヤーがコントロールできるような要素がありますが、本作では各ループで情報がリセットされているイメージで。

イシイ
グノーシア』のような積み重ねて成長するような要素を入れることも検討したんですが、今回は人狼ゲームのおもしろさをとことん追求したいと思い、そのような要素は入れないことにしました。

 人狼ゲームには戦略のトレンドが存在していまして。それをもとにロジックを詰めていけば人間側が強くなったりするのですが、その定石を1個外すとバランスがガラリと変わるんです。ですので、一定の定石で勝率が上がってくると、今度は逆に人狼が戦略を変えてくる。そうした人狼ゲームの醍醐味である駆け引きを表現したいなと。

――実際の人間と人狼ゲームをやっているような駆け引きですね。その駆け引きに対応できるパターンをAIで作れるのでしょうか?

イシイ
はい、思考テーブル、ルーチンを作るイメージです。たとえば、わかりやすく言うと人狼ゲームでは人狼が人狼に投票しないほうが数的な意味では絶対に有利になります。でも、そうするとパターン化してくるので、慣れたプレイヤーは人狼を見破りやすくなるんですよね。そこで人狼がたまに人狼を吊ったりすると、人間側は吊るように差し向けた人狼を信用してしまい、人間側が勝つのが難しくなる。

 そういった戦略もトレンドとして存在していますので、あらゆる思考テーブルを作成し、いまの人狼ゲームのトレンドも落とし込んで、深い駆け引きを楽しめる作品にできればと考えています。

――それを実現するのには、膨大なパターンを作成する必要がありそうですね……。

イシイ
そこまでたいへんではないかと思います。僕はシステムを開発する側ではないので、気楽に言っていますが(笑)。生成AIを作るレベルの話をしているわけではないので、開発をするうえでの障害にはらないかなと。現在の流行、人の定石の変化する部分については、対応できるところまで作り込もうと考えています。
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――本作の役どころには人狼TLPTが関わっていて、セリフの監修もされているとお聞きしています。
※人狼TLPT……俳優が各キャラクターを演じながら人狼ゲームをプレイし、展開に応じて、役どころに合ったセリフなどを生み出す即興劇。『Depth Loop』は、舞台・人狼TLPT(人狼ザ・プレイングシアター)の看板作品『Depth』をモチーフにしており、登場人物も人狼TLPTのキャラクターが登場することになっている。
イシイ
そうですね。人狼TLPTの過去の公演データをすべて提供してもらい、それをすべて確認したうえで脚本を書いています。

 人狼TLPTは2012年から活動していて、850回以上公演をくり返していますので、本当に数多くのシチュエーションが存在しています。たとえば恋人どうしが殺し合ったときにどういったドラマが生まれるのかなど、あらゆるシチュエーションで魅力的な物語や粋なセリフが生まれていますので、そこをシナリオライターと拾っていきながら作っています。

 ただAIでゲームを作るのではなくて、850回以上の公演から得られるノウハウをどのように落とし込むのかが開発におけるテーマですね。

――なるほど。今回試遊させていただいた中では、そういった人狼ゲームの展開だけでなく、最後に今後の展開を匂わせる場面があったりと、大きなストーリーがあるように感じました。

イシイ
本作は『Depth Loop』と、タイトルに“ループ”と入っているように、人狼ゲームを複数回遊ぶことで人狼ゲームが持つゲームシステム自体を解き明かしていく内容となっています。

 これは『グノーシア』のクリエイター・川勝さん(プチデポットの川勝徹氏)が言われていたことなんですが、「『グノーシア』はローグライクアドベンチャーだ」とジャンル名を付けていて、これはすごく意義のある命名だなと思ったんですが、残念ながらその流れを追うフォロワーのゲームを誰も作らなかった。

 そこで今回は、そのローグライクアドベンチャーの挑戦に加えて、『レイジングループ』のような、ランダム性のあるゲームの中にアドベンチャーゲームのドラマを組み合わせて、どのような化学変化を起こしていくのかがポイントとなっています。

――くり返し遊ぶ中で、ストーリーが進んでいく形であると。

イシイ
通常の人狼ゲームと異なるのは、人狼側に名前がある点です。一般的に人狼ゲームって、人狼1、人狼2と、人狼側は無個性になっていることが多いんですよね。でも本作では、人狼TLPTの看板タイトルである『Depth』の世界観をもとにしているので、人狼側にも設定があるんです。

 物語としては、人類がパンデミックで滅亡の危機に瀕した世界を舞台に、科学者たちが人狼や人魚のような亜人種を集めて動物実験をしています。ですので、人狼たちは実験される側の悲劇の存在でもあります。彼らをかわいそうだと逃がすのが、狂陣たちになります。

 人狼側には正義がありますし、どちらかというとマイノリティな立ち位置。そんな彼らの復讐劇がポイントとなります。人狼はただの悪者ではなくて、名前と人格があり、過去や家族も存在する。

 自分(プレイヤー)が人狼となったときに、そういった設定を知ることになるので、そのタイミングで「自分たちはこれだけ辛い思いをしてきたから、人間に復讐しなければならない」と思うようになる。そういった視点も楽しめるゲームです。これまでの人狼ゲームではまったく異なる視点から味わえます。

――人間に恨みを持つ感情が、プレイヤーにも生まれる。

イシイ
人間はぜんぜん正しくないんです。たしかに人類を救うためと大義名分を掲げていますが、やっていることは動物実験ですからね。人狼たちを動物だと思っている。名前も、家族も、人間と同じ知能もあるのに。それは、人類史が抱えてきた問題でもあると考えています。

 いったい、どちらが正義なのか。人狼ゲームは必ず勝敗がつくシステムです。その中で、物語がどこにたどり着くのか、そこが見どころとも言えるでしょう。
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――なるほど。お聞きしていると、マーダーミステリーのように役目を与えられて、それを遂行するような側面もあるように感じます。

イシイ
はい。ただの人狼ゲームにしていないところがポイントだと思います。じつは予言者や霊媒師、狩人などの役職もストーリーの設定に絡んできます。

 人間にも善良な人はいますが、多くはマッドサイエンティストです。目的のためならば、人狼を切り刻んでもいいと思っている。人類のためには、まず自身の科学、自身の出世が必要で、そのためなら何を犠牲にしてもいいと思っている。そんな彼らは、不老不死の人魚を相手に、何度も切り刻んで命を奪って、そしてくり返し復活させるような実験をしている。

 そんなときに同じく実験対象だった人狼が檻から逃げ出してしまったため、人間は人狼を見破らなくてはいけない。それを見た人魚たちは人間に取り引きを持ちかけます。「私を逃がしてくれるなら、人狼を見破るための能力を渡してあげます」と。それが予言者、霊媒師、狩人の能力で、人間の中に能力者が生まれてくる。

 ですが、こんな人間たちが本当に人狼に勝利したときに人魚を逃がしてくれるのか。プレイヤーが逃がそうと言ったとしても、生き残った仲間たちが見逃してくれるとは限らない。……といったひと筋縄ではいかない、ただの人狼ゲームにはないテーマを持っているので、そこは期待してほしいです。膨大なシナリオではありますが、すでに書き終わっているので、皆さんの反応がすでに楽しみですね。
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――なるほど。それはストーリーにめちゃくちゃ惹かれますね……。ちょっとお話が戻りますが、人狼ゲームの中ではプレイヤー側が人狼になったり、狂陣になったりすることもあるということですよね。

イシイ
当然、あります。今回の試遊バージョンは人間のみですが、すべてのキャラクターの視点があります。狂陣にもなりますし、狂陣は人狼たちの背景を知ることができます。それによって、「人間許せない!」という感情が沸き立つかもしれません。逆に人間の立場に戻ったときに、複雑な思いを抱えたり。そこが、物語のカギとなります。人狼どうしでコミュニケーションが取れるタイミングもありますので、そこでどういった意思決定を行うかも重要です。

 本作では、すべてのキャラクターたちが主人公です。プレイヤーはそんな主人公たちと戦わなければなりません。

――全員が主人公……。それだけ物語も練られていると、人狼ゲームとアドベンチャーゲームを2本同時に作っているような感じになりますね……。

イシイ
やはり、『レイジングループ』のようなアドベンチャーゲームとしての分厚さと、AI人狼としての奥深さ、その両方を足して、さらに何かを掛け合わせたような作品を作らないと、後から出した意味がないと思っていますから。

――開発状況はいかがでしょう?

イシイ
人狼ゲームとしては、ロジックが破綻していないところまで完成しています。そこから、高度な戦略を入れ込んでいこうと考えているところです。その作業を行いつつ、アドベンチャーゲームで包む作業を行うつもりです。発売は変わらず、2026年を予定しています。

――それでは最後に、本作を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。

イシイ
本作のテーマは、“正義は人類か人狼か?”となっています。人類か人狼、どちらが正義なのかを問いかけていますが、その両方の立場を経験しながら、矛盾した世界を体験できる作品はなかなか珍しいかと感じています。

 ただ、本作のテーマに掲げているような、どちらが正義なのか、という問題は現実世界にも存在していると思います。ふたつの国が争っているとして、どちらに正義があるのか、どちらが人道的なのか、その答えなんて誰にもわかりません。大きな国々が支援しているからといって正しいわけではないですし、小さな国が孤立しながら奮起しているからといって、大義があるとも限らない。

 そうした問題に、どのように答えを見つけていくか。僕はこのゲームを通じて問いかけています。ぜひ、その挑戦を受けていただけたらと思います。

※人狼TLPT関連情報

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