『サイレントヒルf』国内独占インタビュー。「美しいがゆえに、おぞましい」。昭和日本を舞台に竜騎士07&山岡晃&岡本Pが創造する新たな恐怖の形とは

byいーさん

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『サイレントヒルf』国内独占インタビュー。「美しいがゆえに、おぞましい」。昭和日本を舞台に竜騎士07&山岡晃&岡本Pが創造する新たな恐怖の形とは
 2025年7月3日~6日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスで開催された北米最大のアニメコンベンション“Anime Expo 2025”。そのステージに、『SILENT HILL f』(サイレントヒルf)のキーパーソンである『サイレントヒル』シリーズプロデューサー 岡本基氏、シナリオを手掛ける竜騎士07氏、そしてシリーズの音楽を象徴するコンポーザー・山岡晃氏が登壇した。

 本稿では、満員の会場を熱狂させたプレゼンテーション直後に行われた、3名への国内メディア独占インタビューの模様をお届けする。
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岡本基 氏おかもと もとい

コナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)所属のプロデューサー。2019年KONAMI入社。『サイレントヒル』シリーズプロデューサーとして、シリーズ全体のリブートに挑む。(文中は岡本)

山岡晃 氏やまおか あきら

作曲家、音響監督。1993年KONAM入社、在籍中は『サイレントヒル』シリーズや『beatmania』シリーズなどで多数の曲を作曲。現在スーパートリック・ゲームズ取締役。(文中は山岡)

竜騎士07 氏りゅうきし07

ゲームクリエイター、シナリオライター。同人ゲームとして発表されアニメ化やマンガ化されたホラー作品『ひぐらしのなく頃に』(2002年)や、その流れを汲む『うみねこのなく頃に』(2007年)などを発表。『SILENT HILL f』ではシリーズで初めてシナリオ制作を担う。(文中は竜騎士07)

昭和の日本を舞台にした、新たな『サイレントヒル』への手応え

――2022年10月の発表から約3年が経ち、いよいよ発売が近づいていますが、これまでの手応えは?

岡本 
最初に発表したときから日本を舞台にした『サイレントヒル』ということでたいへん強い反響をいただきました。そのフィードバックを受けて、ティザー映像で印象的だった花の表現をゲーム開発中にもさらに強化するなど、ファンの皆さんの声を取り入れながらゲームを改良してきました。

 2025年3月に第2弾の情報を出した際も、『
SILENT HILL 2』以上の大きな反響をいただき、本当に驚いています。発売に向けてますます情報発信に力を入れていきたいと思いますので、これからも応援よろしくお願いします。

――今回、パネルステージの会場は満員御礼となり、アメリカでも高い注目度を感じさせましたが、イベントを終えての感想はいかがでしたか?

岡本 
皆さんが本当に楽しみにしてくださっていることが伝わってきて、驚きとともにうれしく思っています。とくにアニメファンが多いこのイベントで『サイレントヒル』がこれだけ注目されるというのは、新しいファン層に届いている証拠だと感じました。

竜騎士07 
さすがは『サイレントヒル』という感じで、人の入りと熱気がぜんぜん違いましたね。サインを求める方々全員に対応できず、申しわけない気持ちでいっぱいです。

山岡 
ゲームイベントではなく、アニメのイベントでこれだけ多くの方に集まっていただけたのは、本当にうれしい驚きでした。『サイレントヒル』という作品の見えかたが、時代と共に変わり、新しい世代にも魅力的に映っているのかもしれないと感じ、大きな手応えを得られました。
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Anime Expo 2025会場には『SILENT HILL f』ブースが設置され、多くのファンが列に並んでいた。

実在の町・飛騨金山を舞台にした理由と、富士山がNGだった裏話

――本作の舞台を実在する岐阜県金山町にした狙いは何でしょうか?

竜騎士07 
物語を作るうえで、まずはスタッフ全員で「舞台はここだ」という共通の認識を持ちたかったのです。そのために、実在する場所をイメージの基盤にしました。

 じつは『サイレントヒル』ということで静岡県も候補地として視察に行きました(笑) ところがいざ実際に行ってみると、静岡から見る富士山の存在感があまりに強すぎて『サイレントヒル』の舞台にはそぐわないのではと感じました。霊峰富士がどこにいても見下ろしてくるので、作品の持つ霧の世界観が負けてしまうんです。

 そうしていくつかの場所を巡る中で、飛騨金山の持つ格子状の町並みが非常におもしろい形をしていると感じ、私が提案させていただきました。
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山岡 
音楽面では、安易に和楽器を使う“和風”ではなく、日本人が古来から持っている独特の“間”やリズムの“揺れ”を表現することを意識しました。たとえば“一本締め”のように、海外の方には理解しにくいかもしれないけれど、日本人なら誰もが共有できる感覚がありますよね。

 本作では、そうした画一的ではないテンポの揺れや、少し哀愁を帯びた日本のメロディをベースにしています。単なる“怖い音”ではなく、湿度や温度、高さといった、目に見えないけれど感じられるものを音で表現し、世界観をより深く広げることを目指しました。

『ひぐらしのなく頃に』との関係性は?

――同じ岐阜県が舞台で、昭和の制服少女が登場することから『ひぐらしのなく頃に』を連想する竜騎士07ファンもいるかといますが、意識した点はありますか?

竜騎士07 
ひぐらし』を前提として本作のシナリオを執筆したわけではまったくありません。これは完全に『サイレントヒル』の世界観の中で作られた物語です。

岡本 
まさしくその通りです。私自身が竜騎士07先生の大ファンでして、『ひぐらし』はもちろん、マンガ作品の『蛍火の灯る頃に』なども拝読していました。霧に包まれた村で人々が翻弄される物語を読んで、「この方ならきっとすばらしい『サイレントヒル』を描いてくださる」と確信し、お声がけさせていただきました。

謎多きキャラクターと、ゲーム体験を深めるギミック

――先日公開されたトレーラーに登場した“五十嵐咲子”というキャラクターについて、どのような意図で生み出されたのかお聞かせください。

竜騎士07 
彼女は主人公・雛子を取り巻く友人のひとりですが、ミステリアスな村で神社の関係者であることから、キーパーソンのような雰囲気をまとっています。
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岡本 
「妖精が見えちゃう」という設定は、日本の学園モノでよくある“クラスにひとりはいるオカルト好きな子”というイメージからきています。ただ、ここは『サイレントヒル』の世界です。彼女に見えているものが、本当におちゃめな妄想なのか、それとも本物なのか。そのシリアスな問い掛けが、このキャラクターの深みになっています。

山岡 
音楽を作るうえでは、映像で描かれていることに直接的な音を当てることはしないようにしました。“怖いシーンだから怖い音”とするのではなく、映像に描かれていない感情や世界観の広がりを音で補うことで、プレイヤーがより深く没入できるように設計しています。咲子が登場するシーンでも、そうしたアプローチで音楽を構築しました。
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楽譜を使わない!?  山岡晃氏の作曲術

――これまでの『サイレントヒル』シリーズの音楽と本作で、とくに心掛けたことの違いはありますか?

山岡 
“『サイレントヒル』らしさとは何か”という問いには、いまだに自分でも明確な答えが出せていません。ただひとつ言えるのは、ほかの多くのビデオゲームの音楽やサウンドデザインとは一線を画す、“なじまない音作り”を意識しているということです。

 このタイトルでしか感じられない音、この世界でしか聴こえない音楽。それを提供することが“『サイレントヒル』らしさ”につながるのだと考えています。

『SILENT HILL f』でもその哲学は変わりません。

――山岡さんは楽譜をいっさい使わずに作曲されるというのは本当ですか?

山岡 
本当です。コードもドレミファソラシドもギリギリです(笑)。ギターを弾くときも「だいたいこのへん」という感覚と雰囲気で弾いています。

 作曲ソフトのグリッド(拍を合わせる線)も無視して、自分が心地よいと感じるリズムや揺らぎをそのままレコーディングします。だからテンポも一定ではありません。音楽理論ではなく、感覚で作り上げていくスタイルですね。

アクション性を増した戦闘システム

――『SILENT HILL f』ではコンバット(戦闘)面にもこだわっているとのことですが、具体的にどのように磨きをかけたのでしょうか?

岡本 
従来のシリーズ作品よりも、コンバット要素を重視して設計しています。ただし、舞台が日本なので、拳銃を撃ちまくるようなゲーム性にはしていません。そのぶん、近接武器を使った戦闘の比重が上がっており、より緊迫感のある戦いが楽しめます。

 開発を担当してくださっているNeoBards Entertainment(ネオバーズエンターテインメント)さんはアクションゲームを得意とする会社なので、ディレクターを中心に非常にクオリティの高い戦闘システムを磨き上げてもらいました。

――本作で“ここをとくに見てほしい”というそれぞれのポイントを教えてください。

竜騎士07 
本作には、さまざまな解釈ができるように、物語の隅々にまで細かい要素をたくさん散りばめました。『サイレントヒル』のファンの方々は作品を考察する力に非常に長けているとつねづね尊敬しておりますので、ぜひ物語の隅々までじっくりと味わい、考えながらプレイしていただけると嬉しいです。

岡本 
「美しいがゆえに、おぞましい。」というコンセプトの通り、シナリオもビジュアルも、その二面性を徹底的に追求しました。主人公の選択における“美しさ”と“おぞましさ”とは何か。そして、浸食されていく世界のビジュアルが持つ両極の魅力を存分に楽しんでいただきたいです。

山岡 
やはり“昭和”という時代が持つ独特の空気感ですね。いまのアニメやゲームに慣れ親しんだ世代の方々にとっては逆に新しい世界に感じられるかもしれません。ホラーゲームとしての楽しみはもちろんですが、この作品でしか味わえない昭和の日本という世界観に触れて、「こんなおもしろい世界があったんだ」と感じてもらえれば幸いです。
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まとめ

 3人のクリエイターがそれぞれの視点から語った言葉からは、『SILENT HILL f』が単なるシリーズの新作ではなく、日本の文化的・心理的背景を深く掘り下げた、まったく新しいサイコロジカルホラー体験を目指していることがうかがえる。伝統と革新が交錯するこの“美しいがゆえに、おぞましい”世界で、いったい我々は何を目撃するのだろうか。
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集計期間: 2025年07月27日09時〜2025年07月27日10時