『たねつみの歌』で40曲以上の劇伴をひとりで作曲した原田萌喜氏にインタビュー。春夏秋冬の4つの国のテーマや冒険心をかき立てるOP曲の誕生秘話

byジャイアント黒田

更新
『たねつみの歌』で40曲以上の劇伴をひとりで作曲した原田萌喜氏にインタビュー。春夏秋冬の4つの国のテーマや冒険心をかき立てるOP曲の誕生秘話
 アニプレックスが手掛ける、ノベルゲーム製作ブランド“ANIPLEX.EXE(アニプレックスエグゼ)”の3rdプロジェクト『たねつみの歌』。2024年冬にPC(Steam・DMM GAMES・DLsite)向けに発売される本作は、企画・シナリオ担当に、『雪子の国』『ハルカの国』などのノベルゲームシリーズを個人で製作し、その作品クオリティーで高い評価を受ける気鋭のクリエイター・Kazuki氏を抜擢した注目タイトルだ。

 ジャンルは冒険ファンタジーで、“神々の国”を舞台に16歳の少女・みすずと、過去からやってきた16歳の母親・陽子、そして未来で出会った16歳の娘・ツムギら同い年の3人による、最初で最後の冒険がくり広げられる。

 舞台となる“神々の国”は春夏秋冬の4つに分かれていることから、全4回にわたって
『たねつみの歌』に関する記事を展開している。第2回は、40曲以上の劇伴やオープニングテーマ、エンディングテーマをたったひとりで手掛けた作曲家・原田萌喜氏のインタビューをお届けする。
広告

原田萌喜 氏はらだ もえき

Kay Production所属の作曲家。人気タイトル『荒野行動』や『勝利の女神:NIKKE 』、『王者栄耀』などのBGMを担当。『たねつみの歌』では劇伴だけではなく、オープニングテーマとエンディングテーマの作曲も手掛けている。(文中は原田)

音楽のすべてを任せてもらい、ふだん以上にモチベーションがアップ

[IMAGE]
――原田さんはANIPLEX.EXEをご存じでしたか?

原田
アニプレックスは存じあげていましたが、ANIPLEX.EXEのことは知りませんでした。僕が音楽を担当することになり、これまでにリリースされた作品を調べてみたところ、知っているクリエイターが参加していたので、知らない作品とはいえ親近感はありました。

――ちなみに、知っているクリエイターというのは?

原田
ATRI -My Dear Moments-』のオープニングテーマを歌唱された柳麻美さんです。以前、別の仕事でごいっしょする機会があって。

――なるほど。『たねつみの歌』の企画書やプロットを見たときの第一印象を教えてください。

原田
公式サイトに公開されている僕のコメントの通り(※)、“尖った”ノベルゲームだなと思いました。というのも、作品の資料を拝見したときの印象が、僕がイメージしていたノベルゲームとはずいぶん違うものだったので。いわゆるギャルゲーと呼ばれるジャンルのように、ゲームを作るときはターゲットを明確に決めていることが多い印象でした。でも『たねつみの歌』は、あえてターゲットを絞っていないと言いますか……。ふだん僕がプレイしないタイプの作品だったので、どんな人がプレイするのか想像ができなかったんですね。

 ただ、企画・シナリオを手がけるKazukiさんのことを調べたり、プロデューサーの島田さん(島田紘希氏。ANIPLEX.EXEのプロデューサー)たちと打ち合わせを行ったりする中で、Kazukiさんに熱心なファンの方たちがいることを知りました。Kazukiさんの新作を求めている方たちをターゲットにしつつも、かわいい女の子や幻想的なキャラクターが好きな方、冒険譚が好きな方にも刺さる内容になっているなと感じたので、“尖った”ノベルゲームという印象を受けました。
※原田さんは公式サイトで、「最初に頂いた資料を眺めて「尖った」ノベルゲームだと感じながら制作しました」とコメントしている。[IMAGE]
――原田さんにはどのようなオファーがあったのか教えてください。

原田
オファーは事務所を通していただきました。実際に依頼内容を確認したときは、曲数が多いうえに、オープニングとエンディングも僕ひとりに担当させてもらえるんだという喜びが大きかったですね。

――公式サイトで原田さんは、「そのボリューム感は作曲家心をとても刺激する内容でした」ともコメントされています。オープニングやエンディングを含めて、音楽をすべて担当できるのは、作曲家冥利に尽きるのでしょうか?

原田
タイトルにもよりますが、ゲームの音楽は、オープニングはAさん、ストーリーまわりはBさん、バトルまわりはCさん、エンディングはDさんというように、担当を分けることが多くて、場合によっては何十人もの作曲家が参加することもあります。もちろん、『たねつみの歌』のようにひとりの作曲家がすべての音楽を担当することもありますが、ひとりで担当できる機会は多くないんですよ。

――そうだったんですね。

原田
複数名の作家で一作品を担当する場合は楽曲の雰囲気が作品にマッチするのはもちろん、それぞれの楽曲同士が整合性をとれるように考える必要があるのですが、『たねつみの歌』のように、オープニングとエンディングも含めて、作中の音楽をいちからすべてお任せしますという依頼はめったにないので、ものすごくありがたいですし、ふだん以上にモチベーションが上がりました。

――非常にやりがいのある仕事だったと。ANIPLEX.EXEの3rdプロジェクトに参加されてみて、これまでの作品作りと何か違いはありましたか?

原田
僕はふだん、中国のメーカーから依頼を受けることが多くて、その際は通訳さんを通してミーティングを行ったり、日本語訳された文面でやり取りを行ったりすることがほとんどでして。そうなるとやはり先方の言い回しや言葉の裏にある意図をくみ取るのに時間がかかってしまうことも多く、当たり前ですが通訳さんを通さずにコミュニケーションが取れたのはありがたかったです。

 加えて
『たねつみの歌』では、的確な音楽的ディレクションをいただけたので、作業をしやすかったのを覚えています。

――とくに印象に残っているディレクションはありますか?

原田
ニュートラルな曲でちょっと淡白なものがあって、少しだけ苦戦をしたんですね。そのときに音の抜き差しに関して、「この楽器を抜いてみたらどうか」、「この音を入れてみたらどうか」と提案していただきました。

 僕はゲームの資料を読み込んで作曲してはいるのですが、開発スタッフの方により客観的な立場で見ていただけるのは、ものすごく大事な視点だと思っていて。そのディレクションに関しても、的を射た指摘をしていただいたなと思っています。

――開発スタッフとのやり取りで、ほかに印象に残っているエピソードを教えてください。

原田
Kazukiさんのパッションの強さです。最初のミーティングでKazukiさんとお話したときに、ものすごくこだわりの強い方なんだなと感じましたし、完成した曲に対して「ここがよかったです」と感想を伝えてくれたので、熱い方なんだなと印象に残っています。

 アニプレックスのスタッフさんたちもよかったと思ったところをちゃんと伝えてくれるので、そういう意味でも作曲しやすい現場だったと思います。曲数は多かったですが、モチベーションをうまく高めてくれたので、曲作りに悩むことは少なかったですね。

生録音にこだわって手掛けた楽曲は全43曲に

[IMAGE]
――曲全体の方向性やイメージを、どのように決めたのか教えてください。

原田
シナリオを読んだうえで、どういう楽器を取り入れるのか、どういうジャンルの音楽を作るのかといったところから考えています。今回は、春夏秋冬の4つの国を旅する冒険ものということで、いろいろな楽器やジャンルの音楽を組み合わせるのがいいのかなと思いました。

 日常のシーンに使う曲も、民族的な音を少し取り入れてもいいのかなと考えながら作曲していますが、最初の打ち合わせのときにピアノを主体にしたいというオーダーがあったので、そこは要望に応えるようにしています。ピアノのレコーディングだけでも8時間ぐらい録音したと思います。

――公式サイトのコメントに、「従来のノベルゲームのサウンドを拡充して生録音や繊細な表現にまで力を注いでおり、細部までしっかりと作り込ませて頂けたと思っております!」とありました。8時間にも及んだピアノのレコーディングも、細部までしっかり作り込んだところになるのでしょうか。

原田
ピアノは、純粋に物量が多かったというのもあるのですが、おそらくノベルゲームにおいてこれだけ生録音を行っているタイトルは、ほかにないんじゃないのかなと思います。それだけ、予算的にも時間的にも力の入った音楽に仕上がっていますので、手前味噌ですが生録音は本作のこだわりのひとつだと思います。

――生録音をやりたいと提案したのは、原田さん側から?

原田
そうですね。僕にすべての音楽を任せていただけるというのであれば、いい音楽を作曲したいという思いが強かったので、うちの社長と相談したうえで生録音にこだわりたいと提案させていただきました。

――先ほど予算の話がありましたが、生録音にこだわると、予算もだいぶ変わってくるのでしょうか?

原田
かなり変わります。どこまで生録音にこだわるのかによって、ミュージシャンに支払うお金やスタジオ代などが大きく変わってくるので。

――なるほど。物量が多かったというお話もありましたが、作曲した音楽は全何曲になったのか教えてください。

原田
全43曲です。劇伴はもともと40曲のオーダーでしたが、僕のほうから「こういう切り口の音楽はどうですか」と提案して、1曲多くなりました。それで劇伴が41曲になり、オープニングとエンディングを合わせて全43曲になっています。

――ノベルゲームの中でも曲数が多いほうだと思いますか?

原田
曲数はゲームの長さによっても変わると思いますが、シナリオの分岐がないタイトルにも関わらず、劇伴が40曲もあるのは、僕の感覚ではかなり多いほうだと思います。『たねつみの歌』は、このシーンでこういった音楽を流したいという、決め打ちの曲もいくつかあったので、それで全体の劇伴が増えた印象ですね。決め打ちの曲が多いところからも、開発スタッフさんたちの強いこだわりを感じました。

――決め打ちの曲を作曲するときは、いわゆる汎用的な曲を作るときと違いはあったりするのでしょうか?

原田
違いますね。たとえば決め打ちの曲の中には、キャラクターが登場してからセリフが終わるまで流したいと指定された音楽もありました。この音楽の場合は、セリフに合わせて曲調をどのように変化させるといいのか、意識して作曲しています。

 まず、曲調を変える時間を考えたうえで、つぎにどのように変えるのかを考えていきました。指定がないときは頭から自由に作曲して、雰囲気で曲調を変えたりするので、通常の曲とは作曲するときの考えかたなどが異なります。

 本作はノベルゲームなので、テキストを読み進めるスピードはプレイヤーごとに異なると思いますが、セリフを飛ばさずにプレイしていただけると、シーンごとに決め打ちして作曲した音楽も堪能していただけると思います。
[IMAGE]
――全43曲の音楽は、どのような順番で作曲していったのですか?

原田
春夏秋冬の4つの国のテーマで、春から順番に作曲しました。4つの国は、環境や情景などがそれぞれ異なりますし、国を巡るたびに物語が進んでキャラクターたちもどんどん深堀りされていきます。

 国ごとの違いをはっきりさせるためにも、まったく別の音楽にしようとは考えていましたが、ひとつのゲームでここまで方向性が異なる音楽が入っているのはかなり振り切っているなと思います。一方で、ここまで異なる音楽をひとつのゲームで表現してもいいのかなという不安もあって……。開発スタッフさんたちにしっかり確認してもらいながら、国のテーマを作曲していきました。

――最後に完成した曲も教えてください。

原田
プラスアルファで提案した41曲目の劇伴です。オープニングを崩したアレンジ曲で、原曲よりも前進感のある力強いビートに置き換え、メロディも別の楽器で奏でた形に仕上げています。

――プラスアルファで提案した曲は、どのタイミングで作ろうと考えたのですか?

原田
最初に音楽のメニュー表を見たときに、もっと力強い曲があってもいいんじゃないかなと目星をつけていました。曲作りを進める中で、改めて全体の音楽のバランスなども考慮して、実際に作曲してみました。

 全体的にアグレッシブな曲はそんなにないので、このゲームを遊んでみたいと、聞いた方の興味を掻き立てられればいいなって。どんなふうに使われるのかはわかりませんが、PRに使ってもらえるとうれしいですね。

――曲作りにかかった時間もお聞きしたいです。

原田
別の仕事もしながら作曲をしていたので定かではないのですが、全体でいうと半年もかかっていないのかな……。4つの国のテーマは、作曲するのに1ヵ月ぐらいかかったと記憶していますが、作品のイメージを掴むことができたので、残りの曲は2、3ヵ月で完成させたと思います。

とくに印象的な4つの国のテーマやオープニングの作曲秘話

――今回、原田さんにインタビューを実施するにあたって、事前に4つの国のテーマ、オープニングテーマ『夜を越える』 、公式サイトTOP曲をご提供いただきました。それぞれどのようなイメージで作曲したのか、とくにこだわったポイント、苦労した点を教えてください。まずは、最初に手掛けた4つの国のテーマからお願いします。

原田
作曲した春夏秋冬の順でお話しますね。春の国は、桜の花がいっぱい咲いているような、ものすごくきれいで華やかな情景をイメージしました。音楽でもきらびやかな雰囲気をプレイヤーの方たちに伝えたいと考えて、情景重視で作曲しています。

 こだわったポイントは情景重視で作曲したところと、二胡(中国の伝統的な弦楽器)を使ってほしいというオーダーがあったので、民族的な曲に仕上げているところです。同じメロディーを2回くり返していて、ワンコーラス・ツーコーラスみたいな感じのふたつのパートにわかれるのですが、最初はゆったりとした四拍子のリズムで始まり、後半はリズムを変えてもう1回くり返すといった内容になっています。
[IMAGE]
――民族的な曲にしているとのことですが、現実世界で参考にした国の民族曲はありますか?

原田
参考にした国の民族曲はありません。

――架空の国の民族的な曲を作るときは、どのようなところからイメージを膨らませていくのでしょうか?

原田
国のような場所の曲を作曲するときは、ビジュアルがとても大事なんですね。視覚的な情報と音楽が食い違っていると、プレイしていて違和感を覚えてしまうので……。もちろん、その場所で何がくり広げられるのかも大事な要素ではありますが、僕はビジュアルにあった音楽になっているのかどうかを意識しながら作曲するようにしています。

――なるほど。では、春の国のテーマを作曲するときに苦労したことは?

原田
ワンコーラスとツーコーラスのつなぎの部分です。Kazukiさんから「開放的な雰囲気がほしい」というオーダーがあったので、どの楽器を使えばいいか、どうやったら開放的な雰囲気に聴こえるのか、考えながら作曲しています。

 たとえば、主旋律が二胡なので、中国の琵琶っぽい楽器の音を入れてみたらどうだろうかとか。中国にはあまりこだわらずに、異国感が出る別の国の笛を使ってみたらどうだろうかとか……。僕の中で明確な曲のイメージがあったので、その方向性でいろいろ試行錯誤をしてみました。

――続いて、夏の国のテーマも曲作りの解説をお願いします。
[IMAGE]
原田
情景からイメージをふくらませていったのは同じですが、夏の国ではストーリーに影を落とすようなエピソードもあり、春の国よりも明らかに不穏な感じがしました。夏には、陽光がさんさんと降り注ぐ晴れやかなイメージがありますが、僕は夏の国に対して、太陽とその光から生じる影みたいなものをイメージしました。

 それで影を生み出すうっそうとした森や洞窟のようなひんやりとしたイメージを音楽に入れたかったのと、もともと発注に石の音を入れたいというオーダーがあったので、石を叩いたような音がするガムラン(インドネシアの民族音楽)を使っていて、影といいますか、不穏な感じになるように意識して作曲しています。夏の国のテーマは、とくに苦労することなくすんなりと作曲できました。
――では、秋の国のテーマは?
[IMAGE]
原田
秋と言えば紅葉を楽しむイメージがありますが、本作の秋の国は文明が失われた、ちょっとさみしい世界観でした。しかも、秋の国の住人たちは民族的な衣装を着ていたので、僕は秋の一般的な楽しいイメージと、秋の国のさみしいイメージ、そして民族的な衣装のバランスを音楽でどのように表現すればいいのか、考えるところから始めました。

 それに、夏の時点で影を感じる音楽を作曲していましたが、秋の国のテーマでは違った哀愁感を表現したいという思いもあって。この後、さらにきびしい冬の国のテーマも控えていたこともあり、曲のバランス感をいかにして整えるのかは、秋の国のテーマを作曲するうえで、大きなポイントになりましたね。
――曲のバランスは、作曲を進めながら考えていったのですか?

原田
そうですね。秋の国のテーマは、ティン・ホイッスル(アイリッシュ・ケルト音楽を代表する縦笛)を使って哀愁感を出しているのですが、曲の構成や方向性などをチェックしてもらいながら完成させています。

――秋の国のテーマでこだわった点や苦労した点は、やはりバランスですか?

原田
あと、秋の国は登場するキャラクターのギャップが強かったので、それをどのように音楽で表現するかも、こだわった点や苦労した点になりますね。ネタバレになってしまうので詳しくはお話しませんが、実際にプレイしてもらえると、こんなギャップがあるのかと驚いてもらえると思います。

――秋の国のテーマを聴いたときに、冒険をしているような気持ちにさせてくれる、RPGのフィールド曲のような印象を受けました。こちらも意識していたのでしょうか?

原田
音階やティン・ホイッスルの影響もあると思いますが、冒険感も意識しています。3つ目の国のテーマでしたし、まだまだ冒険は続くというところで、音楽でもプレイヤーの気持ちを盛り上げたいと思いました。

――最後に冬の国のテーマも解説をお願いします。
[IMAGE]
原田
冬の国のテーマは、4つの国の中でも際立って違うテイストの音楽になっています。こんな曲にしてくださいというオーダーが暗めなクラシックだったので、その方向性で作曲を行いましたが、メロディアスな劇伴の中に冬の国のテーマのような重たい曲を入れてもいいのか、作曲者である僕自身、正直不安でした(笑)。

――(笑)。

原田
春、夏、秋の国のテーマは音が軽かったのに対して、冬の国のテーマはオーケストラでしっかりと奏でていて、重厚感のある荘厳な音楽に仕上がりました。命の重たさみたいなものを表現したいというオーダーもあったので、命とは何なのかを考えさせられるような編成の曲にしています。
――冬の国のテーマでこだわった点は?

原田
こだわったのは、ポップな曲にしないことです。クラシックを参考にして曲を作ることはそんなにないのですが、ド定番のクラシックにするわけにもいかないので、バランスを考えながら作曲しています。戦争モノで流れそうな荘厳な音楽になっています。

――クラシックを参考にするときは、実際にクラシックの曲を聴くのでしょうか?

原田
聴きますね。自分の中でインスピレーションといいますか、クラシックならではの重厚感を冬の国のテーマでもちゃんと表現したいなと思いました。

――苦労した点もあればお聞きしたいです。

原田
苦労したわけではありませんが、時間をかけて考えたのはイントロです。曲のつかみのところから、しっかりと重厚感を表現したかったので時間をかけました。

――オープニングテーマの『夜を越える』はいかがでしたか?
[IMAGE]
原田
冬の国のテーマと同じく、オープニングテーマもイントロが肝になる曲だなと思いました。曲を作るにあたって、オープニングはこんなふうに始まって、壮大な物語が動き出すようにしたいと演出を伺っていたので。

 僕はもともと劇伴を担当することが多いのですが、今回はオープニングテーマも任せていただけるということで、作品の入口にそったものを作りたいという思いが強くて。オープニングテーマに相応しい曲になるように、いろいろと吟味した結果、いまのイントロになっていますが、一般的な曲と比べてもイントロが少し長くなっています。

――意図的にイントロを長くしたのですね。

原田
いまのイントロの長さが、オープニングを盛り上げるためにいちばん効果的だと考えました。じつは、イントロを長くしたことで生まれた劇伴もあります。

 この劇伴は、イントロをそのまま使ってループさせるような曲になっているのですが、オープニングテーマを聴いたKazukiさんのアイデアで誕生しました。イントロをループさせることで、パワーが溜まっていく感じがするといいますか。とてもおもしろいアイデアだなと思いましたね。オープニングテーマは、物語の開始の流れに沿ったイメージで作曲していますが、イントロだけ切り抜くんだっていう。驚きがありましたし、気に入っていただけて純粋にうれしかったです。

――オープニングテーマとエンディングテーマはKazukiさんが作詞(オープニングテーマはshikiと共作詞)されていますが、作詞と作曲は、どちらが先だったのですか?

原田
僕が作曲したものを聴いて、Kazukiさんが作詞をしてくれました。作品に対してかなり寄り添ったワードが詰め込まれた歌詞になっていて、さすがだと思いました。音楽的に表現するのが難しいフレーズもあったので、相談しながらブラッシュアップした部分もあります。

――オープニングテーマで、ほかにこだわった点や苦労した点があれば教えてください。

原田
作品のテーマは重いのですが、3人の少女が旅をする物語なので、女の子らしさ、若々しさも表現できたらいいなと思いました。たとえば、アコースティックギターのバッキング(歌やリードパートの伴奏としてコード中心に演奏すること)で若々しさを表現していますが、旋律は重たく、ちょっと間延びするようにしていて、忙しい曲にならないように意識して作曲しています。

 苦労でいうと、これはフルコーラスの制作の際に発生した問題なのですが、イントロが長かったのと、テンポが遅かったこともあって、一般的な曲のように2コーラスを回してその後に間奏、そしてラストサビみたいな構成にすると、退屈に感じるだろなと考えました。構成を考えるときにちょっとだけ苦労はありましたが、オープニングにはワンコーラスしか入っていないので、あまり関係ないかなと思います(笑)。
[IMAGE]
――オープニングテーマをフルコーラスで聴いたときに、原田さんの苦労がわかるかもしれませんね。原田さんはエンディングテーマの『たねつみの歌』の作曲も担当されていますが、こちらの曲に関しては……。

原田
エンディングテーマはまだ音源が公開されていないので、いまはお話しづらいのですが、Kazuki さんが作詞した歌詞をRitaさんがきれいに歌い上げてくれていますので、こちらもぜひご期待ください。

――わかりました。あとは公式サイトのトップで使われている楽曲ですが、これはオープニングテーマのアレンジ楽曲ですよね?

原田
公式サイトのトップ曲は、四拍子だったオープニングテーマを八分の六拍子に作り直した楽曲になります。ただし、もともと公式サイトのトップ曲として作曲したわけでありません。じつは、ゲームのタイトル画面で流れる音楽としてオーダーを受けたんですよ。

 タイトルは、晴れ渡った空を映すような画面になると伺っていたので、そのような情景をイメージして作曲しています。この曲は明確なイメージが頭の中にあったので、すんなりと完成しました。

 僕にとってはタイトル画面で流れる音楽は重要で、ゲームを始めるにあたって気持ちを高めてくれる曲であってほしいという思いがあります。何回も聴く曲でもあるので、とくに気持ちを込めて作曲しました。

――それだけ気持ちの入った曲が、公式サイトのトップ曲として使われていると知ったときは、感動もひとしおだったのでは?

原田
とても光栄でしたね。『たねつみの歌』が気になっている方は、公式サイトを何度か訪れて、すでに何回か耳にしていると思います。実際にゲームをプレイしてオープニングテーマを聴いた後に、どのようにアレンジをしているのか。僕のこだわったポイントに気づいてもらえるとうれしいです。

――とくに産みの苦しみが大きかった楽曲は?

原田
ストーリー後半に流れる曲は、全体的に難しかったのを覚えています。とくにエンディング近くで流れる想定として指定いただいた曲はたいへんでした。ネタバレになってしまうので具体的に説明できないのですが、この1曲だけでいろいろな心情をかきたてないといけなくて……。さいしょはフワッとした曲になっていたのですが、皆さんの意見を聞きながら最終的な方向性を決めていきました。

―やはり明確にイメージできる曲ほど、作曲がしやすいのですね。どの楽曲もそうだとは思いますが、とくに好きな楽曲、もしくは注目してほしい楽曲は?

原田
日常曲の中にお気に入りの曲があるんですよ。作品には、『陽だまり』という曲名で収録されているのですが、アイリッシュ・フルート(ケルト音楽で広く使われている木製のフルート)が入っているやさしい曲になっています。

 僕の印象としては
『たねつみの歌』らしい曲に仕上がったなと手応えを感じています。作品のテーマではないのですが、プレイし終わった後に聴いていただければ、この曲はよかったよねと思っていただけるのではないでしょうか。ちなみに、『陽だまり』『たねつみの歌』発表記念番組(番組内の03:03頃)でも流れていたので、気になる方はぜひチェックしてください。

――ちなみに、ゲーム内でBGMが聴ける、いわゆるギャラリーのようなモードは用意されているのでしょうか?

原田
ギャラリーモードでも曲は聴けると聞いています。僕としては、ファンの方たちの応援でサントラが発売されるとうれしいですね(笑)。

一度就職するも、作曲家の夢を諦めきれずに専門学校へ

――せっかくの機会なので、原田さんご自身についてもいろいろと伺いたいです。まず、原田さんが作曲家になったきっかけを教えてください。

原田
漠然と作曲家を意識し始めたのは、高校生ぐらいのときだったと思います。幼少のころからピアノを習っていて、遊びとして耳コピ(楽譜を見ずに耳で聴いて演奏をコピーすること)は好きでしたが、作曲はとくにやっていませんでした。趣味で耳コピを続けているうちに、いろいろな曲が取り込まれていって引き出しになったのかなと思います。とくにいいなと感じたのはアニメやゲームのサントラでした。

――とくに影響を受けたアニメやゲームは?

原田
アニメは『ガンダム』シリーズが大好きです。世代的には『SEED』(『機動戦士ガンダムSEED』。2002年放送)でしたね。ゲームだと『ポケットモンスター』シリーズで、曲を聴いただけで、どこで使われているのかわかるぐらい聴き込んでいました。

――初めて作曲した曲を覚えていますか?

原田
作曲と呼べるレベルかどうかはわかりませんが、高校生のときにニンテンドーDSの『大合奏!バンドブラザーズ』(2004年に任天堂が発売した音楽ゲーム)で作曲しました。このゲームは、内部のシーケンサーで音を打ち込んで、実際に演奏できるモードがあるんですよ。もともと音ゲー目的で購入したのですが、作曲できることに気づいてからはいろいろな曲を作って友だちにも遊んでもらいました。『バンドブラザーズ』で自分の曲を作ったのが、作曲の原点だと思います。

――友だちの反応は?

原田
当時通っていたのは音楽学校ではなく、ふつうの高校だったので、作曲ができるんだと驚いていましたね(笑)。

――原田さんの知られざる才能に気づいたと(笑)。その出来事があって、作曲家になろうと思ったのですか?

原田
いえ、周囲に音楽関係の仕事をしている知人がいませんでしたし、自分にとって作曲家は現実離れした仕事だったので、ふつうの大学に進学しました。ただ、就職した後に作曲家になりたいという気持ちが強くなり、専門学校に入り直して本格的な勉強を始めました。

――仕事を辞めてまで作曲家になろうとしたのは、どういった決意から?

原田
就職するときも迷いはありましたが、ひとまず働いてみて、自分の気持ちともう一度向き合ってみようと思ったんですね。それで1年ほど働いてみたのですが、作曲家になりたいという気持ちがどんどん強くなっていたので、会社を辞めることにしました。

――なるほど。専門学校を卒業したあとの経歴も教えてください。

原田
専門学校で学びながら、昔から好きだった劇伴作家さんにダメもとで連絡をしたんですよ。あなたの作品が大好きですって。その縁でアシスタントとして雇ってもらえることになり、学生ではなかなか体験できない生録音の現場などもあり、多くの経験を積むことができました。それからいまの会社にお世話になっています。

――最初に中国のメーカーから依頼を受けることが多いとお聞きしましたが、どのような楽曲を求められることが多いですか?

原田
中華風のアレンジを求められることが多いですね。日本人の作曲家はロックやEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)などのジャンルを融合するのがうまい方が多いので、僕だけではなくて、日本の作曲家のもとに依頼がくるのではないでしょうか。

――なるほど。今回、アニプレックスさんや、Kazukiさんたち制作陣とお仕事をごいっしょしてのご感想や、刺激を受けたことがありましたら教えてください。

原田
Kazukiさんとお話してパッションといいますか、クリエイターの熱意に心打たれたところがありました。ゲームつくりもビジネスなので、予算やスケジュールの兼ね合いでどうしても妥協せざる得ないことはありますが、できるだけ妥協のないものを生み出すとする姿から、クリエイターとしての魂を見せられたなと感じています。この気持ちを忘れずに、今後も真摯に作曲活動を行っていきたいと思いました。

――最後に、本作の発売を楽しみにしている読者やファンに向けてメッセージをお願いします。

原田
『たねつみの歌』は、Kazukiさんのパワーや制作陣の強いこだわりが積み込まれている作品だと思います。発売を楽しみに待ちながら、発売された後はたくさん遊んでもらえるとうれしいです。

『たねつみの歌』作品情報

イントロダクション

 企画・シナリオを、サークル「Studio・Hommage」で『ハルカの国』などの連作ビジュアルノベル「国シリーズ」を制作してきた Kazuki、音楽をゲームミュージック中心に様々な作品に楽曲提供を行う原田萌喜が手がける。キャラクターデザインには、アニメのキャラクター原案など多方面で活躍する popman3580、SNS 中心にオリジナリティに富んだイラストを多数発表しているマニアニが参加し、ディレクション・演出を『ATRI -My Dear Moments-』にて演出を担った Yow が担当。

 選択肢や分岐のない、ただ一つの結末に向けて奮闘する主人公たちを描くノベルゲームとして、2024年冬にSteam・DMM GAMES・DLsiteにて発売予定。

ストーリー

幼い頃に母を亡くしたみすず。
2023年の春、16歳の誕生日を迎えたみすずのもとに、一人の少女が訪ねてくる。
それは、16歳の母・陽子だった。

神々が住まう「常世の国」で行われる「たねつみの儀式」。
その巫女に選ばれた陽子は、旅の仲間としてみすずを誘うため、1996年からやってきたのだと告げる。

たねつみの儀式は、不死である神々が新たな時代へと世代交代していくために必要な、神々の葬式。
「たねつみの巫女」は常世の国を巡り、大地に穢れをもたらす「本当の冬」が到来する前に、古い神の長たちに死を受け入れてもらわなければならないという。

陽子に誘われたみすずは 2050年に赴き、
16歳になったみすずの娘・ツムギも仲間に加えて常世の国へと向かう。
水先案内人として現れた、自身をみすずの弟と名乗るヒルコを交えて、
四人は本当の冬を迎えつつある詩情豊かな国々を旅していく。

時を越え、奇跡のように集った少女と少年。
旅の果てに、彼女たちがたどり着く結末とは――。

スタッフ

  • 企画・シナリオ:Kazuki(STUDIO・HOMMAGE)
  • キャラクターデザイン:popman3580・マニアニ
  • 音楽:原田萌喜
  • 演出・ディレクション:Yow
  • プログラム開発:iMel Inc.
  • オープニングテーマ:「夜を越える」歌:sola
  • エンディングテーマ:「たねつみの歌」歌:Rita

キャスト

  • みすず:飯沼南実
  • 陽子:渡部紗弓
  • ツムギ:早瀬雪未
  • ヒルコ:田村睦心
  • 龍神族の王:岩崎ひろし
  • 姉姫:井上ほの花
  • 妹姫:髙橋咲貴
  • シオミ:栗坂南美
  • フクロウの婆さん:宮沢きよこ
  • 乙姫:木下紗華
  • キツネの奥さん:山本悠有希
  • タヌキの旦那:かぬか光明
  • 猫:虎島貴明

製品概要

  • タイトル:たねつみの歌
  • ジャンル:ノベルゲーム
  • 発売時期:2024年冬発売予定
  • 価格:2,750円(税込)
  • プラットフォーム:PC(Steam・DMM GAMES・DLsite)
  • 対応言語:日本語・英語・簡体字
  • 公式サイト
  • Steamストア
  • 公式 Twitter @ANIPLEX_EXE
      この記事を共有

      本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

      集計期間: 2025年03月16日23時〜2025年03月17日00時