それが、『たねつみの歌』をプレイしながら感じた率直な感想だ。そして、クリアーしたときには、みすず、陽子、ツムギの冒険を最後まで見届けることができてよかったという充足感を味わうことができた。
本稿では、その理由を記事担当ライターのジャイアント黒田がお伝えする。ネタバレには十分配慮しているが、新鮮な気持ちでプレイしたいという方は、『たねつみの歌』をクリアーしてからゲーム好きの友人の感想を聞くような気持ちで読み進めてもらえるとうれしい。
気鋭のクリエイター・Kazuki氏が手掛ける唯一無二のストーリー
企画・シナリオ担当に、『雪子の国』、『ハルカの国』などのノベルゲームシリーズを個人で製作し、その作品クオリティーで高い評価を受ける気鋭のクリエイター・Kazuki氏を抜擢している。
と、紹介してはみたものの、恥ずかしながら筆者はKazuki氏の手掛けたノベルゲームを遊んだことはなかった。だが、本作の公式サイトであらすじや設定を見たり、Kazuki氏にインタビューを行ったりして、Kazuki氏がすごい物語を生み出すクリエイターであることは肌で感じることができた。
物語の舞台は、Kazuki氏の類まれなる想像力によって生み出された“常世の国”。この世界には、春・夏・秋・冬の4つの国に神々が暮らしており、不死である神々が新たな時代へと世代交代していくために必要な“たねつみの儀式”が行われようとしていた。
たねつみの儀式を成功させるためには、“たねつみの巫女”が常世の国を巡り、大地に穢れをもたらす“本当の冬”が到来する前に、古い神の長たちに死を受け入れてもらわなければならないという。
第一印象は16歳の少女3人の冒険ファンタジーながら、じつは祖母(陽子)・娘(みすず)・孫(ツムギ)の三世代による、家族の変遷と世代交代もテーマとなっている。陽子からみすず、そしてツムギへ。ストーリーの合間に、受け継がれてきた絆や想いをうかがい知ることができて、自分の家はこうだったなと温かな気持ちになれた。
わかりやすいのが、歌い継がれている子守唄や、みすずが時折見せる陽子の父の口真似(寒いギャグ)だ。子守唄は好評だが、口真似は陽子とツムギには不評な様子(苦笑)。でも、筆者はみすずの大らかさや、祖父のことが好きなんだろうなという気持ちが伝わってきて好印象だった。
その間にみすずがうまく入り、バランサーのような役割を果たすことで場が和む。次第に、陽子とツムギもお互いの考えを理解し、尊重するようになって絆が深まっていく。これらの描写が非常に丁寧で、3人の冒険を応援したくなった。
陽子が歌った子守唄を知っているなど、みすずたちの“家族”になりえたかもしれないと匂わせるのだが、皮肉たっぷりのユーモアセンスの持ち主で、人々の心中を暴いて嘲笑う悪癖がある。
あまりにも過酷な出来事に、みすずたちを応援していて筆者は、正直、胸が苦しくなることもあった。だからこそ、クリアーしたときの達成感はひとしおだ。プレイの途中で感じた“ある疑問”が、きれいに解決されてスッキリしたうえで、過酷な冒険がこの未来につながったんだなと納得できでうれしかった。
『たねつみの歌』を構成するうえでベストメンバーが集結
冒頭で、完全新規のタイトルなのに、おなじみのメンバーが集結して手掛けた、シリーズ最新作のような安心感と完成度を紹介したが、キャラクターや背景のデザイン、声優、音楽のすべてが、この『たねつみの歌』にマッチしていて、クリアーしたいまとなっては、このメンバーしか考えられないと感じた。
イラストレーター・popman3580氏が描く、表情豊かな人間のキャラクターたち。豊富な表情差分によっていろいろな顔を見せてくれたが、筆者はとくに、みすずの口が“ω”になる表情や、ポニーテール姿の陽子、メガネ姿のツムギ、鬼気迫るヒルコの姿が印象に残ってる。
もっとも印象的だったのは、秋の国で出会う狸と狐の夫婦と、冬の国で犬たちと暮らす名もなき猫。親しみやすいキャラクターなうえ、過酷な出来事の前後に登場したことも相まって、一服の清涼剤になってくれた。
以前、4人にインタビューを行った際、全員がボイス収録は涙との戦いだったと語っていたが、本作をクリアーしたいま、その理由が身にしみてわかった。とくにキャラクターが感情を爆発させるシーンは感情を揺さぶられるので、じっくり堪能してほしい。
これらの理由から、筆者は完全新規のタイトルながら、シリーズ最新作のような安心感と完成度を体験できたというわけだ。本作は、定価2750円[税込]とロープライスに設定されている。この価格を考慮すると、得られる満足感はかなり高め。しかも2024年12月28日までは、リリース記念セールとして20%オフの2200円[税込]で購入できる。ノベルゲームをお探しの方は、この機会にプレイしてみては?
最後にふたつだけ。このゲームはとにかく食事のシーンが多い。お腹が減るので、ゲームのおともはご用意を。そして、久しく家族と会っていない方は、家族が恋しくなるかもしれない。大きなお世話だが、年末年始に家族の絆を再確認してみてはいかがだろうか。