『たねつみの歌』レビュー。16歳の母・娘・孫の3世代が紡ぐ冒険譚は唯一無二。少女たちの冒険を通して家族のよさを再確認できた

byジャイアント黒田

『たねつみの歌』レビュー。16歳の母・娘・孫の3世代が紡ぐ冒険譚は唯一無二。少女たちの冒険を通して家族のよさを再確認できた
 完全新規のタイトルなのに、おなじみのメンバーが集結して手掛けた、シリーズ最新作のような安心感と完成度――。

 それが、『たねつみの歌』をプレイしながら感じた率直な感想だ。そして、クリアーしたときには、みすず、陽子、ツムギの冒険を最後まで見届けることができてよかったという充足感を味わうことができた。

 本稿では、その理由を記事担当ライターのジャイアント黒田がお伝えする。ネタバレには十分配慮しているが、新鮮な気持ちでプレイしたいという方は、
『たねつみの歌』をクリアーしてからゲーム好きの友人の感想を聞くような気持ちで読み進めてもらえるとうれしい。
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気鋭のクリエイター・Kazuki氏が手掛ける唯一無二のストーリー

 2024年12月13日にPC(Steam・DMM GAMES・DLsite)向けに発売された『たねつみの歌』は、アニプレックスが手掛けるノベルゲーム製作ブランド“ANIPLEX.EXE(アニプレックスエグゼ)”の3rdプロジェクトとなるタイトル。

 企画・シナリオ担当に、
『雪子の国』、『ハルカの国』などのノベルゲームシリーズを個人で製作し、その作品クオリティーで高い評価を受ける気鋭のクリエイター・Kazuki氏を抜擢している。

 と、紹介してはみたものの、恥ずかしながら筆者はKazuki氏の手掛けたノベルゲームを遊んだことはなかった。だが、
本作の公式サイトであらすじや設定を見たり、Kazuki氏にインタビューを行ったりして、Kazuki氏がすごい物語を生み出すクリエイターであることは肌で感じることができた。

 物語の舞台は、Kazuki氏の類まれなる想像力によって生み出された“常世の国”。この世界には、春・夏・秋・冬の4つの国に神々が暮らしており、不死である神々が新たな時代へと世代交代していくために必要な“たねつみの儀式”が行われようとしていた。

 たねつみの儀式を成功させるためには、“たねつみの巫女”が常世の国を巡り、大地に穢れをもたらす“本当の冬”が到来する前に、古い神の長たちに死を受け入れてもらわなければならないという。
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 これまでの説明でも、壮大な物語を堪能できそうだと期待が高まると思う。だが、Kazuki氏のすごさはここから。“たねつみの巫女”を務めるのは、1996年からやってきた16歳の少女・陽子。巫女としていっしょに旅をするのは、2023年の春に16歳を迎えた陽子の娘・みすず。そして、ふたりで向かった2050年で出会うことになる、16歳になったみすずの娘・ツムギなのだ。

 第一印象は16歳の少女3人の冒険ファンタジーながら、じつは祖母(陽子)・娘(みすず)・孫(ツムギ)の三世代による、家族の変遷と世代交代もテーマとなっている。陽子からみすず、そしてツムギへ。ストーリーの合間に、受け継がれてきた絆や想いをうかがい知ることができて、自分の家はこうだったなと温かな気持ちになれた。

 わかりやすいのが、歌い継がれている子守唄や、みすずが時折見せる陽子の父の口真似(寒いギャグ)だ。子守唄は好評だが、口真似は陽子とツムギには不評な様子(苦笑)。でも、筆者はみすずの大らかさや、祖父のことが好きなんだろうなという気持ちが伝わってきて好印象だった。
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 性格の異なる3人のやり取りも印象的だ。ふだんはのんびりしているみすずに対して、母親の陽子は豪胆ではっきりした物言いをする委員長のようなタイプ。娘のツムギも負けん気が強く、どちらかといえば祖母の陽子に似ている。ツムギは古い価値観に反抗的で、他人に命令されるのを嫌うことから、しばしば陽子と言い合いになることも。

 その間にみすずがうまく入り、バランサーのような役割を果たすことで場が和む。次第に、陽子とツムギもお互いの考えを理解し、尊重するようになって絆が深まっていく。これらの描写が非常に丁寧で、3人の冒険を応援したくなった。
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 気持ちが旅の傍観者から応援者に変わったのは、旅の水先案内役であるヒルコの存在も大きい。ヒルコは、陽子が流産した息子、つまり生まれることのできなかったみすずの弟を自称する男の子。

 陽子が歌った子守唄を知っているなど、みすずたちの“家族”になりえたかもしれないと匂わせるのだが、皮肉たっぷりのユーモアセンスの持ち主で、人々の心中を暴いて嘲笑う悪癖がある。
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 時折見せる悪癖のせいで、4人の仲睦まじい姿を見ても、筆者は心の底から信じることはできなかった。みすずたちがヒルコを次第に信頼していったのも、不安な気持ちに拍車をかけた。だからこそ、このまま無事にたねつみの儀式を終えてほしいと応援する気持ちが強くなったのだ。
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 陽子、みすず、ツムギの3人は、たねつみの儀式を無事に終えることができるのか。結末は、ぜひ自身の目で見て確かめてほしいが、一筋縄ではいかないことだけは伝えておく。とくに、最初に旅をする春の国以降は試練の連続なので、体験版で春の国をプレイした人は驚くかもしれない。

 あまりにも過酷な出来事に、みすずたちを応援していて筆者は、正直、胸が苦しくなることもあった。だからこそ、クリアーしたときの達成感はひとしおだ。プレイの途中で感じた“ある疑問”が、きれいに解決されてスッキリしたうえで、過酷な冒険がこの未来につながったんだなと納得できでうれしかった。
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『たねつみの歌』を構成するうえでベストメンバーが集結

 最後に、ストーリーやキャラクター以外の魅力に触れたいと思う。

 冒頭で、完全新規のタイトルなのに、おなじみのメンバーが集結して手掛けた、シリーズ最新作のような安心感と完成度を紹介したが、キャラクターや背景のデザイン、声優、音楽のすべてが、この
『たねつみの歌』にマッチしていて、クリアーしたいまとなっては、このメンバーしか考えられないと感じた。

 イラストレーター・
popman3580氏が描く、表情豊かな人間のキャラクターたち。豊富な表情差分によっていろいろな顔を見せてくれたが、筆者はとくに、みすずの口が“ω”になる表情や、ポニーテール姿の陽子、メガネ姿のツムギ、鬼気迫るヒルコの姿が印象に残ってる。
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 また、イラストレーター・マニアニ氏が描く、“常世の国”の神々や住人たちも、オリジナリティーに溢れていて魅力的だった。

 もっとも印象的だったのは、秋の国で出会う狸と狐の夫婦と、冬の国で犬たちと暮らす名もなき猫。親しみやすいキャラクターなうえ、過酷な出来事の前後に登場したことも相まって、一服の清涼剤になってくれた。
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 メインキャラクターを演じた飯沼南実さん(みすず役)、渡部紗弓さん(陽子役)、早瀬雪未さん(ツムギ役)、田村睦心さん(ヒルコ役)も、それぞれの役にピッタリ。

 以前、
4人にインタビューを行った際、全員がボイス収録は涙との戦いだったと語っていたが、本作をクリアーしたいま、その理由が身にしみてわかった。とくにキャラクターが感情を爆発させるシーンは感情を揺さぶられるので、じっくり堪能してほしい。
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 キャストたちの巧みな演技とともに、ストーリーを大いに盛り上げてくれたのが、原田萌喜氏が手掛けた音楽だ。異国情緒を感じられる春・夏・秋・冬のテーマや、冒険心をかき立ててくれるオープニングテーマ『夜を越える』がとくに耳に残っているが、『夜を越える』は挿入歌として使われることも。歌付きのイベントは、みすずたちを応援したくなるシーンが多く、強く印象に残っている。

 これらの理由から、筆者は完全新規のタイトルながら、シリーズ最新作のような安心感と完成度を体験できたというわけだ。本作は、定価2750円[税込]とロープライスに設定されている。この価格を考慮すると、得られる満足感はかなり高め。しかも2024年12月28日までは、リリース記念セールとして20%オフの2200円[税込]で購入できる。ノベルゲームをお探しの方は、この機会にプレイしてみては?

 最後にふたつだけ。このゲームはとにかく食事のシーンが多い。お腹が減るので、ゲームのおともはご用意を。そして、久しく家族と会っていない方は、家族が恋しくなるかもしれない。大きなお世話だが、年末年始に家族の絆を再確認してみてはいかがだろうか。
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集計期間: 2025年01月17日00時〜2025年01月17日01時