『たねつみの歌』は、アニプレックスが手掛けるノベルゲーム製作ブランド“ANIPLEX.EXE(アニプレックスエグゼ)”の3rdプロジェクトとして、2024年12月13日にPC(Steam・DMM GAMES・DLsite)向けにリリースされたタイトル。
企画・シナリオ担当に『雪子の国』や『ハルカの国』などのノベルゲームシリーズを個人で製作し、その作品クオリティーで高い評価を受ける気鋭のクリエイター・Kazuki氏を抜擢。Steam版の評価は、5月20日時点でレビューが非常に好評(308件中98%が好評)、直近のレビューでも非常に好評(28件中96%が好評)となっている。
特徴的なのはメインキャラクターの設定だ。物語の舞台となる“神々の国”を巡るのは、16歳の少女・みすずと、過去からやってきた16歳の母親・陽子、そして未来で出会った16歳の娘・ツムギら同い年の3人。そこに水先案内を名乗るヒルコが加わり、親子3世代による最初で最後の壮大な冒険がくり広げられる。
2025年5月1日に『たねつみの歌』のNintendo Switch版、iOS版、Android版が配信されたことを記念して、Kazuki氏の単独インタビューをお届け。PC版の発売から半年近くが経っていることもあり、特別に“ネタバレあり”でいろいろうかがった。
ネタバレが含まれる直前には、改めて警告文を記載しているが、それまでの前半部分は未プレイの人でも読み進められる内容になっているので、興味のある方はぜひチェックしてほしい。
Kazuki氏
企画・シナリオ。個人サークル“STUDIO・HOMMAGE(すたじおおまーじゅ)”にて長編ノベルゲームシリーズを個人で製作。その作品クオリティーで高い評価を受ける気鋭のクリエイター。(文中はKazuki)
作者のメッセージなどは気にせず、夏休みにロードムービーを見るような気楽な気持ちで楽しんでほしい
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――PC版の発売から約5ヵ月が経ちました。Kazukiさんはユーザーの反響をどのように感じていますか?
Kazuki
全体的に好評だと感じていますが、今回の作品はいままでとは少し毛色が違うものだったので、自分の既存の作品を遊んでくださっていたファンの方々の中には、雰囲気などが違うと感じられた方もいらっしゃるようでした。
また、『たねつみの歌』をプレイしてから既存の作品が気になって遊んでくれた方もいらっしゃったのですが、そういった方たちの中にも違いを感じられた方がいて。これまでのように個人で作った作品と『たねつみの歌』とのギャップは、多少あったんだろうなと感じています。
ただ、もともとそういったギャップを作るというか、違うものを作るという狙いもコンセプトのひとつではあったので、狙い通りになったのかなという印象ですね。
――Steam版の評価ではポジティブな感想が多いですが、こちらの評価に対する感想も教えてください。
Kazuki
最近では自分からエゴサをしたり、レビューを見たりはしないようにはしていて。だから今回も、あえて積極的にチェックをしていません。
それでもインターネットやSNSを利用していると、プレイした感想を自然と目にする機会がありまして、その中で印象的だったのは声優さんに言及したコメントでした。演技がすごくうまかった、自然だったといった感想は、声優さんの力によるところがいちばん大きいのですが、私自身、声の演技にもこだわっていたのでよかったなと。
収録に立ちあって、このセリフはこう演じてほしいなど、声優さんたちにしっかりお伝えする機会をいただいたので、演技がよかったと褒めてもらえてうれしかったですね。
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画像はSteamストアページより引用。
――たしかに、どのキャラクターもハマり役でしたよね。本作はKazukiさんの初の商業作品ということで、この作品にかけた想いもお聞きしたいです。
Kazuki
ちょっと下世話な話になりますが、商業作品を手掛けることで自分の名前が広まってほしい、自分のスタイルや方向性を知ってほしい、これまで手掛けた作品を遊んでほしいといった下心みたいなものはしっかりとありました。
こういった気持ちがあることは、島田さん(島田紘希氏。ANIPLEX.EXEのプロデューサー)に声をかけていただいた段階で共有していて、しっかりと自分の動機をわかっていただいたうえでお付き合いをさせてもらっていたので、やりやすいところもありました。
そんな利己的な気持ちが、開発中にたくさんあった苦難を乗り越える支えのひとつになったと思います。
――先ほど『たねつみの歌』をプレイしてから、既存の作品が気になって遊んでくれた方もいたとお話していましたが、本作を通して認知を広げることは、ある程度成功したとお考えですか?
Kazuki
そうですね。『たねつみの歌』をきっかけに『国』シリーズを遊んでくれた方がたくさんいらっしゃいました。その中には『国』シリーズにハマってくれた方もいましたし、ほかの人に勧めてくれたり、今後の作品を楽しみにしてくれたりしている方も増えたので、認知を広げることはできたんじゃないかなと思います。
――2025年5月1日にNintendo Switch、iOS、Androidで『たねつみの歌』がリリースされました。ユーザーは今後ますます増えると思いますが、これから『たねつみの歌』を初めてプレイする方に向けて、改めてゲームの魅力や、どの点に注目してプレイしてほしいかなどを教えてください。
Kazuki
ひとつ目は声優さんの素晴らしい演技です。プレイする際は楽しんでいただけるとうれしいです。
ふたつ目は、気軽にプレイしてほしいということを伝えておきたいですね。『たねつみの歌』は家族や死といったものをテーマにしていますが、自分としてはエンタメ性の強い作品を手掛けたつもりです。
作者のメッセージなど深いことは考えずに、夏休みにロードムービーを楽しむような気楽な気持ちで楽しんでもらうのがいちばんいいと思います。
【ネタバレ注意!】Kazuki氏がどうしても描きたかった夏の国。開発スタッフからは「読むのをやめてしまうユーザーがいるかも」という意見もあった
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――ここからは本作をクリアーしているファンに向けて、“ネタバレあり”でいろいろお聞きしていきたいと思います。まずはプロローグから。神々の国に旅立つまでが丁寧に描かれているのが印象的でしたが、プロローグを構成するうえで意識したこと、描きたかったことなどを教えてください。
Kazuki
本作に限らず、物語を作るうえで出だしはとても重要で、舞台や登場人物の設定を理解してもらったうえで、登場人物に好感を持ってもらわなければいけないと考えています。本作にはプロローグで説明すべき項目は多かったですが、それはどんな物語でも同じことなので、プロローグを構成するうえで特別意識したことはありません。
ただ、周囲からは「プロローグを丁寧に書きますね」とは言われていたので、これはおそらく自分のクセなんだろうなと思います。自覚しているクセでもあるのですが、ほかの作品でも丁寧に書いてしまうので。
――プロローグを丁寧に描写するクセが身についた理由はありますか?
Kazuki
単純に冒険そのものよりも、行くまでと帰ってきてからのシーンを描くのが好きなんですよ。旅行に行く場合だと、旅行の準備や新幹線の中でのやり取り、旅行が終わって家でくつろいでいる時間とかですね。
あとは、小津安二郎という映画監督の作品が大好きで、小津監督の影響を強く受けていると思います。たとえば、小津監督の映画には娘の結婚に関する話が何度か出てくるのですが、結婚式自体はほとんど描かれなくて、結婚するまでの家族の話し合いや、娘が嫁に行った後、父親がひとりでお酒を飲んでいるシーンが描かれることが多いんですね。そういった描き方に影響を受けたのかなと思います。
――プロローグでとくに印象に残っているシーンやセリフ、キャラクターは?
Kazuki
陽子がみすずと旅立つときの祖母(※陽子にとっては母親)とのやり取りです。陽子役の渡部紗弓さんが何度も収録に臨んでものすごくいい演技をしてくれたので、エモーショナルなシーンになったと思います。
あと、おもしろいなと思ったのは、プロローグのシナリオを読んだスタッフの間で、キャラクターに対する印象が違っていることでした。ある方は陽子が好きと言っていましたし、別の方はツムギが好きと言っていて。自分としては、みすずに感情移入しやすいように書いたつもりではあったので、読み手によって感情移入できるキャラクターが違うのはライターとして非常に印象的でした。
後から考えてみると、みすず、陽子、ツムギをしっかりと書き分けたことで、自分と近しい感覚を持ったキャラクターに感情移入をしやすかったのかもしれません。3人の少女は同じ年齢ではありますが、育った時代が異なるので、それぞれ違う価値観を持っています。そのコントラストや掛け合いを楽しめるようにしたいなと思っていました。
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――神々を巡るみすずたちの旅は、風光明媚で穏やかな春の国から始まります。春の国の物語を構成するうえで意識したこと、描きたかったことなどを教えてください。
Kazuki
春の国は最初の国なので、エンターテインメントとして映える形にしたいと考えていました。それで春の国にたどり着くまでのプロローグは、夜のシーンを長く描くようにしています。暗いシーンを続けた後、真っ暗なトンネルをくぐって出た春の国を光り輝く陽光に満ちた世界として見せることで、大きなコントラストを作る工夫をしています。
――春の国では、龍神族の王や姉姫、妹姫が登場します。ほかの国で出会うキャラクターと比べて親しみやすさを感じましたが、やはり意識していたのでしょうか?
Kazuki
そうですね。世界の見せかたでコントラストを強くしたので、春の国の登場人物は世界観に馴染めるように人間っぽいキャラクターにしました。とくにマニアニさん(神々のキャラクターデザインを担当したイラストレーター)がデザインをうまく調整してくれたのが、親しみやすさを感じてもらいやすかった大きな要因だと思います。
デザインに関していうと、スタッフにビジュアルを描いてもらうにあたって、世界観のイメージを伝えるのがたいへんでした。頭の中では、春の国々の人々はこういう暮らしをしていて、どこに住んでいて、みたいな考えがあるんですけど、そのイメージをもとに見栄えのいい世界を描いてもらうには、どのように伝えればいいかわからなくて。
まずはYowさん(本作のディレクター)と意思統一といいますか、感覚を共有したうえで、春の国の東西南北とか、太陽はどちらから登るといった設定を固めていきました。そのうえで作画の方に伝えて、完成したものを修正しながら理想の春の国のビジュアルを完成させました。
どのように作業をすれば効率的に進められるのかがわかっていなかったこともあり、試行錯誤も多かったんですよ。春の国はいちばん時間がかかりましたし、苦労も多かったと記憶しています。
――苦心した春の国で、とくに印象に残っているシーンやセリフ、キャラクターは?
Kazuki
苦労したという意味で印象に残っているのは、姉姫が暮らす虚(うろ)に着くまでの一連の流れや虚の見せかたです。エンターテインメントとして印象に残るシーンにしたかったので、Yowさんと相談しながら見せかたや使用するBGMなどを決めていきました。
一方で、龍神族の王や姉姫、妹姫たちのシーンはすんなり決まりました。姉妹のやり取りでコントラストを強めに出したり、龍神族の王とのやり取りでは話を聞かないおじいちゃんみたいな感じで家族のあるあるネタを取り入れたりすることは最初から考えていて。
国ごとに登場人物が変わるので、限られたストーリーの中でキャラクター性を確立させる必要がありましたが、そういう意味では春の国の登場人物たちは、濃いキャラクターを生み出すことができたと手応えを感じています。
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――続いて夏の国はいかがでしょうか? 個人的にはフクロウのおばあさんや、取り巻きの言動が強く印象に残っていますが……。
Kazuki
春夏秋冬の4つの国を巡る間に、どこかで家族の気持ち悪さみたいなものは絶対に表現したいと考えていました。春の国で家族の問題を比較的きれいに描いたので、夏の国は違う方向性にしたいと考えたうえで、それならここで気持ち悪さを表現しようと思ったんですね。
夏には子ども時代の夏休みのような、ノスタルジックなイメージがあると思います。そういったテンプレートの世界観を作り出すのもひとつのやりかたでしたが、夏の夜の不気味な感じといいますか、夏祭りで神隠しにあうといったような、おどろおどろしい世界を表現したかったんです。
開発中は「読むのをやめてしまうユーザーがいるかも」と心配する声もありましたが、最終的にはやりたいことをやらせてもらいました。とくにフクロウのおばあさんがシオミを歪めていくシーンは、ほぼほぼ私の希望が通っています。
夏の国はテーマ曲が素晴らしくて、自分が描きたかったことをすべて表現してくれているなと思うくらい、いい曲だなと思います。シナリオと夏の国のテーマ曲が合わさることによって、プレイした方にもやりたかったことが伝わったんじゃないかなと。
――夏の国のストーリーは、ユーザーにどのように受け入れられていると思いますか?
Kazuki
実際の評価はわかりませんが、好き嫌いははっきりとわかれているのではないでしょうか。プレイしていて気分が悪くなる人がいる一方で、あそこまで描き切ることで、オリジナリティがある、ユニークだと捉えてくれた方は評価をしてくれたのではないかなと。
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――夏の国でとくに印象に残っているシーンやセリフ、キャラクターを教えてください。
Kazuki
先ほども挙げたフクロウのおばあさんがシオミを歪めていくシーンです。必要なシーンだけど大丈夫かなと不安になることもありました。フクロウのおばあさんがどのように見られるかも気になっていましたね。
単なる悪役に見えてしまうと、夏の国の物語がチープに見えてしまいます。悪役ではあるんだけど、単純にイヤなやつに見えないように、扱いかたには注意しました。そういう意味では、「フクロウのおばあさんの考え方もわかる」、「一概におばあさんだけが悪いわけじゃないよね」という意見もあったので、うまく描けたのかなと思っています。
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この物語を「家族っていいよね」で終わらせたくなかった。最終決戦後のヒルコの想い
――夏の国で荒んだ心が、秋の国のタヌキの旦那さんとキツネの奥さんのやり取りで癒されました。秋の国の物語を構成するうえで意識したこと、描きたかったことは?
Kazuki
タヌキの旦那さんとキツネの奥さんのやり取りは、夏の国でちょっと傷ついた体と心を癒す時間の意味合いで演出しました。ふたりのコメディタッチな掛け合いは書いていて楽しかったですし、遊んでくれた方たちはひと休みできたのかなと思います。秋の国はタヌキの旦那さんとキツネの奥さんの問題に能動的に関わるのではなく、あくまでも傍から見ている展開なので、読んでいて疲れる物語ではなかったのではないでしょうか。
――夏の国では家族の気持ち悪さを描いたとお話していましたが、秋の国で描こうとしたのは家族の絆なのでしょうか?
Kazuki
絆もありましたが、“離縁騒動”という章題にもあるように、いちばん描きたかったのは男女のすれ違いでした。男性はロマンチストで、女性は現実的な一面があるじゃないですか。たとえば、男性はロマンを最後まで追いかけて家族を顧みないときもある、とか。
それでキツネの奥さんのセリフで、「男の人って本当にわかりませんわ」みたいなことを言わせました。お互い愛し合ってはいるんだけど、最後のところはなかなか理解できないよねと。
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――秋の国のビジュアル面で苦労したことはありましたか?
Kazuki
ファンタジー要素の強い春の国と比べて、秋の国は北欧や北米の先住民族の文化を参考に世界観を考えていたので、資料をもとに考えやすかったぶん、そんなに苦労はしませんでした。
――秋の国でとくに印象に残っているシーンやセリフ、キャラクターを教えてください。
Kazuki
タヌキの旦那さんとキツネの奥さんの別れ際が印象的ですね。このシーンも声優さんたちの演技がとてもよくて、エモーショナルになったと感じています。みすずたちはふたりのやり取りを静かに見守っているのですが、感極まって涙声になっている方もいて。そういう意味でも印象に残っています。
――タヌキの旦那さんとキツネの奥さんを演じたかぬか光明さんと山本悠有希さんさんに、こう演じてほしいとディレクションしたことはありましたか?
Kazuki
ふたりともご自身でキャラクターのイメージをしっかりと固めたうえで演じてくださいました。キツネの奥さんは私が考えていたよりも若々しい雰囲気でしたが、しっくりきたので、お任せしてよかったですね。奥さんを演じた山本さんはこだわりも強くて、気持ちを盛り上げるために「シナリオの順番ではなく自分で考えた順番で収録したい」と提案をしてくださったのも印象的でした。
――秋の国は最後に急展開を迎えて冬の国の物語に続きます。あのような展開にした理由は?
Kazuki
これも自分のクセみたいなものなのですが、大きな決断をするときは主人公が孤独になってほしいという考えがあります。追い詰められてひとりで決断するときに、人間性が出るのではないかと思っているので。
それに秋の国の冒険で、みすずはすごく満たされたと思うんですよね。陽子、ツムギ、ヒルコとの絆が深まって、自分たちが家族だと思える最高の時間があったからこそ、冬の国に入る前に家族をバラバラに引き離して、みすずをひとりにしなければいけないと考えました。
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――みすずたちにとって過酷な状況でスタートした冬の国の物語は、怒涛の展開でやめどきを失って最後まで一気に駆け抜けました。冬の国の物語を構成するうえで意識したこと、描きたかったことなどを教えてください。
Kazuki
冬の国では、新しく何かをやるというよりも、物語を進めていく中で降り積もった問題や、テーマに対するアンサーを書く必要がありました。みすずの中で答えを出したり行動したりしていくのですが、ストーリーが重く世界観も暗い中で、ひたすら同じような展開が続くとユーザーは耐えられないと考えました。
そこで名前のない猫というキャラクターを登場させたり、灯台の中のビジュアルを暖かくしたりしてバランスを取りました。名前のない猫は、冬の国の物語を展開していくにあたって大きな助けになりました。
――名前のない猫は、最初からあのようなキャラクターにしようと考えていたのですか?
Kazuki
はい。人の話をちゃんと聞かなくて、シリアスなみすずたちに引き込まれないマイペースなキャラクターとしてイメージを膨らませました。猫の気持ちとしては、あなたたちも必死でしょうけど、世の中そんなものですよと。あなたたちばかりが不幸なわけではないんですという感覚なんですね。
猫のようなキャラクターを登場させたのは、みすずたちを世界でいちばん不幸な少女として描きたくなかったという理由もありました。生きていれば、そういうこともあるよねというくらいの感覚で描きたかったので。
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――冬の国でとくに印象に残っているシーンやセリフ、キャラクターもお聞きしたかったのですが、やはり猫は印象的ですか?
Kazuki
猫は重要なキャラクターですね。どのセリフがというよりも、猫の何気ないセリフが冬の国を表していて、自分ではいいなと思っています。猫のセリフ自体はスラスラと書けましたが、語尾に「にゃ」とつける猫語はちょっと苦戦しました。やりすぎてしまうとギャグっぽく見えてしまうので、スタッフや猫役の虎島貴明さんと相談しながらバランスを調整しています。
あとは、アクションシーン全般も印象に残っています。冬の国はアクションシーンが多かったので、シナリオを書いているときはシーンを作るのに時間がかかりそうだなと感じていました。実際にたいへんだったのは、私が伝えたイメージをもとに仕上げてくれたディレクターたちですが、想像以上のものができあがったので感謝しています。
――冬の国では、いろいろな試練が用意されていますが、試練の内容はどのように考えられたのか教えてください。
Kazuki
解決しなければいけない問題やテーマに対して、どのようなビジュアルやイベントを用意すると物語がおもしろくなるかを考えて内容を決めていきました。
たとえば、冬の国でみすずが最初に挑むクジラは“大岡裁き”(子争い)をベースに考えていて、ツムギをさらったクジラから娘を取り返すことで、自分はツムギの母親であることを自覚して受け入れるというわけです。
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――なるほど。神の峰を登りきった後のヒルコとのやり取りも印象的でした。あのシーンでKazukiさんが描きたかったことは?
Kazuki
この物語を「家族っていいよね」で終わらせたくなかったんです。夏の国でも描いたように、家族にはいい面だけではなく悪い面もある。家族の感動的なところから最悪なところまでをしっかり描くために、みすずとヒルコをぶつけ合わせました。
みすずたちは、冒険を通して家族はいいものと考えていますが、ヒルコからすると「僕は何なの」という思いが強い。自分は失敗だったからと、生まれてすぐに親に殺されてなかったものにされてしまう。家族が最高だと言うなら、僕のことを受け入れてくれてもよかったんじゃないかって。
家族に受け入れられなかった僕は何なんだというヒルコの問いに、みすずは答えが出せないんですよ。答えてみろとヒルコは言いますが、みすずは頭突きをするだけでヒルコを説得できないし、否定もできていないんですね。そうすることによって、家族はいいもので終わらせない。悪い面も含めて家族なんだと伝えたいと考えました。
――なるほど。
Kazuki
物語の展開上、ヒルコが怒りの矛を収めてくれたように見えるかもしれませんが、ヒルコは納得できていませんし、納得していないからこそ、ヒルコが作り出した神々の世界は、みすずたちが冒険を終えた後も続いていくと思います。
みすずたちが見せた家族の絆は美しかったし、みすずたちとの冒険はヒルコにとってもかけがえのないものになったと思いますが、それでもまだ許せないと考えているので。
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――神々の国で壮絶な冒険を終えた後のエピローグでは、みすずのその後やエンディングなどが感動的でした。エピローグを構成するうえで意識したところは?
Kazuki
プロローグで大人になったみすずと会ったときに、神々の国を冒険したことを夢だと思っているんですね。これには理由があって、現実世界に戻ってからも生きていくためにいろいろな苦労があったから記憶が薄れていったんです。未来のみすずのセリフにも、乗り越えるために必死だったというものがあるのですが、ユーザーにも納得してもらえるように、エピローグでは冒険を終えてから大人になるまでのみすずの人生を丁寧に描かなければいけない、と考えていました。
あとは現実に戻ってからの物語を丁寧に描くことで、神々の国を巡る冒険が遠い過去の記憶となって、エンディングを迎えたときにより感動的になるという思いもあって。それでエピローグもある程度文量は取りたいとも考えていましたが、プロローグと同じくクセで長くなってしまったので、当初の想定よりも削っています。
――エピローグでとくに印象に残っているシーンやセリフ、キャラクターは?
Kazuki
大学生のみすずです。きれいになったな、垢抜けたなと感じてもらえるように意識しながらキャラクターを考えたのを覚えています。ほかに印象に残っているのは、未来の世界だと感じてもらえるように、セリフやテキストを書いたことです。物価が上昇することを考えて学食のメニューや値段を決めました。
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エンディング後のトップ画面に表示された男の子の正体は?
――続いては、『たねつみの歌』をプレイしていて気になった点をいろいろお聞きしたいと思います。作中を通して、食事シーンが多いのも印象的でした。Kazukiさんの作品にとって食事シーンの役割、描く際のこだわりは?
Kazuki
食事シーンが好きなのもありますが、大前提として食事シーンは物語を描写するうえで非常に有効な手法になります。たとえば、食事の様子からその集団の関係性や役割がわかるじゃないですか。座る席によって上下関係がわかりますし、誰が調理したかによって役割がわかりますよね。逆にフラットな関係性を描くこともできます。
また、素材や調理方法などによって時代背景、風土などを伝えることもできますし、会話の内容でその日の出来事や今後の予定を伝えることもできます。このように、ひとつのシーンにたくさんの情報を入れられますし、人間の本能に訴えかけることができるので、印象にも残りやすいと考えています。
――神々の国でみすずたちが食べた食事のメニューは、どのように考えたのですか?
Kazuki
春、夏、秋、冬と進むにつれて、食事のメニューが原始的になっていくようにしたいと考えてメニューを決めました。春の国では豪勢な食事が登場しますが、冬の国では仕留めたクジラの脂肪を切り取って食べるのはそのためです。
ちなみに、夏の国はほかの国とくらべて食事シーンをあえて少なくしています。というのも、夏の国のように文明が発展しすぎると、原始的な食欲を抑えるといいますか、食欲を満たす行為を咎めるようになると考えて、食事シーンを減らすことで夏の国の特徴を表現しました。
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――つぎは“本当の冬”に関する質問です。たねつみの儀式が行われないと、夏の国では“混乱した人”、冬の国では“凍りついた人”が登場しました。春の国と秋の国にはどのような姿の人が登場するはずだったのですか? それぞれテーマも教えてください。
Kazuki
ビジュアルは、どの国も夏と冬の国と同じような巨人です。ヒルコの発言から、春の国でたねつみの儀式が行われなかったときは、“嘘をついた人”が登場するはずだったことがわかります。テーマに関しては“混乱した人”が赤ちゃんで、“凍りついた人”が死人です。外見は赤ちゃんと死人をイメージしてデザインしてもらいました。
春の国の“嘘をついた人”と秋の国の“疑われた人”は、人間生活の中で嘘をついたり疑われたりすることが人間の特徴を表していてユニークだと思ったので採用しています。
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――夏の国に登場したシオミのその後が気になりますが……。
Kazuki
シオミの言葉を信じるなら、みんなのところに戻ったのではないでしょうか。以前のように築き上げた秩序や歴史を信じることはできないと思いますが、ひとりでは生きていけませんから。ただ、秋の国への遠征隊には加わらなかったと思います。
――冬の国でヒルコとの決戦の後に、夢のような世界でみすず、陽子、ツムギが集まるシーンがありますよね。四季が変わる中で秋にツムギ、冬に陽子が消える演出は、何を表しているのでしょうか?
Kazuki
あのシーンは、ひとつに重なった時間が、だんだんもとに戻っていくことを表現したくて考えました。本来であれば、16歳の祖母(陽子)、母(みすず)、娘(ツムギ)の3人が同じ時代に集まって冒険することはあり得ませんよね。あり得ない世界が終わりに近づいて、それぞれの世界に戻っていくのを表現するために、季節を変える演出を採用しています。
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――エンディングを見た後、タイトル画面に描かれている後ろ姿の男の子は?
Kazuki
未来の世界であるとすればツムギの子孫かもしれないし、ヒルコが家族のことを許して生まれ変わった姿かもしれません。いろいろな可能性を考えられると思うので、それぞれ想像してもらえたらうれしいです。
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――ヒルコが家族のことをいずれ許せる未来があるかもしれない?
Kazuki
ヒルコが許せたかどうかも、みなさんの判断に委ねたいと思いますが、ヒルコ自身はいつか許したいと明かしていました。そもそもヒルコがたねつみの儀式を行っているのは、神々の血で染まった世界に巫女として選ばれた人間の血を混ぜることで、土を元に戻そうとしているんですね。農業でたとえると、酸性の土壌にアルカリ性資材を混ぜて、中性にしようとしているのと同じです。
40歳までに長年手掛けている長編を完成させたい
――改めて、本作でKazukiさんが描きたかったテーマについて教えてください。
Kazuki
家族のいいところだけではなく、悪いところもテーマに取り上げています。そもそもこのテーマにしたいと思ったのは、SNSで“子ガチャに失敗した”という投稿を見たのがきっかけでした
もしこの投稿を子どもが目にしたら立ち直れないと思いますし、それ以降、親とのやり取りでどんなに感動的なことがあっても、かんたんに許すことはできないですよね。家族には、一生忘れられない傷をつけられるだけの負の力もあると思って、いいところから悪いところまでのスケールで、家族をテーマにした作品を描きたいと考えました。
――家族のほかに、死も作品のテーマだと思いますが、死を選んだ理由は?
Kazuki
私は以前、介護の仕事をしていたのですが、そのときにお世話をしていた方が突然亡くなったり、仕事を通して知り合った高齢者と死生観の話をしたりすることがあったので、自分にとって死は身近な存在でした。
だからこそ、たとえ若くてもいつか死ぬかもしれないと受け入れたうえで生活している人は、生きるセンスがあるなと感じますし、いつ死んでもいいように準備ができている人に憧れています。自分は死ぬことが怖くて準備はできていませんが、目を背けずにつねづね考えておきたいテーマではあるので、作品でも重要視しているのかなと思います。
――お話できる範囲で、今後やってみたいこと、作ってみたい作品などがありましたら教えてください。
Kazuki
27歳のころから書き始めた長編を死ぬまでに完成させたいです。40歳になるまでには完成するだろうと考えていましたが、38歳になってもまだ半分くらいしかできていなくて……。ここ1、2年が勝負どころだと考えています。
その作品が一段落した後のことはまだ考えていません。新作を書く余力やリソース、資金、あとは家族の状態などを考慮して、創作活動を続けることが許されるようであれば、ストックしている長編のアイデアや企画を作品にしたいです。
――新作が発表されるのを楽しみにしています! 最後にKazukiさんや『たねつみの歌』のファンにメッセージをお願いします。
Kazuki
作品のテーマに関してもいろいろお話ししましたが、テーマやメッセージは深く考えずに楽しんでもらえたらなと思います。たとえテーマが苦手だったり、登場人物に感情移入ができなかったりしても、みすずや陽子、ツムギたちががんばっている姿を近くで見ながら楽しめる作品になっていると思うので、気軽に手に取ってもらえたらうれしですし、まだ遊んでいない方に勧めてもらえると光栄です。
※インタビューは2025年5月上旬に実施。