Quantic Dream開発による『Detroit: Become Human(デトロイト ビカム ヒューマン)』(以下、『Detorit』)を原作に、日本を舞台にしたストーリーが展開されるオリジナル公式マンガ『DETROIT BECOME HUMAN-TOKYO STORIES-』2巻が2023年12月8日にKADOKAWAより発売された。

 ゲームは、『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』や『BEYOND: Two Souls』を世に送り出し、多くのファンを生んだゲーム作家デヴィッド・ケイジ氏の作品。コナー、カーラ、マーカスという境遇の異なる3人のアンドロイドが自我に目覚めた“変異体”になり、彼らの視点を通して、アンドロイドが普及した世界で生き抜く物語が体験できた。

 マンガでは、アンドロイドのレイナや、セイジ、タクミの3人がそれぞれ異なる境遇の中、2038年のアンドロイドが普及した日本で生きる様子が描かれる。今回、『Detroit』開発陣であるデイビッド・ケイジ氏とアダム・ウィリアムズ氏と、マンガ脚本担当の猿渡かざみ氏、作画担当の墨田モト氏にそれぞれテキストインタビューを実施できたのでその模様をお届けする。

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デイビッド・ケイジ

『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』や『BEYOND: Two Souls』などを手掛け、『Detroit』の脚本家、ディレクター、クリエイターを務めた(文中ではデイビッド)。

アダム・ウィリアムズ

勤めていたテレビ局を退社してQuantic Dreamに参加。『Detroit』ではシニアシナリオライターを担当(文中ではアダム)。

猿渡かざみ

作家。代表作は『塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い』、『高嶺さん、君のこと好きらしいよ』など。『DETROIT BECOME HUMAN-TOKYO STORIES-』の脚本を担当(文中では猿渡)。

墨田モト

『線上の犬』などを手掛けてきたマンガ家。『DETROIT BECOME HUMAN-TOKYO STORIES-』の作画を担当(文中では墨田)。

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『Detoirt』で描きたかったテーマは“マイノリティーが自分の権利を求めて闘う”ということ

――『Detoroit』のオリジナルストーリー制作を企画しようと思った経緯を教えてください。

デイビッドゲームでは3人のストーリーしか描かれませんでしたが、『Detroit』の世界には、アンドロイド、人間、そして知的機械を題材にまだ多くの物語が書けると想像していました。また、ゲーム内でアンドロイドというテクノロジーは世界的な革命であることも伝えていたので、ほかの国で何が起こるかを描きたい気持ちが強かったです。

――日本を舞台にした理由を教えてください。

デイビッド日本は私にとって魅力的な国で、とくにテクノロジーやロボット、アンドロイドといった先端技術のイメージがありました。だから、アンドロイド革命が起こるなら日本は間違いなく最前線に立つだろうと考えました。

――マンガという形で表現したのも関係するのでしょうか。

デイビッドゲームキャラクターをマンガ風に描いたファンアートが、日本やアジア全般からたくさん寄せられました。その作品たちはキャラクターたちを見事に描きだしていたのが印象的で、マンガは日本でアンドロイドを描くのに適したメディアだと思いました。また、日本人のファンの方々が、ゲームのストーリーやキャラクターを受け入れてくれたことをうれしく思います。その反応を受けて、みなさんが愛してやまない『Detroit』の世界を、マンガという形でユニークに進化させて提供することで、感謝の気持ちを伝えられると思っています。

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――ゲームとマンガに共通したテーマはありますでしょうか。

デイビッド私たちがゲーム脚本を書いていた2015年当時、AIはあまり世間的な話題ではありませんでした。しかし、取材を進めるうちにAIは案外身近なもので、社会に与える影響は予想以上に大きいかもしれないと確信するようになりました。なので、昨年、AIがニュースの主要なトピックになったとき、私はあまり驚きませんでした。

 『Detroit』のテーマは、テクノロジーが私たちの生きかたや考えかたに与える影響に関するものでした。テクノロジーが私たちの世界に大きな影響を及ぼすと想像されていますが、予想されているような影響ではないかもしれない。もちろん、AIに取って代わられる仕事もあるでしょうし、新しい仕事も現れるでしょうが、AIは私たちと知識、意思決定、文化全般との関係を深く変えていくと思います。

 私たちはますます多くのことをAIに頼るようになり、これは私たちの仕事や責任の一部を機械に委ねることを意味する。また、ほかの人間との関係も変化しています。AIが議論することなく私たちの欲望をすべて満たしてくれることに慣れ始め、周りの人間と接することにフラストレーションがたまることにも繋がります。

――なるほど、現代社会で『Detroit』のようなことが起きているということですね。

デイビッドそのほかにも、ゲームでは新しい知性の出現や一般的に社会で異質とされているものに対処する私たちがどう関わっていくのかというところも描きました。見た目や考えかたが異なる人々を受け入れることは、人類にとってつねに大きな課題でした。

 『Detroit』はアンドロイドを例にとりましたが、テーマは、すべてのマイノリティがいまとは違う権利を求めて戦うというものでした。私の作品のなかで『Detroit』が独特だったのは、エンターテインメントを通して社会問題を問いかけたことでした。私は、映画や本が考えさせられるきっかけを与えてくれるのがとても好きで、そのようなゲームを作りだしました。

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――コミックでも、ゲームと同様に3人のアンドロイドの視点から物語が描かれています。そのような設定にした理由を教えてください。

アダムデイビッドはカーラ、コナー、マーカスという3人の “対等な”主人公が登場する3部構成のドラマとして、『Detroit』のストーリーを創作しました。複数のゲームの“主役”が交錯する旅路の相互作用から、物語の全貌が浮かび上がるようにシナリオが作られていました。マンガでも同じような効果を狙いました。

――それぞれのキャラクターに込めた想いをお聞かせいただけますでしょうか。

アダム『Detorit』のように読者の好みは分かれると思いますが、レイナ、セイジ、タクミは3人とも物語に欠かせない存在です。ネタバレしないようにお伝えすると、レイナの物語は、“アンドロイドの商品化”という点を掘り下げ、この疎外感を内側から体験するよう読者を誘う内容に。セイジは自分の義務を果たそうとするが、同時に自分の“命”がいかに使い捨てのものであるかに気付く様子が描かれます。タクミは倫理的なジレンマに巻き込まれ、道徳的な難しい決断を迫られる中で、自分が何者で、個人的な運命を全うするためにどんな代償を払わなければならないという覚悟が問われる物語になっています。

――マンガもゲームのように3人が相互的な関わり合いを持っていくのでしょうか。

アダムはい。それぞれがアンドロイドを取り巻く社会に対して異なる視点を持っていて、3人の物語を読むことで、全体像が浮かび上がるようなストーリーになっています。

――最後に、『Detorit』の今後の展開などあれば教えてください。

デイビッド『Detroit』のようなインタラクティブな形式のゲームは、プレイヤーが自分の選択を通じて物語に積極的に関わることで、ゲームとプレイヤーが特別な関係を築くことができると考えています。私は『Detorit』の世界に深い愛着を感じていますし、これからもこの世界を舞台にマンガや、ゲーム、映画、小説などメディアに関わらずもっとエキサイティングな物語が生まれる可能性はたくさんあります。また、『Detroit』以外にも私のスタジオでは、エキサイティングなプロジェクトに取り組んでおり、日本のゲーマーが『Detorit』と同じように魅力を感じてもらえることを願っています。

ゲームにでてくるガジェットがマンガの中に隠されている?

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――脚本担当の猿渡さんと、作画担当の猿渡さんはおふたりとも『Detroit』の大ファンとお聞きしましたが、ゲームでいちばん惹かれたところを教えてください。

猿渡登場人物がさまざまなバックボーンを背負いながら生きた人間として描かれていて、お互いに複雑に絡み合い、奥行きのあるドラマを形成している点です。もちろん、プレイヤーによってはこれが単純なドラマにも見えうる、そういったリアルの人間関係にも近い奥深さに惹かれました。

墨田SF映画が大好きなので、まるで映画の中を自由に動いているような感覚になれたところです。映画を見進めていくような、でもその行き先を選ぶのは自分だという、ゲームならではの経験ができました。あとは細かいですが、ゲーム全体を通して街、部屋などの色が大好きです。暗いところに行くとLEDや服のパーツが光るのが好きでした。

――ゲームでの忘れないエピソードや登場人物などいましたら教えてください。

猿渡ハンクとコナーのコンビが本当に好きです。初めは彼らをリスペクトしたバディもののプロットを提出しようとしていたほどです。ちなみにこれはあまりにも“原作に寄りすぎて”いたために断念しました。

――とくに、思い入れのあるシーンはありますでしょうか。

猿渡ふたりのエピソードはどれも好きですが、序盤でコナーが非人間的な選択肢をとった際にハンクが嫌悪を露わにし、失望するシーンがとくに好きです。アンドロイド嫌いを公言するハンクが失望するということは、じつはコナーに対しある種の希望を抱いていることの表れであり、また、ハンクの複雑な人間性を示しているからです。

――マンガにもゲームと関わるような仕掛けはあるのでしょうか。

猿渡ネタバレになるので詳しくは書けませんが、このマンガは原作のあるルートと地続きになった物語であります。本編をすでにクリアなさった方は、自分たちの“選択”がマンガの世界にどのような影響を及ぼしたのか、見届けてほしいです。

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――墨田さんがゲームでいちばん惹かれたところは?

墨田カーラルートは辛い選択肢やイベントばかり発生するので、ストーリーを進めるのに体力が要りました。確か最初のプレイでリコールセンターに行ってしまって、かなり衝撃的でした。

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――ゲームをプレイした方が、このマンガが楽しめる要素やポイントなどはありますでしょうか。

墨田作画の視点で言うと、おもにレイナ編に出てくるガジェットは原作に出てくるデザインをそのまま使わせていただいたものがあります。よかったら探してみてください。また、「マンガのこのシーンは、ゲーム原作だと何が起きているころだろう?」とか、いろいろと想像してみると楽しいと思います。

――ガジェットは気づかなかったので、もう一度読み返して確認してみたいと思います。オリジナルストーリーを作り上げるうえで、気を付けたところや難しいところなどありましたでしょうか。

猿渡舞台を日本にする意味に関しては大いに頭を悩ませました。『Detroit』というゲームは社会問題と密接に結びつくゲームであります。差別、貧困、格差といった原作の根幹にあるテーマを、日本という舞台に落とし込んだ際にどういった形で問題が表出してくるのか、そしてそれを原作の雰囲気を壊さないよう表現するにはどうしたらよいのか、非常に長い時間考えていた気がします。

――最後に、マンガ版で注目してもらいたい好きなキャラクターを教えてください。

墨田オオカワです。レイナ編ではみんな怒っているか無表情なので、オオカワが出てくるといろいろな表情が描けてたのしかったです。最終話でも活躍してくれましたが、あの後大変なことになったと思うので、なんとかがんばってほしいです。

猿渡タクミです。彼はレイナやセイジとも少し違う立ち位置で、特別な能力もありません。ゲーム本編で言うなら、主人公たちの背景となって街の工事や清掃をしていたアンドロイドです。しかしそんな彼がナカムラやスズネと出会い、何を得て、これから何をしていくのか? ある意味で、もっとも希望を感じさせるキャラクターだと思います。

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