ファミ通.comの編集者&ライターが夏休みのおすすめゲームを紹介する企画。今回取り扱う作品はNintendo Switch用ソフト『ピクミン2』です。

【こういう人におすすめ】

  • ピクミン4』がとにかくおもしろかったという人
  • 世界観を味わうゲームが好きな人
  • 最近、“欲”について考えている人

オクドス熊田のおすすめゲーム

ピクミン2

  • プラットフォーム:Nintendo Switch
  • 発売日:2023年6月22日
  • メーカー:任天堂
  • ジャンル:アクション
  • 価格:3000円[税込]
  • 備考:パッケージ版『Pikmin 1+2 (ピクミン1+2)』は4980円で2023年9月22日発売予定。ゲームキューブ版は2004年4月29日、Wii版は2009年3月12日に発売。
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お宝だらけの“地球っぽい”惑星で、借金返済の旅がはじまる

 『ピクミン2』の目的は“お宝集め”。主人公・オリマーは、自身が勤める会社“ホコタテ運送”が抱えた借金を返すため、後輩であるルーイとともに未知の惑星へと出稼ぎに向かうことになる。

 未知の惑星には“お宝”と呼ばれる高値で売れるものがいっぱい。たくさん集めて借金を返そう! というのが大まかなストーリーだ。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
ホコタテ運送の借金は10100ポコ。通貨である“ポコ”がどれぐらいの価値かはわからない。とはいえ、会社の経営が傾くどころか転覆するレベルの額ではあることからも、1ポコ=1円程度の話ではなさそうだ。
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
相棒となるのはしゃべる宇宙船、ドルフィン初号機。お宝を鑑定、命名する機能もついている。お宝も収納してくれる頼りになるヤツだが、おしゃべりすぎるのがタマに傷。

 お宝を集めるためには、惑星に住む“ピクミン”たちの協力が不可欠。彼らはオリマーたちの言うことに従う、小さくてかわいい生きものである。

 オリマーはピクミンを増やし、指揮して、お宝の回収を手伝ってもらう。ピクミンはお宝運びを協力する代わりに、オリマーにリーダーとなってもらって繁殖やほかの生きものとの戦闘を手助けしてもらう。ピクミンたちとオリマーたちは、そんな共生関係にあるのだ。

 お宝はおもに“洞窟”と呼ばれる地下世界に眠っている。地上を探索・開拓しつつ、洞窟を攻略していくのが基本的な流れだ。全体を俯瞰で見てピクミンに指示を出すという意味で、“ストラテジー”的な要素を備えたゲームとも言える。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
巨大な敵だって、ピクミンがたくさんいればへっちゃらだ。
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
増やしたピクミンたちを分担させて効率よくお宝を運ぶ。『ピクミン』にはストラテジー的というか、“考える”おもしろさもある。

 では、ピクミンたちに協力してもらってまで集めている“お宝”たちの正体とはいったい何か。それは、未知の惑星における“文明の名残”だ。工芸品や建築物、食料にコンテナ、武器や家具など、とにかくさまざまなものがお宝として埋もれている。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
お宝は全部で201種類。ビンの栓抜きも、お皿の上にあるドーナツと目玉焼きも、ぜーんぶお宝である。

 うーん、何やらこのお宝たち、我々にとって見覚えのあるものが多い……というか、見覚えがあるものしかない。

 それもそのはず。『ピクミン』シリーズで舞台となる惑星は、我々が暮らす“地球によく似た惑星”として描かれている。というか、各地に人工物らしきものがあること、大気の組成に大量の酸素が含まれていること、植物に同じようなものが見られることなど、公式で明言はされていないものの、やっぱり似てるよなあ……。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
見渡す限りの鉄、鉄、鉄。人工物らしい見た目をした地下もある。
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
これはマップ“ねむりの谷”のとある場所。寝ているチャッピー(赤い生物)の下にあるのは、あきらかにマンホールだ。

 仮に地球だとすると、動物の生態系がまったく異なるのは少々気がかりだ。イヌもネコも、もちろん人間も、お宝という痕跡だけを残してどこかへ消えてしまった。彼らはいったいどこへ行ってしまったのだろうか?

 本作をプレイしていると、どうしてもそんな疑問が頭から離れなくなってしまう。お宝という文明の名残があることで、より明確に“そこで生活していた者たちの不在感”が際立つ。『ピクミン2』は、お宝という要素を加えたことで『ピクミン』シリーズの解像度をまた1段上に上げたタイトルだと言えるだろう。

背丈の小さい彼らの目。そこを通して見た世界

 本編中で集めたお宝はそれぞれドルフィン初号機によって命名され、“お宝一覧”に記録されていく。そこではお宝に対してオリマーが感じた内容をつづった“オリマーメモ”などを確認できる。

 これがまた何とも興味深い。オリマーやルーイたち“ホコタテ星人”は、体長わずか3cmほど。そう、地球(っぽいこの惑星)のものは、彼らからしたらあまりにもデカすぎるのである。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】

 たとえばこのお宝。プレイヤー視点だと、ただ「入れ歯だなー」ぐらいの感想しか出てこない。あったとしても「むき出しで置くのは衛生的にいかがなものか」程度のものだろう。

 しかし、こんな入れ歯でさえも小さな小さな彼らからすると、

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】

 “大怪獣の歯”に見えるのである。

 オリマーたちの縮尺で見るとこの歯はあまりにもデカすぎる。自分の身の丈半分ぐらい大きさの歯が生えている生物なんて、そりゃあ大怪獣に決まっている。下あごの歯を全部落とすってなんだよとは思うけども。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
オリマーメモには「こんなに大型の歯を持った生物が実在するはずがない……」とある。何ならそれ歯そのものじゃないんですよ。代替品なんすよ。

 ほかにもフルーツを絞るアレ(ジューサー・絞り器)を権力者が使う残酷な儀式の道具的に“搾取者の台座”と名付けたり、黒電話のダイヤル部を「何に使うかわかんないけどテーブルだろう」ぐらいの感覚で“ゲイジュツテーブル”と呼んでみたり。

 彼らの視点からユニークに名付けられたお宝たちは、名前を眺めているだけでも飽きない。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
ちなみに“搾取者の台座”はSwitch版で初登場。ほかにも“ライトニングボルト”や牛乳瓶の蓋シリーズなど、いくつかのお宝は差し替えられている。過去バージョンをやったことがある方でも新鮮な気持ちで遊べるはず。
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
ドルフィン初号機が考えた、お宝を売るための“セールストーク”も見どころ。画像のような怪文書も多い。

 こういった“小さな視点から見た世界”が垣間見えるのも、お宝図鑑のおもしろいところだ。SFものや異世界ものなんかでもそうだが、“他者の常識というレンズを通して見た世界”には、無性にワクワクさせられる。

 お宝は最新作である『ピクミン4』でも復活した要素。やはり『ピクミン』シリーズにおける世界観の深みをグッと増してくれるものになっているなと、改めて感じた。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
ちなみにSwitch版にも“欲棒”はしっかり登場する。

ルーイは『ピクミン2』が持つテーマの体現者なのではないだろうか

 さて、ここからは『ピクミン2』を語るうえでなくてはならない存在、そして筆者が好きなキャラクターである“ルーイ”についての話をさせていただきたい。

 下の画像以降の文章はかなりがっつりネタバレの要素を含むので、続きを読む方はご注意ください。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
画像左のこいつです。何周か回った結果、筆者としては大好きなキャラのひとりです。

 ……ということで、ルーイくん。彼は『ピクミン2』のカギを握る存在である。

 借金を全額返した後、とある事情でルーイは姿を消してしまう。そんな中、“のぞみの大地”というダンジョンでオリマーは彼と再会することになる。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
ルーイがいなくなってからは、代わりに社長である“ル・チャチョー”が仲間に加わる。ドルフィン初号機も悪趣味な金色に。社長、調子に乗りすぎでは?
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
ルーイと直接の関係はないけれど、夢の穴突入時にドルフィン初号機が言うセリフ、最高。

 じつは借金の返済後、ルーイは原生生物“ヘラクレスオオヨロヒグモ”に捕食されてしまっていた。だが、何と彼は相手の脳をジャック。ヘラクレスオオヨロヒグモを手足のように操れるようになっていたのである。食われた相手を逆に乗っ取るとか、洒落にならないタイプの寄生虫かお前は。

 そんな “ルーイが操るヘラクレスオオヨロヒグモ”は、夢の穴の最下層にたどり着いたオリマーたちへと襲い掛かってくる。殺す気満々の装備をつけて。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
お宝を武器として扱い、炎、電気、水、毒……と、あらゆる手段を使ってピクミンたちを排除しようとするヘラクレスオオヨロヒグモは、本当に『ピクミン2』らしい敵と言える。乗っ取られてはいるけども。

 つまるところルーイは“えげつない戦闘能力を持つ敵を乗っ取って、借金返済までをともに過ごした仲間と上司をぶっ殺そうとした”、早い話がやべー奴である。まあもしかしたら日ごろの鬱憤が溜まっていただけなのかもしれないが。それでも、

「なんかおれ強いからこいつらぶっ殺しとくか」

 ぐらいの思考パターンの持ち主と考えた方がしっくりきてしまう。ルーイは次回作『ピクミン3』などにも登場しているが、そのときもけっこうアレな行動をとっているので、やっぱり、あんまり擁護の余地はないかもしれない。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
ちなみに戦闘後、ルーイはお宝“虫の王”として回収される。価値は10ポコであり、お宝としては最安値。
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
ルーイを回収すると、出会った原生生物の調理法や食べ方を読むことができる“ルーイメモ”が解放。「皮は見た目がよくないのではいだほうがよい」など、妙にリアリティのある内容になっていておもしろい。

 ルーイはなんというか、我欲が強い。前述のルーイメモなんかもそうだが、食欲を中心にとにもかくにも“欲の人”であるというイメージだ。

 そしてあくまでも個人的な考えなのだが、本作『ピクミン2』において“欲”はかなり重要なテーマだと感じている。借金を返済した後、さらなる富を求めて惑星の探索を続けるというのは、完全に“欲”の産物だろう。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
そもそも『ピクミン2』自体、お宝探してお金を集めようというゲームでもある。オリマーは冒険家としてのロマンで動いていたが……ル・チャチョーはまあ、確実に富が目当てだろうし。

 借金返済後に解放されるステージの名前はのぞみの大地。ラストダンジョンは夢の穴。“望み”と“夢”だ。さらに言えば、のぞみの大地は初代『ピクミン』における欲の象徴“へそくり金庫”があった場所で――と、語り始めたらキリがない。

 とにかく『ピクミン2』、とくに借金の返済後は、“欲”が大きなテーマであるように感じられてならないのである。

 ルーイはその中でも、とびきりの“欲”を持つ存在として描かれているのではないだろうか。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】

 全原生生物の食べ方をまとめたルーイメモを見るに、その最たるものが食欲であることに疑いはないが……自分の欲を最優先して動く彼は、この『ピクミン2』の象徴のような存在だと感じる。

 そんな欲の化身であるルーイが操るのが、道具(装備しているお宝)がないと何もできない、どこか人間っぽさがあるヘラクレスオオヨロヒグモというのもおもしろい。人間を突き動かすのはけっきょくのところ欲望である、みたいなメッセージ性が含まれているんじゃないかと、変な勘ぐりをしてしまう。

 うーん、こう考えると、やっぱり俺、ルーイ好きだわ。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
もちろん、それはそれとしてまごうことなきクソ野郎ではあると思っている。お世話になった先輩を襲うなバカ野郎。

 「『ピクミン2』が内包するテーマのひとつに“欲”があるのではないか?」から始まるルーイに対しての思いは、筆者が考えたただのイチ意見、どうでもいい考察のひとつである。公式の設定ではないのでご留意を。ただなんとなーく、本作はいろいろと考える余地のあるゲームだ、ということを感じていただければ幸いだ。

最新作『ピクミン4』にもつながる要素満載の『ピクミン2』。いまならSwitchさえあれば『ピクミン』シリーズ全作リレーも

 ゲームレビューと言いつつ大半をルーイに関する想いで埋めてしまったものの、改めて『ピクミン2』をプレイしてみて、本作は初代『ピクミン』が作りあげた「もしかしてここ、地球なのかも……?」という世界観をしっかりと拡張、補強した、『ピクミン』シリーズを語るうえでは外せない一作であると再認識した。

 お宝の存在により、“この惑星に文明があった”ことを思い起こさせる演出は、その最たる例だろう。ゲームキューブ版をプレイしていたのは小学生の時分であったが、このふしぎな世界のことを考えながら眠るのが毎日の日課であり、楽しく妄想にふけっていたことを覚えている。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
花壇や植木鉢なんかはそのまま残ってたりするんだよな……。あんまり生物がいなくなってから日は経っていないのだろうか。みたいなことを夜な夜な考えていた。

 お宝もそうだが、洞窟の探索など最新作『ピクミン4』にもつながる要素を色濃く備えているのも大きな特徴のひとつ。本作には洞窟の中でしか出会えない“コッパチャッピー”というかわいい生物も登場する。投げたときの「ミェア~」みたいな声が本当にかわいいので、ぜひともいっしょに冒険してみてほしい。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
筆者は洞窟だと“ヘビガラスの洞窟”がイチオシ。木を登って鳥小屋から下(地上)に落ちる、という地下1階から地下2階へ行くプロセスが好きだ。地下2階(地上1階)という奇妙な状況ができあがる。
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
ハチャッピー、めちゃくちゃにかっわいいんです。洞窟にしか生息していないので、地上に連れ帰ることができないのが悲しいけれど。

 本作『ピクミン2』は、Nintendo Storeで好評配信中。個別で購入するもよし、これを機に初代『ピクミン』を遊んでから『ピクミン2』へ進むもよし。パッケージ版は2023年9月22日に1と2がセットになった『Pikmin 1+2 (ピクミン1+2)』として発売予定なので、パッケージ派の人はいましばらくお待ちいただけると幸いだ。

 もちろん『ピクミン3 デラックス』、『ピクミン4』も発売中なので「これを機に全作やったらあ!」というのもいいだろう。めくるめくピクミンたちの世界へ、ぜひとも足を踏み入れてみてほしい。

『ピクミン2』における“お宝”と“欲”が作り上げた世界観について【おすすめゲームレビュー】
最後はホコタテ運送社員の3ショットをお届け。ルーイはこの後ピクミンたちに運ばれ、 “虫の王”として回収されました。
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