ゲームを始め、さまざまなエンタテインメントコンテンツを手掛けるセガサミーグループ。同グループのエンタテインメント事業を統括する、セガ代表取締役社長COO 杉野行雄氏にインタビュー。ゲーム事業のお話を中心に、コロナ禍の影響や、グローバル展開の展望などをうかがった。

聞き手:林克彦(ファミ通グループ代表)

杉野行雄氏(すぎの ゆきお)

1993年に入社後、多数の人気作に携わる。アトラスやセガ・インタラクティブ(当時)の代表を経て、現在はセガの代表取締役社長COOを務めるとともに、グループのエンタテインメント事業全般を担う。

逆風の中でもニーズをキャッチして伸長してきたエンタテインメント事業

――まずは、セガサミーグループのエンタテインメントコンテンツ事業全般の、2022年度の状況をお聞かせいただきたいです。

杉野2022年は巣ごもり需要が一段落し、アメリカ経済の停滞、資源高や輸送の乱れなど、さまざまなマイナスの要因もありました。その逆風の中でも、 エンタテインメントコンテンツは皆さんに必要としていただいていて、それが業績にも表れていると思います。

――2022年度でとくに印象的だったことを教えてください。

杉野やはりまずは『ソニックフロンティア』です。内海(州史氏。セガ代表取締役副社長Co-COO)を中心に、ソニックをもっと大きくするためにさまざまなプロジェクトを進めてきたことが実を結びました。昨年4月に、北米で映画『Sonic the Hedgehog 2(邦題:ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ)』を公開したのですが、そこで幸先のいいスタートを切れ、全世界の興行収入も約570億円を超えるヒットとなりました。その流れで『ソニックフロンティア』を発売し、当初の計画を超える本数を販売することができました。そのこと自体も喜ばしいですし、北米のユーザーを中心に「ソニックがいい方向に向かってくれて、すごくうれしい」といった、たくさんのメッセージをいただけたこともうれしかったですね。

【VIPインタビュー】セガ杉野行雄社長「世界の30億人のゲームユーザーに、セガのコンテンツを届けたい」世界中のどの人にも満足してもらえるゲーム作りを目指す
2022年度のセガタイトルの中でも、大きな注目を集めた『ソニックフロンティア』。おなじみのハイスピードアクションはそのままに、オープンワールド風のフィールドを自由に駆け回れるという、これまでの『ソニック』作品にはなかったスタイルを確立し、全世界での販売本数は320万本を突破した。2023年には新シナリオなどが追加される無料大型アップデートも控えており、また盛り上がりを見せそうだ。

――ソニックというIPが大きくなっていくことを、ユーザーの皆さんも喜んでくださっているんですね。

杉野そのほかのタイトルでは、『龍が如く 維新! 極』は当初の企画からさらにブラッシュアップを行い、グローバルでのヒットとなりました。モバイルゲームでは『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロセカ』)も、より飛躍した年になったと思います。

――巣ごもり需要が落ち着いてきた中で、アーケードの分野はどうでしたか?

杉野外に出る人が徐々に増えてきたこともあり、ダーツビジネスも含めて、コロナ禍前と比べても売上が伸びています。

――徐々にユーザーが戻ってきているのですね。

杉野はい。コロナ禍前のお客様だけでなく、新しいお客様にも来ていただけています。それに加えて“推し活”の需要も大きかったです。なかなか外出できない期間中にも、推し活をされる方がゲームセンターに足を運んでくださり、UFOキャッチャーやプリクラを楽しんでくださったのはもちろん、IPによってはゲームセンターをファンどうしの交流の場にされる方もいらっしゃいました。それらの影響も加わり、コロナ禍前の需要を超える状況になってきたのだと思います。

――杉野さんから見て、エンタテインメントコンテンツ事業が全般的に順調に進んでいるという印象なのでしょうか?

杉野はい。事業全般が順調に進んでいると思っています。たとえば、コンシューマ 事業はユーザーの数がグローバルで伸長しています。このコロナ禍の3年のあいだに「最近はあまりゲームをやっていなかったけど、久しぶりにプレイしてみるか」といった感じで、セガの作品を遊んでくださる方が増えました。そこから「さらにほかのタイトルやシリーズも買ってみよう」といった購買につながり、ベースのビジネスとしてはすごく強化されたのではないかと思います。またセガトイズは、原材料が高騰した影響を受けはしたものの、海外の会社と組んで売り出した新商品などが好調に推移しました。

――映像の分野についてはいかがでしょうか。

杉野巣ごもり期間を通じて、Netflixなどのサブスクリプションサービスがさらに普及し、過去の作品も含め日本のアニメが世界中でさらに見られるようになりました。これはトムス・エンタテインメントのデータからも明らかです。一方で、コロナ禍が明け、外に映画を見に行く方も増えたと思います。前期ではありませんが、今年4月に公開した『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』は、すでに興行収入120億を超えていて、シリーズ最高の記録を達成しています。これは、コロナ禍の期間を経たことにより、外に出て何かを体験しに行くことが得難いことである、人と会って話すことが貴重なことだと、改めて気付いた方が増えたからだと思います。そして、映画を見た後に、レストランなどに入って感想を語り合うといったことも容易になり、そういう意味では、作品自体の楽しさも2倍、3倍に感じられるのだと思いますね。

グローバル展開で重要なのは、日本含む各地域のユーザーを等しく見ること

――グローバル展開を基本とする中で、日本市場をどのように見据えていますか?

杉野コンシューマ分野のパッケージ事業だけを見ると、いまは海外の売上が8割強を占めるようになってきています。しかし、それは日本を大切にしないということではありません。日本のお客様はゲームを買ってくださるだけでなく、ライブに参加したり、グッズを買ったりと、いろいろな楽しみかたをしてくださいます。それに、いま『龍が如く』や『ペルソナ』シリーズが海外でも売れ始めているのは、最初に日本のユーザーが価値を認めてくれたからです。「日本の人があんなにおもしろいと言うなら、私たちもやってみようか」と、海外の方がプレイされるきっかけになったところもあると思います。そういう意味でも、日本は大事な市場で、日本の方がおもしろいと思える作品をきちんと作るのは、大前提だと思っています。

――海外の市場のみを強く意識したゲーム作りはしないということですね。逆に、日本だけを強く意識することもないのでしょうか。

杉野意識しているのは、世界中のユーザーを等しく大切にしていくことです。プロモーション用のトレーラーなどは地域の嗜好によって変えるということもありますが、ゲーム自体は、世界中のどの人にも満足していただけることを目指して作っています。昔は、海外の市場を意識しすぎたり、逆に日本市場だけにフォーカスして作ったりしたこともありましたが、いまは、世界中のユーザーを等しく見て制作していますし、それができるだけの実力もつきました。

――先ほど「いま『龍が如く』や『ペルソナ』シリーズが海外でも売れ始めている」とおっしゃっていましたが、これは杉野さんの中では、ある程度予想していた展開でしたか?

杉野伸びていくだろうというのは考えていましたが、やはり巣ごもり需要の後押しが大きかったですね。欧米のユーザーの中にも、巣ごもり期間に時間ができたのでアニメを見始めたという人も多かったのではないかと思うんです。それでジャパンカルチャーを好きになり、そこからゲームにも興味を持った人はいたのではないかと思います。『ペルソナ』はアニメも複数展開していますし、そこからつながった部分もあると思います。

 プラットフォームに合わせたチューニングも、ポイントのひとつです。PCだったらPCの、コンソールはコンソールの作法があるじゃないですか。ハードに合わせてフレームレートを調整するとか、当たり前にやっておかないといけないことはしっかりと社内で共有することにより、実際にSteamなどでも高い評価を得ているので、そこも手ごたえを感じるひとつになっています。

 さらにローカライズのクオリティーが上がったことも、成長のベースにあります。皆さんも海外のゲームをプレイしていて、「この日本語、おかしいな」と感じた経験があると思います。そういったことをなくすために、ローカライズに定評のあるアトラスのチームに「たいへんだと思うけど、ラインを増やして初音ミクのタイトルや『龍が如く』のローカライズにおいても力を貸してほしい」という話をずっとしていました。そうした取り組みが現在に実を結んでいると思います。

PC市場やダウンロード販売が拡大することによるメリット

――日本ではゲーミングPCのニーズが年々高まっていますが、このことをどのように見ていますか?

杉野セガはもともと、ヨーロッパの開発スタジオをたくさん抱えていることもあり、Steamでは売上のトップ10にずっと入っていました。このようにPCゲームの市場と長く付き合ってきた中で、ようやく日本やアジア圏でも本格的に普及してきたこともあり、さらに積極的に取り組んでいるところですね。一時期は、半導体不足の影響でPCの価格が高騰しましたが、それもかなり緩和して値段も落ち着いてくれば、さらに広がっていくと思います。

――ゲーミングPCの普及で、ダウンロード販売もさらに広がりましたね。ゲームタイトルの寿命も延びていると感じます。

杉野ゲームを開発している人間としては、自分たちの作ったゲームをひとりでも多くの人に遊んでもらうことが、この業界に入った意義じゃないですか。そういう意味では、自分が作った作品がいつまでも棚に並んでるのを見ることができるのは、率直にうれしいですよね。

――ダウンロード版については、セール販売が定期的に行われることで、売上の結構なウェイトを占めるようになっていると思いますが、どれくらい重視していますか?

杉野もちろん売上についても重要視していますが、加えて「いきなり未経験のタイトルを買うのは抵抗がある」という中で、セールをきっかけに手を伸ばしていただいて、「おもしろかったから、別のシリーズ作品もプレイしよう」といった流れが生まれることも大きいです。

――デジタルでの購入が普及したことで、ユーザーの特性も見えるようになり、それぞれの嗜好に寄り添ったデジタルマーケティングもやりがいがあるのではないかと思います。

杉野ユーザーが知りたい情報をタイムリーに届けることができるようになったのはすばらしいことだと思います。また、ユーザーのエンディング到達度などもわかりますので、それを見て難易度を変更したり、わかりづらいと思われている場所にチューニングを加えたりということができるようになったのは、時代の進化ですね。

厳選した運営型タイトルをグローバルに届けていくために

――アプリゲームに関して、現状の取り組みや今後の方針を教えてください。

杉野我々は「モニターがあるところは、すべて自分たちのフィールド」だと考えており、当然広く普及しているモニターといえるスマートフォンはおろそかにはできないと考えています。ただ、競合タイトルが強く、開発費もかかるようになったいま、マーケットとしては難しくなってきていると感じています。

――年間で複数タイトルを出すというのは、難しくなってきましたよね。

杉野タイトル数を少し絞って、その代わりにそれぞれのタイトルをきちんと展開していきたいと考えています。運営中のタイトルでは、『プロセカ』はユーザーの声を聞きながら、リアルイベントなどと合わせ、さらにさまざまな展開を進めていきます。『404 GAME RE:SET ‐エラーゲームリセット‐』も、スタートの勢いは想定をやや下回っている状況ではありますが、遊んでくださっている方々からたくさんの声もいただいており、さらなるユーザー獲得に向けて施策を展開していきます。一方、ネットワークタイトルでは『PSO2 ニュージェネシス』 が6月に大型のバージョンアップを行い、大きく方向転換しました。クラフト要素をかなり取り込んでいるので、ユーザーの皆さまからどういう意見が出るか、非常に楽しみにしています。

【VIPインタビュー】セガ杉野行雄社長「世界の30億人のゲームユーザーに、セガのコンテンツを届けたい」世界中のどの人にも満足してもらえるゲーム作りを目指す
日本だけでなく、世界約130の国・地域でも配信され、人気を伸ばしている『プロセカ』。
【VIPインタビュー】セガ杉野行雄社長「世界の30億人のゲームユーザーに、セガのコンテンツを届けたい」世界中のどの人にも満足してもらえるゲーム作りを目指す
2023年4月にサービス開始となった『エラーゲームリセット』は、『バーチャファイター』や『アウトラン』といった往年の名作ゲームを美少女化するという世界観が特徴。

――今後の展開が、どれも楽しみなタイトルです。

杉野それと今年は老舗タイトルの『ぷよぷよ!!クエスト』、『セガNET麻雀 MJ』、『チェインクロニクル』がサービス10周年を迎えます。いずれも、ちょうど私が開発本部長をやっていたときに作っていたタイトルなんですよ。

――10周年を迎えるタイトルが3本も!

杉野私が開発本部長を担当していた最後の年に、今後のスマートフォンゲーム市場のさらなる拡大を想定して開発チームを立ち上げたタイトルなんです。『ぷよぷよ!!クエスト』などは「『ぷよぷよ』でどうやってスマートフォンゲームを作るんですか?」と言われたりもしたんですが(笑)。

――それらが10年続いているというのは、感慨深いですね。

杉野『セガNET麻雀 MJ』は、多くのユーザーに遊んでいただき、現在では当初は考えてもいなかった売上規模になっているのでありがたいですね。

――先日、ロビオ・エンターテインメントの買収を発表されましたが、それはスマートフォンゲームをより海外に届けたいとの思いがあったからですか?

杉野先ほどパッケージ事業の売上は海外が80%強とお話ししましたが、モバイル事業では国内の売上がほぼ90%と、逆の状況になっています。そこで、セガのスマホタイトルをグローバルに届けるためにロビオ・エンターテインメントさんと手を結びたいと考えています。単に『アングリーバード』が魅力だというだけではなく、彼らといっしょに世界中のスマートフォンでカジュアルにゲームを遊ぶ人たちにセガのゲームを届けたいという気持ちです。

――セガとロビオ、両社の総合力を上げるのと同時に、グローバルにアプリをもっと広めたいという思いを強く持っていらっしゃるんですね。

杉野その通りです。「世界中に私たちグループのゲームを届けたい」という考えが根本にありますので。かつて「セガはRPGが弱い」と言われ、アトラスをグループ内に迎えることになったように、今回は海外でのモバイル分野が弱いという点を鑑み、ロビオさんと協力できればと考えています。そうしていくことで、インターネットを介してゲームを楽しむ30億人の人に一回でもセガのゲームを遊んでもらえればと思っています。

新興市場である東南アジアへ向けた取り組み

――新興市場として東南アジアや中東、中南米などが注目を集めていますが、どのようにアプローチしていますか?

杉野東南アジアはセガとしても注目している市場です。現地の環境に合わせたマーケティングを展開する必要性を考え、昨年シンガポールにオフィスを構えました。

 また、これまで出展したことがなかったタイやフィリピンのゲームショウにも出展を行い、現地ゲーム市場の情報収集や、コネクションづくりなどにつなげることができました。

――東南アジアのゲーム市場についてはどのような印象をお持ちですか?

杉野タイは、元々ゲームに対する熱量も高く、エンタテインメントにまわせる可処分所得が増えてきていることもあり、ゲーム文化も徐々に根付いてきている印象を持っています。

 とは言え、コンソールはまだまだ高価なもので購入へのハードルも高く、また国によってはクレジットカードの使用率が2%ほどということもあり、アプリゲームにおける課金の仕組みをどのように構築していくかもポイントになっています。ですが、そのあたりは近年のフィンテックの進化などで解決されつつあるので、これからはかなりおもしろいマーケットになってくるのではないでしょうか。

――すごく伸びしろがありますね。

杉野あとはローカライズですね。セガタイトルの一部ではタイ語のローカライズも行っていますが、まだ多くはありません。ただ最近は、どのタイトルでも「東南アジア地域の言語のローカライズはどうするか」と話が上がるなど、社内での注目度も高まっています。

IPごとに、新作か、リメイクか、リブートなのかを検討していく

――『サンバDEアミーゴ』の最新作の発売が8月に控えていますが、こういった過去IPのリブートは、今後も続けていくのでしょうか。

杉野サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』は、私の中ではリブートではなく、シリーズものの新作というイメージですね。一方で、先日発表した『ソニックスーパースターズ』は、2Dアクションに回帰というところで、新作ではありますが、リブート的な施策も行っていきたいと思いますね。

――『ソニックフロンティア』は、『ソニック』シリーズにおける新たなチャレンジでしたが、『ソニックスーパースターズ』はリブートという面を持っていると。

杉野新しいことはもちろんやっていかなければいけませんが、どのIPでも同じように、新作もリブートもするというわけではありません。「このIPにはこのやりかたがベストだろう」といった、IPごとにこのタイミングではどれが適切なのかを選択しながら展開していきます。『ソニック』はセガの看板IPでもあり、新作と並行して、リブート作品やリメイク作品も検討していっています。

――昨年発売されたメガドライブミニ2が好評でしたが、今後はセガサターンを復刻させるといったことも検討されているのでしょうか?

杉野過去ハードの展開は、内部環境と外部環境が奇跡的に整ったときにできると思うんです。セガサターンは意外と高性能なので、(ミニ化の)難度が高いということもあります。

――技術的な問題があると。

杉野クラシックハードの復刻については、「売上がいいから、ほかも作ろう」というものではないと思います。もう少し先にはなりそうですが、セガサターンやドリームキャストをずっと好きでいてくださってる方々といっしょに、オープンに作れる状況になったら考えたい。まぁ現場は技術研究をしているとは思いますけど。

――よきタイミングで、もしかしたらあるかもしれないと。楽しみにしています。ところで、アーケードゲームに関しては、現在稼動している『英傑大戦』や『頭文字D THE ARCADE』といったタイトルの新作も展開していくのですか?

杉野『英傑大戦』と『頭文字D THE ARCADE』は定期的にバージョンアップしています。ちなみに最近は、中国を中心に、アジア圏において『maimai』などの音ゲーや『頭文字D THE ARCADE』がものすごく人気なんです。幅広い地域でご支持をいただいていますので、いまサービスしているものは続けていきたいなと思います。

 その反面、新しいIPの創出、売れるものを作るのはなかなか難しい状況です。それに加えて、考えたくはないですが、コロナウイルスの今後の感染状況などで再びお店を閉めなければならない状況になる可能性もあります。そのような状況下でも、それを超越できるような企画などに関しては今後も検討を続けていきます。

eスポーツに真剣に取り組める、鑑賞できる環境を整えることの重要性

――セガは『Virtua Fighter esports』、『ぷよぷよeスポーツ』といったタイトルを展開していますが、eスポーツ向きのタイトルを作ることについては、どうお考えですか?

杉野基本的には、多くの人が遊んでくれるおもしろいゲームを作るのが前提です。それがたまたま対戦でeスポーツに向いているタイトルだったら、eスポーツでの展開もやるべきであると、そういうことだと思うんです。最初から「1000万人がeスポーツとしてプレイするゲームを作るぞ」というのは、ゲーム会社としてあり得ないと思います。

――あくまで、ベースにあるのはおもしろいゲーム作りであると。

杉野はい。とはいえ、eスポーツに資するタイトルは、今後もいろいろな会社から出てくると思いますし、それを真剣にプレイできる、見てもらえる、実況できるような環境を作っておくのは大事なことなので、業界を挙げてグローバルにやっていくべき取り組みだと思っています。そのために大切なのは、感情移入できるような環境作りですね。

 たとえばスポーツを見るときに、単にそのスポーツ自体が好きで見るのと、ひいきのチームがいて応援するのとでは、感情移入の具合も違いますよね。高校野球で、地元のチームが出ているだけで応援してしまうといったように、メンバーもしくはチームに思い入れがある中で観戦する、プレイするというのは、エンタテインメント としてのポテンシャルをものすごく引き上げると思うのです。近年は真剣にプレイできて、かつ多くの人に見てもらえる仕組みが整っているゲームが増えましたが、ものすごくいいことだと思います。

――なるほど。

杉野少し前のお話をすると、栃木県で開催した“全国都道府県対抗eスポーツ選手権2022 TOCHIGI”の『ぷよぷよ』部門では、8歳の子と小学6年生の子が対戦した試合がありました。8歳のお子さんは幼いながらも、やっているときは真剣にプロスポーツ選手を思わせる表情でプレイしていたのですが、結果的には負けてしまうんです。終わった後にきちんと一礼している姿を見て「カッコいいな」と思った瞬間、彼が後ろを振り向いて悔し涙を流し出したのがすごく印象に残っています。

――そういう経験を経て、未来の選手として成長していくのですね。

杉野真剣に練習して、自分よりうまい人と真剣に戦ったからこそ、涙が出ると思うんです。それは彼の人生に取っていい経験になってくれればと思いますし、真剣に取り組めるeスポーツの枠組みがあったからこその体験ですよね。

社を挙げてゲームを多くの人に届けることが、スタッフの満足度につながる

――ゲーム業界全体で、開発スタッフはつねに不足していて、新たに雇いたくとも人が集まらないといった状況があります。そんな中で、セガはスタッフが働きやすい環境作りに注力している印象を受けますが、それに関して手応えはいかがでしょうか。

杉野セガでは毎年スタッフの満足度調査を実施していて、去年は調査をお願いしている会社から「これだけ満足度が上がる会社はなかなかないです」と言っていただきました。そういう意味では、社内のモチベーションは全体では高くなってきていると思います。

 これは、給与や労働環境の部分ももちろん大事なのですが、個人的には会社を挙げて作ったゲームをひとりでも多くの人に届けられているということが、満足度につながっているのではないかと思います。会社の業績が上がったというのも、それはけっきょくゲームを多くの人に触ってもらえたということなので。

――開発スタッフの数は足りているのでしょうか?

杉野開発スタッフ数は、日本に約2000人、海外に約1500人います。ただ、それでも全然足りていないですね。昨年はセガ札幌スタジオを作り、多くの人が集まってくれました。さらにスタジオの拡充を進めておりますが、それもきっとすぐ埋まるのでさらにその後を考えていかなければいけません。海外にもイギリスのロンドンを中心として、カナダのバンクーバー、ブルガリアのソフィア、フランスのパリに開発スタジオがあり、どのように連携していくのかは悩んでいます。

――この先、どこまでスタッフを増やせばいいのかは、悩みのひとつになりそうですね。

杉野新卒採用に関しても、今期はたくさんご応募していただけましたが……これはほかのゲームメーカーの社長ともよく話すことなのですが、ゲーム業界を志してくれる若い人をもっと増やさないといけない。小学生のなりたい職業ランキングでは1位、2位になっているのに、そのときの皆さんの志は、大きくなるとともにどこに行ってしまうのだろうと(笑)。

――業界のテーマとして、若い学生の皆さんに「ゲーム業界に入りたい」と思わせるということがありますよね。そのためにも、セガは基本給のベースアップ(2023年7月から導入)などを行っていると思いますが。

杉野大卒の初任給が30万円であるというところにかなり注目が集まりましたが、皆さんにぜひ見ていただきたいのは、ファミリーサポートプラスという制度です。育児に関して10種、介護に関して6種のサポートプログラムを用意しています。たとえば、“育短サポート制度”や“卵子凍結援助”などは、なかなか他社にはない施策だと思います。

 “育短サポート制度”は育児短時間勤務を利用できることに加え、子どもが3歳に達するまでは短時間勤務でもフルタイムで勤務したものと同様の給与を保証しています。労働時間が減少してもフルタイムと同様の給与を100%全額保証することで、短時間勤務を選択する際の懸念のひとつである給与面までサポートしており、子どもと過ごす時間を確保しながら、安心感をもって働いてもらえればと考えています。“卵子凍結援助”はまだメジャーなものではありませんが、僕自身、子どもができるのが遅かったですし、周りの友だちにも、子どもができないことで悩んでいる人がけっこういました。ですので、費用を支援するのはもちろんですけど、卵子凍結というものがあることをまず知ってもらって、出来る限り自分らしい生きかたをしてもらいたいという思いがあります。

――育児ももちろんですが、介護についても、スタッフが歳をとるにつれて直面する問題ですね。

杉野この支援制度を導入するにあたりいろいろな人に話を聞いていますが、介護に関して困っているのはお金だけじゃないと言われることが多いんですね。それなりに貯えはある場合でも、たとえば脚が悪かったり、耳が遠かったりと、人によって状況が違うというのがまず大きな問題だと思うので、介護のサポートについてはまず相談所を作るところから始めました。若いスタッフは、いまは介護に関する心配がないかもしれませんが、誰にもいずれ必ず来る未来なので、ノウハウを蓄積しながら進めていきたいですね。

――スタッフの環境や制度の整備のほかに、今後取り組みたいことや、課題だと思っていることはありますか?

杉野日本のスタジオ、海外のスタジオを含めてクオリティーが向上してきており、開発費用の額も上がってきていますので、ゲーム開発はこの先どういうところに行ってしまうんだろうという懸念はありますね。

 つぎの世代のハードが出るころには、開発予算100億円規模のタイトルが普通になっていると思うんです。その反面、「1億円くらいで作れるタイトルを作ろう」という流れもできるんでしょうけど、ますます半端なものは作れなくなりますね。

 これまでお話ししてきた通り、グローバルで展開をすること、世界に通用するゲームを作っていくことが大切です。日本にいる開発チームの中にも、ずいぶんと海外経験のある人が増えてきましたが、さらに増やしていく必要があります。海外スタッフの雇用には為替の影響などの課題もありますが、さらに推進していきます。

 今後発売するタイトルを、どういうチームで、どういう作りかたで開発していくのか。いままでのやりかたを踏襲するだけではいけませんから、いろいろな手を打っていかないといけないと考えています。

セガサミーグループの映像制作会社と、どう連携していくか

――トムス・エンタテインメントにおいても、基本給を引き上げられたそうですね。それでも、アニメ業界はゲーム業界と比べ、クリエイターの地位が低く、利益を出すのに苦労しているという課題があるようです。トムス・エンタテインメントはせっかくセガサミーグループに属しているのですから、もっとセガとタッグを組んで、ゲームとアニメにまたがるコンテンツを展開すれば利益につながるのではと思うのですが、いかがでしょうか。

杉野論理的に考えると、そう思います。ですが、先ほどのeスポーツ向けのタイトル作りにも通ずるところがありますが、(ものづくりの)フレームワークを変えてしまうと、なかなかいいものができないという印象が強くあります。「アニメもゲームも、どちらも売れて楽しんでもらえる企画を考えるぞ」と言ってスタートしても、これまでいいものになった試しがないんですね。どんなにマルチでの展開が成功したIPでも、全体をリードしている分野があるはずなんです。

 「このアニメだったら、セガやアトラスのよさが活きるな」と思えるのであれば、やればいいと思うんですよ。逆に、「これは他社がやるほうが、アニメがより活きる」というなら、他社にお願いすればいいと思っています。

 たとえばサブスクリプションサービスに対して提案する場合、トムスとセガとでいっしょに立ち上げたオリジナルIPのアニメを買ってもらうのは、なかなか難しい。ですから、やっぱり原作がある作品を展開することが多くなり、その作品をゲーム化するのであれば、セガ以外のところが手掛けたほうがよさそう、となってしまいます。

 とはいえ、トムス・エンタテインメントとは以前よりも密に連携していますし、この4月から、マーザ・アニメーションプラネット(セガサミーグループに属するCGアニメーション制作会社)がセガ直轄の会社となり、私の管轄になりました。今後いろいろなことを仕掛けようと考えています。発表できるまで時間がかかってしまうとは思いますが、ぜひ待っていてください。

今後は『龍が如く』、『ペルソナ』などセガ&アトラスの主力IPが揃う

――今後のタイトルについてうかがいます。6月には、大型タイトルがこれでもかと発表されましたね。

杉野おかげさまで6月はたくさん発表できました(笑)。まず、先ほどもお話しした『ソニックスーパースターズ』。これは関係者の方々に見ていただくと、必ず「おお!」という声が上がります。ゲームプレイとしてもかなり新しい要素を取り入れており、マルチプレイも含めて楽しんでいただけますので、ぜひご期待ください。

――『龍が如く』シリーズの新情報も公開されました。

杉野龍が如く8』の映像は、見ていただければわかると思いますが、かなりおもしろいトレーラーになっています。そこから期待を膨らませ、つぎの情報を待っていただければなと。その前に発売する『龍が如く7外伝 名を消した男』は、もとはダウンロードコンテンツ程度のボリュームで検討していたものが、開発が進むにつれどんどん規模が大きくなり、気が付いたら1本の本格的な新作になってしまったタイトルです。『7』と『8』の橋渡しの作品として、ファンの方にぜひ遊んでいただきたいですね。そしてアトラスファンの皆さんは、新作の連続に驚いたのではないでしょうか。

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2023年11月9日に発売予定の『龍が如く7外伝 名を消した男』。

――まさか3作品もあるのかと、ファンの方も驚いていました。

杉野完全新作の『メタファー:リファンタジオ』ですが、これはアトラスチームが、後世に残る、アトラスの金字塔になるRPGを再びゼロから作りたいということで、“スタジオ・ゼロ”の名のもとに開発しているタイトルです。最初のプロットを見てから、発表できる日が来るのをうずうずして待ってました。

――2016年12月のプロジェクトの発表から、先月の正式タイトルの発表まで、長かったですね。

杉野ペルソナ5』の開発が終わってすぐのタイミングで構想はしており、かなり時間がかかってしまいました。発売はもう少し先になりますが、見たことのないゲームになっているので楽しみにしてほしいです。

――『ペルソナ』シリーズについては2タイトルが発表されました。

杉野ペルソナ5 タクティカ』は、かなり遊び込めるゲームになっています。『ペルソナ2』から『ペルソナ3』になったとき、「『ペルソナ』が変わった!」と、多くの方が感じられたかと思います。『ペルソナ3 リロード』は、そんな皆さんの思い出を裏切らないよう開発を進めています。リメイク作ながらも、アトラスの新しいRPGをまるまる1本作れるぐらいの年月をかけて開発しているので、当時プレイされた方も、未プレイの方もぜひ遊んでほしいです。

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『ペルソナ3 リロード』は2024年初頭発売予定。サイドストーリーを盛り込んだり、キャラクターボイスの総量がシリーズ歴代トップクラスにまで増えていたりと、相当なボリュームがあるリメイクになっている。

――海外タイトルについてはいかがでしょうか。昨年度は、セガが国内の販売を担当したWB Games作品『ホグワーツ・レガシー』がかなりの人気でした。

杉野ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメントさんとは、ずっといい関係でやらせていただいていてます。『ホグワーツ・レガシー』はNintendo Switch版がこれから出る予定ですし、さらにプロモーションを行っていきます。新作『スーサイド・スクワッド キル・ザ・ジャスティス・リーグ』も控えていますし、引き続き力をいれていきます。さらに、セガが抱える欧州開発スタジオの新作を日本でも展開していきます。これまで日本で展開するにはいろいろと制約もあり、難しいところもありましたが、今後は作ったタイトルをできるかぎりグローバルで展開していきたいと考えています。5月末に『Company of Heroes 3』を発売しましたし、10月19日には『ENDLESS Dungeon』の発売も予定していますので、ぜひご注目ください。

――ラインアップを見ると、2023年度下期は、セガとアトラスのゲームがかなりの頻度で発売されることになりますね。このタイトルの充実ぶりは、計画的なものですか?

杉野多少遅れたものもありましたが、ほとんど予定通りで、すごく遅れてしまったタイトルはなかったです。

――すばらしい充実ぶりです。では最後に、これだけタイトルが揃ったということで、今後のセガに期待しているゲームファンにメッセージをお願いします。

杉野いつもセガのゲームを遊んでいただいてありがとうございます。今期ほどタイトルが揃う年はなかなかないですし、一本一本丁寧に作ってます。ぜひ興味を持っていただいて、まずはPVを見ていただけるとたいへんありがたいなと思っています。多くのゲームユーザーにおもしろいと思っていただけるコンテンツをこれからもお届けします。今後ともよろしくお願いいたします。

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