2023年7月7日(金)に公開予定の映画『バイオハザード:デスアイランド』は、ゲーム版『バイオハザード6』から『バイオハザード7 レジデント イービル』にいたるまでのあいだにアルカトラズ島で起こった出来事が描かれる。
この映画はレオン、クリス、ジル、クレア、レベッカという『バイオハザード』のオールスター総登場ということでも話題だ。いよいよ公開直前ということで、本作の監督を務める羽住英一郎氏、脚本の深見 真氏、そしてゲームプロデューサーでスーパーバイザーの川田将央氏の3名を交えてのインタビューを行った。
『バイオハザード』に対する想いや原作へのリスペクトなど、貴重な話をうかがうことができたので、事前に読んでおけば映画をより楽しめるだろう。なお、ネタバレには極力配慮しているのでご安心を。
『バイオハザード』関連商品の購入はこちら (Amazon.co.jp)映画『バイオハザード:デスアイランド』本予告【7月7日(金)公開】
『バイオハザード:デスアイランド』あらすじ
アメリカ大統領直属のエージェントのレオンは、機密情報を握るアントニオ・テイラーを拉致した武装集団の車両を追っていた。だが突如現れた謎の女の妨害に遭い、犯人たちを取り逃がしてしまう。
一方、対バイオテロ組織「BSAA」のクリスとジル、そしてアドバイザーのレベッカは、サンフランシスコを中心に起きている、感染経路不明のゾンビ発生事件を担当していた。クレアが勤める「テラセイブ」の調査協力の結果、ウィルスの被害者全員がある場所を訪れていたことを突き止める。
そこは、かつて刑務所として使用されていた監獄島・アルカトラズだ。島へ調査に向かう為、クリス一行はフェリーへと乗り込む。
&cite出典:『バイオハザード:デスアイランド』公式サイト
羽住英一郎氏(はすみえいいちろう)
映画監督。おもな代表作として『海猿』、『暗殺教室』などのシリーズ作を担当。
深見 真氏(ふかみまこと)
脚本家。長編CG映画『バイオハザード:ヴェンデッタ』に続き脚本を担当。代表作は『PSYCHO-PASS サイコパス』など。
川田将央氏(かわたまさちか)
カプコンで『バイオハザード』ゲームシリーズのプロデューサーを務める。
オールスター集結! ジルとレオンの絶妙な距離感に注目
――本プロジェクトは、どのようにして立ち上がったのでしょうか?
深見プロデューサーサイドから「もう1本CG映画やりませんか?」とお話をいただきました。そして「今度はジルを出しましょうよ」とも。その流れで制作に取り掛かったのはいまから4年くらい前のことです。
羽住劇中の時間軸を2015年としたのは『バイオハザード:ヴェンデッタ』の続編に決めたからですよね。
深見そうです。『ヴェンデッタ』では登場キャラクターの顛末などやり残したことがあったので、その続編として作ることはすぐに決まりました。
羽住「あのキャラ、どうなったんだろう」ってね。僕も前作『バイオハザード:インフィニットダークネス』をやるときに、前前作である『ヴェンデッタ』を観たのですが、「めっちゃ続きがありそうな終わりかただ」って思ったのを覚えています。
深見その続きがようやく今年になって実現するという(苦笑)。
――本作では、ゲーム版『バイオハザード』の洋館/ラクーンシティ生き残り組がほぼ総登場することでも話題です。
羽住2015年という設定が、彼らを登場させるのにちょうどいいところなんですよね。『インフィニットダークネス』の2006年とかですと、前後の作品との整合性などもあって、活躍できる人物が限られてしまうという。
川田ここまでの面子はゲームでも揃ったことはないですからね。すごく難しいお題だと思いますが、うまくまとめられていてバランスのいい映画に仕上がっていると思いました。
――自分も試写会で観たときにまとまりのよさを感じました。こうなるとバリーやエイダやビリーも出てきてほしくなります。
川田『デスアイランド』が公開されて無事にヒットしたら、彼らが活躍する可能性も期待したいですね。
深見では次はシェバで……。
一同 (笑)。
川田シェバは僕自身気に入っていますし、『バイオハザード5』で登場して以来再登場していないので、どこかで活躍を見たいですね。ちなみに本作で登場するジルは(作中の時間軸で)『バイオ5』以降の姿を見せるのは今回の映画が初になりますので、そこも注目のポイントではないでしょうか。
――ラクーンシティ事件から何年経とうとも青い服を着ているところが、彼女のファンとしてうれしいです。
川田ジルの青もそうですが、クレアが赤、レベッカが緑というところからも、ゲームを大事に考えていただけているのが伝わりました。
深見ジルと言えば、彼女の迫真の演技に圧倒されました。CGキャラクターの演技指導はどんな感じなのでしょう?
羽住俳優さんには実際に演技していただいたのをモーションキャプチャーでCG化していますので、実写の映画を作るのと大きくは変わりません。
川田ジルが水の入ったボトルを取るシーンがあるじゃないですか。そのときジルの横顔が映るシーンで、“目”の演技がとくに実写のように感じられました。
羽住目の動きも俳優さんの芝居をトレースしています。
川田そういった繊細さが羽住監督の真骨頂でありつつ、派手なアクションもガッツリ入っていて、とにかく見どころが多い映画だと思います。
――視聴中はCGであることを忘れて実写のアクション映画を観ている感覚でした。グラフィックがフォトリアルなだけでなく、俳優さんの演技の賜物だったのですね。話は変わりますが、登場人物が多い本作の中で、レオンとジルの絡みが多いのが意外でした。
深見このふたりはゲームでも同時に出てこなかった組み合わせですが、今後の『バイオ』作品で整合性をとりにくくなってしまうため面識がある設定にしています。
羽住レオンがジルのことを「ジル・バレンタイン」とフルネームで呼ぶくらいの絶妙な距離感です。
深見ふたりの会話から、それまでのレオンとジルの関係性を『バイオ』ファンの皆様に想像してほしいです。とは言え、『バイオ』の世界での彼らはふたりとも名が知れています。
片やS.T.A.R.S.の生き残り、片や大統領の令嬢をロス・イルミナドス教団から救い出していて、互いに名前は知っているはずなので、どこかで会っていても不思議はありません。それを踏まえての距離感にしています。
――確かに初対面なわけはありませんよね。登場人物のひとりひとりがそれぞれ主役級なので強すぎでは? と、試写会の前までは思っていたのですが、実際はけっこうヒヤヒヤするシーンもあって、しっかりサバイバルホラーしている印象を受けました。
深見PVにもありますが、巨大なクリーチャーの攻撃を5人が一斉に避けるシーンも絵になりますよね。
羽住あのシーンは、この5人が揃っているのだからファイブショットを見せたいと思って入れました。シチュエーション的に、5人勢ぞろいというカットは少ないんですよ。それぞれふたり組、3人組で行動することが多いですから。
原作をリスペクトしつつも、シリーズファン以外が観ても楽しめる作りに
――クリーチャーについてのお話もお聞きしたいです。今回はリッカーの改良版(?)のようなクリーチャーが登場しますが、デザインなどで苦労された点などをお聞かせください。
深見自分は脚本に水中仕様のリッカーと書いているだけで、造形や設定に関してはおまかせしていたんです。
羽住じつは途中まで勘違いしていたことがありまして、培養されているクリーチャーのことを“幼生リッカー”と呼んでオタマジャクシのような姿でデザインしていたのですが、よくよく考えたらリッカーってもともと人間なんですよね。
川田そうですね。もともとゲームなどに登場したリッカーは、ゾンビになった人間がさらに変異したものでした。でも、本作のリッカーはB.O.W.(※)として新たに創られている設定なので問題ないと思います。
※Bio Organic Weapon。生物兵器のこと。
――新型リッカーというわけですね。とはいえ姿がリッカーということで、ジルとレオンが咄嗟に音を立てないようにするというところは「さすが!」と思いました(※)。
※『バイオハザード2』で初登場したリッカーは、音を頼りに攻撃してくる。
川田リッカー戦の経験者は違うな、と。
――原作を知っているとニヤリとさせられるシーンが随所に出てきますよね。
羽住本作は通常のメディアミックスではなくトランスメディアストーリーテリング(※)であり、原作(ゲーム)をプレイしていないと知り得ないネタを平気で入れています。それでも視聴者の方がゲームをプレイしているとは限らないので、本作だけしか観ていなくても「ああ、こういうことがあったんだろうな」とご想像いただける作りにしています。
※複数の異なるメディアを融合することにより、一貫したテーマで物語を定義していく手法。
川田誰もがわかるようにしつつ、「あ、このネタを使っていただけているんだ」とマニアックな要素も入れてくれるあたりもすばらしいと思います。深見さんが原作ネタをこれでもかと突っ込んでいただけたおかげでしょうか。
深見やり過ぎて「そこまでやるのはさすがに……」と言われることが多かったです(笑)。でき上がった映像を観たときに、カメラワークからゲームを彷彿とさせるシーンをいくつか確認できたのですが、そこは意識されていたのですか?
羽住とくに意識していたのではないですが、たまたまそう感じられたのだと思います。
川田〇〇〇のシーンとかですね。
※このあとしばらく、該当のシーンについてネタバレトークに華が咲いたが割愛。
――舞台をアルカトラズ島にした経緯を教えてください。
深見最初は豪華客船の案もあったのですが、『バイオハザード リベレーションズ』の印象が強すぎるため、ほかの候補を考えていった結果アルカトラズ島になりました。
あと、メインとなる舞台はあまり転々とさせたくなくて、街ひとつ(サンフランシスコ)+メインの舞台ひとつ(アルカトラズ島)に絞っています。そのくらいのほうが予算を節約できるというのが理由です。
――なるほどそういう理由が。ゲームとは違い約90分の映画ですから、舞台を絞っていると観る側にとってもわかりやすいです。
羽住見た目のわかりやすさも理由のひとつです。サンフランシスコは坂になっているのでわかりやすく、アルカトラズ島もその近くですしね。
深見自分は何も考えずに楽しめる作品が好きなので、サンフランシスコの路面電車も走る坂道をレオンがカーチェイスして、めちゃくちゃに撃ちまくられた挙句、路面電車が巻き込まれて爆発するといったことを脚本に書いていたんです。
そしてでき上がったものはご覧になった通り(バイクチェイスシーン)なのですが、それを観て「うん、こっちのほうがいいな」と(笑)。
羽住そうですね。あのシーンもモーションキャプチャー班ががんばりました。
5人がオールスターだからこそ敵の人物を丁寧に描けた
――黒幕の人物は、過去がしっかり描かれていたり、クリスやレオンたちに罪について問いかけたりと、『バイオ』では珍しいタイプのヴィランだと感じました。このあたりのこだわりについてもお聞かせください。
川田これまでの『バイオ』にはいなかった人物ですね。
深見最初は哲学的なキャラにしようと思っていました。そして、そこからカッコよさについて考えていく。そもそも「俺は金のために悪いことをするぜ」っていう悪役にしたとして、メインの登場人物5人を相手に勝てるビジョンは見えないじゃないですか。
――確かに。
深見そこで、自分の命はどうでもよくて、それより5人それぞれをいかに苦しませようかを考える人物を考えました。
羽住主人公側の5人ひとりひとりを否定する“理由付け”をしっかり入れることが重要でした。
川田敵側の人物をしっかり丁寧に描いているあたりがさすがですよね。
羽住逆に、主人公側の5人はおなじみのキャラクターたちなので、懇切丁寧な説明はなくても大丈夫なんですよ。そのぶんのリソースを敵の描写に割くことができました。
――気の早い話ですが、シリーズファンの中には『バイオハザード7 レジデント イービル』以降の時代のCG映画も観たいという方もいるかと思います。やはり機会があったらイーサンの出てくる話でも作品を作りたいと思いますか?
川田そのあたりになると、ラクーンシティ時代に活躍した人物もけっこうな年齢になってきますよいね。
羽住白髪まじりの彼らも観てみたいですけどね。フルCG映画のいいところは、役者さんの年齢に関係なく作中の人物をその年代に合った形で描けることだと思います。
――逆に若いころの時代も描写できますね。新しめの作品の主役としてイーサン・ウィンターズの物語はいかがでしょうか。顔は見えないので一人称視点の映画とか。
深見イーサンは『7』と『バイオハザード ヴィレッジ』できっちり描かれすぎて、新たな物語を作る余地がないんですよね。やるとしたら『ヴィレッジ』のその後でしょうか。
――今後の展開にも期待しつつ、最後にファミ通読者および『バイオ』ファンに向けて、メッセージをお願いします。
深見『ヴェンデッタ』のとき、「自分はゲームがうまくないので、クリスやレオンをこんなにうまく操作できない」という視聴者様からの感想をいただきました。逆に言えば、ゲームが苦手な方でも安心してエンディングまで鑑賞できるのが映画のいいところでもあります。
美しい動き、美しいカメラワークを劇場で存分に楽しんでいただければと思います。
羽住フルCG映画の『バイオハザード』は同じタイトルバックでゲームと地続きであることで、シリーズファンの皆さんで盛り上がってほしいという想いを込めました。本作のあとでゲーム作品を楽しんだり、ほかのフルCG映画を観たりと、ぜひ楽しんでください。
川田ついにジルが戻ってきました。ほかのキャラクターも皆さんが想像した通りの描写になっています。ゲームファンの方も違和感なく映画に入り込めることが本作のいちばんのアピールポイントだと思っています。
これを機にゲームの『バイオ』も楽しみつつ、すばらしいフルCG映画の『バイオハザード:デスアイランド』を堪能してください。
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