かつて2002~2003年にファミ通.comで連載されていた、永田泰大氏による『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)のプレイ日記。それを1冊にまとめた『ファイナルファンタジーXIプレイ日記 ヴァナ・ディール滞在記』の電子書籍版が本日、2023年3月31日に発売となった。
その発売を記念して著者である永田氏へのメールインタビューを実施。この連載がスタートした経緯や、約20年ぶりに電子書籍として復刊となった本書への想いを語っていただいた。
またインタビューに続き、『FFXI』プロデューサー兼ディレクターである藤戸洋司氏による本書へのコメントを掲載。さらにメディア編集者として、ファミ通・オポネ菊池、電撃の旅団・Oshoのコメントも掲載している。ぜひインタビューとあわせて、こちらもチェックしてほしい。
『ファイナルファンタジーXI プレイ日記 ヴァナ・ディール滞在記』書籍情報
書籍概要
- タイトル:ファイナルファンタジーXI プレイ日記 ヴァナ・ディール滞在記
- 著者:永田泰大
- イラスト・漫画:みずしな孝之
- 定価:1,045円(税込)
著者プロフィール
元週刊ファミ通編集者で、当時のペンネームは“風のように永田”。
現在は株式会社ほぼ日に勤務。
Twitter:@1101_nagata
作品紹介
ファミ通.com上で異常ヒット数を記録した名物日記がついに書籍化。
『ファイナルファンタジーXI』をめぐる涙あり笑いありの27万字。
ネット接続から、冒険の基礎、スラングや礼儀作法までをちりばめて初心者のガイドとしても最適。
その後の日記、吟遊詩人篇を新たに書き加えて、ついに登場。
……と謳っていた書籍もあれから20年。
いまもプレイしているあなた。
そして、あの時、あの場所、あの人たちとプレイしていたあなたに向けて贈る、20年越しの電子書籍化です。
永田泰大氏インタビュー
20年も続いているゲームについて書いた、20年経っても憶えてくださる方のいる本
――2002年当時、ファミ通.comでの連載を始めることになった経緯を教えてください。
永田ファミ通.comの初代編集長だったエディ是枝が「永田、『ドラクエ』やりながら毎日なんか書け」と言って、はじまったのが『ドラゴンクエストVIIプレイ日記』でした。それまで、ゲームの感想はいろいろ書いていましたが、日々、遊びながらそのときどきを綴る、いまとなってはまったく新しくないその形式での原稿を書いたのは、それがはじめてだったと思います。そのあとに書いた『FFXI』のプレイ日記は誰がどう主導したのか、いまとなっては憶えていません。エディだったかもしれないし、井手だったかもしれないし、自分で書くと言ったのかもしれない。そのあたりとくに憶えてないということは、オンラインで遊ぶ『FF』が出るぞ、当然なにかやるでしょ、遊ぶでしょ、書くでしょ、という感じでばたばたとはじまったのではないでしょうか。
――未プレイの方に向けてゲーム用語や地名などをなるべく使用しない、ネタバレをしないなど、執筆にあたって心掛けたことはありましたか?
永田『FFXI』に限らず、ゲームについてなにか書くときは、自分が感じたことや思ったことを表現するというのが中心で、内容についての詳細は、ぼくはそもそもあんまり書かないタイプなのだと思います。『FFXI』のプレイ日記を書くにあたっての特別なこととしては、オンライン上で出会った人のことを書くときに、その人がはっきり特定されないように気をつけていたように思います。
――書籍化するにあたって、みずしな孝之さんの4コマを追加した経緯について教えてください。
永田当時はウェブに連載していて誰でも読めたので、それをまとめた本にお金を出してもらうなら、なにか本ならではのいいことがないと申し訳ないなと思っていました。みずしな孝之さんの描き下ろしの4コマがあればきっと連載を読んでいた人もうれしいし、ぼくも読みたかったのでお願いしました。描いていただいて、ほんとうにありがたかったです。
――本書の中で永田さんは『FFXI』について、「脚色なく綴るだけで物語のようになってしまう、このゲームはいったいなんなのだろう」と書かれています。その言葉に象徴されるように、『FFXI』のプレイ日記を書くということは、ほかのゲームのプレイレポート等の執筆とはどのような点が異なりましたか?
永田たぶん、『FFXI』の、というよりもオンラインRPG(MMORPG)のプレイ日記は、ということになるかと思いますが、「ただおしゃべりするだけ」でもたのしい時間を過ごせる。極端にいえばそれはゲームじゃなくてもいいたのしさなのかもしれません。一方で、ソロで工夫しながらゲームを攻略するときは、オンラインや他人は関係なく、そのゲーム単体のおもしろさがある。で、ときどき、そのふたつの要素が重なった、「人と同時につながるゲームならでは」のすばらしい瞬間がある。それらをどの切り口からもまだらにたのしめるのが、このジャンルのゲームのおもしろさだと思っていたので、遊び方の幅が極端になりすぎないように心がけました。一例を挙げると、リンクシェルをつかった近すぎるコミュニティにハマると、それがたのしくなりすぎそうだったので、ほどよく距離を保つようにしていました。
――改めて本書を読むと、2002年当時の『FFXI』、およびゲームやネットワーク全般にまつわる空気感が鮮やかによみがえります。執筆当時の永田さんにとって『FFXI』はどのような作品でしたか?
永田当時のゲームは、ハードが出るたび、新しいプラットフォームが生まれるたび、技術が浸透するたび、うわあとファンが驚くような時代でした。それらの新しい喜びを具体的なかたちでぼくらに届けてくれる代表的なもののひとつが「みんなが大好きなシリーズの新作」で、『FFXI』はまさにその決定的なものでした。もちろん、まったくみんなが知らない意欲作が、あたらしいたのしさを導くということもあるのですが、「みんなが大好きなシリーズの新作」がそれをもたらす場合にいいのは、たくさんの人がよーいどんで一斉にそこに飛び込むおもしろさがあることです。スポーツの大きなイベントなどもそうですが、あるおもしろいものをみんなで同時におもしろがるたのしさって、娯楽のなかでも格別だとぼくは思っています。
――収録されたエピソードの中で、ご自身として最も印象深いものはなんでしょうか。
永田最も印象深いものと言われると絞りきれず困りますが、序盤でいえば、ものすごく頼もしいと感じていた同じパーティーの先輩冒険者が瞬殺されたときの恐怖、サポートジョブをとるあたりでは、たぶん小学生くらいじゃないかと思われるプレイヤーが場をひっかきまわしたときのおかしさ、まったくゲームと関係ないかもしれないけど、みんなでオーロラを見上げながら雑談したときのことなんかは、いまも印象深く憶えています。でも、いま回答を書きながら思ったのですが、それらはぼくが「書いたから」憶えているのかもしれませんね。そういう意味では、やっぱりこの連載と、この本に感謝したい。
――本書をきっかけに『FFXI』をはじめたという方も多いと聞きますが、それに対してどのような感想をお持ちでしょうか。
永田もう、それに勝るよろこびはないんじゃないでしょうか。おそらく、ゲームのメディアにまつわるあらゆる人が、それを望んでいると思う。数年前のことですが、「中学生のときに読んでいつかやってみたかった『FFXI』をとうとう今年はじめました!」という方がツイッターでそれを知らせてくれて、とてもうれしかったです。今回の電子書籍化がまた、誰かの何かの扉を開く助けになれば。
――一方で、いまのゲームのオンライン要素を当たり前に楽しみ、SNSなどのコミュニティを普遍的なものとして楽しんでいる方々が本書を読んだ際、どのように感じると予想しますか?
永田いつの時代の、どんな環境の人が読んでも、同じようにおもしろがれるんじゃないかなと思っています。どんなにオンラインが身近になっても、はじめてメッセージを送るときは緊張するし、ありがとうと言われるとしびれるほどうれしいし、深夜に寝落ちするプレイヤーはいつもいるし、ポテトチップスを食べながらプレイすると手が油っぽくなることは当時も今も変わらずジレンマです。そういう、「どうあれ心が反応すること」について、ぼくはこの本のなかでたくさん書いているので、きっといまの人が読んでも共感できる部分が多いのではないでしょうか。あ、でも、冒頭の「オンラインにつなぐまでの悪戦苦闘」は、もはや時代劇みたいに感じるかもしれない。
――本書は永田さんのキャリアにおいて、どのような位置付け、どのような意味を持つ作品でしょうか。
永田キャリアというとそもそもそんな大げさな、という気がしますが、意義でいえば、読んで憶えてくださっている方がとても多いということを、電子書籍化発表のあとの反応で知りましたので、それはほんとうによかったなと思います。感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。また、20年前の書籍を電子化するという、どう考えてもややこしそうな仕事を引き受けて誠実に進めてくださったKADOKAWAの川崎拓也さんにも、深く感謝します。
――永田さんが「ひとつのネットワークゲームには、エンターテイメントとしての寿命があるから、たぶんいつの日かヴァナ・ディールはなくなってしまうのだろう」とあとがきに書かれた2003年3月から、ちょうど20年が経ちました。そんないまでも『FFXI』では新たな物語が展開し、冒険が続いています。それについてご感想をお聞かせください。
永田すごいことだと思います。もとの基盤をつくったチームのみなさんの志の高さと見通しの精度に感動しますし、それを維持し、今日も運営している方々を尊敬します。100年くらい経ったらどうなるんだろう。
――最後に、本書『ヴァナ・ディール滞在記』が電子版として復刻するにあたり、ご自身の感想や、読者の皆さんに向けたコメントをいただけますでしょうか。
永田いまプレイしている人が読んでくださるのか、当時読んだという人が久々に開いてくださるのか、まったくなにも知らない若い方が興味を持ってくださるのかわからないのですが、20年も続いているゲームについて書いた、20年経っても憶えてくださる方のいる本です。つまり、とても幸運で、幸せな本だと思います。ラッキーなめぐり合わせのなかで書けたことを、とてもありがたく思います。ゲームのなかでも、本のなかでも、「ありがとう」ばかり言ってる気がしますが、やっぱり「ありがとうございます」というのがいちばんの気持ちです。読んでもらえるとうれしいです。
電子書籍化にあたってのコメント
コメントその1:『FFXI』プロデューサー兼ディレクター 藤戸洋司氏
世の中にはいろんな記録媒体が存在しますよね。
テープ、CD、HDD、ブルーレイ、などなど。
そのどれもがそれぞれの良さを持っているのですが、この中でもこの『ファイナルファンタジーXIプレイ日記』に関して言えば、抜きん出て伝統的な“文章”が最もふさわしい記録媒体と言えるでしょう。
読み進めると、些細な出来事ながらも確実にその瞬間感じていたであろうことが、読み手の気持ちの上に鮮やかに再現されるのです。
BBユニットを求めて可能性のあるショップを、超高速に思考をめぐらしては突撃する、焦燥混じりの高揚感。
ネット接続がなかなかできずにイライラするなかで感じる、半ば諦めつつも神頼みにも似た期待感。
別の町で見た、見慣れないプレイヤー名が集う様子に感じる異国情緒。
自身も確かに感じました。感じたはずですが、その記録は遠い記憶でしかなかった。
それを永田さんの文章は見事に気持ちとして再現してくださっています。
今読んでもこんなに昂る運営初期の振り返りテキストはなかなか見当たりませんよ。
今だから読むべき“ヴァナ・ディール住民の必読書”です。
コメントその2:ファミ通 オポネ菊池
この本を手に取る方の多くがきっと体験したであろう、ヴァナ・ディールという世界に降り立ったときの言いようのないワクワク感。リアルとはべつの、もうひとつの生活が確かにそこにあったし、日常が霞んでしまうほどの“本物の喜怒哀楽”をヴァナ・ディールでは味わえたのです。
……なんて書き出してみたものの、それももはや20年前の出来事。わたしはいまも冒険を続けているけれど、そんなキラキラした記憶はずいぶんと奥のほうにしまい込まれ、ただただ最強の装備を求めてコンテンツをこなすだけの日々。そんな矢先、本書の復刻を耳にしました。
「どんな内容だったっけ」なんて、先輩の名著に対して失礼極まりない気分でページをめくっていくと、永田さんの文章にオーバーラップするように、当時の自分の状況が脳内に浮かび上がってきます。この本に書かれていることは当時の自分の体験とは違うけれど、不思議と読んでいくうちに20年前のヴァナ・ディールの空気やエネルギーみたいなものがありありと蘇ってくるのです。そうか、このプレイ日記が名著と言われるのは、単に永田さんの体験を文字にしたのではなく、当時の冒険者の気持ちや世界の雰囲気をしっかりと捉えていたからなんだと、いまさらながらに理解するのでした。
本書は、あなたの記憶をやさしく呼び起こすトリガーアイテムです。過去の自分に会いに行ってみてください。
コメントその3:電撃の旅団 Osho
2002年5月~2003年2月……本書にて永田さんが『FFXI』にまつわる日々を記録した約9カ月間。その期間は永田さんだけでなく、当時『FFXI』をプレイしていた多くの人々にとって、そしてもちろん自分にとっても、文字どおり“唯一無二の冒険の日々”でした。
ゲームスタートして放り出された街はあまりに広大で。
その街から一歩踏み出した世界はそれに輪をかけて壮大で。
世界の果てに何があるのか、プレイヤーの誰もが知らなかった日々。
本書『ヴァナ・ディール滞在記』は、そんな当時の『FFXI』について、ひとりの冒険者=永田さんの視点で、体験したこと、感じたことを日々文字として編んだ1冊です。
特筆すべきはその“解像度”で、20年ぶりに読んだいまでも、そこに描かれた永田さん自身の驚き、とまどい、感動は、まるで真空パックで保存されていたかのように、まったく色あせてはいません。なかでも個人的に好きなエピソードに、第25回「緑の章」があるのですが(実際に読んでいただきたいので内容の詳細は省きます)、このエピソードを20年ぶりに読んだとき、同じバストゥーク民である自分には、目の前にコンシュタット高地の風景が広がり、そこに吹く風の音が聴こえたかのように感じました。
ですから、かつての『FFXI』プレイヤーや、現役プレイヤーにとっては、まさに“読むタイムマシン”として本書を楽しむことができるでしょう。
一方で『FFXI』を未体験の方にとっては、“本当に体験した異世界冒険譚”としても、本書を楽しむことができるでしょう。
この本を読めば、いつでもヴァナ・ディールに行ける・帰れる。
できれば現在も運営中である『FFXI』そのものにも、ぜひ多くの人に訪れてほしいですが、すぐには難しいという人は、まずはこの本でヴァナ・ディールに旅立ってみてはいかがでしょうか。
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