誰もいない長い下り道を自転車で走っていく。なんとなく鳴らしたベルの音が、自然の中に響いていく。少し先に見えてきた旧時代の遺物になぜか惹かれたあなたは自転車を止め、インスタントカメラを取り出してシャッターを切る。これは、まもなく終わる世界の光景と音と記憶を残す旅だ。

 カナダのゲームスタジオScavengersによる『SEASON: A letter to the future』は、ひとつの終わりを迎えつつある世界を旅するロードムービー的なアドベンチャーゲーム。

 日本語にボイスとテキストで対応し、2023年1月31日よりプレイステーション5/プレイステーション4/PCで配信予定(※)の本作のPCレビュー版をひと足先にプレイしたので、その内容をご紹介しよう。(※PC版は恐らく日本時間の2月1日。)

ゆっくりと終わりつつある世界の自転車旅

 本作の舞台となるのは、まもなくなんらかの大変動によってリセットがかかり、“季節”と呼ばれるひとつの時代が終わろうとしている世界。主人公は自分たちが生きた季節の記録を残すべく、育った村を飛び出して記録のための旅に出ることになる。

『シーズン 〜未来への手紙〜』

 “季節”が変わることイコール人類滅亡というわけではなさそうなのだが(それが何なのか探っていくのもテーマのひとつ)、外界にはもはや生活している人はほとんどおらず、以前の時代のものらしい高架などはなかば崩れていて、その他のインフラも限界状態。

 破滅的でこそないものの、自然に飲み込まれつつある、停滞した“終わり”の空気に満ちた夕暮れ時の世界。プレイヤーは自転車に乗って旅し、その最後の姿を日記に記録しながら、残された僅かな人々と交流していく。

『シーズン 〜未来への手紙〜』
子供とともに里を去ろうとしている女性。絵描きだった夫のどの作品を持っていくか決めかねているようだ。

探索エンジョイ派必見。自由に作れる日記システムもスゴい

 というわけで本作、戦闘やサバイバル要素はないし、謎解きらしい謎解きもない。各地での探索と発見、そしてそれを受けた会話やストーリーテリングに全振りした内容だ。

 ゲーム中は写真撮影とレコーダーでの録音をいつでも実行可能。しかもかなり多くのものに主人公による専用のコメント音声が用意されていて、それによって主人公の過去や考え方、この世界の人の暮らしぶりなどがわかるようになっている。

『シーズン 〜未来への手紙〜』
人間に置いてかれた牛たちのカウベルとか、思わず録りたくなってしまう。
『シーズン 〜未来への手紙〜』
何気ないものにもコメントが用意されていて、「あぁこの“季節”はもうクルマ社会がほとんどなくなってるんだな」といったことがわかる。

 ゲームで横道にそれて探索したりゲーム内書物などの資料を読むのが好きな探索エンジョイ派にはこれだけでもたまらない内容だが、この旅のメイン要素である“記録”のための日記システムがさらにスゴい。

 日記には主人公が訪れた土地ごとに見開きのページが用意されていて、そこに自分が撮った写真や録音、道中で拾ったもの、それらに対して主人公が語ったコメントの引用などを自由に拡大縮小&回転して貼り付けられる。自分だけの旅のスクラップブックを作ることができるのだ。

『シーズン 〜未来への手紙〜』
ちょっと角度つけて貼りたくなるよね。

 まれに「この出来事は実際どういうことだったのか」といったような問いに対して答えないといけないこともあるのだが、それも自分で収録してきた素材で行う形。日記のページに関連する写真や録音を貼り込むことでクリアーという形になる。

どこか親近感のある異世界の旅情と何気ない日常の記憶

 本作の世界の文化レベルは、かつて20世紀中盤ぐらいの文化はあったが現在は衰退してコンパクトかつシンプルになっている一方、超現実的な要素や信仰が強化されている田舎暮らしといった感じ。

 SF的でもあり、マジックリアリズム的でもあるノスタルジックな世界をを自転車で軽やかに旅していくのは、もうそれだけでなんというかいろいろとエモいし、気ままに探索して写真を撮りまくるのがめちゃくちゃ楽しい。特に最大の山場となるミニオープンワールド的なエリアでは、ぜひ時間を気にせず探索しまくって欲しいところ。

『シーズン 〜未来への手紙〜』
母親と暮らす少年の案内で自転車ツアー。

 そうして記録に収めた瞬間のすべてが、プレイヤーにとっても村の外側に初めて飛び出た主人公にとってもどこか親近感のある異世界であり(もちろん度合いは違う)、その土地の人々にとってはほとんど気にもとめない当たり前の日常だったものだ。

 何気ない日常の記憶とその記録というテーマは本作のオープニングからエンディングまでを貫いていて、旅の過程で感情がいっぱいになることもしばしば。記者のプレイではクリアーまで7時間程度(公称6~12時間)で、個人的にはボリュームもちょうどいい感じだった。

『シーズン 〜未来への手紙〜』

 強いて難点を挙げるとすれば、翻訳以外の日本語ローカライズの細かい部分に多少の粗が見えてしまったところだろうか。

 たとえば日記に貼れるコメント引用の改行位置が日本語としてなかなかいい感じにならなかったり、音声と字幕の内容がちょっと違っていたり、(これは発売前にパッチで直るのかもしれないが)音声の一部が連続して再生されている節のある箇所があったり、原文自体が超現実的なセリフなのか訳として微妙なのかわかりかねるふわっとしたセリフが唐突に入っていることがあった。

『シーズン 〜未来への手紙〜』
細かい事なんですけどね。母親との別れの朝っていう超いいシーンなんで、改行位置気にしたくないなぁとか思うわけですよ。

 とはいえ翻訳などの基本的なレベルは一定以上あり、あくまで他の部分の完成度が高いからこそ「もうちょっとここのレベルを上げたら超最高なんだけどなぁ」と思ったという感じ。ほぼ間違いなく海外の今年度のゲーム賞レースに入ってくる傑作だと思うし、自分としても過去数年間でプレイしてきたストーリー重視のゲームでトップクラスに刺さる作品だった。