「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」が本日2023年1月15日(日)から、1月29日(日)まで品川プリンスホテル ステラボールにて上演される。今回は1月13日(金)に開催された公開ゲネプロの模様をお届けする。

 偉大な記録を生んだ競走馬の名前と魂を受け継ぎ、レースに想いをぶつける“ウマ娘”たちの姿を描くクロスメディアコンテンツ『ウマ娘 プリティーダービー』。アニメやゲーム、コミカライズなど多くのメディアで展開されてきた同コンテンツだが、舞台という形になるのは今回が初めて。今回の舞台でスポットライトが当たるのは、ダイタクヘリオス(演:山根綺)、ヤマニンゼファー(演:今泉りおな)、ダイイチルビー(演:礒部花凜)、ケイエスミラクル(演:佐藤日向)という4人のウマ娘たちだ。“Sprinters‘ Story”というサブタイトルからもわかるように彼女たちはスプリンターとして資質が高く、おもに短距離/マイル路線のレースで激しくぶつかり合うことになる。

舞台『ウマ娘』公開ゲネプロリポート。タップダンスが取り入れられた鮮烈なレースシーンに圧倒的なライブも! 己の脚をも顧みない激走の果てにウマ娘たちが辿り着く結末とは──

 物語は、ダイイチルビーの美しい走りにダイタクヘリオスが魅了されるところから始まる。いきなりのレースシーンだが、そもそもウマ娘とはどんな存在なのか、ウマ娘のレースとはどういったものなのか……といった作品背景についての言及は最小限に留められていた。思い切りがいい演出だが、これには『ウマ娘 プリティーダービー』というコンテンツに関する知識を、観る側がある程度知っているものだと信じ、そのぶんの尺をドラマやライブに割くというカンパニーの“来場者に対する強い信頼”も感じられる。

 劇中で最初にクローズアップされるのが“華麗なる一族”に生まれたウマ娘・ダイイチルビーだ。ウマ娘として多くの栄冠に輝いてきた血族の出身であり、その後継者として世間からも多大な期待を寄せられている。幼いころは脚部に不安を抱えていたが、周囲の人々の助力もあって、ウマ娘としてデビューするに至った。しかし、彼女は中~長距離の王道路線では思うような結果を残せず、重圧に苦悩する。彼女の惨敗を伝えるニュースを大きくスクリーンに映し出す演出はなんとも残酷で、そこにダイイチルビー役・礒部の切迫したお芝居が合わさることで、ピンと張りつめるような空気を会場に醸成させていく。

舞台『ウマ娘』公開ゲネプロリポート。タップダンスが取り入れられた鮮烈なレースシーンに圧倒的なライブも! 己の脚をも顧みない激走の果てにウマ娘たちが辿り着く結末とは──

 鬱屈とする場面が続く中、ダイイチルビーは同室で暮らすウマ娘・ケイエスミラクルの鮮烈なデビューとその走りに憧れていく。やはり脚部に不安を抱え「レースでは走れない」と言われながらも周囲の支えもあって、ついには芝に降り立つ──そんな境遇はダイイチルビーとケイエスミラクルの共通点でもあった。ケイエスミラクルの激走に発破をかけられたダイイチルビーはついに、G1“安田記念”で勝利をつかみ取った。そのまま、ダイイチルビーは母娘三大制覇という一族の悲願を達成するために、G2“高松宮杯”(ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』の“高松宮記念”とは違い、G2の芝2000m)へと出走する。有力馬が出揃い、白熱していく短距離/マイル路線。一方で、ケイエスミラクルは過酷なレース日程に挑み続けた結果、脚に故障を抱えてしまう。

舞台『ウマ娘』公開ゲネプロリポート。タップダンスが取り入れられた鮮烈なレースシーンに圧倒的なライブも! 己の脚をも顧みない激走の果てにウマ娘たちが辿り着く結末とは──

 物語のクライマックスで待ち受けているのはG1“スプリンターズステークス”。それぞれのウマ娘たちが走る意味を対比構造で描きつつ、ひとつの物語として集束していく過程はなんとも美しく、見応えのあるドラマに仕上がっていた。それはモチーフとなったレースや競走馬を知っている観客であれば、なおさらだろう。

舞台『ウマ娘』公開ゲネプロリポート。タップダンスが取り入れられた鮮烈なレースシーンに圧倒的なライブも! 己の脚をも顧みない激走の果てにウマ娘たちが辿り着く結末とは──

 主軸となる物語の完成度はもちろん、舞台ならではのエンターテインメント性も同公演の大きな魅力だ。レースシーンやパドックはただその場で走るだけではなく、タップダンスの要素を組み入れた足捌きとして見せることで観客を飽きさせないように工夫している。レースの展開が変わるたびに、アンサンブルのキャストも含めたウマ娘たちのフォーメーションも大きく変化し、白熱のレースシーンを生み出していた。奥行約7メートル、横幅約24メートルという限られた広さのステージをここまで大きく見せられるものなのか、そしてとてつもない運動量で動き続けるキャストのスタミナがいかにとんでもないのか、すっかり感じ入ってしまった(筆者個人的には、レースが佳境に差し掛かったときの、各ウマ娘の泥臭い走りかたも印象に残っている)。

舞台『ウマ娘』公開ゲネプロリポート。タップダンスが取り入れられた鮮烈なレースシーンに圧倒的なライブも! 己の脚をも顧みない激走の果てにウマ娘たちが辿り着く結末とは──
舞台『ウマ娘』公開ゲネプロリポート。タップダンスが取り入れられた鮮烈なレースシーンに圧倒的なライブも! 己の脚をも顧みない激走の果てにウマ娘たちが辿り着く結末とは──

 レースが終わったあとのウイニングライブが劇中に組み込まれているのも注目すべきポイントだ。ペンライトを使った応援も推奨されているので、来場者も物語を彩る観客のひとりとして没入することができる。また、ウイニングライブ以外でも物語の要所要所ではウマ娘たちによる歌唱がミュージカルのように組み込まれており、楽曲から彼女たちの心情を察することもできるというのも見事というほかない。

 ビジュアル面では、ウマ娘たちの衣裳や髪型、尻尾にもこだわりがにじんでいる。レースシーンでも勝負服(G1のレースシーンやウイニングライブで着用)のシルエットは常時美しく保たれており、これらを眺めているだけでも満足感を覚えてしまう。

舞台『ウマ娘』公開ゲネプロリポート。タップダンスが取り入れられた鮮烈なレースシーンに圧倒的なライブも! 己の脚をも顧みない激走の果てにウマ娘たちが辿り着く結末とは──
舞台『ウマ娘』公開ゲネプロリポート。タップダンスが取り入れられた鮮烈なレースシーンに圧倒的なライブも! 己の脚をも顧みない激走の果てにウマ娘たちが辿り着く結末とは──

 演出や舞台装置の細部にこだわりが詰め込まれている同公演だが、もちろんそれだけでは舞台は成立しない。やはりキャスト陣の高い表現力があってこそだろう。

 ダイタクヘリオスを演じる山根は2.5次元の舞台に立つのは初めてということだったが、動きが大きく豊かな感情表現で舞台を華やかにしていた。見ているだけで楽しくなるようなパリピ感全開な動きは、劇中でヤマニンゼファーが“太陽”と例える明るさそのまま。レースでボロ負けしてコメディシーンのように地面に突っ伏していたかと思いきや、急に起き上がって楽しそうに笑い出す彼女の姿も筆者の脳裏にしっかり焼きついている。

 山根と同じく今回が初舞台となる今泉が演じるのがヤマニンゼファー。劇中でのヤマニンゼファーは休養期間ということもあって、レースシーンへの出走はあまり多くないが、ひとりの語り手として物語を進めていく重要な役割という印象だ。展開がシリアスだからこそ、今泉のおだやかな語り口調やふんわりとした動きは大きな癒しとなっていた。

 華麗なる一族のウマ娘であるダイイチルビーを演じる礒部は、その一挙手一投足からして美しい。ムダがないからこそほかのウマ娘に比べてライブシーンなどでも動きが少ないが、そのキレの鋭さと優雅さにはついつい見惚れてしまう。セリフひとつひとつにも強い覚悟が滲んでおり、彼女が内に秘めた感情を吐露する場面はまさに圧巻だった。

 そして、ケイエスミラクルを演じる佐藤は、ハスキーながらもどこか温かな声質が心地よい。セリフや動きからも真摯に走り続けているというケイエスミラクルの根幹がひしひしと伝わってくるし、歌唱シーンでの芯の強い歌声も魅力的。一人称が「おれ」という珍しいウマ娘だが、カッコよさと艶やかさを両立させているところも大きな魅力となっていた。

 このように活躍する4人のウマ娘たちの個性がまったく別ベクトルだからこそ、舞台上でひとつに混じり合ったときの美しさがあったようにも感じる。

舞台『ウマ娘』公開ゲネプロリポート。タップダンスが取り入れられた鮮烈なレースシーンに圧倒的なライブも! 己の脚をも顧みない激走の果てにウマ娘たちが辿り着く結末とは──
舞台『ウマ娘』公開ゲネプロリポート。タップダンスが取り入れられた鮮烈なレースシーンに圧倒的なライブも! 己の脚をも顧みない激走の果てにウマ娘たちが辿り着く結末とは──

 ゲネプロの公演の最後には、「明後日、幕が明けてから千穐楽まで最高を更新していく」と山根はコメントを残していた。その言葉どおり、公演の中で舞台はさらに大きく素晴らしい舞台へと変化していくのかもしれない。

 同公演は、本日1月15日(日)から、1月29日(日)まで品川プリンスホテル ステラボールにて開催。“走ることに対する意味”に悩みながらも、熱い想いを互いにぶつけながら懸命に走るウマ娘たちのドラマを、ぜひとも一度味わってみてはいかがだろうか。