“インディーゲーム”の可能性はどんどん広がっている。今や世界的なヒット作品は有名スタジオの大型タイトルに限らず、少人数・低予算で作られるインディースタジオや、個人制作のマイナータイトルからも毎年のように輩出されている状況だ。

 2022年からは、Web小説サイト“カクヨム”とゲーム制作ソフト“Maker(ツクール)”が共同で、一般からゲーム原案を募集して、優秀作はインディースタジオがゲーム化するという新たな試みも始まっている。

 そんなインディーゲームの世界を、クリエイターの目線から切り取るとどのように見えるのだろうか? 本記事では、2016年に『殺戮の天使』をリリースし、瞬く間に100万ダウンロードを記録した日本を代表するインディーゲーム・クリエイターである星屑KRNKRN氏(真田まこと:以下、真田)のインタビューをお届けする。

 ヒット作品はどのようにして誕生したのか、なぜ大型タイトルにも負けない売上を記録できたのか、そもそもゲーム制作を志したきっかけとは……。普段は語られない、”作品が世に広まる過程”に焦点を当てて紐解いていきたい。

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真田まこと(さなだ まこと)

日本のゲーム作家。2013年10月にインターネット上で公開した処女作ゲーム『霧雨が降る森』が注目を集め、各国で有志による翻訳版が制作される人気となった。その後2015年8月から翌年2月までゲームマガジン(※当時はニコニコゲームマガジン)で連載されたゲーム『殺戮の天使』が、アニメ化もされた大ヒット作品に。二作ともにコミカライズやノベライズなどがマルチメディアで展開され、広い年齢層に多くのファンがいる。繊細な人物描写と大胆なプロット構成、文学性とエンターテイメント性を両立させたストーリーが、長年にわたり高い人気を博している。

2022年秋に『霧雨が降る森』のリメイク版をSteamでリリース予定。


――まずは、代表作『殺戮の天使』についてお聞かせください。本作はどのような経緯で誕生しましたか?

真田元々は前作『霧雨が降る森』の制作中に、コピー用紙の裏に書いた落書きと設定から始まりました。ただ、その時点では、このような作品を自分が作るには、あまりにも難易度が高いと考えて諦めていました。

 その後、ゲームマガジンの担当者から連載の話があった際に、5つほど提出した企画書の中の一つに入れていたところ、「これしかない」と指名をいただき、連載になりました。自分では、まさかこんな物語が選ばれるとは思わなかったので、驚きを覚えました。


『殺戮の天使』

『殺戮の天使』真田まことが語る「総合芸術としてのゲーム」──実家の旅館に置いた自作の絵本から、世界へ羽ばたくクリエイターへ

『殺戮の天使』は、星屑KRNKRN(真田まこと)氏が制作、“ゲームマガジン”にて連載形式で配信され、ノベライズ、コミカライズ、アニメ化、人気キャラクターのスピンオフ作品など、メディアミックス展開された、サイコホラーアドベンチャーゲーム。

『殺戮の天使』公式サイト
『殺戮の天使』真田まことが語る「総合芸術としてのゲーム」──実家の旅館に置いた自作の絵本から、世界へ羽ばたくクリエイターへ
『殺戮の天使』真田まことが語る「総合芸術としてのゲーム」──実家の旅館に置いた自作の絵本から、世界へ羽ばたくクリエイターへ

 異常な殺人鬼たちの待ち受けるビルを舞台に、記憶喪失の少女レイチェルと殺人鬼の青年ザックが脱出をはかる。自分を殺してほしいと願うレイチェルに対して、ビルからの脱出に手を貸せば殺してやると約束するザック。ふたりの関係は、最初は奇妙な共依存でしかなかったが、さまざまな苦難を協力して乗り越えるうちに強い絆で結ばれていく。

 本作は『RPGツクールVX Ace』を使用して制作されており、レイチェルとザック、それぞれが悲しく壮絶な過去をもったキャラクター設定、物語性の奥深さだけでなく、制作者独自の演出手法や世界観など、インディーゲームならではのこだわりも高く評価されている。


――本作が多くの人に受け入れられ、広まっていく上で、ここが重要だったと考える作品のキーポイントはありますか?

真田「広まる」という観点では、敷居を下げるのを大事にしました。

 そもそも当時、ゲームマガジン編集部からの唯一の「お題」は――スマホからゲーム実況動画を見てきただけのユーザーが、ゲームを初めて自分でプレイしても「面白い」と感じ、最後までプレイしてくれること――というものでした。

 なので、昔ながらのネットユーザーに向けた、理不尽な難易度の謎解きをウンウン悩んでプレイする作品だった『霧雨が降る森』とは、全く発想を変えています。実は『殺戮の天使』は、当時現れてきたばかりの全く新しいタイプのフリゲのユーザー層をゲームマガジン編集部から提示されて、彼女ら/彼らに向けて作った作品でした。

 難易度の高い場面では、自動的にセーブデータを開いてあげる。自由度の高いマップで途方に暮れる場面はあまり作らずに、一本道の展開の中で、障害物となるミッションを超えていくような展開にする……などなど。また、本当にこだわりのある言葉以外では、小学生くらいでも読める漢字しか使わないようにもしました。

 ちなみに、現在Steamでの販売に向けて準備をしているリメイク版『霧雨が降る森』では、五カ国語で展開されることもあり、各国のゲーマーを意識して自由度の高い操作や分岐ルートなども楽しんでもらう予定で、その方向性で心を込めて様々な工夫をしています。漢字の使用も、小学生でも読めるようには必ずしも拘っていません。

 大事なことは、まずはその作品を誰に、どんな風に提供したいのかをしっかりと決めること。そして、自分が遊んで欲しいプレイヤーがどんな風に感じるのかを細部まで想像してあげることではないでしょうか。


『霧雨が降る森』

『殺戮の天使』真田まことが語る「総合芸術としてのゲーム」──実家の旅館に置いた自作の絵本から、世界へ羽ばたくクリエイターへ
『殺戮の天使』真田まことが語る「総合芸術としてのゲーム」──実家の旅館に置いた自作の絵本から、世界へ羽ばたくクリエイターへ

 真田氏の処女作。現在、リメイク版を制作中。

リメイク版『霧雨が降る森』の詳細はこちら(Steam)

――本作はゲーム配信後、早くから様々なメディアミックス展開がされていました。作品の注目度が高かった証とも言えますが、おひとりで作ったゲームに多くの人が関わるようになって、実際にはいかがでしたか?

真田『霧雨が降る森』の際に、すでに小説や漫画が販売されて、幸いにも様々な反応をいただけていたので、大きな反響が来たときの心構えは多少あったように思います。

 ただ、『霧雨が降る森』が各々で比較的自由にメディアミックスを進めてもらったのに対して、『殺戮の天使』ではゲームマガジンの担当者やKADOKAWAの漫画編集者の人たちがチームで一体化して動いてくれました。全てのメディアミックスで関係者が綿密に話し合い、どのメディアでどんな内容を明かしていくのかについて連携を取っていくという、気の遠くなるほど大変な手法を取っています。

 しかも一つ一つの展開に、きちんとコンセプトを込めて動いていました。原作者からの原案提供や監修も非常に忙しかったですが、その分だけ、ファンの方はとても喜んでくれていたように思います。

『殺戮の天使』真田まことが語る「総合芸術としてのゲーム」──実家の旅館に置いた自作の絵本から、世界へ羽ばたくクリエイターへ
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――ゲームのみならず、コミック、小説、アニメが一体となって一つの作品を形成していたのですね。様々な派生作品が生まれ、その勢いは海外にも広がりました。作品が海外へ飛び出したことについて、印象的なエピソードはありますか?

真田初めて、海外の方からファンアートやメッセージをいただいたのは、『霧雨が降る森』のゲームを出して間もない頃でした。その時は、ただただ驚きながらも嬉しくてはしゃいだ記憶があります。それまで創作してきて、海外の人に届いた、というのは初めてのことでしたので。

 その後も、『殺戮の天使』ではゲームや、コミカライズ、小説、アニメが何ヶ国語にも翻訳されましたが、海外からの反響をいただくたびに、変わらず嬉しく思っています。海外の方の熱烈な反応をいただくことは、もっと多くの方に作品を届けたいという励みになっています。

――ご自身の創作にまつわるバックボーンを教えてください。そもそも、創作を始めたきっかけはなんでしたか?

真田物心がついた頃には、創作をしていました。自分の家が旅館なのですが、その食堂に自作の絵本を勝手に置いたりしている子供でした。

 小学生の頃にはノートに長編小説を一人で連載していて、クラスの友達に見せていました。小学生時代だけで少なくとも8本は長編を完成させていたと思います。

 自分の人生の転機になったのも、物語でした。実は特に大学に行く予定もなく、地元で就職する予定の学生だったのですが、高校の演劇部で書いた脚本が地区大会で賞をいただき、それがキッカケで推薦合格して、都会の大学の演劇学科に進学しました。

 その後、大学を卒業してからは地元に戻ってOLをしていたのですが、文化に溢れた都会を一度知った後で地元に戻ることになり、少し鬱屈していた気がします。アクセサリーを作ってみたり、一眼レフにハマってみたりと、色々なものに手を出していました。ただ、学生時代に知った総合芸術の表現の楽しさは忘れられずにいました。

 そんなある日、『青鬼』の実況動画を見たことで、「ゲームもまた総合芸術なのではないか」と思うようになりました。

 それから、RPGツクールを自分で購入して、自己流で使い方を覚えながら3年後に『霧雨が降る森』を仕上げました。

 それが話題になったことがキッカケでゲームマガジン編集部から連載の話をいただき、『殺戮の天使』の連載につながりました。

――『青鬼』がきっかけでゲーム制作に興味を持たれたとのことですが、現在の創作活動に繋がる、ご自身にとって重要な作品を5つあげるとしたら、どのようなタイトルが浮かびますか?

・Ib
 多くの個人ゲーム作家に「こんな凄い作品を自分でも作れたら……」と憧れさせて、勇気を与えたゲームではないでしょうか。私も、影響を受けた一人です。「芸術」とは、こういう作品のことを言うのではないでしょうか。
 他にも憧れた個人のゲーム作品は沢山あります。例えば、小麦畑さんが出しているゲームなどは全て遊んでいますし、今でも気になるものがあればプレイしています。
誰かの「創作」や「表現」の意欲を感じることそれ自体が好きですし、純粋に内容や登場人物に熱中することも多々あります。

・MOTHER2
 多くのインディーゲーム作家に影響を与えているゲームだと思います。私も、ウンウンと考えた挙げ句に出てきた手法が、「あ、『MOTHER2』だ!」となることがあります。いつプレイしても夢中になれる面白さがあります。

・三人吉三巴白浪
 歌舞伎座で上演された際に、周囲に奨められて観に行きました。江戸時代の末期に活躍した黙阿弥という天才的な台本作家による、名作中の名作歌舞伎です。
 悪の限りを尽くした主人公たちが、しまいには破滅していく姿を描いているだけの物語なのですが、最後に向かうにつれて「謎の迫力」が時代を超えて迫ってきます。

・チームラボ ボーダレス
 お台場でチームラボが運営していた、メディアアートの施設です(2022年8月末で閉館)。インスタでよく「映えスポット」としてお洒落なデート写真などが上がっていたので、あまり自分には関係がない施設だと思っていた人も多いかも知れません。でも、ここはインタラクティブな体験をリアル空間で行うことについて、本当に考え抜かれた凄い施設でした。また都内の別の場所に移設されるとのことですので、ぜひ東京に来た際には体験してみるといいと思います。

・ウ・ヨンウ弁護士は天才肌
 一つだけ、最新の作品も。韓流と言えば、実家で母親が熱心に観ているもの……くらいの認識だったのが、コロナ期間のNetflixなどの流行でイメージが覆った人も多いのではないでしょうか。私も現在の韓流の、表現においてもテーマ設定においても「世界最先端」をゆくエンターテイメントの数々に驚いた一人です。
 この韓流ドラマは、自閉症の弁護士を主人公にした法廷モノという、いかにも難解そうな設定でありながら、どこまでも楽しく美しい作品です。

――現在Maker(ツクール)とカクヨムが共同で、一般から原案を募集してゲーム開発を行うプロジェクトを開催中です。もし、ご自分がゲームの原作(原案)を考えるとしたら、どんなアイデアをやってみたいですか?

真田自分の場合、「この程度のスキルの自分がどんな工夫をすれば、きちんとした完成形に持って行けるのだろう……」ということを、ゲームを制作する際に考えています。

 その条件を外した上で考えられるのは、何だかとても羨ましい反面、どういう風に作ればいいのか逆に分からないところもありますね。

 なので、タガが外れて思いっきり、ただただ自分が好きなゲームを考えてしまったりしそうです。例えば、私は経営や箱庭、育成などのシミュレーションゲームがかなり好きなのですが、そういったもので大規模なゲームを作るのは大変です。だから、ここぞとばかりにそういうゲーム要素を多分に含んだもの考えてしまうかもしれませんね。

――ご自身が考える、ゲーム作品を作るにあたって最も大事な要素とはなんでしょうか。そのことは、小説からゲームを生み出すという本プロジェクトにおいて、応募者はどのように意識をするとよいと思われますでしょうか?

真田回答になっているのか分からないのですが……例えば、お笑い芸人になる人は、芸人になる前にクラスの友達を笑わせていたんじゃないかと思います。また絵を描く人も、学生時代に友達に絵をプレゼントした経験が結構あるんじゃないかと思います。

 それと同じように、まずは大きな場所で発表するよりも前に、身近な友達に向けてゲームを作ってみるのはどうでしょうか。

 私は女の子の友達に、「友チョコ」のような感じで「乙女ゲーム」をバレンタインにプレゼントしてあげたことがあります。

 単なるプライベートな表現なので著作権も気にしなくていいので、その子が大好きな漫画の「推しキャラ」の絵をそのまま使ったりして、もう二人にしか分からない身内の内輪ネタも沢山入れて、1時間程度で遊べる小さな乙女ゲームを作ったのです。

 きっとこのゲームは外で発表しても、面白さが分かる人は私たち以外には一人もいないでしょう。でも私とその子にとっては、もう最高に楽しい「世界でたった一つ」のゲームでした。

 私自身は、子供の頃は家族に絵本を見せて、学校に入るとクラスの友達に小説を見せて、高校や大学では体育館や小劇場に向けて演劇の台本を書いて……と、ずっと具体的な人たちに向けて表現をしてきました。現在のゲーム制作は、その延長線上にあるように思います。

 不特定多数の人を面白がらせる「作品」を生み出すというのは、本当に難しい課題です。それに挑戦してみる前に、(ゲームでなくてもいいので)まずは目の前の「具体的な誰か」を楽しませる成功体験を積んでみると、自然に色々なことが分かってくるのではないでしょうか。


 ゲーム原案となる小説を募集し、応募されたアイデアから次世代のインディーゲーム開発を目指す『ツクール×カクヨム ゲーム原案小説オーディション2022』は、2022年10月2日(日)までWeb小説サイト「カクヨム」で開催中だ。

“カクヨム”公式サイト

『殺戮の天使』製品・メディアミックス情報