ケムコは、ゾンビを題材としたRPG『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』を発表した。2022年秋にiOS、Android向けに、2023年に家庭用ゲーム機向けにリリースが予定されている。
本作は、ドット絵で描かれるゾンビRPGで、“アクションや猟奇的な表現は苦手だけれど、ゾンビゲームで遊びたい”人に向けたというユニークなタイトルとなっている。
開発は、『ねこあつめ』や『旅かえる』などで知られるヒットポイントが担当。企画・原案・監修は『428 〜封鎖された渋谷で〜』などを手がけたイシイジロウ氏が務める。
本稿では、企画・原案・監修を務めるイシイジロウ氏にインタビュー。本作の開発の経緯や概要、ゾンビ作品への想いなどを聞いた。
イシイジロウ氏(いしいじろう)
ストーリーテリング代表。『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』(企画・監督)、『428 ~封鎖された渋谷で~』(総監督)、『タイムトラベラーズ』(ディレクション)、『文豪とアルケミスト』(世界観監修)、『モンスターストライク3DS』(ストーリー・プロジェクト構成)『新サクラ大戦』(ストーリー構成)、『CRIMESIGHT』(世界観監修)など多数のゲーム作品のほか、アニメ『マジカパーティ』(原案)、アニメ『モンスターストライク』(ストーリー・プロジェクト構成)、舞台『龍よ、狼と踊れ』(原作)など幅広い分野で活躍している。
アクションやグロテスク表現が苦手な人でも楽しめる、怖くないゾンビゲーム
――まずは、本作がどのようなゲームなのか教えてください。
イシイ本作はドット絵のトップビューで描かれる、全世界待望の“ゾンビRPG”です。誰でも遊べるゾンビゲームを目指して開発を進めています。
――本作はケムコとの初タッグによる開発とお聞きしています。イシイさんとケムコがタッグを組むこととなった経緯というのは?
イシイゲームクリエイターたちが集まるZoom飲み会に参加した際に、ケムコの方とお会いしまして。そこで、ケムコさんの経営戦略をお聞きしておもしろいなと感じたので、いっしょに開発をお願いできないかとご相談させていただきました。
――経営方針がおもしろかった、ですか。
イシイはい。ケムコさんはダウンロード専用ソフトを中心に、小規模ながら光るタイトルをコンスタントにリリースされています。
それは、コストをかけて大ヒットを狙うのではなく、さまざまなタイトルで幅広いユーザーの方に楽しんでもらうことを大切にしているからだそうで。小粒かもしれないけどしっかりした作品でファン層を獲得すると。
僕自身、市場的にはそこまで大きくはないけど挑戦してみたいタイトルというのがずっとありました。それが“ゾンビを題材としたRPG”です。ですので、ケムコさんにご相談したところ、「おもしろいですね」と言っていただけ、その経営戦略とも合っているということで本作の企画がスタートすることとなりました。
――以前から“ゾンビのRPG”を作りたかった理由というのは?
イシイゾンビがテーマの作品というとアクションゲームが多いと思います。ですが、僕自身がアクションゲームが得意ではなく、怖がりということもあって、なかなかクリアーまでたどり着けないんですよね(笑)。
ダイナミックなアクションを通じてゾンビたちの包囲網を突破していくのは、ゾンビ作品の魅力だと思いますが、ゲームでプレイヤーとしてゾンビと対峙をすると、映画など映像作品よりもリアルに恐怖を感じてしまい、作品を堪能できないことが多かったんです。
――昔から怖かったけど、最近はハードのグラフィック能力も向上してさらに怖くなっていますから気持ちはわかります(笑)。
イシイ一方でゾンビ作品のもうひとつの魅力として、“ゾンビの動向に注意しながら物資などのリソースを管理してピンチを切り開いていく”というサバイバル・パズル的な要素もあると思います。
僕はどちらかというとこういったパズル要素により魅力を感じていたのですが、そっちの部分を落ち着いて楽しめるゲームはないなとずっと思っていました。
イシイそこで、ターン性のRPGならゾンビ作品におけるパズル要素を楽しめますし、アクションが苦手な方でもゾンビ作品の魅力を楽しめるのではないかということで、今回ケムコさんのお力添えをいただきながら制作することになりました。
――“ゾンビとRPG”がテーマということですが、イシイさんのこれまで手掛けた作品を振り返ると、アドベンチャーゲームやノベルゲームという選択もあったと思います。あえてRPGに決めた理由を教えてください。
イシイいまお話ししたような、ゾンビ作品におけるリソース管理をゲームに落とし込もうとしたときに、アドベンチャーゲームやノベルゲームだとドラマしか語れないというデメリットがあります。RPGならアイテムの概念を通じてリソース管理ができますので、ピッタリだと思いRPGに決めました。
――なるほど。お話を伺っていると、ケムコさんの一連の作品群との親和性も高いかと感じます。
イシイケムコさんは、スーパーファミコンやプレイステーション初期時代のような古きよき味わいのあるRPGをたくさんリリースされていますので親和性は高いですね。一方で、RPGとしての魅力はありつつ、現代の技術だからこそ表現できるものも大切にしてこだわられていると感じます。
クラシックなゾンビ作品のおもしろさを表現した世界に
――本作の物語や世界設定などもお聞かせいただければと。
イシイ世界は1970年代を舞台にしています。イメージ的には、クラシックなゾンビ作品、いわゆる走らないゾンビ作品ですね。突飛的なことをやらずに、古いゾンビ映画、オリジナルのゾンビ映画のおもしろさというところを大事にしています。
――登場キャラクターや序盤のストーリーについても教えてもらえますか?
イシイゾンビ作品ではある意味“定番”と言えるキャラクターたちが登場します。テレビ局系のマスコミや警察官、医療関係者、元軍人など……。
――ああ(笑)。
イシイ彼らが活躍しつつ、ゾンビ作品あるあるのシチュエーションもしっかり表現しています。
具体的には、ゾンビ映画にはいくつかの始まりのパターンがありますが、それを踏襲しています。噂が聞こえてきたり、隣町で何かが発生したり、病院や警察所から発生したり。そういった、昔のゾンビ映画のような王道パターンで物語は描かれていきます。
――走らないゾンビが登場するということですが、戦闘はどのように行われるのですか?
イシイシンボルエンカウントで、ゾンビはこちらを見つけたら追いかけてきます。その際、エンカウントしないように逃げることもできますし、そもそも見つからないように隠れてやり過ごすこともできます。エンカウントするとターン性のRPGバトルが始まる……という流れですね。
バトルではレベルのようなシステムはなく、入手した物資を駆使して戦う戦略性を大事にしています。
――ゾンビ作品では、血しぶきが舞うようなホラー表現も特徴としてあると思いますが、本作ではどの程度ホラー表現が存在しますか?
イシイファミリーコンピュータの『スウィートホーム』のような雰囲気で、ドットのRPGでありながらちゃんと怖さを感じられるような演出についてはこだわっていますし、ドキドキして、「わっ!」と驚くような演出も作っています。ドットなのでグロテスクさもそこまでではありませんから、そういった演出が苦手な方でも楽しめるようになっています。
もちろん、ゾンビ作品にはグロテスク表現を売りにしているものもありますが、僕に求められているのは、ゾンビに追われている生存者たちが集まって協力する中で生まれる群像劇的なドラマかなと思いますので、そこに軸足を置いた作品になっています。
影響を受けたゾンビ作品。そしてショッピングモール
――タイトルの『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』というタイトルは有名ゾンビ映画などを彷彿させますが、イシイさんがこれまで観たゾンビ映画の影響などを受けているのでしょうか?
イシイそうですね。『ゾンビ・オブ・ザ・ドット』は、ロメロゾンビの原題タイトル『Dawn of the Dead』からきています。ですので、ゾンビの王道はしっかりと押さえています。先ほどお話したキャラクターはもちろん、病院やテレビ局、ショッピングモールなどの舞台も登場します。
それと、1970年代にはゾンビ映画のほかにもたくさん傑作がありますので、それらの作品のパロディーも入れています。
――どのくらいゾンビ作品を追いかけているのですか?
イシイ初めてゾンビ映画を観たのは、高校生のときですね。それが『Dawn of the Dead』であり、そこからゾンビ作品は追いかけるようにしています。
いちばん好きなのはやはり『Dawn of the Dead』ですね。後は、初めて走るゾンビが登場した『28日後…』も衝撃的でしたし、小説版、映画版ともに『WORLD WAR Z』もお気に入りです。また、『Dawn of the Dead』のリメイク版の『ドーン・オブ・ザ・デッド』やテレビドラマの『ウォーキング・デッド』も名作でしたね。
――やっぱり、もともとかなりゾンビ作品がお好きなのですね。そして本作では昔ながらの“走らないゾンビ”が登場すると。
イシイそうですね。ゆっくりと向かって来ます。そんなゾンビが登場する本作では、70年代の牧歌的な文化やサイケデリック文化、ショッピングモール、冷戦や宇宙開発などの背景などが組み合わさった世界を表現しています。
――ショッピングモールはゾンビ作品の定番の舞台ですよね。
イシイショッピングモールというのは1970~80年代にアメリカで普及し、それがゾンビ映画にも取り入れられて多く舞台になっていると思うのですが、おもしろいのは、現実のショッピングモールという施設は日本でもアメリカでもヨーロッパでもインドでも、世界中でほとんど構造が同じなんですよね。
それをロメロが一種の楽園のように描いたのはすごく先駆的だなと思います。
――「ここはこういう施設なんだな」という感覚が世界の多くの人に共通認識としてあるということですものね。
イシイちなみに僕は海外に行くと必ずショッピングモールに訪れることを習慣にしたりしています。
――いま「どこの国でもだいたい変わらない」って言ったところなのに(笑)。
イシイ構造が変わらないということを確認することが楽しいんですよ(笑)。
また、いま一度考えてみると、ショッピングモールは世界に通用する舞台だなと。どこの国の人でも、ショッピングモールに行くと自分の国の世界が見られる。世界共通のエンターテインメントを描く上でのポイントにもなっている気がしますね。
――なるほど。ショッピングモールを中心に1970年代の文化も表現された世界でのサバイバルが待ち遠しいです。
イシイ本作は、ゾンビの映画や世界観は好きだけど、ゲームが苦手だという方も落ち着いてプレイできるように作っています。トップビューということもあり、俯瞰で遊べるようになっていますので、幅広い方にプレイしていただきたいですね。
そうして多くの方に本作を遊んでいただけたら、アクションではないゾンビゲームというジャンルも生まれると思います。そうして生まれたジャンルを皆さんと育てていけたらさらにうれしいです。
いままでのゾンビゲーム好きの方も、ゾンビ映画好きの方も満足のいく作品を目指しています、ぜひ楽しみにしていてください!
初公開スクリーンショットを一挙お届け!
東京ゲームショウ2022にも出展
本作は、本日2022年9月15日から開幕する東京ゲームショウ2022(※2022年9月15日~16日はビジネスデイ)ケムコブースで出展予定。気になったゾンビ・ファンはぜひ足を運んでみては。
- タイトル:ゾンビ・オブ・ザ・ドット
- ジャンル:RPG
- 発売元:ケムコ
- 開発:ヒットポイント
- 企画・原案・監修:イシイジロウ:
- 配信予定:2022年冬
- 対応機種:iOS・Android(2023年以降、家庭用ゲーム機向けに移植予定)