PS5でなければ作れなかったフルリメイクの価値とは
2022年9月2日、傑作アクション・アドベンチャーのリメイク作『The Last of US Part I』が、プレイステーション5で発売となる。本作のオリジナル版は2013年にPS3で発売され、世界中で絶大な支持を受けた、いまや説明不問と言っていいほどの、ゲーム史上に輝く名作だ。
本作については、2014年にはPS4向けにリマスターされた『The Last of Us Remastered』が発売されている。PS5には後方互換機能があるため、PS5ユーザーであれば、既存のPS4版『The Last of Us Remastered』を問題なく遊ぶことが可能だ。それでもあえて、PS5専用にフルリメイクするというのは、明確な目的と、相当な意気込みがあってのことだろう。
そこで本記事では、そうした意図なども含めて、『The Last of US Part I』の開発陣に、改めて本作についての気になるポイントを訊いてみた。
『The Last of Us Part I』(PS5)の購入はこちら (Amazon.co.jp)マシュー・ギャラント(Matthew Gallant)氏
ゲームディレクター
ショーン・エスケイグ(Shaun Escayg)氏
クリエイティブ・ディレクター
ゲームディレクター:マシュー・ギャラント(Matthew Gallant)氏
――発売を迎えるいまの、率直なお気持ちを教えてください。
ギャラント世界中の皆さんに本作をお届けできることがたいへんうれしいです。このプロジェクトは、開発チームにとって本当に愛の集結でした。10年前に原作『The Last of Us』の開発に携わった者もいれば、同作に惹かれてNaughty Dogへ加わったメンバーもいます。皆が本作を『The Last of Us』の決定版に仕上げるため懸命に開発に取り組み、原作を忠実に再現しながらも、9年間の技術の進歩もしっかり反映しました。
――改めて、本作のリメイクを企画した理由を教えてください。PS5ユーザーは、PS4版をプレイすることもできるわけですが、あえてPS5版を制作したのはなぜでしょうか?
ギャラントプレイステーション3『The Last of Us』は当時のハードウェアの性能を限界まで活用しましたが、当時のビジョンの中には、2013年の技術ではサポートできないものも多くありました。キャラクターや環境のリアルさ、配置できるNPCの数、ライティングの数量などにも厳しい制限があったのです。
プレイステーション4版『The Last of Us Remastered』でそれらの制限を一部取り払うことができましたが、テクスチャやフレームレートの向上など技術的な調整がメインであり、根本的なアートやデザインを見直すまでには至りませんでした。
『The Last of Us』シリーズには世界中にファンが多くいる一方で、ストーリーを体験していない新たなユーザーもまだ大勢います。私たちは、PS5版や今後発売予定のPC版、またHBOと共同で制作中のTVシリーズなどを通して本作を知っていただく方々を含むすべての方に対して、オリジナルに忠実でありながら最新の体験ができる決定版をお届けしたかったのです。最新鋭のテクノロジー、拡充された難易度やアクセシビリティのオプション、そしてさらに美しくなったアートをフル展開し、『PART I』 と続編の『PART II』 を違和感なくシームレスにプレイする機会を、すべての人に提供したいと考えました。
――オリジナル版の『The Last of Us』は、世界中で無数のアワードを獲得した、ほぼ完璧な作品とも評された作品です。それでも、あえて作り直したいと思えるところはあったのでしょうか?
ギャラント原作でユーザーに好評だった点を維持しつつ『The Last of Us Part I』 のゲームプレイ体験を向上させるには、確かに慎重にバランスを保つ必要がありました。ジョエルの基本的なモーションがそのひとつです。
本作では、『The Last of Us Part II』制作時に開発した「モーションマッチング」という技術を導入しています。これは、方向性のある動きに対して事前に決められたアニメーションを用意するのではなく、プレイヤーの動きのベクトルを分析し、数百のアニメーションの中から最適なものをあてがうというものです。フレームごとにこれらのアニメーションをブレンドすることで、バランスと勢いのある滑らかな動きを生み出しました。 たとえば、狭い角など全力疾走しているときに、ジョエルが体を傾けていたりします。
今回、この技術を導入しながらも、原作のジョエルの所作のイメージを維持するよう注意しました。ジョエルはエリーとは違う動きをします。彼は年齢も上ですし、重厚で力強い動きが特徴です。ジョエルのモーションモデルをゼロから再構築しながら、原作の独特なキャラクター性を確実に維持したかったのです。
――今回リメイクをやり遂げて、もっとも満足している点、とくにうまくいったと感じている点などを教えてください。
ギャラントNaughty Dogでは、ゲームプレイ体験として、つねに「いかにストーリーテリングに磨きをかけるか」という観点から考えています。
たとえば、進化したAIとフェイシャルモーションによってエリーがよりリアルに反応するようになれば、エリーのキャラクター性がより強化されます。ゲーム内にあるオブジェクトを踏むとへこんだり、撃つと壊れたり、そよ風に揺れたりすると、実際にその世界にいるような没入感を感じられます。
激しい戦闘では、DualSenseのアダプティブトリガーとハプティックフィードバックの効果で、その瞬間のキャラクターの感情すらも共に感じることができます。こういった改良によって、すばらしい物語を、いま出来る最高のレベルまで強化することができたと思っています。
――楽しみに待っていたゲームファンにコメントをお願いします。
ギャラント本作は、原作のゲーム、ストーリー、キャラクターに対する私たちの深い愛情をもとに開発されました。開発チームは、原作のビジョンを尊重し、愛すべき名作の最高のリメイクを実現するために尽力しました。シリーズファンの方も初めてプレイする方も、ジョエルとエリーとの旅をぜひ、楽しんでください!
Thank you!
クリエイティブ・ディレクター:ショーン・エスケイグ(Shaun Escayg)氏
――発売を迎えるいまの、率直なお気持ちを教えてください。
エスケイグファンの皆さまにも、シリーズを初めて手に取る方にも、ゲームをお届けできることが待ち遠しくてたまりません。『The Last of Us Part I』は、私たちが創り上げた世界観、キャラクター、そして複雑に絡み合う物語をベストな形で体験できる作品に仕上がっています。
原作の力強い基盤あっての本作なので、オリジナルに忠実であることには細心の注意を払ってきました。一方で、精細なビジュアルの再現や、感情の深みを表現し、私たち自身とファンの皆さんがこの世界をよりリアルに体験するための挑戦を続けてきましたが、ついに報われた思いです。
――本作の物語のテーマとは何か、改めて教えてください。
エスケイグ『The Last of Us』にはたくさんのテーマがありますが、個人的には、おもなテーマは「目的のためには手段を選ばないのか?」という究極の問いにあります。エリーは旅の過程で、長い間失われていたジョエルの「愛する心」に火をつけます。 『The Last of Us』は、無条件の愛から生まれる美と闇の探求なのです。
――今回のリメイクでグラフィック表現などが向上したことで、ストーリー描写にはどんな好影響があると考えておられますか?
エスケイグPS5の性能のおかげで、かつて技術的に制限されていた部分に新たに命を吹き込み、世界を築き、ゲームプレイ経験を進化させることができました。アートディレクションやキャラクターを再設計し、アニメーション、パフォーマンス、エフェクトなど全てを改良することで、よりプレイヤーの没入感が高まります。
隔離地域の怪しげな市場のシーンでは、息苦しく抑圧的で、危険な場所だと感じます。私たちが創り上げた環境では、虫が背の高い草の上で動いたり、浸水した通りを移動するとコケが足に纏わりついたり……生命に満ちているんです。
キャラクターも、より表現力豊かになりました。瞳の奥やそばかすまで詳細に表現されています。リアルな世界に、きっと夢中になると思います。エリーが彼女を見捨てようとしたジョエルと口論になるシーンでは、ジョエルの口から飛び出す唾まで感じられるでしょう。
さらに、モールの展示ユニットでエリーが踊るシーンでは、彼女が立ち止まってキラキラとした目でライリーを見つめるのを、ぜひ注目してみて下さい。私はこういったキャラクターの思考と感情が現れるシーンがとても気に入っていて、ストーリーの深さを更に拡張していると思います。
――これからプレイする人には、どんなところに注目してほしいですか?
エスケイグすべてに注目してほしいですし、何も注目してほしくないとも言えます。既存シリーズファンも、新しいユーザーの皆さんも、ぜひ『The Last of Us Part I』の世界に身をゆだねて、引き込まれてくれることを願っています。キャラクターに共感したり、小さな歓びを分かち合ったり、先の見えない道を進む時間をいっしょに過ごしてほしいと思います。
技術の進歩によって向上した機能――新たな戦闘システム、AI、NPC、没入感のある世界、刷新されたアートディレクション、キャラクターの表情やパフォーマンス、リアルなエフェクトなど……すべてが組み合わさって、より没入型のゲーム体験が完成しました。
プレイヤーの皆さんには、何に注目するでもなく、これらすべてを余すところなく体感してほしいと願っています。