2022年6月25日、26日、さいたまスーパーアリーナで“2022 VALORANT Champins Tour Challengers Japan”(VCT)プレイオフ ファイナルが開催された。優勝の最有力候補ZETA DIVISIONを打ち倒して悲願の初優勝を果たしたのは、第三勢力NORTHEPTIONだった。その激闘の模様をお届けする。
2022 VCT Stage2 - Challengers JAPAN Playoff Finals Day2
26000人が熱狂したプレイオフ ファイナル
タクティカルシューター『VALORANT』の日本大会“2022 VALORANT Champins Tour Challengers Japan”。コペンハーゲン(デンマーク)で開かれる世界大会“Masters”出場権を手にすべく、本大会には全64チームが出場。2022年5月のオープン予選(Week1 Open Qualifiers)から約1ヵ月半に渡り、熱い戦いをくり広げた。
激闘を締めくくるプレイオフ ファイナルは有観客でのオフライン開催。選手たちの姿や歴史的瞬間をその目に焼き付けようと、両日あわせて26000人のファンがさいたまスーパーアリーナへと足を運んだ。
ちなみに、これは国内のeスポーツとして過去最大の動員数であり、当日行われていたYouTubeとTwitchの同時接続者数は50万人越え。Stage1でZETA DIVISIONが世界3位の快挙を果たしたこともあり、これまでの国内eスポーツ大会で最大級に注目された。
会場内はと言うと、ステージ上部には四方に向かって特大のモニターも設置されており、それを囲むように席が並べられている構図。ステージ上部には、四方に向かって特大のモニターも設置されているので、スタンド席からでも十分に楽しめるようになっていた。
入口ゲート付近には新Actのキービジュアルを使った特大パネルやエージェントのパネルも飾られていた。試合前や休憩時間のときは、好きなエージェントといっしょに記念写真を撮る人たちで大賑わい。
観客たちは、声援の代わりに会場で配られていたスティックバルーンを使って応援。中には推しの選手への愛が詰まった手作りポップを掲げて応援している人も。
最終戦はNORTHEPTIONとZETA DIVISIONが激闘をくり広げる!
優勝を決めるプレイオフ ファイナルへと進んだのは、ZETA DIVISION(ZETA)、NORTHEPTION(Nth)、Crazy Raccoon(CR)の3チーム。6月25日のDay1は、アッパーファイナルでZETAがNthを倒してグランドファイナル進出を決めると、2試合目のロワーファイナルではNthがCRを打ち倒して勝利。その結果、Day2のグランドファイナルはZETAとNthが再び相まみえる対戦カードとなった。
グランドファイナルは、先に3マップを取ったチームが勝利となるBO5制を採用。マップはZETAがアイスボックスとフラクチャー、Nthがヘイブンとアセントをそれぞれピックし、お互いにBANしなかったスプリットを加えた計5つが選ばれた。そして、激戦の火ぶたが切って落とされる。
両チームのメンバーは以下の通り。
【ZETA DIVISION】
- crow選手
- SugerZ3ro選手
- TENN選手
- Dep選手
- Laz選手
- XQQコーチ
【NORTHEPTION】
- BlackWiz選手
- Meteor選手
- Derialy選手
- JoxJo選手
- xnfri選手
- bailコーチ
1マップ目はアイスボックス。Nthが苦手とするマップだが、持ち前のアグレッシブな攻めで1、2ラウンド目を取って好調な滑り出しを見せる。だが、ここで引かないのがZETA。クレジットを温存するエコラウンドで2回のスリフティー(相手より少ない使用クレジットで勝つこと)を決めるなど王者の風格を見せ、お互いにラウンドを取り合う白熱した展開に。しかし、11-11で迎えた23ラウンド目をNthが取り、先にマッチポイントを獲得すると、ラウンドも取り切って13-11でこのマップを勝利で飾った。
2マップ目はヘイブン。Aアタッカー側でスタートしたZETAは、最初の2ラウンドこそ落とすも、ネオンを使用したDep選手を起点に着実に勝利ラウンドを重ね、5ラウンド差を付けて折り返す。サイドが切り替わった後もNthの攻撃をシャットアウト。後半戦を1ラウンドも落とすことなく13-4でZETAが戦いを振り出しに戻した。
運命を分けた3マップ目フラクチャー。アッパーファイナルではZETAの巧みな戦術やLaz選手の動きに苦戦し、見せ場を作れずに負けてしまったNth。最初の2ラウンドを落とし、やはりZETAが優勢かに思えたが、そこからNthは奮起する。Derialy選手のネオンを起点にしたアグレッシブかつ多彩な攻めで3ラウンド目を取ると、そこからZETAの戦術を戦術を打ち崩して12本連続でラウンドを取得。17ラウンド目も確実に取って勝利し、Nthが優勝へと王手をかけた。
続く4マップ目はアセント。アッパーファイナルではここでもZETAが勝利を収めている。アッパーファイナルでZETAが勝利したアセント。このマップで勝利をつかみたいNth、つぎへつなげたいZETA。そんな両チームの熱い気持ちがぶつかる試合をファンたちが固唾を飲んで見守った。
前半戦はNthのアタッカーサイドからスタート。Nthは中央レーンを使った多彩な攻めで先制するも、ZETAも負けじと食らいつき、前半戦のスコアは5-7とほぼ互角。サイドが切り替わって後半戦へ。アタッカー側に回ったZETAは相手を揺さぶる攻撃で、Nthの隙をつこうとするも、堅い守りを崩すことができない。気づけば1ラウンドも取れないまま、12-5でNthがマッチポイントに。最後にZETAが粘るも13-7のスコアでNthが勝利し、世界3位に輝いたZETAを破って、見事初優勝を果たした。
試合終了後、感情を爆発させて喜びあうNthの選手たち。優勝トロフィーを高々と掲げると、すばらしい試合を見せたメンバーに大勢のファンが祝福を送った。
ZETAとCRの2強と言われていた日本の『VALORANT』の競技シーンに、新たな1ページを刻んだNth。7月10日からコペンハーゲンで行われる世界大会“Masters”での活躍にも期待したい。
NORTHEPTION 優勝インタビュー
――優勝おめでとうございます。まずは、いまのお気持ちお聞かせください。
BlackWiz選手昨日も話したように、今日の試合でZETA DIVISIONにリベンジしたいと思っていたのですが、本当にそれが叶ったので「最高!」以外の言葉が出ないです。本当に最高です!
――さいたまスーパーアリーナで、大勢の観客を前に戦ってみてどうでしたか?
BlackWiz選手僕個人としては、ゲームの大会で初めてのオフラインということもあって、ワクワクドキドキの楽しい時間を過ごせました。
――決勝は合計4マップを戦いましたが、体力的な疲れなどはありましたか?
Meteor選手体力的な疲れは感じていませんでしたが、いつもに比べると自分の成績が悪くキルが取れていなかったので、精神的に応えたところはありました。
――ステージインタビューでは「全体的にみんなのコンディションがよかった」とお話されてましたが、具体的にはどういう理由でコンディションが良かったのか、おひとりずつお聞かせください。
BlackWiz選手感覚的に言うと、すごく体調がよくて体が軽いみたいな感じです。今日はみんなテンションが高く勢いに乗っていたので、そういう意味ですごくよかったです。
Derialy選手1マップ目のアイスボックスですが、ここ1ヵ月くらいスクリムをしていなくて、正直不安で自信もなかったですし、撃ち合いにのみ集中しようと(チーム内で)話して挑みました。それが凄くいい結果になって、撃ち合いにも自信が付きましたし、チームとしても勢い付きました。
Meteor選手試合の前から、「今日はみんな勝つよ」という意気込みでお互いのことを慰めながら試合に向けて戦いました。それが最高のコンディションを作れた理由です。
JoxJo選手簡単なオーダーを言った際、みんなが素早く理解し、オーダー通りに行動して合わせてくれました。それがいいコンディションになった理由のひとつだとと思います。
xnfri選手テンションが高かったのもありますけど、メンバー全員が冷静な判断をできていて、すごくプレイしやすかったです。先ほどDerialy君が言ったアイスボックスでのテンションや勢いも今日の結果に関係していると思います。
bailコーチ今日の試合を控えてたので、昨日の試合が終わった後は、みんなに十分休ませる時間を与えました。それがコンディションを上げた理由のひとつだと思います。
――アッパーファイナルで負けたフラクチャーとアセントを今日の試合では勝利しました。この短期間で戦略的にどのように修正しましたか? また、どのようなことを選手に伝えましたか?
bailコーチZETA DIVISIONの時間を使って揺さぶってくる戦い方に、昨日は苦戦しました。それを踏まえたうえで、いままでとは違った相手が予想できないプレイを見せられた、また、オフライン大会のプレイ環境に慣れることができたのが、今日の試合で勝てた大きな理由です。
――3マップ目、4マップ目と優勝が近づくに連れ、どのような思いを持ちながら戦っていましたか?
Derialy選手終盤は本当に気持ちの勝負なので、メンタルで負けたら絶対だめだなと思い、みんなで「絶対勝つぞ」と言葉を掛け合い、気持ちを高めながら戦っていました。
――フラクチャーとアセントでは、ディフェンス側でも強気に前に出てワンピックを狙うような立ち回りが目立ちました。1、2試合目と比べてどんな心境の変化や意図があったのか教えていただきたいです。
Meteor選手「自信を持ってワンピック狙ったり、1対1のエイムは絶対勝てるからグイグイ前に出て戦おう」と(コーチの)bailさんから言われてたので、今日はずっとそれを意識してました。
――Stage1でのZETA DIVISIONの世界3位という結果もあり、世界大会では他国の出場チームからマークされる部分があるかと思います。それについて対策などはすでにお考えですか?
bailコーチMastersについて具体的な対策は考えていませんが、選手たちの意見を共有し、これからどう対策するか話し合おうと思います。
――Mastersでは、日本のみんながNORTHEPTIONを応援してくれると思います。あらためてNORTHEPTIONとはどのようなチームなのかな、プレイスタイルや人間的な面のふたつでお答えください。
JoxJo選手チームメンバー全員がお互いに信頼しあってますし、家族のように仲がいいです。プレイスタイルな面では、最初にこういった動きをされたからつぎはこのように対応しようと、毎ラウンド敵の動きを把握し、対策できるのが特徴だと思います。
――bailコーチは現役時代に世界大会に何度も出られてましたが、世界で勝つために選手たちにどのようなアドバイスを送りますか?
bailコーチいままで経験したことを考えるとふたつの要因があって、その日のコンディションなどの運的な要素、ハードな練習を積み重ねること、これが世界大会で勝つために必要なことだと思います。
――プロを目指している若者にとって、刺激になる試合だったと思います。そんなプロを目指している若者たちに応援の一言よろしくお願いします。
Meteor選手私は(韓国のほかのプレイヤーと比べると)年齢的に高い23歳からプロ選手生活を始めました。運よくbailコーチに見つけてもらい、いっしょにがんばってここまで上がれたので、自分の状況とか年齢は関係なく、がんばり続ければと誰でもプロを目指せると思います。応援してます。
――最後にMastersへの意気込みをお願いします。
BlackWiz選手間違いなくいまいちばん注目してもらっていると思うので、そのプレッシャーがかかっている状態でも、いい結果が残せるように頑張ります! みなさん応援よろしくお願いします。
VCTを影ながら支えるふたりが語る、日本チームの成長と競技シーンの盛り上がり
大会終了後に、グランドファイナルの実況を担当したyue氏とOooDa氏にインタビューを実施。実況・解説として『VALORANT』の大会の競技シーンを長く関わっているふたりの目に、今回の試合はどのように映ったのか。競技シーンの盛り上がりにどのように感じてるか、気になる質問をぶつけてみた。
――長時間のイベントお疲れ様でした。まずはグランドファイナルを終えての感想を教えてください。
yueさいたまスーパーアリーナという大きな会場で実況・解説をやらせていただけたのは非常に誇らしいことですし、これだけ『VALORANT』が大きくなったんだという嬉しさがあったり、本当にいろんな気持ちや思いでいっぱいです。
OooDaアリーナの大きな会場で夢のような経験をさせてもらいました。これはRiot Gamesや選手・チームのみなさん、あとはふだんから支えてくれるファン方々のおかげだと思います。選手たちもお客さんの力があったからこそ、あれだけの高いパフォーマンスを出せたと思うので、本当に喜怒哀楽が詰まったeスポーツらしい大会だったと思います。
――アッパーファイナルで負けたZETAにリベンジを果たし、Nthが優勝という結果になりましたが、昨日と今日でNthとしてはプレイスタイルに違いがあったなど、なにか感じましたか?
yueアッパーファイナルでは、オフライン大会というふだん慣れない環境から、実力を発揮しきれなかったところがあると思います。ですが、CR戦へ経てその環境にも慣れていき、決勝という大舞台では最高のパフォーマンスを出し切れたというのが、グランドファイナルで勝つことができた要因だと思います。
OooDa昨日の敗戦でかなり吹っ切れたんじゃないでしょうか。NORTHEPTIONとしては、進むしかなかったですし。そこの力強さが今日の試合に出ていたと思います。
――1マップ目のアイスボックスはここ1ヵ月ほどスクリムをしていなかったらしく、「ガンガン撃ち合っていこうというテンションで臨んだ」とNthの選手がお話しされてました。実際にこのようなことはあるものなんですか?
yueそうですね。いろいろな大会を経験している選手と言えど、これだけの観客の中だとプレッシャーを感じると思います。そして、そのプレッシャーというのは一歩前に踏み出せない足かせにもなってしまうこともあって……。その一歩の差がアイスボックスでは出ていたのかと。
OooDa試合が終わった後に一部の選手と話す機会があったのですが、自分たちが追い込まれていく中で「多くの視線がプレッシャーとなり、どんどん頭が真っ白になっていった」と言われてたんです。それに加えて、Stage1の王者としての重圧など、ZETAとしては何か抱えていたものがあったはずです。
――新エージェント“フェイド”の追加やキャラクターのスキル調整などがあり、本大会はエージェント構成がいままで以上に多様的だったように思えます。おふたりから見てどうでしたか?
yueエージェントの追加であったり、ナーフやバフが入る中で、これがいちばん強いという構成を各チームが模索している状態だと思います。その中で自分たちがいちばん自信のある構成をぶつけるからこそエージェント選びに差が出たり、相手の構成に対応するために自分たちの動きを変えたりもしています。そこの部分は大会のステージごとに変わっていきますし、だからこそ勝ち続けるのが難しいんだと思いますね。
OooDaグランドファイナルで言うと、Dep選手がヘイブン、Derialy選手がフラクチャーでネオンを出していました。今後、各エージェントが調整されていく中で、ネオンをどういった形で差し込んでいくのか、それに対してどのように対応していくかがキーポイントになってくると思いますね。
――デュエリストで言うと、フェニックスにも強化が入るかもしれないというで、よりおもしろくなりそうですが……。
OooDaフェニックスに関しては難しい……。我々が口にすると非常にセンシティブな話ではあるので(笑)。
yueもしフェニックスを調整するのであれば、フラッシュの時間やダメージ量といった数字の部分だと思っています。そこの部分が調整されたら、競技シーンでもフェニックスを入れた構成が出てくるのではないでしょうか。
――競技シーンでフェニックスが活躍する日が近いかもしれないと。Stage1でのZETAの快進撃を含め、日本リージョン全体のレベルが大会を重ねるごとに上がっているように思えます。キャスターの目線から見て、実際にはどうでしょう?
yue世界大会3位という結果を残したZETAはすごいですし、ほかのチームの選手たちも負けず嫌いの方が多いので、ZETAが世界で戦う姿を見て、嬉しさよりも悔しい気持ちをいだいていたはず。それをバネに選手たちは成長していると思いますし、世界に向けて日本の実力がどんどん上がっていくのは見ていてうれしいですね。
OooDaこれだけレベルの高い国内大会を見れているのは、各チームの環境や運営などが良くなったのはもちろん、選手の中でも結果を残したいという気持ちが強くなってきているからだと思います。ですので、日頃からのチームの成長もありますけど、この2日間で選手の勝ちたいという気持ちでいい雰囲気を作り上げたNthさすがとしか言いようがありません。
――『VALORANT』をプレイされていなくても、ゲームに興味を持って大会は見ている方が多いのは、キャスター・解説陣のお力があってのことだと思います。実況解説をされるにあたり、この情報は必ず伝えるなど、意識されていることはありますか?
yue広い層の視聴者さんがいらっしゃいますので、「わかりづらい」といったご意見をいただくこともあります。選手がすごいプレイを見せたときに、「我々も盛り上がっているんだぞ」というのを声や姿で精一杯表現するというのは、必ず心がけています。
OooDa僕は重要だったアビリティ、撃ち合いのシーンをできるだけ拾うようにはしていますね。ですが、エージェントも増え、チームの連携や試合のレベルが上がっている状況で、「ここにスパイクを設置しなきゃいけないんだよ」、「これを阻止しないといけないんだよ」といった状況を説明するときに、どの辺までハードルを下げてしゃべるべきなのか、この線引きがかなり難しいところで……。
この前、飲食店でVCTを見てる方とお会いしたのですが、お話を聞くと、大会をずっと見てはいるものの、まったくゲームのルールをわかっていなかったんです。この方のように、深い知識がなくても『VALORANT』に興味を持って見ていただいてる方がいるので、その辺のレベルの人にどう合わせていくか。もちろん下に見ているわけではなく、みんなにより楽しんでもらえるにはどうすればいいのか、いまでも悩んでます。
――今後もずっと悩むことになりそうですね……。
OooDaそうですね(笑)。
――本日はお時間いただき、ありがとうございました。