スマホやPCで遊べる本格RPG『グランブルーファンタジー』(以下、『グラブル』)。2022年3月10日に8周年を迎えた同作を記念して、週刊ファミ通2022年4月14日号(2022年3月31日発売)では、『グラブル』8周年記念特集を掲載。

 同特集時に行った『グラブル』シナリオチームへのインタビューをお届けする。

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寺嶋氏(てらしま)

『グラブル』シナリオディレクターとして、原作『グラブル』のほか、『グランブルーファンタジー ヴァーサス』、『グランブルーファンタジー リリンク』などのシナリオチェックや監修を行っている。(文中は寺嶋)

元澤氏(もとざわ)

サイゲームスシナリオチーム サブマネージャー。『グラブル』のシナリオイベントやキャラクターのフェイトエピソードなどを担当。また採用活動など、人材管理も担当する。(文中は元澤)

右辺左寄氏(うべ さより)

『グラブル』シナリオリーダー。『グラブル』シナリオチームを統括する傍ら、『グラブル』のシナリオイベントやメインクエストのシナリオの執筆などを担当。(文中は右辺)

『グラブル』のシナリオを支える3人の柱が集結

――まずは皆さんの役職やふだんの業務から伺えればと思います。

寺嶋『グラブル』のシナリオディレクターを務めさせていただいております。業務としてはシナリオ全体の監修やクオリティーチェック、あとは『GBVS』や『リリンク』などのチェックや監修を行っています。『グラブル』との整合性なども含めてチェックをするという感じですね。『グラブル』の名のつくタイトルに関しては、全体的に監修しています。

――『グラブル』関連のタイトルは、寺嶋さんが全部見られているのでしょうか?

寺嶋『グラブル』のテキストは、基本的には私のほうで監修しています。ただ、『GBVS』や『リリンク』も並行して進んでいるので、手が足りないときに、右辺や元澤に最終チェックをお願いすることもあります。ふたりにはキャラクター監修などもお願いすることがありますね。そういう意味では、業務がきっちり分けられているわけではなく、流動的に対応することが多いかもしれないです。

――そうなんですね。元澤さんはどんなお仕事をされているのでしょうか?

元澤『グラブル』チームでは、シナリオイベントやキャラクターのシナリオの執筆や監修をしています。また、ライターの業務と並行して、サイゲームス全体のシナリオチームのサブマネージャーとして、採用活動や人材面の管理といった業務を担当しています。

――シナリオの執筆や監修も行いながら、人事的なこともされているということですか?

元澤そうですね。もちろん最初はシナリオライターの業務だけだったのですが、途中からそういった役職も務めることになりました。

――人事面で言うと、後進の育成などで大事にしていることはありますか?

元澤基本的に育成に関しては、個々人の適正に合った環境を見極めることを心がけています。日々の育成についてはプロジェクトごとのリーダーに任せていますが、つねにメンバーの情報を共有し合って最適な環境を構築できるように相談しています。

 ほかにも、各人が専門性を高めてキャリアパスを描きやすくするために、組織の再編なども行っています。このように、チームのメンバーがより力を発揮して、より成長していける環境作りについては日々模索しています。

 また、新たな後進を探すという採用の部分に関しては、応募してきた方がどういうスタンスで書くことに向き合ってきたのか、みたいなところは見ていますね。これまでの経歴だけでなく、この先純粋なライターとして活躍してくれそうか、プランナーあるいは監修者・管理者としても適性がありそうかなどの、ポテンシャルの部分も見るようにしています。

 とにかく何かしらその人の中に強い思いがあって、それが本物かどうかみたいなことを採用の段階で確かめることが重要なんだと日々感じています。

――それは応募のときにたとえば作品などがあったら、そういったものを確認されているのでしょうか?

元澤そうですね。作品をたくさん書いてくる方もいれば、サークルで作ったゲームがエントリーシートなどとともに入っていたりとか。

――その中で光るものがある人というのは、どんなところが違うんでしょう?

元澤なかなか難しいのですが、同封されてきたオリジナル作品が満場一致でおもしろいとなることはほとんどなくて。むしろ作品よりも課題やエントリーシートなどのあらかじめフォーマットがある文章などに、努力の跡などが感じられて何か心に来る、みたいなことはありますね。

 基本、シナリオライターは自由に文章を書ける仕事というよりは、さまざまな要望や制約の中でパズルを組むような仕事なので。自由に書いたオリジナル作品よりも、何かしら制約がある中で書いた文章に、その人の職業ライターとしての資質が現れたりするのかもしれませんね。あとは面接などで実際に顔を合わせてみないとわからないことも多いです。

――ゲーム業界でシナリオライターになりたいとか、サイゲームスに入りたいと思っている方は、そういうところまでじつは見られているんだよ、という。

元澤はい。でも、あまりかまえずに、気軽に応募してきてほしいです(笑)。いろいろな人に応募していただきたい、と思っています。

――なるほど。ちなみに『グラブル』のプロジェクトの中では、どういったことをされているのでしょうか?

元澤『グラブル』では、寺嶋、右辺、自分に加えて、もうひとりの計4人が古くからいるメンバーでして、本当に最初は4人で手探りでやってきた感じでした。そこからだんだん役職が増えたりして業務内容が変わってきていますが、最近はシナリオチームも人が増えたので、月末シナリオイベントだと1年に1本やるかどうかくらいになっていますね。それ以外ですと、ほかのライターが書いたものを監修したり、シナリオイベントに出るキャラクターのシナリオを書いたりといった感じです。

――割合的にはサポート的な部分が大きいですか?

元澤いまはそういう方向にはなってきていますね。僕たち4人くらいしかいなかったころは、ひとりで何本も書かなきゃいけなくて、けっこうギリギリでやっていました。最近はほかのライターの監修をする量が増えてきています。

――確かに、これだけのキャラクターがいる作品をイチから始めるときのシナリオって、めちゃくちゃたいへんですよね。

元澤最初のころの記憶は少し薄れています(笑)。

――その積み重ねがあってのいま、というわけですね。

元澤そうですね。最初のころは素材などもあまり豊富ではなくて、リソースの都合でやむを得ずシナリオを削ることも正直ありました。あとは、敵の素材のバリエーションが少なくて、立ち絵はあるけどバトルのモーションがないという状況だったので演出に苦労したり。

 リリース当初はいろいろな苦労があって、その中でこうすると違和感がなくなるといったことをみんながそれぞれ学びながら作っていましたね。限りある資源の中でいかに違和感なく作るか、ということが課題としてあったのを覚えています。それはそれで様式美としては懐かしくあるのですが、その後、素材や人員も増えてきてできることも増えていった感じです。

【グラブル】シナリオチームリーダー陣インタビュー。『グラブル』のシナリオの作りかたや四騎士誕生秘話などを語る【8周年記念特集】
魔物が現れるタイミングでよく見る光景。最近のシナリオでは素材が増えて、出番が少なくなりつつある?

――なるほど。右辺さんは、どんなお仕事をされているのでしょうか?

右辺私は『グラブル』プロジェクトのシナリオリーダーをしています。昔は、シナリオを作るのはプランナー業務の中のひとつだったのですが、社内でプランナーとシナリオのセクションをそれぞれ独立させることになり、シナリオ業務に専念することになりました。その後、『グラブル』シナリオチームのリーダーに任命されていまに至ります。

 リーダーの業務内容としてはほかのライターとあまり変わらないですが、その中でも重めの案件であったり、スケジュールの都合などで書ける人がいないというときに私が対応したりしています。日常業務としては月末のシナリオイベントやキャラクターのフェイトエピソードなどを執筆しています。

――もともとどんな業務をしていたところで、プランナーとシナリオライターのチームを分けることになったのでしょう?

右辺プランナー職としてのシナリオ作業としては、本編の執筆だけでなく会話シーンの制作といったものがありました。それらを専門分野に切り分けていった感じですね。いまは会話シーン専門チームがシーンの作成を担当するようになっています。

――そのぶん、プランナーさんと意思疎通をしっかりしなければいけなくはなりますよね。

右辺そうですね。分業したことで、意思疎通をするために、あらゆる演出指定をシナリオ内に組み込むようになりました。たとえば、シーンごとに背景イラストを指定する必要があるので、膨大な種類がある背景素材を把握するのはたいへんではありますが(苦笑)。

――『グラブル』のシナリオチームのリーダーとしての業務で、意識していることは?

右辺語弊があるかもしれないですけど、“みんなが楽に仕事ができるように”ということを意識しています。たとえば、煩雑なExcelの作業などもあったりするのですが、そういったところをマクロ化したり。積極的に業務改善、効率改善の提案をしていますね。

――右辺さんはアニメ『グランブルーファンタジー ジ・アニメーション』でもシナリオを担当されていたそうですが、アニメとゲームでシナリオの書きかたに違いはありますか?

右辺アニメは、メインクエストのストーリーを中心に制作されていったのですが、ゲームのメインクエストの中での山場とは別に、アニメは1話1話の山場を作っていく必要があるというところが大きく違いましたね。だから細かく事件が起きるようにアレンジしたりして、各話に山場を作るようにしています。

 あと、ムダのない描写にすごく気をつけるべきだ、ということを監督の伊藤祐毅さんからお話をされて。ゲームだと場所の移動がいくらかあっても違和感が出づらいのですが、アニメで場所移動が頻繁に行われるとかなり冗長になってしまうということなど、たくさんのことを学ばせてもらいました。

 正直、アニメの脚本というものを担当するのは初めてだったので、伊藤監督がすごく根気よくいろいろ教えてくださったんです。伊藤監督には感謝してもしきれないくらいお世話になりましたね。本当に感謝しかないです。そこで得た経験はすごく貴重だったと思います。この場を借りてお礼を言わせていただければと……。

――(笑)。そんなにガッツリやり取りをされていたんですね。

右辺すごく時間をかけて向き合ってくださいました。とても勉強になりましたね。

――それはゲームにも活かされていますか?

右辺物語の起伏のつけかたや、話の進めかたなどをより強く意識し始めたのはアニメの脚本を担当してからだったので、おそらくゲームにも活きていると思います。

『グラブル』のシナリオ作りでこだわりのポイントは?

――2021年の『グラブル』のシナリオイベントなどを振り返って、反響が大きかったと思うシナリオを伺えれば。

寺嶋執筆した右辺がいる場で自分が出すのもはばかられますが、やはり7周年記念シナリオイベントの“STAY MOON”ですね。ひとつ大きな区切りとなったシナリオだったと思います。ほかだと、逆に新たに大きな区切りの始まりとなった“Marionette Stars”や“OLD BOND”も反響が大きかったと思いますね。

右辺六竜が人の姿になったりするなど、大きく世界観が動いたということをお客さまが感じられていたのが印象的でしたね。

【グラブル】シナリオチームリーダー陣インタビュー。『グラブル』のシナリオの作りかたや四騎士誕生秘話などを語る【8周年記念特集】
STAY MOON
“STAY MOON”は、『グラブル』7周年のタイミングで実装されたシナリオイベント。“組織”に関連する一連のストーリーの区切りとなる内容で、空を滅ぼす強大な機神ディアスポラに戦いを挑んだ。
【グラブル】シナリオチームリーダー陣インタビュー。『グラブル』のシナリオの作りかたや四騎士誕生秘話などを語る【8周年記念特集】
OLD BOND
人の姿となった六竜が登場することで大きな話題を呼んだシナリオイベント。ビィの秘められた力を手に入れようと画策する六竜からのさまざまな試練に、主人公が挑んでいくことになる。

――実際“Marionette Stars”や“OLD BOND”など、続きが楽しみになるものがいくつか出てきた感覚はありましたよね。より『グラブル』の世界が広がったというか。

右辺そういった部分を楽しみにしていただければと思います。

元澤“Marionette Stars”はヴィンテージシリーズの武器に関連するキャラクターのフェイトエピソードから布石を打っていて、連作のシナリオイベント第1作という形でした。

 ソーシャルゲームという、流れも早くてイベントの時期が読めないこともある中で、あそこまで丁寧に作ったものが無事にリリースできたのは素晴らしいことだと思いました。登場キャラクターへの反応も非常によくて、チームの一員としてうれしかったですね。

【グラブル】シナリオチームリーダー陣インタビュー。『グラブル』のシナリオの作りかたや四騎士誕生秘話などを語る【8周年記念特集】
Marionette Stars
占星武器(ホロスコープ)をめぐる数奇な運命が描かれたシナリオイベント。フェザー、ランドル、コルル、フィオリト、トルー、ティコ、クピタンといったキャラクターが活躍する。

――この先の展開も気になりますね。ちなみに、ほかの作品と差別化するうえで『グラブル』のシナリオで重視してる部分は?

元澤差別化とは少し違うかもしれないですが、地の文が特徴的かもしれないですね。

寺嶋確かにそうですね。シナリオをガッツリ書き込みがちなライターもいるのですが、そうは言っても『グラブル』のシナリオは小説でもマンガでもなく、ゲームのシナリオなんです。もちろんお話としておもしろいことがいちばん大事ではあるのですが、そのうえで“小説としてすごくいい”と、“ゲームとしてすごくいい”とではちょっと違うので、あくまでゲームという媒体の中でのシナリオ・脚本として輝くように監修するというか。ほかのライターのシナリオをチェックするときは、つねに心がけています。

――たとえば、こういう部分を調整している、といった具体例などはあるのでしょうか?

寺嶋描写まわりや地の文、ナレーション部分をテンポよく読めるように、ということは意識しています。ゲームなので前提として背景イラストやキャラクターの表情などが表示されているので、状況に対する描写がなくても伝わるだろうという部分は、調整させていただいたり。

 ソーシャルゲームという媒体であることを考えると、隙間時間にプレイすることがやはり多いと思うので、それを踏まえたうえで読みやすさを考慮することはあります。もちろん、要所要所ですごくしっとり重たい感じを出してもらうということもありますが、“テンポよくサクサク読める”というところは意識していますね。

右辺そうすることで、セリフまわしがすごく自然になったりしますよね。たとえば、“キャラクターがすごい身体能力を発揮した”という状況をセリフのみで描写しようとすると、「何!? 俺の身長の3倍もある壁を飛び越すだと……!!」みたいな、説明セリフになってしまうんです。

 そこでセリフと地の文を分けて、すごく高い壁を飛び越したよ、ということを地の文と画面上のキャラクターの動きで見せれば、セリフは「何!?」というリアクションだけで済みますし、描写も自然になりますから。

――なるほど。たとえばですがここはこういう演出をしてほしいといったことは、どういう状態でわたすのでしょうか? このシーンにはこういう背景が入って……といったことまで伝える感じですか?

元澤そうですね。先ほど右辺も言いましたが、ある程度注釈として、脚注みたいなものを書いたりします。“ナイフがぶつかるような効果音を入れてください”とか。地の文も書いた状態で会話シーン専門チームにわたしています。

 基本的にはセリフと地の文は少なくともライターがすべて書いて、適宜挟んでほしい演出があれば脚注という形で書いています。BGMの選定などは、制作の方にお任せしています。

寺嶋会話シーン専門チームで演出に迷った場合などはライター側の意向を確認していますが、最終的にはディレクターが集約して、演出なども含めて確認する、という形になっていますね。

――監修をする際に文章のテイストや表記という部分で気を付けていることなどはありますか?

寺嶋日本語として間違っていないというのは大事なことではあるのですが、ただ同時にキャラクターが日本語を間違えても問題はないという考えも持っています。たとえば、キャラクターのしゃべりかたや、キャラクターの年齢感によって、逆に正しくない日本語を使うことで、キャラクター性を出すということもあるので、文章表現という意味ではきっちり切り分けて考えていますね。

『グラブル』のシナリオを書くうえで意識していること

――たとえば、『グラブル』ではモンスターのことを魔物と表記していますが、そういった統一ルールも、もちろんあるわけですよね?

寺嶋もちろんありますが、それこそ単語単語にあるような感じなので、けっこう細かいですね。『グラブル』ならではの表現ルールという意味であれば、『グラブル』にはお墓が出てきますが、でも島が浮いている世界ということで、土地がかなり限られている世界観になっています。だから埋葬するというよりは、空の底というか、お空にそのままぽんと捨てる……捨てるというとアレですが(笑)。葬法として、そういうものもあるということを前提に書いてもらうみたいなことはあります。

――特殊な世界観だからこそ、思わぬところで表現のルールがあったりするわけですね。

寺嶋そうですね。ただ、細かくツッコミ過ぎるとがんじがらめになってしまうので、ある程度ルールがあるというくらいです。島と島があれだけ離れていて、かつ移動手段が限られているということは、それぞれの島で独自の文化がある可能性が高いですから、島によっては土葬している島ももちろんあるでしょうし。完全に共通の文化みたいなものは、あまり多くはないのではないかと。

 設定上、空を一度征服した星の民はかなり自由に島と島を行き来できたはずなので、文化交流みたいなことをしっかりできていたと思いますが、それ以前やそれ以後になってくると、島と島、国と国との文化交流、交易などの手段がかなり限られているであろうということを踏まえて、シナリオを作ってもらう、という感じですね。

――でも、それくらい自由度があるからこそ、サウナのシナリオイベント(※)も生まれたと。

元澤おっしゃる通り、ガチガチじゃないほうがファンタジーの間口が広くなると思います。現実のものを逆輸入して、それをそのままやるのではなくて、少しファンタジー世界に置き直すとやりやすくなると思いますね。

※“サウナのシナリオイベント”とは?

 シナリオイベントの正式名称は、“元帝国軍人のおじさん(37歳)がサウナに目覚めたら人生もととのった話”で、2021年6月に開催された。主役に抜擢されたのは、寄る年波には勝てず、騎空士としての自信を失いつつあったデリフォード。ひょんなことから、彼がサウナに足を踏み入れたことによって、“ととのい”を目指す姿が描かれる。ストーリーでは、実際のサウナや水風呂の楽しみかたが解説されるなど、サウナ愛が感じられる本格的(?)な作りで話題に。このシナリオイベントがきっかけで、“グラブルフェス2021”ではサウナハット(グランサイファー)がグッズ化された。グランサイファーの刺繍入りでお値段は4000円[税込]。

【グラブル】シナリオチームリーダー陣インタビュー。『グラブル』のシナリオの作りかたや四騎士誕生秘話などを語る【8周年記念特集】
サウナで出会ったイングヴェイたちとの交流を経て、人生に悩み迷ったデリフォードの心境は次第に変化していく。こうしてサウナに目覚めたデリフォードは、“ととのい”を目指すことに。

――せっかくなので、サウナのイベントを書こうと思った経緯を教えてください。

元澤これはディレクターの福原(福原哲也氏)がサウナをやりたいと言うので、いっしょにサウナに行ってネタを出そうかみたいな(笑)。取材から始まった感じでしたね。

――実際にリリースしてみた反響は?

元澤皆さん楽しんでいただけたように感じました。じつは自分も書いていて楽しかったシナリオで。もともと自分は映画のシナリオなどを書いていて、そのころはファンタジーとは無縁の作品を中心にやっていたんです。夫婦の関係性を描いたものや、人間ドラマを中心に書いていたんですね。ただ、ファンタジーというジャンルではあるけども、結局描くのは人間ドラマなので、そこの違いはないと思っています。

 だから、いままでの積み重ねがあったからこそ、できたシナリオだったのかなと。ファンタジー感が薄いテーマではありますが、もともとファンタジーの雄大な世界観というのが第一にあるわけで、それがあるからこそ、サウナみたいなシナリオも楽しんでもらえるんじゃないかと思います。全部サウナみたいになると、何のゲームだよってなっちゃいますから(笑)。

――(笑)。元澤さんは、四騎士系のイベントも担当されているそうですが、制作するうえで印象的だったことはありますか?

元澤“ダルモアの奇跡”までを担当しましたが、すべての関連シナリオを自分ひとりで書いているわけではなく、ほかのライターと手分けして書いています。四騎士のシナリオは長く続いているのでいろいろな思い出がありますが、4人の関係性が生まれたことがすべてなのかな、と。やはりキャラクターというのはとても大事だと思っていて、キャラクターに興味が湧かないと、そもそもストーリーを読む気持ちになれないでしょうから。

 最初にランスロットとヴェインとジークフリートの3人が生まれて、その後にパーシヴァルが加わったのですが、4人になったことでちょうどいい塩梅になったんですよね。あの4人の関係性が生まれた後は、とりあえず4人集まったら勝手に話してくれるぞ、みたいな、いわゆるキャラクター自身が動く感じになってくれたのでよかったです(笑)。

 ほかの担当メンバーもキャラクターの深い部分まで理解して親身に寄り添ってくれるので、四騎士や彼らに関係するキャラクターを魅力的に描き続けてくれています。なので、いまの四騎士を生み出したのは決して自分ひとりの力ではなく、チームのみんなの尽力のおかげでもあります。

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亡国の四騎士
氷炎牆に鬩ぐ
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ビストロ・フェードラッヘ
SIEGFRIED

シナリオイベントは前日にゲームを始めた人でも楽しめるように

――シナリオイベントのテーマは、どのように選ばれているのかを伺えれば。

寺嶋基本的に福原から提示してもらう物が多いです。テーマという形で下りてくるというよりは、この子たちのお話にしてほしいみたいな。

 たとえば先ほど話に出た“Marionette Stars”だと、ある程度の話の方向性と、ヴィンテージシリーズ武器に関連するキャラクターたちの話にしたいという部分が下りてくるんです。そのうえで話の中核に何を据えるかは、完全に自由なわけではないですが担当者ごとに考えています。

――なるほど。福原さんからのアイデアがめちゃくちゃ情報量が少なくて困る、みたいなことはないのでしょうか?

右辺私は、情報が書かれていない部分は「自由にしていいんだな」って考えています。

元澤フワッとしているほうが、いろいろな要素を取り入れたりできて、やりやすい人もいるかもしれないですね。

――シナリオイベントは、メインクエストの時系列ではこのあたり、といったことを考えて作られているのでしょうか?

寺嶋それはシナリオによるんじゃないかなと。それこそ、周年イベントに関しては、物語上このあたりのことまでは起きている前提だよ、というものもありますし。

右辺ただ、お客さまによって進行状況が異なるので、メインクエストを最新までやっていることを前提にした内容のものは、あまり作ることはないと思いますね。

寺嶋月末シナリオイベントは、『グラブル』においてかなり大きな要素を占めているので、誰でも楽しめるようにしなければ、ということは考えています。コラボをきっかけに『グラブル』を始めるという方もたくさんいらっしゃいますので、究極、シナリオイベントが始まる前日にゲームを始めた方でもすぐに楽しめるように、と。

 もちろん高難度向けというか、すごく強い敵に挑戦しようみたいなイベントの場合は、ゲームを始めてすぐに挑むわけではないので、シナリオ的にも先に進んだことを前提としたものになりますが、そういうものではなく、シナリオを楽しんでもらうシナリオイベントに関しては、今後もそこにたどり着くまでがたいへんなもの、というものはまずないかなと思います。

元澤やはりユーザーさんによって持っている情報量が違うので、あまり細かく指定しすぎると、この人にとっては深く楽しめるものかもしれないけど、こっちの人にとっては知らない情報があって楽しみきれない、ということが起きてしまうと思っていて。

 たとえば、自分がわからない情報が前提とされていると、そこが気になってしまって物語に入っていく支障になってしまうじゃないですか。ですので、寺嶋が言うように、いま始めた人でも楽しめるように間口を広くして、そのうえで何か新しい情報を入れて、詳しい人はより楽しめるみたいな形にしようと。いろいろな人に楽しんでもらいつつも、やり込んでいる人にも楽しんでもらえる余白や余韻というのを意識して作っていますね。

――なるほど。メインクエストのお話に関連して、寺嶋さんはメインクエストの148章までの執筆を担当されていたということですが、『グラブル』という作品の世界観や、歴史の設定を構築するうえで意識したことは?

寺嶋制作が長きにわたっているので、最初期に意識していたことと、制作の後半で意識していたことはけっこう違いがあります。

 たとえば、世界観の設定を決めるときに意識したのは、世界中の神話や世界史における国の動きといった要素です。作品としてはファンタジーですが、あくまでそれは要素要素が現実ではありえないものなだけで、ファンタジーの世界に行ったからといって人間が全員悪人だったり、わけのわからないことを考えていたりすることはないじゃないですか。人の動きは現実と変わらないと思うんです。

 だから、宗教の生まれかたであるとか国の生まれかた、国が生まれてどういう動きをしていったか、といったことはなるべく現実に即したほうがいいだろうと。なので、世界史やギリシャ神話、日本神話など、世界で語られる神話の類型を意識していますね。

――島が浮いているという独自の世界観はあるものの、共感を得られるのは、現実世界の要素が地盤にあるからなんですね。

寺嶋島が浮くという時点で、かなり突拍子もない設定なので、あまり突拍子もない設定ばかりにすると取っ付きにくくなるだろうな、というのはありました。

 星の民と空の民との関係性がストーリー中で語られる場合、500年前の出来事だったり、神話のように語られたりするわけです。そう考えると、中央神話と地方神話の関係といったものを意識して作ったほうがいいだろうな、と思って設定していったところはあります。

 初期はもうがむしゃらに、脇目も振らずに書いていたところもあるのですが、最近に関しては一歩引いて見ているというか。その物語においての主人公みたいなポジションに当たる人は、気持ちや悩みがユーザーの方にも共感してもらえるようなものにするということをいちばん意識していて。第3部のスタートとして、学園生活を描いたのも、そういう理由からなんです。

――ああ、なるほど。

寺嶋第3部スタートということで、目新しさや、目を引く要素が必要だと考えたのが理由としてはあります。それと同時に第3部から、支配と戦う、国と戦うということが物語の中心に描かれていくことになります。

 イスタバイオン王国と「さあ戦うぞ」となったときに、国の支配というものに対して、作中のキャラクターたちと同様にユーザーさんにも「嫌だな」と共感してもらいたいので、ユーザーの方々にとって身近で、多くの方が一度は感じたことがあるであろう支配に対する経験を考えたときに、それはおそらく学校だろうと。

 “学校は社会の縮図”とも言われるように、ある意味でその国の縮図でもあると思うんです。法律に対して不満があるという方は少なくても、学校の校則に対してそれを破ったことがあるとか、あの校則が面倒だったなとか、おそらくほぼ皆さん思ったことがあるんじゃないかということで、“国と戦う”ということのファーストステージ、チュートリアルとして学校という小さな枠はすごくいいのかな、と思ったんですね。

 まあ、個人的に制服のキャラクターもちょっと見てみたいなというところもありましたので、学校にしてみようかと(笑)。

――学園編は、「これはスタッフが制服を見たかっただけだな……」と思ったのですが、そんな深い理由があったんですね。

寺嶋一応マジメな理由がありました。ただ、イラストチームが素晴らしいイラストで制服姿や、カタリナさんやラカムたちの教師姿を描いてくれたので、そこも楽しんでもらえたのではないかと思います。

 あの章だと、現実ではこんな人はいないだろうというところを意識したキャラクターもいるのですが、大きな動きの中心になる登場人物に関しては、なるべく地に足のついた感じにできたのかな、と思っています。

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メインクエスト第133章

――なるほど。最近のお話以外で、たとえばメインクエストの初期の“蒼の少女”編あたりを執筆し始めたころには、どのくらい先までストーリーをイメージされていたのでしょうか?

寺嶋その時点では蒼の少女編の決着までは考えていましたね。やはりソーシャルゲームという媒体上、あんまり完結ということは考えずに作っていて。蒼の少女編の決着のお話は1ブロックとして用意してあるものの、そこに行くまでのエピソードというのは、けっこう幅がありました。

――ざっくりとした結末自体は思い描いてはいたものの、どんどん膨らませていく、という感覚でしょうか?

寺嶋そうですね。結末の時期などはとくに決まっていなくて、あくまで1ブロックとして用意していて、そこまでの道というのはある程度自由に進められるようにしつつ、最終的にこういう決着になるなら、こういう要素も必要だよね、ということを要所要所で挟みながら作られていった感じです。

――蒼の少女編も含めて、第1部、第2部、第3部とメインクエストが進行中ですが、それぞれどんなテーマで描き始めたのでしょうか?

寺嶋それぞれお話が長くて、いくつかのエピソードが内包されているので、あまりこれという全体テーマみたいなものはないのですが、『グラブル』というゲーム全体として、“自由”というものについて考えることが多かったです。

 自由というのは、すなわち意志ではないかと。何かを選び取ることが自由だと考えると、“意志”がない限りは“自由”は成立しえないので、やはりキャラクターがしっかり意志を持って決意して動く、ということが重要であるというか。これをもし一文で表すと“運命に抵抗する”ということなのかな、と思います。その点はつねに意識していましたね。

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蒼の少女編
メインクエスト第63章
暁の空編
メインクエスト第97章
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星の旅人編
メインクエスト第146章

――なるほど。そんなメインクエストですが、右辺さんが4月公開予定の最新話からの執筆を引き継がれているそうですね。書くうえで気をつけられていることはありますか?

右辺まずはメインクエスト引き継ぎという重責に圧し潰されないよう覚悟を決めました(笑)。寺嶋から引き継ぎ資料などはもらっているので、書く人が変わったから話も変わったね、と受け取られないように書いていければ、と心がけています。

――ちなみに、今後の展開は……?

右辺ちょっと今後は話が大きく動くので、そこに向けて第3部の区切りというか、話を積み上げていければと思っています。

寺嶋右辺も実績のある人なので、ぜひ期待してください。

一同 (笑)。

――期待しています! それでは最後に、皆さんからひと言ずつ伺えればと思います。

右辺ちょっと余談になってしまうのですが、『グラブル』のシナリオチームというのは、この場に名前を出せていない人たちもたくさんいます。ですので、いつかみんなの声がお客さまに届くといいなと思ってます。日ごろものすごくがんばってくれているので、何かチャンスがあればお伝えしていきたいですね。

寺嶋初期に登場したキャラクターでも、いまだにユーザーの皆さんのあいだで話題にしていただけるのは非常にありがたく思っています。ぜひ皆さんには、このキャラクターがよかったとか、この話がおもしろかった、といった声を上げていただけると、制作側の励みにもなりますし、今後どう展開していこうかという指標にもつながりますので、ぜひご意見をいただけると幸いです。

――ユーザーさんがどのキャラクターを好きなのかとか、どのシナリオがよかったみたいな評判はやはり気になりますよね。

寺嶋エゴサはしますね(笑)。

――元澤さんはいかがですか?

元澤サイゲームスのシナリオチームは、優秀な人材も多く切磋琢磨できる環境です。『グラブル』を始め、いろいろなゲームでライターの皆さんががんばってくれていて、これからもおもしろいゲーム、おもしろいシナリオを届けようと思っています。それと同時に、シナリオチームに興味を持った方は採用に応募していただければ(笑)。コンテンツへの熱意を持った皆さんといっしょに仕事をしたいので、これを読んで自分も『グラブル』のシナリオを書きたいと思った方もぜひご応募ください。