2022年3月4日にスクウェア・エニックスより発売されたNintendo Switch用ソフト『トライアングルストラテジー』。懐かしさと新しさが融合したユニークなグラフィック“HD-2D”で描かれる壮大なタクティクスRPGだ。
本作では、物語の重要な局面において、仲間たちによる多数決でその後の展開が決定。仲間たちはそれぞれの思惑で投票を行うが、プレイヤーは投票の前に彼らを説得することができる。思い通りに物語を展開させるにはいかにして仲間たちを説得するかが重要になる。
そこで、本記事では現実における“説得のプロ”である弁護士にインタビュー。YouTuber弁護士として人気の岡野武志氏に説得のコツについて話をうかがった。
『トライアングルストラテジー』(Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp)岡野武志(おかの たけし)
日本一の弁護士ユーチューバー、アトム法律事務所弁護士法人代表、第二東京弁護士会所属。高校卒業後、渡米。10年間のフリーター生活を経て、28歳で司法試験に合格。単身でアトム東京法律事務所を設立。多くのテレビドラマの法律監修や情報番組のコメンテーターを担当するなどマルチに活躍。また法律や時事ニュースなどの動画配信、YouTubeにて高い人気を誇り、チャンネル登録者数は100万人超えている。
事前の情報収集は徹底的に
――人を説得するうえで重要なことは何でしょうか?
岡野弁護士の業務はいろいろありますが、たとえば、裁判官の提示した和解案を受けて、被害者と加害者双方の最終的な合意案をまとめるということが仕事になります。例を挙げると、示談で被害者の方に賠償金をいくら支払うのか、といったところですね。
そういった意味ではまさに説得、交渉と言えます。これを成功させるうえでのポイントはひとつで、両者の主張の天秤が釣り合うところを探って“重心を見つける”ことです。
『トライアングルストラテジー』でも、仲間たちにはそれぞれの思惑があると思いますが、全員の利害関係はこの点でまとまる、という重心があると思うんです。そのポイントを探ってみるといいのではないでしょうか。
――おっしゃる通り、本作のキャラクターたちは異なる考えかたを持っているので、それを加味して説得する必要があります。実際の法廷でも裁判官の性格によって対応を変えるといったことはありますか?
岡野ありますね。裁判官個人の性格を踏まえますし、それから、裁判官という職業の立場、裁判所内の状況なども考慮することになります。
――ゲームでは説得の前に街を探索して情報を集めるといった準備も重要になるのですが、岡野さんも事前の準備には力を入れられるのでしょうか?
岡野情報は多ければ多いほどいいので、当然準備にはかなり力を入れます。トランプのゲームでも、相手のカードがまったく見えていないのと、1枚でも見えているのでは、こちらの動きかたはかなり変わると思います。やはり、情報は交渉においても決定的に重要なので、集められる情報はすべて集めるのが鉄則です。
――主人公のセレノアは領主で、仲間たちの中には家臣もいます。彼が仲間を説得するうえで気を付けるべきポイントはありますか?
岡野パワハラでしょうね。とくに立場の違うと、上の人にはそんなつもりがなくても、下の人はすごく圧を感じていることがあります。それが原因で後々になって話が破綻してしまう場合もあるので、その人が自身の選択として選んだと思えるような状況を作ることが中長期で見るとすごく大切だと思います。
岡野氏の正義は公の場での透明性、公平性、公正さ
――本作のキャッチコピーは“正義と向き合うタクティクスRPG”なのですが、岡野さんご自身の正義とは何だと思われますか? ちなみにゲームでは大きく分けてBenefit、Moral、Freedomがキャラクターたちの正義、信念として描かれています。
岡野“公の場での透明性、公平性、公正さ”が私の中での正義ですね。個人の自由を重んじるといった意味ではFreedomがもっとも近いと思いますが、“個人の”という点は違うので、私としてはどれも当てはまらないかなと思いました。
『トライアングルストラテジー』ファイナルトレーラー
――裁判ではどういったことがいちばん重要になりますか?
岡野裁判は法律というルールに則って進みます。スポーツも、ルールに則って行われますよね。審判は正常な判断を下さなければいけませんし、選手もルールを破ってはいけません。それと同じで、裁判でも法律に則ったうえで、公平公正な判断がされているかがもっとも重要になります。
――本作の投票は、複数人で選択を下すという点では現実の裁判員制度と似ているところがあると思います。実際に多数決で判決を決めることはあるのでしょうか?
岡野究極的に意見が分かれたときには多数決が行われますが、基本的には意見は一致します。裁判員制度が適用されるのは殺人事件などの刑事裁判ですが、ほとんどの場合は犯人が罪を認めているので、量刑を決めることになります。たとえば、「過去の類似の事例では懲役20年くらいの判決が出ている」といった資料に基づいて判決を決めるので、意見が分かれるということはほとんどありませんね。
――裁判官は説得するわけではなく、判断材料を用意するという感じなのですね。
岡野そうですね。これまで裁判とまったく無縁だった方は混乱してしまうので、裁判所側は時代の変化や流れを踏まえたうえで過去の事例を提示することになります。
――ゲームをプレイしている様子に法律遵守のツッコミを入れる動画も人気ですが、ふだんゲームなどのエンタメ作品に触れるときも法律のことを考えられるのでしょうか?
岡野考えようとすればいくらでも考えられますが、スイッチをオフにしています。『鬼滅の刃』で鬼が倒されるたび犯罪になるか、正当防衛の主張はイケるか、と考え始めたらキリがないじゃないですか(笑)。ですので、エンタメはエンタメとして楽しんでいます。
――読者にひと言メッセージをお願いいたします。
岡野私自身、ファミコン世代で、ゲームが進化していく様子を見てきました。どんどんおもしろくなっていて、いまではリアルを超えるような作品もたくさんあるので、これからも期待できる業界だなと思います。楽しめるうちにしっかり楽しみましょう。
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