2012年に発売された、ネットワークレコーダー&メディアストレージ“nasne(ナスネ)”。2010年に配信されたテレビ視聴・録画用アプリ“torne(トルネ)”を介することで、プレイステーション(PS)ハードなどを通して、テレビ番組を楽しめた。その利便性の高さから、いまなお使用するユーザーは多数。

 だが、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は2019年に“nasne”の最終出荷を終え、新規製造を停止を発表。ユーザーたちから「“torne”、“nasne”が終わってしまう?」と、不安の声も多く挙がった。その翌年となる2020年にはPC機器メーカー・バッファローが声を挙げ、“nasne”の販売・継承を発表した。不安に包まれていたユーザーたちからは、多くの賞賛の声があげられていた。そして、2021年3月25日には、ついにバッファロー製“nasne”が発売されている。

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 そんなバッファロー製“nasne”と、引き続きSIEがソフトウェアを提供する“torne”だが、今年の春にはPS5への対応が発表。本日11月24日より、いよいよその対応が開始される。

 本記事では、アプリ“torne”に関わるSIEの柳瀬和大氏、石塚健作氏、バッファロー製“nasne”に関わる安藤史朗氏、中武寛氏にインタビューを実施。今回のPS5版“torne”の配信や、“nasne”の現状と今後について話をうかがった。

柳瀬和大氏

SIE プラットフォームプランニング& マネジメント部門 グローバル商品企画部 1課 チーフ(文中は柳瀬)

石塚健作氏

SIE FTGインタラクションR&D 副部門長(文中は石塚)

安藤史朗氏

バッファロー 事業戦略部 担当部長(文中は安藤)

中武寛氏

バッファロー NAS開発部 新規開発課 課長(文中は中武)

待望のPS5対応について

nasne&torneのPS5対応はが本日(11/24)から。SIEとバッファローの担当者に聞く、注目ポイント

――バッファロー製“nasne”の発売から8ヶ月ほど経過しました。まずは発売から現在の販売状況について、教えてください。

安藤発売前から好意的なご意見をいただいていたこともあり、たいへん好調な立ち上がりとなっています。ただ、発売直後はとくにご意見をいただいたのが、供給量についてです。品薄状況が続いてしまい、たいへん申し訳ありませんでした。そのおかげと言ってはなんですが、我々の想定を大幅に上回る方々に望まれていた商品であることがわかりました。その後、増産体制を整えたこともあり、現在は落ち着いてきたのかな、というところです。

――利用されている方々の反応はいかがでしょうか。

安藤バッファローはユーザーの方々からいただいたご意見を、企画や開発部門など、全員が必ず目を通しています。以前からSIE製“nasne”を利用されていたユーザーからは、引き続きnasneが使えること、そしてサービスが今後も続いていくことに対して、感謝の言葉を多くいただいています。そういった喜びの言葉を貰えることこそが我々の原動力ですから、こちらこそ、ありがとうございますとお伝えしたいです。

――全体的には概ね好評を博している状況なんですね。そして今回、PS5版“torne”の配信が開始されます。バッファロー製“nasne”の発表当時からPS5への対応を予定されていましたが、どういった狙いでPS5への対応を考えていたのでしょうか。

柳瀬バッファローさんが“nasne”の製造販売を後継してくださると聞いたときから、PS5版を出したい気持ちが、私としても、社内としてもありました。当時はPS5自体が立ち上がっていたタイミングでしたし、SIEとしては「“nasne”、“torne”がもう終わってしまうのでは?」と、ユーザーの方々にご心配をおかけしてしまいました。せっかくバッファローさんが声を挙げてくださったわけですから、“以前と同じことをやる”のではなく、やはりこれからSIEとしてはメインプラットフォームとして押し出すPS5にも、“torne”を採用しなくてはならないと考えていました。

――発表時から情報は出ていましたが、いざ正式に配信日や仕様などが発表されると、ユーザーからの反響が大きかったですね。

柳瀬そうなんです。すでに発表していたものを「予定通り配信します」と改めて告知したものだったので、正直なところそこまで盛り上がらないだろうと予想していたのですが、いざ発表すると「待ってました!」という待望の声が多く届きました。

――PS5は高速SSDなどを搭載していることから、機能面の向上も発表されています。どのようなコンセプトで開発に取り組まれたのでしょうか?

柳瀬torneは、とても息の長いアプリです。2010年のリリースから考えると、もう約10年は経過しています。それをPS5へ対応させるにあたり、操作感を大きくは変えないようにしました。すでに起動速度やレスポンスの良さは好評をいただいているアプリですから、それをそのままPS5でも扱えるようにすることを、まず大事にしています。

 それにプラスして、PS5ならではの要素として、加えるところは加えようと考えました。とはいえ、斬新なことをやろうと考えたわけではなく、あまり驚かせない範囲でPS5ならではの機能を足そう、と企画していったのです。

――具体的には、どのような機能になるのか教えてください。

柳瀬番組表がスムーズに見れるのは、PS4版などと同じです。それに加えて、PS5はアプリの起動速度が速いです。これはアプリではなくてハードからの恩恵ですが。そして大きなところですと、4Kへの対応です。PS5は4K対応モニターでゲームを遊ばれている方々も多いですから、番組表を4K対応させることもできます。PS4時点では横並びの段に分かれて、各テレビ局が最大9チャンネル画面に表示されますよね。4K解像度ならば、さらにチャンネル数を増やしても文字が読めますから、最大12チャンネルの表示ができるようになっています。

 さらに、番組表のサイドには時間が書かれていますよね。これまでは縦に、一定の時間帯の番組しか表示していませんでした。4Kに対応することにより、24時間ぶんスクロールせず、すべてを表示できます。余計な操作をせずに、より番組を探しやすい、録画をしやすくなったのがポイントです。

 あと、これは追加というより改善した部分があります。録画した番組を早送りした際、カクカクとコマ送りで画面が表示されますよね。PS5では、その表示コマ数が増えています。これまではコマの枚数が少ないせいで、見たいところを見逃してしまう、なんてこともありました。地味な部分ではありますが、コマ数が増えたことにより見逃しにくくなり、さらに使いやすくなっていると思います。

――確かに、実際使ってみるとなかなか良さそうな追加・改善要素ですね。早送り時の内容確認がしやすいのはありがたいです。

柳瀬先ほども言ったように、“torne”は、とても長く使っていただいているアプリです。これからも長く使っていただけるように、使い勝手の向上は最優先で考えていた部分です。

――新世代プラットフォームの対応というのは、どういった技術的な困難さがあるものなのでしょうか。

石塚PS5が発表された際、PS4の互換機能があるのでPS4のタイトルは遊べることに、ゲームファンの方々はとても喜ばれていましたよね。その中で、「なぜ互換機能があるのにPS4の“torne”は動かないの?」という意見もいただいていました。

 仰ることも分かるのですが、PS4に合わせて作られたアプリだったので、PS4ではできるけど、PS5の互換を持ってしてもできない機能がじつはいくつかあるんです。それをどうやってPS5の機能を使って実現するのかに、頭を悩ませました。ユーザーの方々は、以前とほぼ変わらない使い心地でご利用いただけると思いますが、じつはアプリの中身はかなり違っているわけです。もちろん、利用される方々はそんなこと気にしなくて大丈夫ですが(笑)。

――ちなみにバッファローさんは、バッファロー製“nasne”にPS5が対応することについて、どのような所感をお持ちでしょうか。

安藤これはひとりのファンとしての意見になりますが、柳瀬さんが言うように、PS5ではゲームのみならず“torne”アプリの起動がすごく早いです。ゲームをプレイしている最中、休憩がてらに録画していた番組を見るですとか、そういったこともスムーズにできます。そこにストレスが一切ないので、とてもうれしかったです。PS4版ももちろんそれなりに早かったですが、やはりどうしても待ち時間があり、体験としてはストレスが少なからず感じられたかと。

 1点気になったのは、×ボタン、〇ボタンの問題です。PS5は決定ボタンが×ボタンで統一されていますから、アプリ“torne”も×ボタン決定です。これまで使っていた身としては、どうしてもそこは慣れるまでに少し時間が掛かりました。

――ああ、なるほど。“torne”は長年のあいだ触っていた人が多いでしょうから、そこは少し慣れが必要なところですね。

柳瀬“torne”は、この先も何年も触れていただくことを目指しているアプリです。PS5版のアプリ“torne”は、やはりPS5でゲームを遊ばれる中で、“torne”を利用してほしいです。と考えると、やはりPS5の標準操作に準じたほうが良いだろうと思い、そこは変えさせていただきました。

今後も続く、録画需要に応えて

――また、PS4版と同様に、追加コンテンツ“オトイイネ”、“トルネ・ブラック”も楽しめるのですよね。

石塚基本的にPS4に対応していたものは、PS5にも取り入れています。“torne”が評価されているのは、機能が優れているからほかのレコーダーなどに移れないなどの意見が多いです。PS5版になってできなくなった、ということは基本ないように心がけました。もちろん、どうしても不可能なところもごく一部あるのですが。

 “オトイイネ”は、いろいろな技術で番組の音がよりクリアーに聞こえたりする追加機能です。コンテンツ自体は有料になってしましますが、お手軽に試せる体験版がありますので、まずは体験してみて、本当に“イイネ”と思ったらぜひご購入を検討ください。また、“トルネ・ブラック”は画面を暗い配色にする機能です。もともと“torne”は白を基調としていますが、長く使っていると眩しいという意見もあるので取り入れました。

――PS5専用のメディアリモコンにも対応していますが、これはやはり対応すべきだと考えて取り入れたのでしょうか。

柳瀬はい。ゲームコントローラーだけでなく、やはりテレビを見るからにはリモコンを使いたい人もいるでしょうから。また、これは私の家庭事情なのですが、私の妻はゲームをしないタイプの人です。ですが、“torne”だけは便利だから利用しています。そういった人たちに、ゲームコントローラーはちょっと抵抗があったりもするんですよね。

――メディアリモコンへの対応はいいですね。リモコン操作でも“サクサク動く”と録画視聴がはかどりそうです(笑)。

nasne&torneのPS5対応はが本日(11/24)から。SIEとバッファローの担当者に聞く、注目ポイント

安藤ええ。そこがやはり“torne”の強みであり、長く支えられている要因だと感じています。ゲームって、やはり遊ぶ際の操作性ってすごく重視されているじゃないですか。そういったゲーム開発の経験を経たスタッフが、テレビ番組用のアプリ開発に関わる、なんて他社さんですとまずないと思うんですよ。

中武“nasne”側も、その“サクサク感”を出すために開発に力を入れました。じつはハードウェアの開発としては、当時使用していた部品の主流などが変わっていって、開発設計自体から見直す必要がありました。解決すべき問題はたくさんありました。

――サクサク感の裏側には、そんな苦労が……。また、このタイミングでお引越しダビング機能も搭載されます。やはりこちらは、ユーザーからの要望が多いことから搭載に至ったのでしょうか。

安藤バッファロー製“nasne”ユーザーからの直接の意見はもちろんのこと、SNSなどでの意見も多く見ています。とくに多い意見が故障によるデータ消失の懸念でした。バッファローはHDDを販売している知見もある中で、かつて販売されていたSIE製“nasne”に搭載しているHDDの寿命的なものを考慮すると、“nasne”を継承した企業としては絶対に対応しなくてはならないと判断しました。

 それに先駆けて、まず2021年7月には故障予知機能の搭載や、録画番組をHDDに移行させるサービスを開始しまして、そして、万が一故障してしまった場合にも、データをサルベージする復旧サービスもスタートしています。それと合わせてお引越しダビング機能を利用していただくことで、より長く“torne”、“nasne”を使っていただけると思います。

――録画を守るための、鉄壁のサービスですね!

柳瀬SIE社内としても、よく声が挙がっていた事例でした。本当にバッファローさんのおかげです。

――ちなみに、予想外な“nasne”の使われかたがあった、なんて事例はあったりしますか?

安藤 昨今のコロナ禍の状況で、テレビとの向き合いかた、見かたというのも大きく変わってきたと思います。どうしても家族で家にいることが多くなり、そうなるとテレビチャンネルの争奪戦が始まってしまいます。ひとりならスマートフォンの“torne”から見れば良いですが、お子さんといっしょ見るとなると、画面が小さすぎますよね。そんなとき、とあるユーザーの方は、モバイルプロジェクターで"torne mobile"を利用して、大画面で番組を見たそうです。多彩な周辺機器にまで影響を与えており、“torne”、“nasne”を取り巻く環境も大きく変わってきていると思います。

――そういった中で、最近はサブスクリプションサービスによる動画配信サイトが増えたこともあって、テレビ番組をライブで見る機会が減り、録画しておいていつでも見たいときに見る、という習慣になった視聴者が増えているように思います。

柳瀬録画需要は現在も非常に高いです。その需要がそのまま続くのかは社内でも検討を重ねていますが、バッファロー製“nasne”発表時、そしてPS5対応の反応を見ると、まだまだ録画需要は続くように感じました。実際、“torne”の統計データを見ても、利用率はなかなか下がりません。引き続き皆さんに喜んでいただけるようにしていきます。

――なるほど。では最後にユーザーの方々と、これから“nasne”、“torne”に触れられる読者へメッセージをお願いします。

柳瀬PS5版“torne”を、まずは触っていただいて「変わらずにサクサク操作できるね」って言っていただけると、いちばんうれしいです。もちろん、中には至らないところも出てくるかもしれません。もしかしたら頻繁なアップデートはできないかもしれませんが、改善できるところはなるべく改善していきたいです。

石塚決して“コレがすごい”と胸を張れるアプリではないと思うんです。人間が生きていくのに欠かせない、酸素と同じような存在として、ずっと共存できていけたらなと思っています。私が“torne”に関わり始めてから、もう10年以上経ちました。それなのに、こうやって今回インタビューしていただけること自体が、すごいことです。これからも末永く、多くの皆さんに使っていただきたいです。

中武先ほども言ったように、バッファロー“nasne”はハードウェア面でも苦労した部分があります。と言った中で、ユーザーの方々から「相変わらずサクサク動いてうれしい!」という意見が届いたときはうれしかったです。PS5版も、当然サクサク動きますから、ぜひ活用してください。

安藤テレビ局による見逃し配信のようなサービスも浸透し始めて、さらにスマートフォンなどでもテレビ番組が見やすくなりました。“nasne”はそれと同じく、テレビの直接的な映像提供を持たないハードウェアです。いまでこそそういったサービスは当たり前になりましたが、それを十年以上前から考えていたのが“torne”だと思います。“nasne”を引き継いだバッファローとしては、自宅にテレビを持たなくなったような若年層なども含めて、よりテレビ番組の価値を高め、普及させていきたいと考えています。

――本日はありがとうございました。

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