2021年10月29日、KADOKAWAデジタルエンタテインメント担当シニアアドバイザーの浜村弘一氏によるオンラインセミナー“2021年秋季 ゲーム産業の現状と展望 ~ゲームビジネス2.0の勝者~”が開催された。

 本セミナーは浜村氏によるゲーム業界の現状分析をアナリストや報道関係者向けにスピーチするというもの。毎年、春と秋の年2回行われている。

 今回のセミナーでは、変化が著しいゲーム市場の新たなビジネススキームについてや、近年耳にすることの増えた“メタバース”という概念について、そしてコロナ禍におけるeスポーツの現在など、多方面の新たな動きを、最新資料によって明らかにする内容となった。

 本稿では、この講演の概要をリポートする。

セミナーの幕開けを飾ったのは……なんとV6

 浜村氏が今回のセミナーで最初に紹介したのは、“V-Land”というV6ファンのための仮想空間のPV。これもまた近年あらゆる場所で聞くようになった“メタバース”の一種だ。

 このメタバース自体をゲームと呼べるのか? というところはさておき、メタバースが今後のゲーム産業とも切り離せない概念だということは間違いないようだ。これについては、セミナー後半で改めて、詳しく語られた。

『あつまれ どうぶつの森』のような特大ヒットのなかった2021年上半期の世界ゲームコンテンツ市場

 2020年の世界ゲームコンテンツ市場は、北米が5兆8024億円、欧州が3兆7654億円、日本を含むアジアが8兆7723億円。これらにほかの地域も合わせて約20兆6417億円というものだった。これは15兆6898億円だった2019年の約1.3倍に及ぶ数字だという。

 やはり、新型コロナウイルス感染症による巣ごもり需要によるところが大きいようだ。家庭用ゲームプラットフォーム3社の業績の前年比も、大幅に増加している。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 では、直近の2021年4月~6月期の3社の業績はどうだろう? こちらは前年同期と比較して、任天堂が90.1%、ソニーグループが101.6%、マイクロソフトが109.1%と、基本的には好調を維持している。任天堂が低迷しているように見えるのは、『あつまれ どうぶつの森』級のヒットが2021年の4~6月期にはなかったことによるものだ。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

国内3000万台突破も期待できるSwitch、PS5は品薄ながら100万台突破

 今度は、国内の家庭用ゲーム市場に視点を向けてみる。2020年度上半期と比較したときの2021年度上半期の店頭販売分だけの市場規模は、ハードが116.0%とますます好調な一方、ソフトの市場規模は77.8%に低迷。対照的な結果となっている。浜村氏はこうした結果となった要因を、さまざまなデータを用いて解説していった。

 最初に提示したのは、各家庭用ゲーム機の販売台数の前年度比較。プレイステーション5は約49万台と、品薄が続いている中で健闘しているとのこと。Xbox Series X|Sも品薄の中で着実に売れており、Nintendo Switchの売上が微減している穴を埋め、余りある数字だ。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 これまでの各ハードの国内累計販売台数では、特筆すべきはやはりNintendo Switchの2100万台。据置ハードと携帯ハードの両方の需要を取り込み、大きなシェアの獲得に成功している。またプレイステーション5も品薄の中、100万台を突破している。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 では、それぞれのハードで販売されたゲームソフトの国内売上はどうか。こちらもやはり、前年と比べると全体的に数字は下がっている。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 ここで、パッケージソフトの販売本数トップ10のタイトルを、2020年度上半期と2021年度上半期で比較してみる。

 やはり2020年度上半期の第1位は『あつまれ どうぶつの森』。いまや『どうぶつの森』は『スーパーマリオ』や『スプラトゥーン』を凌ぐ、任天堂ナンバーワンのIPになっている。第2位の『ファイナルファンタジーVII リメイク』も100万本に迫る勢いだった。巣ごもり需要に加えてタイトルにも恵まれた1年だったことがわかる。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 一方2021年度上半期は1位の『モンスターハンターライズ』が100万本を突破したものの、『あつまれ どうぶつの森』級の特大ヒットを飛ばしたタイトルはなかった。

 加えて2位~5位までが2020年以前に発売されたタイトルが独占している。6位の『スーパーマリオ 3Dワールド』や8位の『ゼルダの伝説 スカイウォードソード HD』も新作とはいえ、過去作をベースにした移植作だ。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 1位~10位までをNintendo Switch用タイトルが独占。本体の売上は好調なプレイステーション5だが、パッケージソフトの売上は芳しくないのが現状となっている。

 前年と比べ、ハードは売れているがパッケージソフトは大ヒット作に恵まれず、売上が伸び悩んでいるというのは、世界的に共通する状況となっている。しかし、これは単に“ゲームソフトが売れていない”わけではなく、ビジネススキームの変化による事情も大きいのだという。

ビジネススキームが変わりつつあるSwitchとPS5

 かなり前から、ゲームソフトの販売は物理パッケージの販売からダウンロード販売が主流になってきている。これに続くさらなる変化が2021年上半期におき、ゲーム市場全体への影響を大きくしているという。

 ここで浜村氏は、主要ハードであるNintendo Switchとプレイステーション5を取り巻く状況を、詳しく解説していった。

ポジティブな反応が多く見られたNintendo Switch 有機ELモデル

 改めてNintendo Switchの国内累計販売台数の推移を見てみると、発売から4年と6ヵ月で2100万台を突破。これは任天堂の据置ハードでもっとも売れたWiiを凌ぐ勢いだ。Nintendo Switch Liteの発売も、この好調に拍車を掛けている。

 過去の任天堂ハードはプレゼント需要が高く、年末年始に売上が大きく伸びるのが特徴だった。この特徴は引き継ぎつつ、1年中売れ続けているのもNintendo Switchの特徴だという。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 そして、2021年10月8日にはNintendo Switch 有機ELモデルが発売された。本体のモニターサイズが大きくなり、有線LAN用の端子を常設、保存メモリーも64GBに拡充されたSwitchだ。

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 この最新モデルに関するTwitterでの反応も紹介。このモデルが最初にTwitterでバズったのは、予約受付開始日が発表された9月8日。つぎは10月1日に投稿された転売屋対策を呼び掛けるツイートで、3度目は発売日の10月8日だったという。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 これらに対するユーザーの反応がポジティブだったのか、ネガティブだったのか、それぞれの推移をAIで解析したデータも紹介された。黄色い折れ線がポジティブ、赤い折れ線がネガティブだ。

 とくにポジティブ率が高かったのは発売日である10月8日の26.8%。これは新型に実際に触れて感じた“よさ”を綴ったツイートが拡散されたことが大きいという。ちなみにネガ率は最高でも8.2%。こちらには転売に対する不安などがツイートされたとのこと。

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PS5を擁するソニーは欧米の開発スタジオをつぎつぎ傘下に

 続いては、国内での累計販売台数が100万台を突破したプレイステーション5について。発売から1年が経過したいまでも抽選販売が行われるなどなかなか買えないにも関わらず、国内の販売ペースはプレイステーション3に迫る勢い。なお、世界的な半導体不足という背景もあり、2022年までは不足が続くと言われているという。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 さらに全世界での販売台数は1000万台を突破しており、これはプレイステーションコンソールで過去最大の普及速度。

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 プレイステーション5の今後の注目作にはNintendo SwitchやXbox Series X|Sとのマルチ展開となるタイトルも多い。プレイステーションハードならではのタイトルを増やすため、ソニー・インタラクティブエンタテインメントは傘下のゲームスタジオの増強を図っている。

 代表的な傘下となったスタジオはプレイステーション5向けのリメイク版『デモンズソウル』を手掛けたBluepoint Games、『Returnal』を手掛けたHousemarque、『THE PLAYROOM VR』を手掛けたFiresprite、『Marvel’s Avengers(アベンジャーズ)』に関わったNixxesなど。傘下となったスタジオは20近くにまで上るという。

 では、現状の国内でのゲームソフトの売上はどうだろう? 2021年度上半期にもっとも売れたプレイステーション5用パッケージソフトは『バイオハザード ヴィレッジ』で、約6万9000本。

 本体が100万台売れているにも関わらず、もっとも売れているパッケージソフトの装着率が7%を切るというのは、かなり低い数値だ。しかし、プレイステーション4のタイトルをそのまま引き継いで遊べるプレイステーション5においては、専用タイトルの装着率はあまり参考にならないだろうとも付け加えた。

 とはいえ、今度はプレイステーション4用パッケージソフトのほうを見ても、大ヒットと言えるほどのタイトルはない。このあたりの要因のひとつには、コロナ禍によるソフト開発の遅れが挙げられるだろうとのこと。

 浜村氏は、以下の期待作が発売延期となったことを例として挙げた。

F2Pの課金モデルがPS5はじめ多くのプラットフォームを席巻

 注目作の開発が遅れても、プラットフォーマーの業績は悪くない。これが前述したビジネススキームの変化によるものなのだという。その例のひとつとして『ファイナルファンタジーXIV』の欧米での人気が再加熱したことを挙げた。

 『ファイナルファンタジーXIV』は2020年に、物語の原点である“新生エオルゼア”と最初の拡張パック“蒼天のイシュガルド”を無料でプレイできるようになった。これにともない、あまりに多くの新規ユーザーが参入したことでサーバーがパンクしそうになり、ダウンロードタイトルにも関わらずSteam版が“売り切れ”。販売を一時停止する状況になったほどだという。

 “蒼天のイシュガルド”のさらに先の物語を楽しんだり、より多くの機能を開放するためには、追加で個別課金が必要となっている。パッケージ販売、月額課金、アイテム課金を組み合わせた非常にハイブリッドな課金モデルとなっているのだ。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 ほかにも、プレイステーション5で支持されているゲームには『エーペックスレジェンズ』、『フォートナイト』、『原神』、『eFootball 2022』のようにF2P(Free to Play、基本無料タイトルのこと)のソフトが多くなっている。

 PS Storeのダウンロードランキングをチェックすると、これらF2Pタイトルが上位を独占しており、いかに人気を博しているかがわかるだろう。パッケージソフトの販売が伸び悩んでいてもハードが堅調な要因のひとつが、これだと考えられる。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 ソニーグループのゲームソフト売上高の内訳を見ても、F2Pを含むタイトルへの追加課金を表す“アドオン”は、パッケージ、デジタルによるソフト販売よりも安定して、高いセールスを上げていることがわかる。この傾向は、プレイステーション4からプレイステーション5となってますます強くなっているという。

 なお、プレイステーション5ほど顕著ではないものの、Nintendo SwitchでもF2Pタイトルの存在感は増しており、今後さらなる人気を博す可能性を持つ注目タイトルとして、スマートフォンとの同時展開を行っている『ポケモンユナイト』を挙げた。

 関連して、ソニーグループも自社開発のゲームソフトやIPをモバイルやPCにも展開する意向を示すなど、二社ともに自社ハードにとどまらない展開を行うケースも増えているとした。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

マイクロソフトやAmazon、Netflixが月額課金モデルを展開

 主力家庭用ゲーム機で基本無料のモデルの影響力が大きくなる一方で、マイクロソフト、Amazon、NetflixなどのIT系プラットフォームは月額課金制のモデルをゲーム市場で展開しようと試みている。

 対象の100を超えるゲームソフトが遊び放題となる月額課金サービス“Xbox Game Pass”では、PCやスマートフォン向けに先行して提供中のクラウドゲームのサービスをXbox Series X|S、Xbox Oneにも対応させると発表。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 このサービスも含め、最大でも月額1100円で多くのゲームが遊び放題となるXbox Game Passは、Xboxハードを持っていなくとも楽しめる、非常にお得なサービスとなっている。

 同じくゲームの月額課金サービスを打ち出そうとしているのがAmazonだ。現在、ゲーム事業への参入に関しては苦戦が続いているAmazonだが、MMORPG『New World』のクローズドβテストが盛況。マイクロソフトの『Halo』や『ギアーズ オブ ウォー』のような看板タイトルとなることが期待できる。

 Netflixもゲーム事業への参入を試みている。月額課金したユーザーが動画だけでなく、ゲームも遊び放題になるようなモデルを検討中とのことだ。同じく月額課金モデルでの試行錯誤が続いているGoogleのStadiaやAppleのApple Arcadeと同様、看板タイトルの創出がヒットの鍵を握るのではないかということだ。

Facebook、Epic、GREEにパリス・ヒルトン! 要注目のメタバース戦略

 これらのアプローチとは異なる収益手段として昨今になって注目が集まっているのが、メタバースだ。前述した通り、冒頭で紹介した“V-Land”もこのメタバースの一種と言える。 

 FacebookはOculus Quest 2を使用したミーティングツール“Horizon Workrooms”を発表し、オープンβを開始している。こうしたメタバースをいくつもの企業が展開しつつある。

 アメリカのManticore Gamesは、Epic社のゲームエンジン、Unreal Engineをベースとしたメタバース“Core”をアーリーアクセスで展開中。自由度の高いアバターとゲームを作成することが可能だ。

 大ヒット中の『フォートナイト』でもメタバース化が進行中。ゲーム内空間で世界中のアーティストがショーを行う“フォートナイト サウンドウェーブシリーズ”には、日本から星野源さんが出演することでも注目を集めている。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 ほかにも、GREEもスマートフォンで楽しむメタバース“REALITY”に今後2~3年間で100億円規模の事業投資を発表。海外ではオンラインプラットフォームであるRobloxにパリス・ヒルトンの仮想空間ができるなど、国内外でさまざまな動きがあるとのことだ。

規模を拡大するeスポーツ事業、家庭用ゲーム機が遊べる施設開設のための実証実験も

 続いては、eスポーツの話題に。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、リアルイベントが開催できない状況が続いたeスポーツだが、オンラインならではのノウハウの蓄積が見られ、今後は再び市場規模の増大が見込まれている。

 eスポーツの関連グッズ・製品の販売や施設のオープン、プロ選手を育成するための学校の設立など、eスポーツによる経済効果や社会的意義の創出にも大いに期待が持たれている状況だ。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 eスポーツ練習用のスタジアムも全国各地にオープンしているのだが、こちらでプレイできるのは現状、PCでプレイできるタイトルに限られているという。これは、家庭用ゲーム機が風営法による規制対象になっていることが影響している。

 『スプラトゥーン』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズのような人気タイトルは、eスポーツスタジアムで遊ぶことができないのだ。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 この状況を変えるため、JeSU(日本eスポーツ連合)は警察庁の指導のもと、風営法の許可を取得することなく家庭用ゲーム機を使用できるeスポーツ練習施設を開設するための実証実験を開始予定だ。

 今後もeスポーツの市場規模の増大が期待できることを受けて、さまざまな企業がeスポーツ市場に本格参入する動きが活発化している。

 NTTドコモは2021年1月にeスポーツリーグブランド“X-MOMENT”を設立した。10月からはカプコンとタッグを組むことで『ストリートファイターV チャンピオンエディション』のリーグは規模が拡大。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 社会人eスポーツプレイヤーを対象とした“AFTER 6 LEAGUE”はseason 2が開催決定。実業団によるeスポーツが活発化すれば、「eスポーツができれば就職ができる」という環境が整う未来もあり得るという。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 “EVO 2021 Online”や“全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2021 MIE”などの各種大会も、完全オンラインによる開催ながら、盛況のうちに幕を閉じた。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 大きな大会が増え、メディアの注目も集まる中で、eスポーツを題材としたテレビ番組も増えている。2021年10月からは『X-MOMENT Presents CHOTeN~今週、誰を予想する?~』が放送開始。

 家具メーカーのIKEAがゲーム家具に本格参入。東京ゲームショウ2021に出展してゲーミングに特化した2種類のルームデザインを提案するなど、業界周辺で新たな動きが見られるようになった。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 業界の盛り上がりにともない、選手人口も増えてきている。家庭用ゲーム機の人気タイトルを扱える練習場が増えれば、さらに選手人口が増え、コミュニティがいっそう盛り上がるという相乗効果が期待できるとのことだ。

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 2022年に開催される第19回アジア競技大会では、各種スポーツ競技とともに8部門のeスポーツ競技が行われる。当然、eスポーツ競技で日本選手が獲得したメダルも日本のメダルに数えられ、『ストリートファイターV』などでは金メダルも期待できるのではないかということだった。

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 オリンピックでもeスポーツの公開競技化が検討されており、eスポーツの存在感は、ますます大きくなっていきそうだ。

Epic vs Appleの訴訟問題や、中国のゲーム規制――ゲーム産業が抱えるいくつかの課題

 まとめに入る前に、現在のゲーム産業が抱えるいくつかの課題についても解説があった。

 まずはEpic GamesとAppleによる訴訟が泥沼化している問題について。現在でも、Appleのプラットフォームでは『フォートナイト』が遊べない状況が続いている。ただ、対立の切っ掛けとなったApp Storeを介さない課金へのアプリ内での誘導をAppleが認めるようになったので、半歩前進と言えるのではないかとした。

 こうした状況の中、マイクロソフトはWindows 11でゲーミングを大きく強化。独自課金が可能なアプリはロイヤリティフリーにするなど、AppleやGoogleとは異なる戦略を明確化している。

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 これとは別の懸念点として挙げたのが、中国のゲーム規制について。オンラインゲームの制限令が強化され、18歳未満は金・土・日・祝日の1時間しか遊べなくなるなどきびしい状況が続く中、2021年9月に中国のモバイルゲーム市場が史上最大規模を記録するなど、ユーザーの激しい抵抗も見られるという。

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 そんな中、いまや世界最大のゲーム企業といえる中国のテンセントは、諸外国との提携が非常に多い状況。最大の株主は南アフリカの投資家とも言われており、もはや中国企業とは言い切れないのではないかとの見解も示した。

 家庭用ゲーム機の文化が遅れて育った中国や韓国は、オンラインゲーム大国という強みができた一方、日本や欧米のような強力なIPが欲しい現状があるという。

 そんな中で生まれたおもしろいタイトルとして、中身は韓国製のオンラインゲーム『リネージュ』でありながら、世界観は日本のレベルファイブが手掛け、スタジオジブリによるアニメ作画と久石譲氏の音楽を取り入れた『二ノ国:Cross Worlds』を挙げた。

 この『二ノ国:Cross Worlds』や『ポケモンユナイト』のような、日本のIPを使い、ゲームの中身は中・韓のノウハウが用いられたタイトルは今後増えていくのではないかとのことだった。

まとめ:新たな時代の“キラーコンテンツ”の形とは?

 まとめとして、ビジネススキームを大きくシフトするプラットフォームビジネスをおさらい。

  • Nintendo Switchは現在も強力なIPを有するパッケージタイトル中心のビジネスだが、フリーミアム(個別課金)のタイトルも増えてきている。
  • プレイステーション5はフリーミアムが主力となりつつあり、サブスクリプション(月額課金)サービスは“PlayStation Now”、“PlayStation Plus”などがある。
  • Xbox Series X|Sはパッケージとフリーミアムもあるが、月額課金制のXbox Game Passが大きな魅力となっている。
  • PCで最大のシェアを誇るSteamほか、Amazon、Netflixもゲーム産業へと参入を本格化しようとしている。
浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 ゲームプラットフォームはこれらだけではない。Appleはアプリゲームのフリーミアムが中心でありつつも、“Apple Arcade”で月額課金制を導入。Googleもアプリゲームを主力にしつつ、Stadiaでパッケージや月額課金制の道も模索している。

 FacebookはVRで、GREEはスマートフォンでのメタバースを展開中。『フォートナイト』を擁するEpic Gamesはフリーミアム、パッケージともに強く、メタバースの展開も始めている。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 それぞれのプラットフォームの集客の核となっているのは以下の通り。プレイステーション5の項目にある“セットトップボックス”とは、テレビの前にプレイステーション5があることで、動画視聴など、ゲーム以外の用途での利用にも役立つことを指している。

差し替え
浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 ここまで各社の戦略を見てきて、ゲームのオンラインサービス化にともない、非常に多様なビジネススキームが生まれていることがよく分かったことと思う。これを浜村氏は“ゲームビジネス2.0”と称した。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 中でも近ごろ何かと話題になることの多いメタバースだが、このメタバースはキラーコンテンツを生み出す複数の要因のうちのひとつにしかなりえないだろうと分析。

 「キラーコンテンツを持つ者が勝者」というと当たり前の結論のように思えるが、“キラーコンテンツ”の形は、少し前の概念からは大きく変わってきているはずだという。

 マリオ、ドラクエ、ファイナルファンタジー。もはやこうした有名シリーズが単独で存在するだけがキラーコンテンツではない。

浜村弘一氏がゲーム産業の現状と展望を解説。2021年秋の業界セミナー“~ゲームビジネス2.0の勝者~”をリポート

 メタバースやフリーミアム、月額課金なども含め、ユーザーコミュニティによって支持されるビジネススキームの構築がこれからの時代の新たなキラーコンテンツなのではないかとし、講演を締めくくった。