2021年8月4日(日本時間)に最新拡張版“風集うストームウィンド”のリリースが予定されているオンラインカードゲーム『ハースストーン』。この拡張版では135種類のカードが追加され、新たなキーワード“交換可”のほか、“連続クエスト”や“職業ツール”のような新要素も登場する。

 今回、Blizzard Entertainmentの開発チームに“風集うストームウィンド”についてオンラインインタビューする機会を得たので、新拡張版のコンセプトや注目カードについて聞いた。

『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及

アレック・ドーソン

Blizzard Entertainment リードゲームデザイナー。文中ではドーソン。

マシュー・ロンドン

Blizzard Entertainment シニアゲームデザイナー。文中ではロンドン。

交換可:プレイヤーによって主体性を持たせられる手段

『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及

――新たなキーワード“交換可”について設計のコンセプトを教えてください。自分の手の中で、そのカードがあまり役に立たないときのバックアッププランがあるカードだと思いますが、理想的なシナリオなどはどんな感じになりますか?

ドーソン似たような効果のカードを過去に試したことがあったのですが、今回改めて取り組むにあたって、どういう動作でやるべきか、これまでとは違う視点から考えるようにしました。というのは、カードをデッキに戻して新しいカードを得るという行動は、カードゲームではとても楽しいというのはわかっていましたから。

『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及
『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及
『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及

ドーソンゲームデザイン的には、汎用性がありプレイヤーによって主体性を持たせられる手段だと考えています。「うん、これ交換を使って戻したくはないけど、いま使いたくもないから取っておこう」といったようにもっと細かい判断ができます。

 そういった中で、これまでよりニッチなカードを使っていくことも可能になります。たとえば“腐り錆びのクサリヘビ”なんかがそうですね。このように武器に対抗できるカードは、いつも手元にキープしていたいとは限りませんが、これからはもっとフレキシブルに対応できます。必要ではないときはデッキに戻してしまって、もっと状況にマッチした別のカードを引けるか試せるわけです。

『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及

連続クエスト:ストームウィンドの傭兵が成長していく様子を表現

『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及

――“連続クエスト”についてもデザインコンセプトを教えてください。うまく進められると非常に強くなりそうな感じがします。

ドーソン“連続クエスト”は、“風集うストームウィンド”のカードセットの中でどうにかして、(元ネタである『World of Warcraft』で描かれた)傭兵たちの話を語れないかというところからスタートしました。そのうえで、何段階かのステージを経て成長していくようなものを表現するにはどうすればいいか? “連続クエスト”のメカニズムはこの点で非常にうまくハマりました。

『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及
『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及
『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及
『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及

ドーソンというわけで、“連続クエスト”は、なぜストームウィンドに傭兵がいるのかというストーリーをカードを通じて語り、いま彼らがどういう強さなのか示すというのがおもな目的です。最終段階に進むことができれば、どれだけ彼らがレベルアップしたのかを垣間見ることができると思います。

――すでに公開されているカードでは、メイジの“魔法使いの策”よりウォーロックの“悪魔の種”のほうが効果を発揮しやすく強そうに感じましたが、どのようにバランスはどう取られていますか?

ドーソンバランスという点ではこれがなかなかおもしろいもので、最終デザインではいじれる“ノブ”がたくさんあるわけです。1枚のカードとしてではなく、3段階ある各ステージと最終段階を含めた全体を調整していくことになります。

『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及
『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及
『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及
『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及

ドーソンそのため、「これはちょっと強すぎるな」とか「これはちょっと弱いな」といったときにチューニングできる部分がたくさんありました。これは実際、私たちにとって開発中にとてもやりがいがあるものでしたね。何度もくり返し調整をかけました。

――“連続クエスト”の強さを発揮するのは、それほど簡単ではないということでいいですか?

ドーソンええ、そんな簡単ではないですね。いくつかのカードはほかよりも少し早く完了できるかもしれませんが。例を挙げると、ウォリアーは達成しやすいほうでしょうね。一方で、メイジやプリーストは少し時間がかかりますが、労力に見合う強力な報酬を得ることができます。

――いまは連続クエストは2枚のカードが公開されていますが、ほかの連続クエストカードについて話せますか? ヒントだけでも!

ドーソン今日はあまり明かせないですけど……どれも楽しいですよ!(笑) それぞれ異なる方向性を持っています。バラエティ豊かにしたかったんです。同じ種類の魔法をいくつか放つようなもの以外にも、1ターン内のコンボ的な部分に関わってくるものもあります。

ロンドン“連続クエスト”は過去のエクスパンションで登場し、いまスタンダード入りしているカードを再評価したり、異なる文脈で捉え直すきっかけにもなるカードにもなっており、そこが気に入っています。デッキ構築にはある種の潮流があるわけですが、こういったカードが新たに投入されると、既存のカードを違った形で再考できます。これはとてもエキサイティングですね。

 それと、おおっぴらに明かすのは避けようと思いますが、プリーストの“連続クエスト”はいくつかのエクスパンションの中でも私がかなり好きなもので、とてもワクワクしています。

職業ツール:必ずしも直接的に敵を攻撃するわけではない技術を表現

『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及

――つぎは“職業ツール”についてお伺いします。これまで“智慧の宝珠”のような例外はありましたけども、職業ツールですべてのクラスが武器を持てるようになります。一方で、交換可の“腐り錆のクサリヘビ”は武器を壊す能力を持っていたりしますね。ほかにも武器破壊系のカードが出てくるのでしょうか? それと、もっとそこを考えたほうがいいですか?

ドーソン今回のセットで登場する武器絡みのカードは“腐り錆びのクサリヘビ”のみですね。今後、いくつかバラエティを持たせていこうと思いますが、そこまで多くはやりません。でも、“腐り錆びのクサリヘビ”はコアセットでやろうとしていることのいい例だと言えます。つまり、エクスパンションを通じて新しいものをどう環境に影響させていくかという点ですね。

『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及
『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及

ドーソンキーワードを見ながら、何か異なるタイプの武器絡みのカードを活かす機会はないか、とか探っていくわけです。私たちが“腐り錆びのクサリヘビ”で探ったのはそういう部分で、交換可のカードがなぜすばらしいのか提示する非常にいい機会にもなりました。単に特化したカードよりも汎用性がありますからね。

――なるほど。では、改めて職業ツールのデザインコンセプトを教えていただけますか?

ロンドン都市がテーマのエクスパンションで、雰囲気をどう捉えるかということを意識してデザインしたカードです。『ハースストーン』がストームウィンドのような巨大な都市に行くというのはどんな感じだろうと。『World of Warcraft』を振り返ってみると、巨大都市の大きな要素のひとつとしてあらゆる専門職の訓練士がいたということがあります。レベルアップして武器の使いかたを覚えて、いくらか報酬やお金もゲットして、トレーニングを受けて、クラフトなどの非戦闘系のスキルを学んだりしていたわけです。

 私たちは、その雰囲気を取り入れたかったんです。必ずしも直接的に敵を攻撃するわけではない技術の習得を『ハースストーン』で表現できないかと。というわけで、その手の技能をツールを通じて描いています。

――職業ツールと並んで“乗騎”も新たにやってきます。基本的な効果はパラディンの“剣竜騎乗”を思い起こさせるところがありますが、これはどのようところからアイデアが出てきたんですか?

ドーソンこれもまた、『World of Warcraft』でプレイヤーとして体験するようなことをどうやって『ハースストーン』で語り直すかということに尽きます。ストームウィンドでは、マウント(騎乗生物)を入手する中盤のレベル帯の体験が入っているわけです。そして、キャラクターたちのストーリーを語るいい機会にもなっています。このキャラはこういうマウントを選ぶ、といったキャラクター側のことだけでなく、“赤ちゃんエレク”がこんなに大きくなりましたよ、といったことも含めてですね。新たなコンテンツを出す際にはこのようにさまざまな細かいネタが繋がっていたりもします。

『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及

ふだんのアプローチとは違った形を取ってみたかった

――『World of Warcraft』は公式には日本語にローカライズされていないので、ストームウィンドとは何なのかピンと来ない人も多いです。ストームウィンドを選んだ理由を教えてください。それと、雰囲気やキャラクター的な観点でこのエクスパンションを体現するカードはありますか?

ロンドン『World of Warcraft』では、ホードとアライアンスというふたつの勢力に分かれています。ストームウィンドはアライアンスを象徴するような巨大な人間の都市。ゲームではじつに多くの人が集まるところで、最初に訪れる大きな街であり、レベルが上がった後も定期的に戻るような場所です。ほかのプレイヤーとの出会いもある場所ですし、トレードやオークションハウス、銀行があり、大聖堂や王の居城もあります。これらが巨大なファンタジーの都市にいるという感覚を与えてくれるわけです。

 そして、私たちはエクスパンションの背景を構築するにあたって、モンスターや危険な環境のようなふだんのアプローチとは違った形を取ってみたかったんです。路地のネズミたちは何を企んでいるのかとか、銀行員や商人となど街の人々の生業だとか、そういったたくさんのクールなものが“風集うストームウィンド”には詰まっています。

――いま公開されているカードを見ると、ウォーロックが強くなりそうな気がします。というのは、ウォーロックはカードを引く能力に長けていますから、“連続クエスト”や“職業ツール”とのシナジーを生みやすそうです。ほかのクラスはカウンターできますか?

ドーソンまぁ、これからもっとたくさんのカードが来月にかけて公開されていくので……。単刀直入に言うと、答えはイエスです。たとえばウォーロックのとくに“連続クエスト“を見た場合、条件をクリアーするには多くのダメージを受けなければいけません。いくらか回復できるかもしれませんが、合計で20近くのダメージを耐えることになります。そうこうしていると、ハンターにトドメを刺されてしまうかもしれませんよね。ですので、それぞれの“連続クエスト”へのカウンターとなる手段はちゃんとあります

――現段階では公開されていないカードがたくさんありますが、このエクスパンションで気に入っているカードや戦術、コンボなどを教えていただけますか?

ドーソンひとつ挙げるなら……デーモンハンターの“連続クエスト”ですかね。いくつかのことを1ターン内で実行する、という設計で、ほかとはかなり違っているうえ、ゲームプレイ的なチャレンジもあっておもしろいと思います。プレイヤーの皆さんがあのカードをどう扱うか、早く見てみたいです。

ロンドン本当に個人的な好みなのですが、プリーストの“エレクの乗騎”ですね。あれはミニオンにデカい体を与えて、それが倒れてもさらに別の大きなミニオンが現れます。ドーソンがさっきほのめかしたように、傭兵の書のプリーストのアドベンチャーで出てきた“赤ちゃんエレク”の再登場のようなものでもあり、とても気に入っています。

『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及
『ハースストーン』新拡張版“風集うストームウィンド”開発者インタビュー。未発表のウォリアー、プリースト、デーモンハンターの“連続クエスト”についても言及

ロンドン今年の大きなテーマとして、レベルアップしてヒーローがふさわしい力を得る成長、進歩というものがあります。“エレクの乗騎”のように複数のカードを通じてそれを目にすることもあるわけです。こういう要素が好きですね。

“冒険をしてレベルアップする”プレイヤー体験とは

――ところで、“風集うストームウィンド”に限ったことではないのですが、新たなエクスパンションを設計する際にはどういうところから始まるんですか? やはりテーマから入るのでしょうか。それともゲームデザインや新たなメカニズムが先ですか?

ドーソンそこはチームとしても、いちばん楽しい部分ですね。最初期ではいくつか会議をやって、どんなものにワクワクするかとか、どういう方向に進めたいかとかも話し合って決めていきます。

 グリフォン年の進めかたを振り返った場合、年間を通しての見通しを探るところから始まりましたね。あとは、その中でストーリーがどう進行するかとか、ここでこれを広げたいよねとか。それぞれの拡張を個別に考えるという感じではないんです。

ロンドンそうですね、三部作を構想するような感じです。それぞれがつぎの拡張を意識し、ノスタルジアも呼び起こしたりするような。クラシックが導入された際にはそういう(ノスタルジーな)感じがあったのは記憶に新しいかと思います。

 私たちがグリフォン年で考えていたのは、“ヒーローになってクエストに行って冒険をしてパワーを得てレベルアップする”というプレイヤー体験とはどんなものか、ということです。これはひとつのエクスパンションでカバーするにはちょっとテーマが大きすぎますから。

 ですので、“荒ぶる大地の強者たち”では低レベル帯の冒険やホードにつながるものを表現しました。そして、中レベル帯の街ゾーン、これはストームウィンドが最適です。さらに、アライアンスにもつながっています。そして、“第3章”は今後発表になるわけですが、ホードとアライアンスの間の高レベル帯の要素を取り込んだものになるだろう、と推測することはできますよね。これをお話しできる日が来るのも楽しみです。

――最後に、日本の『ハースストーン』シーンについてお伺いします。日本のglory選手が2020年のワールドチャンピオンになりました。それもあり、日本の『ハースストーン』シーンが盛り上がってきているわけですが、どう感じていらっしゃいますか?

ドーソンもちろんこちらも熱を感じています! もっと、日本のコミュニティと関われればと願っています。あれほど熱心なファンを得られるというのは素晴らしいことです。今回、ファミ通.comを通じて情報を発信できるのは光栄ですし、もっとこういう機会を増やしたいですね。glory選手のプレイは実際に見ていましたし、とてもすごかったです。

ロンドン日本チームとコミュニティのサポートにとても感謝しています。それと、日本のメディアの皆さんのゲームに対するアプローチとか熱心さにもいつも感服しているので、こうして……世界最高のゲームである(小声)『ハースストーン』についてお話できるというのは夢のようです。

ドーソンじつは私はファミ通を読んで育ってきましたからね、本当に読んでましたから!(笑)

――それは光栄です! 本日はありがとうございました。